Fate/Game Master   作:初手降参

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プライミッツ・マーダー

 

 

 

 

 

 

「さて……もう、ここの英霊は十分に溜まったか。後は聖杯を探せば……」

 

 

黎斗は、自らのサーヴァント達を伴って歩いていた。ここまで作戦が色々と上手く行っているため、彼は現在かなりの上機嫌であった。

 

霧の発生源等の情報から、既に聖杯のありかは予測してある。そこに乗り込んで奪い去れば終わる簡単なお仕事だった。

 

 

筈だった。

 

 

   ドガァァァアアンッ

 

「!?」

 

「クロスティーヌ、向こうから悲鳴が……」

 

「あちらは……ああ!! 敵の本拠地ではありませぬかっ!!」

 

「何だと!?」

 

 

爆風と共に、街の一部が崩れ去る音が聞こえた。何かとんでもない事故でも起こったのだろうか。そして聖杯は無事なのだろうか。

黎斗は、そしてサーヴァント達は、その音の元へと向かっていく。

 

───

 

「……フォオオオオオオオオオウウッッッ!!」

 

「……何だ、あの、獣は?」

 

 

爆心地に辿り着いた一行が見たものは……白銀の体から青い粒子を撒き散らし、辺りをひたすらに破壊する巨大な獣の姿だった。

 

 

『……あれから聖杯の反応が出ている!! まさか、元々の黒幕から無理矢理奪い取ったのか!!』

 

『……ドクター、もしかして、あれって……フォウ、さん?』

 

『……え? フォウなら、さっきまで向こうに……いない?』

 

 

カルデアの方での混乱も通信機越しに伝わってくる。

獣と相対する黎斗としても、これは余りにも予想外だった。

 

 

〔……檀黎斗。醜く穢れた人間〕

 

 

獣が声を上げる。辺りに透き通った、しかし絶望に濁った声が響き渡る。

 

 

〔お前は、私を目覚めさせた。本当は、ただカルデアの安寧の中で微睡んでいたかっただけの獣を〕

 

『やっぱり、あなたは……!!』

 

〔……すまない、マシュ・キリエライト。カルデアの特権生物『フォウ』とは、私の殻に過ぎない。本当の私は……こんな醜い人類悪(ビーストⅣ)だ〕

 

 

獣……ビーストⅣはそう言った。

フォウとしてカルデアに存在していた小動物の正体こそがこれだった。

 

 

「ほう? まさか、お前がそうなるとはな」

 

〔……覚悟はいいか檀黎斗。私は霊長の殺戮者。プライミッツ・マーダー。相手より強くなる『比較』の獣。地球の破壊を防ぐ抑止の徒にして、人類が打倒すべき悪……ビーストⅣが、お前を殺す〕

 

『ガッチョーン』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「殺しても構わないさ。何度でも蘇れば、関係無いからな。変身……!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

「……行くぞ」

 

 

宣戦布告を受け、そして返事を返して変身するゲンム。その両手に死神の鎌を持って、ビーストⅣへと斬りかかる。

 

 

「はあっ!!」ブンッ

 

〔……ふんっ〕

 

   カキンッ

 

 

握った鎌を素早く振り下ろすゲンム。ビーストⅣはそれを尻尾で易々と弾き返し、前足でゲンムの胴体を殴る。

 

 

   ゴシャッ

 

「がはあっっ!?」ゴロゴロ

 

 

勢いよく吹き飛ばされ、近くの建物にめり込むゲンム。建物の壁には無数のヒビが入り、否応にもビーストⅣの強さを物語る。

ゲンムは確実に死にこそしたが……しかし、やはり瞬時に蘇った。

 

 

「大丈夫でございますか我が主よ!!」

 

「クロスティーヌ、お体にお障りは?」

 

「問題ない……予想外の強さだな。さっさと潰すぞ」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

建物を背に立ったまま、弓に変えたガシャコンスパローで狙いを定めるゲンム。

しかし。

 

 

〔……温い〕

 

   バァンッ

 

「っ、まさか遠距離攻撃も出来るのか!?」

 

 

ビーストⅣが力を溜めると、それと同時に彼を囲むように無数のエネルギーが発生し、黒い尾を引きながらゲンムへと発射される。

 

 

「くっ、回避だ!!」

 

   ズガンッ

 

 

転がって回避する面々。エネルギー弾は元々ゲンムの背にあった建物をいとも容易く粉砕している。

 

 

「もう一度!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあっ!!」

 

 

数多の矢がビーストⅣへと放たれる。それらは全て獲物へと命中出来うるとゲンムは考えていたが。

 

 

〔浅はかな考えだな〕

 

   ゴウッ

 

「尻尾で……振り払った、だと?」

 

 

その矢全てが、ビーストⅣに弾き返される。

そして。

 

 

   シュンッ

 

〔受けるがいい、これが痛みだ〕

 

   グチャッ

 

「……!?」

 

 

一瞬でゲンムの眼前まで移動してきたビーストⅣが、ゲンムの肩を噛み砕く。そして、放り棄てる。

 

当然すぐに再生こそするが……だからといって、勝てる、という訳ではない。

 

 

「……くそが!!」

 

『ガシャコン ブレイカー!!』

 

『マイティ クリティカル フィニッシュ!!』

 

───

 

「フォウさん……なんで……」

 

 

マシュは管制室でモニターの前に座っていながら、ゲンムにも、フォウにも、何も言えずにいた。

彼女は無力だ。今はまだ何の力も得ていない。唯一使える宝具ですら、完全には目覚めていない。……そして、自分に力があれば、モニター越しに映るこの事態は、防げたことだった。

 

 

「……フォウ。君にとっては、人類より……マシュが大事だった、そういう……事なのかい?」

 

「ドクター……?」

 

「……いや、気にしないでくれ」

 

 

隣でモニターを見つめキーボードを操作するロマンも、冷や汗を垂らしていた。

彼は彼で、最悪の事態をなんとかしようと頑張っていた。

 

マシュから、また一つ涙が零れる。

 

 

「……待った。おいおい、どういうことだ!?」

 

「ドクター?」

 

「不明、いや、レイシフトに近い空間の揺らぎを感知……恐らく……違う。確実に、フォウにも匹敵するレベルの敵だ!!」

 

───

 

『マイティ クリティカル フィニッシュ!!』

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はああああああっ!!」

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)!!」

 

地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)

 

我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)!!」

 

〔愚か者めが!!〕

 

 

一斉に攻撃しても尚、ビーストⅣは少し怯む程度だった。その毛皮は刃を通さず、弾丸も通さず。その爪はあらゆる障害を両断し、その牙はあらゆる者をスクラップにしてしまう。

 

はっきりいって、倒せる筈が無かった。ゲンムは既に、何度も、何度も死んでいた。

そして。

 

 

「く……どうすれば……!!」

 

 

 

「……はは、はは。愚かだな人間よ」

 

「!?」

 

 

苦難は連鎖する。

ビーストⅣに何度も吹き飛ばされ蘇りまた吹き飛ばされるゲンムは、別の道から歩いてくる何者かの声を聞く。

 

 

「……お前は」

 

「決定した滅びを受け入れず、未だ無に漂う哀れな船、カルデアの最後のマスター。私の事業の唯一の染み。だが……」

 

『ああクソ、音声しか拾えない!! でも、言い方からするに……!!』

 

『あれは、まさか……!!』

 

「……見直したぞ人間。まさか、自ら第四の獣を目覚めさせるとは!! 実に愉快だ!! その愚かしさを称えて教えてやる」

 

 

その姿が、ビーストⅣの放つ光に当てられ浮かび上がる。

男。ただの男ではなく、赤い危険な何かを体から漏らす、未知なる存在。

 

 

「我は貴様らの目指す到達点。魔神を従え、人類を滅ぼすもの……名をソロモン。全ての英霊の頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

『何だと!? まさか、そんなっ!?』

 

 

その名はソロモン。人理を焼き払った存在。最終的に倒すべきラスボス。

 

しかし、今のゲンムは、彼に届くべくもない。

 

 

「だが……まさか、勝手に滅びの道を歩むとは!! つくづく、お前達は救いようの無い……」

 

〔……お前も失せろ〕

 

   ブンッ

 

 

話し続けるソロモンに、ビーストⅣが飛びかかった。ソロモンは肉の柱を呼び出して彼の一撃を阻む。

 

 

「……おっと」

 

   ガキンッ

 

「……何のつもりだ、お前は人間に絶望したのだろう?」

 

〔……勘違いするな。私は檀黎斗を許せないだけだ。例え私があれを殺せば、人間が滅びるとしても……私は人間が許せない訳ではない。私は、檀黎斗の存在をただ許せないだけだ〕

 

「全く、おかしな哲学だな。だが、少し付き合ってやろう」

 

 

ビーストⅣの前足が、呼び出される肉の柱を切り裂き突き破る。対するソロモンは柱を次から次に呼び出し、ビーストⅣを破壊しようとする。

どちらが勝つかは分からない。分からないが、言えることは。

 

物凄い衝撃波が発生している、という事だった。人類を滅ぼし得る二つの存在の全面衝突なのだ、ある意味では当然だが。

 

 

「くっ……クロスティーヌ、ご無事ですか!?」

 

「私は、まだ不滅ゴフウッ!?」

 

 

衝撃波に乗って飛んできた瓦礫に押し潰され、ゲンムはまた死ぬ。そして蘇る。

 

いつの間にか、アンダースーツは漆黒に染まっていた。

 

 

「……ハハ、ハァーハハハハ!! ハァーハハハハ!!」

 

「どうしましたか我が主よ!!」

 

「ついに……ついに至ったぞ!! レベルX(未知数)に!!」

 

 

水を得た魚のように、ゲンムは突然吠えたてた。その目には異常なまでの自信が顔を覗かせている。

 

 

「……何だ、まだ足掻くかカルデアのマスター」

 

〔……何が面白くて笑う〕

 

 

敵対する存在二人も今一度動きを止め、ゲンムに向き直った。ソロモンはその目に好奇を、ビーストⅣはその目に憎悪を込めて。

 

ゲンムは両手を広げ、彼らに近づきながら喋る。

 

 

「よく考えろビーストⅣ!! お前は相手より強くなる『比較』の獣、そして私は、お前に殺され続けることで死のデータが蓄積し、ついにレベル『X(エックス)』に至った!!」

 

〔……〕

 

「Xとは即ち未知数!! いくら相手より強くなるとしても、相手の強さが分からなけらばどうしようもあるまぁい!!」

 

 

叫ぶ。叫ぶ。圧倒的自信。圧倒的傲慢。

黎斗は勝利を確信していた。レベルXに至った己が、負けるわけなど無いのだ。

 

 

〔……全く。やはり、愚かだったか〕

 

「……何だと?」

 

〔檀黎斗。お前の強さが不確定なら……私は、私に出せる最大の出力を持って、お前を迎え撃つ〕

 

   シュンッ

 

   ズガゴガクキャグジャアアッ

 

 

刹那。ゲンムは四肢をもぎ取られ吹き飛ばされていた。直ぐ様再生こそするが、痛みが残る。

まさか、これほどまでとは。ゲンムは……驚愕と共に絶望を覚えた。

 

 

〔……私は霊長の殺戮者。望むなら、何度でも殺してみせよう〕

 

「面白い。私も付き合おう、獣。何、これが終わったらまた決着をつければいい」

 

〔ふざけるな!! ……だが、まずは檀黎斗だ〕

 

 

そんな会話が聞こえてくる。

ゲンムの足は震えていた。

 

絶対に負けない仮面ライダー、ゲンム。不死身で、最高のスペックを誇っていて。

なのに、こんな事が起こるなんて。

 

 

「嫌だ……死にたくない。まだ、死にたくない……!!」

 

〔……死体が何を言っているのやら〕

 

「死にたくない、まだ死にたくない……あぁ、あ……!!」

 

 

そうして、爪が容赦なく振り下ろされて。

 

 

 

 

 

 

   カキンッ

 

「……お逃げ下さい、我が主よ」

 

 

ジル・ド・レェが、その宝具でもって、ビーストⅣの爪の進行を一瞬だけ遅くした。

ゲンムのサーヴァント達がゲンムを遠くに放り投げる。その懐からプロトガシャットを引き抜いて。

 

 

「早く、お逃げください!!」

 

『ドラゴナイト ハンター Z!!』

 

「私達が、時間を稼ぐ、クロスティーヌは逃げるべき」

 

『ドレミファ ビート!!』

 

「うおおおおおおおおお!! 黎斗ぉおおおぉぉおおお!!」

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

「「「変身!!」」」

 

 

体を黒く染め、絶対に勝てない存在に立ち向かっていくサーヴァント達。ゲンムは思わず呟きを漏らす。

 

 

「……お前たち」

 

「……お逃げ下さい。私達はしっかり食い止めますから」

 

 

ゲンムは目を閉じ、そして開き。

眼前に並ぶは、都合の良かった(使い心地の良かった)道具たち。

 

 

「……」

 

『ジェット コンバット!!』

 

 

ゲンムはほんの少しだけ……少しだけ後ろ髪を引かれる思いをしながら、その場にコンバットゲーマを飛ばして。

 

敗走した。

 

 

〔愚かな者だ。何故あれに従った?〕

 

「……私の神が、彼だったからだ。螺湮城教本・竜の巻(ドラゴナイト・スペルブック)!!」

 

「クロスティーヌは我が永遠なりし同士なり。地獄にこそ響け我がラブソング(ドレミファ・クリスティーヌ)

 

「……この行いもまた、運命であった。 我が心を喰らえ、月の機械(ゲキトツ・ディアーナ)!!」

 

 

そんな声を聞きながら。

 

───

 

暫くして。

 

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

黎斗は戦場からある程度離れたとある廃墟の壁にもたれていた。

息は荒く、体の随所は傷だらけだ。変身すらも儘ならないだろう。

 

 

   ブゥン

 

「……」

 

 

彼の元に、コンバットゲーマが飛来した。彼に命令したことは二つ。サーヴァントの援護と……

 

 

「……ガシャット、三本回収成功、か……」

 

 

サーヴァントが落としていくであろうガシャットの回収。しかし、回収されると言うことは……サーヴァントの死を意味する。

 

 

「……教えろ、ロマニ・アーキマン。私のサーヴァントは……そっちに帰ったか?」

 

『……いや。座まで送り返されたらしい』

 

「そうか……」

 

 

黎斗は夜空を見上げた。月は冷やかに辺りを照らし、黎斗の頬を青白く染める。

マシュが通信機越しに黎斗に呟いた。

 

 

『……どうせ、黎斗さんは悲しいなんて思わないんでしょう? 道具なんでしょう?』

 

「……当然、彼らは道具だった。だが……少しは、失うのが少しは惜しい道具だった」

 

 

黎斗はそう返す。

サーヴァントは道具だと思うことに彼は何の躊躇も無かったが……だからといって、道具を簡単に使い捨てる、とは、彼は言ってはいなかった。

それだけだったが……マシュは、ほんの少しだけ、本当に少しだけ、黎斗に共感した。

 

 

『……檀黎斗。残念だけど……レイシフトは不可能だ。ビーストⅣの影響だろうか、機械に影響が出てきている』

 

 

ロマンはそう語る。ビーストの出現で通信に異常があるのか、もしくは敵対者達が、絶対に黎斗を生かしては返さないと意気込んでいたからか。

それは分からないが……今の黎斗は、ビーストⅣを殺さなければ、そうしなければもう生きられなかった。

 

 

「……そうか」

 

『自業自得、です』

 

「神たる私にそう言うとはな、マシュ・キリエライト。全く……全く予想外の成長だ。……ハハ、……ハ……」

 

 

黎斗はそう言いながら、何処か寂しげにバグヴァイザーを持ち上げた。絶体絶命の状況だった。

 

バグヴァイザーの中には何もいない。誰もいない。ひたすらに空っぽで。

 

……いや、違う。

 

一体だけ、()()()()()がいる。

 

 

「……聞こえるか、本」

 

「……何よ」

 

 

バグヴァイザーに話しかければ、ゴスロリ衣装の戦闘員バグスターが画面に写り込んだ。

そう。先程ウイルスに感染させた本の魔力だ。

 

 

「……お前に名前をくれてやる。お前に姿をくれてやる。お前に力をくれてやる」

 

『……何をするつもりなんですか、黎斗さん?』

 

 

疑問を口に出すマシュ。黎斗は何をやろうとしているのだろう。

黎斗は答えない。答えないまま……

 

 

「……お前の望みを聞いてやる」

 

「……」

 

「……だから、力を貸せ」

 

 

……答えないまま、バグヴァイザーの銃口を、かつて死のデータを自分から採取した時と同じように胸に押しあてて、そして。

 

 

   バチンッ

 

───

 

 

 

 

 

 

私の敵は、私の才能だけだと思っていた。

 

こんなことが起こるとは、思ってもいなかった。

 

だが、私は決して、このゲームの攻略を諦めはしないのだ。

 

私の夢のため、夢を実現するために。

 

 

 

……(あたし)は夢の集合体。

夢見るアナタに求めるワタシ。幻夢、あなたの夢も、叶えましょう──

 

 

 

 

 

 

───

 

   ズガンッ ズガンッ ドゴォンッ

 

「ふははははは!! 温い温いぞビーストⅣ!!」

 

〔そっちこそどうなんだソロモン。御自慢の柱はボロボロだが?〕

 

 

黎斗のサーヴァント達を蒸発させたビーストⅣは標的を再びソロモンに変更し交戦していた。

 

無数の柱……ソロモン曰く魔神柱を悉く粉砕してソロモンの首筋を狙うビーストⅣだが、流石に相手の量が多く苦戦を強いられていた。

 

 

〔貴様、やはりただのサーヴァントではあるまい。だが……何の意味も無いことだが、これから真の意味で失せるであろう無数の命の敵討ちとして、私は貴様を殺戮する〕

 

「挑んでみろ獣。そして無様に……ん?」

 

〔……ほう、戻ってきたか〕

 

 

こちらにやって来る気配を感じ、規格外二人は足音の方に目を向ける。

 

黎斗がいた。歩いていた。

 

 

「……変身するさ。変身するとも。私はゲンム。ゲンムは私」

 

 

唄を歌うように。本を読むように。

黎斗の声を上げながらの歩みは、それは堂々としたものだった。そしてその目は、赤く光っていた。

 

ソロモンはその姿に、何か違和感を覚えた。

……サーヴァント。さっきまで死体でこそあったがやはりただの人間であった彼の中に、サーヴァントの気配が眠っているのである。

 

 

「変身するさ。変身するとも。……お前の終わりは、私が決めよう」

 

『ガッチョーン』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

黎斗の手の中でガシャットに明かりが点る。

……それを握る彼の中で、夢と理想が膨れ上がっていた。今なら、何であろうと彼の思う姿になれると、彼は確信していた。

 

 

「……変身」

 

『ガッシャット!!』

 

『バグル アァップ』

 

 

姿が変わる。だが纏うものは死だけにあらず。

……彼の中には、ナーサリー・ライム(人間の夢の結晶)があった。黎斗はそれを受け入れ利用しようとしていた。

 

白と黒の夢が、仮面ライダーゲンムを、編み上げる。

 

 

『デーンジャ デーンジャー!!』

 

『ジェノサァイ!!』

 

『デス ザ クライシス!! デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ウォー!!』

 

 

仮面ライダーゲンム、ゾンビゲーマーレベルX(エックス)

戦闘開始。

 

───

 

〔……何故だ〕

 

「ハハハ……楽しいなぁ、ビースト?」

 

 

ゲンムは、ビーストⅣと対等に殴りあっていた。確かにゲンムはビーストⅣの一撃を喰らっていたが、しかし何故か吹き飛ばなかった。

 

 

「私は不滅、不滅こそが私。私は檀黎斗であり、檀黎斗の夢でもある。だからこそ、(あたし)(わたし)の思うがまま」

 

   グシャッ

 

〔かはっ……!?〕

 

 

右ストレートがビーストⅣの目を捉えた。たまらずよろける獣。霊長の殺戮者。

ゲンムはさらに打撃を連ね相手を牽制した後に、更に詠唱を始める。

 

 

「頼れる仲間は既に失せ、船は大荒れ沈みかけ。先に待つのはこの世の終わり? もしくは先すらもう消えたのか」

 

 

ゲンムは高らかに唱える。己の夢を、己の理想を。

ビーストⅣが何度も攻撃を仕掛けてくるなか、ゲンムはそれらを全て紙一重で回避していた。

 

 

「……それはともかくあちらの事情は興味津々。他人の日常? 知るもんか。それでは、世界の裏側を見せてあげよう」

 

 

唱え終わる。ゲンムの詠唱が全て終わる。

望むものは、この状況を引っくり返す、()()の一手。

 

……ビーストⅣの眼前で光が弾けた。

 

現れたのは小さなナニカ。それはゲンムの手元まで飛んでいって、そうして光は漸く収まる。

 

 

……水色のガシャット。それがゲンムの手元にあった。

 

 

「……神の恵みを、受け取れ」

 

『ガンバライジング!!』

 





Q「結局何があったのさ?」

A「バグスター状態のナーサリーを黎斗が取り込む」
 ↓
 「黎斗は体の主導権の半分を体内のナーサリーに渡す」
 ↓
 「ナーサリー・ゲンムの爆誕」
 ↓
 「マスター(ゲンム)の心が姿に反映されるナーサリーが体内にいるから、ゲンムが思った通りの姿になれる、と言うことになる」
 ↓
 「後々の負荷こそヤバイことになるが、ゲンムはイメージ通りの行動を行ってビーストⅣと交戦」
 
大体はこんな感じ

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