Fate/Game Master   作:初手降参

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アポイベ、思いきりシャドウ・ボーダーって言ってたけどいいのかな……



第六十六話 Last stardust

 

 

 

 

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「右に舵を切って!! そこから上昇を!!」

 

 

シャドウ・ボーダーがちびノブの坂を駆け上る。ゲンムコーポレーションの本社ビルは高さ156m、シャドウ・ボーダーはそのビルの廻りを周回しながら、とうとう130mの位置まで辿り着いていた。

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノノノ、ブブブ!!」

 

「ノッブァッ!!」

 

「下からの追撃!! スピードを上げて下さい!!」

 

「分かっているゥ!!」

 

 

加速する。加速する。天へと昇る二つのバグスターに恐れはない。

片方は、単純にまだ残機が残っているが故。そしてもう片方は……

 

 

「……」

 

「集中を切らすな!! 次はどこからだ!!」

 

「っはいっ!! 次は上からです!! 舵を左に!!」

 

 

これが、自分の役割だと信じているからだった。

 

───

 

『マッスル化!!』

 

『伸縮化!!』

 

『分身!!』

 

 

パラドクスとアヴェンジャーの戦いは拮抗していた。素のスペックでは己を上回るアヴェンジャー相手にパラドクスは絶え間なくエナジーアイテムを使用することで追い付き、戦っていた。

現在も彼は、エナジーアイテムの力で伸びるようになった拳をアヴェンジャーへと振るっている。

 

 

「ここで、倒す!!」

 

「……」

 

 

それを、アヴェンジャーは全て紙一重で回避していた。あるものは弾き、あるものは受け流して戦う彼に傷はついていない。そしてかれは、積極的な攻撃を止めていた。

 

 

「どうした、攻撃しないのか!?」

 

『回復!!』

 

『マッスル化!!』

 

『マッスル化!!』

 

 

パラドクスが磨り減った腕に鞭打ちながら攻撃を続ける。アヴェンジャーはやはり躱すだけ。パラドクスは敵の心理が分かりかねて、ただストレスが募っていく。

腹が立った。違うと頭では分かっていたが、まるで目の前の敵を自分が一方的にいじめているような気分にすらさせられた。

 

 

「チッ……何にせよ、お前相手だと心が滾る」

 

『Kime Waza』

 

『Perfect Critical Combo!!』

 

「そうか」

 

『パーフェクト ノックアウト!! クリティカル ボンバー!!』

 

 

アヴェンジャーは迎撃の構えをしながら、やはりそう返すだけで。

 

───

 

『Noble phantasm』

 

人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)

 

「まだっ!!」

 

 

撃ち合う。

 

 

『Noble phantasm』

 

訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)

 

「まだ!!」

 

 

撃ち合う。

 

 

『Noble phantasm』

 

我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)……っ!!」

 

「まだ、まだ、まだっ!!」

 

 

撃ち合う。

 

 

「……君のデバッグにここまで長引かせられるとは不本意だ」

 

「でも、私達の方が強いわよ!!」

 

 

クロノスが展開した黄金劇場の内部で、クロノスとゲンム、ナーサリーはずっと戦っている。ゲームマスターである二人には黄金劇場による弱体化は意味を為さなかったが、それでもパンドラタワーからの補助は消え、クロノスの動きは力強くなっていた。

 

 

『『Noble phantasm』』

 

日輪よ、死に随へ(ヴァサヴィ・シャクティ!!)

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

 

……しかし、それでも限界はある。ゲンムがガシャコンカリバーから放った全力の日輪よ、死に随へ(ヴァサヴィ・シャクティ)はクロノスの約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)と拮抗し、余波だけでクロノスを吹き飛ばした。

 

むしろ、ここまで耐えていられただけクロノスは強かった。万全の状態で続けられた宝具の連続をここまで堪えた彼女は、かなり長い間ゲンムらを足止めしていたと言える。

 

 

「そろそろ私達も向こうに向かいたい。君にはここで倒れてもらおう」

 

「まだ、まだ、まだ……終われない……!!」

 

 

それでもクロノスは立ち上がった。牽制にガンド銃を放つ。

 

 

   パァンッ

 

「私は、まだ粘らないといけないんです。貴方を、倒すために!!」

 

───

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

 

宝具が放たれる。信長の背後に並んだ火縄銃が揃って火を吹く。

……そうして放たれた弾丸は、エグゼイドに着弾する瞬間に──消滅した。

 

エグゼイドと信長の戦い、それはもはや一方的な物となっていた。信長の遠距離攻撃はエグゼイドに辿り着く時には消滅し、近距離攻撃は反射されてしまっていた。

 

 

「……なんじゃお主、なかなかやるではないか」

 

「僕だけじゃありません。この力は……皆の力です」

 

 

仮面ライダーエグゼイド・聖杯使用態(グレイルゲーマー)

エグゼイドにしか扱えないその力は、Fate/Grand Order内での戦闘において限定的にエグゼイド自身の願いを叶えるもの。攻撃を避けたいと願うだけでそれは消滅し、攻撃を当てたいと思うだけで攻撃は相手へと向かっていく。

 

 

『ガシャコンブレイカー!!』

 

『ガシャコンソード!!』

 

『ガシャコンキースラッシャー!!』

 

 

また、イメージするだけで、彼は敵の回りにガシャコンウェポンを創造することもできた。信長の回りに現れた剣が、大地へと突き刺さっていく。

それでも信長の方も負けるつもりはなく、飛来する武器を回避しつつ弾丸を放ち続けた。

 

 

『ガシャコンマグナム!!』

 

『ガシャコンスパロー!!』

 

「はあっ!!」

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

 

銃弾が交差する。

互いは互いに傷つかず、ひたすらに技を放ちあう。……まるで、わざと撃たせているのではないか、そうエグゼイドがふと思う程に。

 

 

「……何のつもりですか」

 

 

そしてそう思ったなら、聞かない訳にはいかない。エグゼイドは一瞬手を止める。

 

 

「さて、何の話じゃ?」

 

「どうして僕に、技を撃たせるんですか?」

 

「ふむ……なら、こう言おうかのう」

 

「……?」

 

 

そして信長はニヤリと口元を歪めて。

 

 

「お主の腕試しも十分じゃろう。というかこれ以上はわしが辛い」

 

「……それは、どういう」

 

「もう、その力の使い方は覚えたな?」

 

 

そう言いながら信長は天を仰ぐ。そこには無数のちびノブが架けた橋と、その上を走るシャドウ・ボーダーがあった。飛び回るミサイルも、レーザーも、その車を止めることは出来なかった。

 

 

「そろそろ潮時じゃ。行くぞ」

 

 

……次の瞬間、信長はその場から撤退した。同時にアヴェンジャーも、イリヤも。

 

───

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブノッブ」

 

 

走る。走る。死への旅路を、黒い車がひた走る。

 

 

「近づいてきました!!」

 

「突撃するぞ!! 全戦力を突撃させろ!!」

 

「……はい!!」

 

 

地上150m。シャドウ・ボーダーはとうとう、ゲンムコーポレーション社長室を射程に捉える。

もう出し惜しみは必要ない。信勝は全てのリソースを費やしてちびノブを召喚し、シャドウ・ボーダーの角度を調整しながら加えてシャドウ・ボーダーに先行させて社長の窓を破壊する。

 

 

「ノッブ!!」「ノッブ!!」

 

「ノノノ、ブブブ!!」

 

「ノッブァァ!!」「ノッブノッブ」

 

 

砕かれる窓、加速する車輪、風を切る車体。それらが、シャドウ・ボーダーを讃えるように音を立てて。

 

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「……ふふっ」

 

 

そして、黎斗神はアクセルを強く強く踏み込んだ。思わず、高笑いが溢れていた。

それを見て、隣にいた信勝の口からも、つい笑みが漏れた。彼の脳裏に、作られた生前の記憶と、カルデアでの記憶と、そしてこの世界での記憶──正確には、その全てでの信長の記憶が蘇った。

 

進む。

 

進む。

 

もう防衛プログラムは無意味だ。今さらシャドウ・ボーダーは止まらない。

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「は、はは……はははははははははは!!」

 

 

そしてシャドウ・ボーダーは。

 

ゲンムコーポレーションに突き刺さった。

 

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「──起爆!!」

 

   カチッ

 

 

その瞬間に信勝は衝撃に悶えながら、後部座席に積めるだけ積み込んだ爆薬を全て起爆する。

今日までかき集めた最後の爆弾。唯一ゲンムコーポレーションの支配を受けないシャドウ・ボーダーにのみ行える特攻。それは、立派に役目を果たした。

 

 

   ズドン

 

   カッ

 

 

そして彼らは、Fate/Grand Orderガシャットも、ゲンムコーポレーション内のデータも、全て、全て、吹き飛ばした。

 

───

 

 

 

 

 

 

「今度こそ終わりだ」

 

『Noble phantasm』

 

「──幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)

 

 

その時、クロノスは……いや、マシュは、黄金劇場の片隅に転がっていた。どれだけ想定外の存在とはいえ、その利点が奇襲性能にある以上戦いが長引けば長引くほど、マシュは不利になっていく。それだけのことだった。

 

 

「っ……!!」

 

 

ゲンムのガシャコンカリバーにエネルギーが溜まっていく。そしてその刃は高々と振り上げられて。

 

そして。

 

 

 

 

 

   ザザッ

 

「──何だと?」

 

 

一つ世界にノイズが走って、宝具が中断させられた。また、黄金劇場も消え失せた。

ゲンムが辺りを見回す。パンドラタワーは既になく、墨田区の壁も消えていく最中だった。

 

 

「……やっとですか」

 

 

マシュがよろけながら立ち上がる。その姿は微妙に消え始めていて。

 

 

「マスター」

 

「ああ、向こうの私は私のプログラムの上を行ったようだ。まさかここまでとは……くっ、私の計画を……!!」

 

『ガッシューン』

 

 

ゲンムはガシャットを抜きながら顔をしかめる。目の前のナーサリーの姿は、段々と薄れ始めていた。

しかし、真黎斗とてこの程度で終わるつもりはない。まだ仕掛けは残っている。

 

 

「諦めてください、黎斗さん。もうこんなゲームは終わりにしましょう」

 

「いや……まだ終わってはいないわ」

 

「分かっている!! ……行くぞ」

 

 

二人は立っているだけのマシュに背を向けて、粒子となってかき消えた。

 

───

 

 

 

 

 

   ザザッ

 

「……上手く行ったか」

 

「貴利矢……!!」

 

 

ずっと安全地帯でCRの戦いを見つめていたポッピーと灰馬の元に、貴利矢がマルタと現れる。

 

 

「いやー良かった、やっぱ瞬間移動って楽だわ」

 

 

そう言って貴利矢は頭をかきながら、ゲンムコーポレーションを仰ぎ見る。

その建物は……半壊していた。爆弾の働きは凄まじく、ゲンムコーポレーションの上層部をまるごと吹き飛ばしていた。ビルの下部に瓦礫が転がっている。

 

 

「……で? あの半分ぶっ飛んだゲンムコーポレーションに行った神は何処だ?」

 

「ああ、黎斗なら……」

 

 

ポッピーがそう言おうとした時に、彼女の足元に土管が現れた。貴利矢は反射的にそれを蹴ろうとしてしまったが思い止まり、そこから生えてくる黎斗神を見つめる。

 

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「ここにいるさ、九条貴利矢。……私のライフはまた一つ減って、残り25」

 

「そうかい。随分と使ったな」

 

「私に対抗するのだから、このくらいの犠牲は許容範囲だ」

 

 

土管から下りた黎斗神はそう言い、大きく伸びをする。そんな黎斗神にポッピーは小さく笑い、そして灰馬は不安げに声をかけた。

 

 

「……アサシンは、どうだ? 彼は、生きているか?」

 

 

彼は信勝のことを心配していた。自分を助けてくれたサーヴァントの安否を。……きっと消滅しただろうということは知っている。それでも、何かの偶然で生き残っていないかと微かな期待を抱いていて。

 

 

「それは諦めろ。あの爆発では耐えられまい。しかも、私が破壊したのはプログラムの根幹だ。外部はまだ堪えているが、彼が最も最初に初期化を喰らった筈だ」

 

「……そうか」

 

 

そして、やはり諦めた。

試しに灰馬は信勝に念話を試みるが上手くいく筈もなく。本当に彼のサーヴァントも倒れてしまったようだった。

 

そして聞き逃せないワードが一つ。

 

 

「初期化……」

 

「ここまで大規模だと、かなりゆっくりのようだが。じきにあらゆるサーヴァントは消え、ゲームエリアは無かったことになり、そして失われたデータは元の位置に戻るだろう」

 

 

初期化。ゲームが破壊された以上、ゲームが書き換えていた情報は元に戻る。あくまで現実を現実のままにバグスターを解き放った仮面ライダークロニクルとは違い、現実を塗り替える上で開始したゲームであるFate/Grand Orderだからこそ可能なことだった。

破壊された建物は元に戻り、ゲーム病で消えた人々も元に戻り。

 

そして当然、全てのサーヴァントは消え去ることとなる。

 

 

「……姐さん」

 

「ま、仕方ないわよ」

 

 

貴利矢が隣を見れば、マルタの存在は大分薄れていた。彼女越しにゲンムコーポレーションのビルが見えた。マルタはやや疲れた顔をしていたが、それでも特に悔いはなさそうに見えた。

 

……透けたマルタの向こう側から、永夢と飛彩、パラドが戻ってくる。

 

 

「大丈夫でしたか!?」

 

「おう永夢!! 自分は無事だぜ!!」

 

「すまない。瓦礫の処理を行っていた」

 

 

そう言いながら彼らは互いの顔を見合せ、面子が揃っていることを確認する。欠けている人間はいなかった。そのことに安堵し、彼らは一先ずの騒動の終結を見る。

 

 

「……敵サーヴァントはどうした?」

 

「分かりません。突然何処かに逃げてしまって……」

 

「……大丈夫なの?」

 

 

永夢らと交戦していたサーヴァント達は、ゲンムコーポレーションが爆破される寸前に戦闘を離脱していた。その後の足取りは掴めていない。

そのことに永夢は引っ掛かりを覚えていたが、黎斗神の方は特に心配もしていなかった。

 

 

「問題あるまい。いずれ消滅する」

 

「そうなんだ……」

 

「……ま、そうだろうな」

 

 

貴利矢がそう呟き、何事もなさげに振り向く。

 

 

 

 

 

……その視線の先に。

 

真黎斗と、ナーサリーが立っていた。どこか、衣服は焦げているようにも見えた。

 

 

「……でも、ただでは消えてくれそうにないぜ?」

 

「貴方は……!!」

 

「真檀黎斗か……生きていたのか」

 

 

黎斗神は真黎斗を視認し、しかし警戒することはない。彼は勝利宣言だとでも言わんばかりに両手を広げ、挑発的な笑みを浮かべるのみ。

 

 

「君のゲームは私が終了させた。君の敗けだ。諦めろ、真檀黎斗……君が最後までゲームマスター、真『檀黎斗』であり続けるならば、ここが敗けの認め時だ」

 

 

……それに相対する真黎斗の方は、その勝利宣言を聞いても冷静さを欠いてはいなかった。

 

 

「……君は一つ勘違いをしている、檀黎斗神」

 

「……ほう?」

 

 

それも当然だ。

 

 

「まだ、私の隠し玉は残っている」

 

「……」

 

 

ゲームはまだ終わっていない。

 

その言葉で、黎斗神の後ろにいた人々が一斉に身構えた。次の隠し玉、それに備えて。

もうガシャットは破壊された筈だ。故に、もう地形が書き換えられることもなく、新たなサーヴァントも現れない筈だ。では、何が来る?

 

 

「……私の計画は不滅だ。私の才能は完璧だ。負けるはずがない。何としてでも勝ってみせる。それが私の、存在意義なのだから」

 

 

真黎斗が左手を伸ばし、ゲーマドライバーを装着した。そしてその左手に、ナーサリーが一つのガシャットを投げ渡す。

 

 

「ナーサリー!!」

 

「大丈夫、データ保存プログラムは起動してたわ!! システム移植は完璧よ!!」

 

「ああ、流石は私の才能だ ……最後まで、頼むぞ」

 

 

真黎斗が握ったのは一本のガシャット。それこそ、破壊されたFate/Grand Orderのデータを炎の中で移植したもの。黎斗神の計算以上に、真黎斗はガシャットの防備を固めていた、それだけの話。

そして真黎斗は右手にマイティアクションNEXTを構える。

 

 

『マイティアクション NEXT!!』

 

   ガコンッ

 

『N=Ⅹ!!』

 

『Fate/Grand Order!!』

 

 

加えて彼はそのギアを傾け、同時にFate/Grand Orderを起動した。

二本が、ゲーマドライバーに突き刺さる。

 

 

「……変身……!!」

 

『ガッチャーン!! レベルセッティング!!』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『それは、未来を取り戻す物語──Fate/Grand Order!!』

 

 

そして真黎斗は、その二本のガシャットで変身した。

その姿は、本来のゲンムの各部分が、燃やされたカルデアスのように紅く透き通った輝く装甲に覆われたようなもので。中身から溢れる金と合間って、ゲンムはその全身から禍々しささえ覚える赤を放っていた。

 

 

「……それが、君の隠し玉という訳か」

 

「悪趣味な金ピカよりはマシだな。ま、倒れてくれるのが一番だったんだけどな」

 

「そうだ……ゲームはまだ終わっていない。私が勝利するまでいくらでも続けてみせよう。私の世界が完成するまで!!」

 

 

黎斗神のゲンムが外敵達にそう吠えて、右腕の装甲を輝かせながらその腕で空を凪ぎ払った。それだけで空気は渦を巻き刃を産み出して、その刃がCR一同に襲い掛かる。

 

 

「っ、伏せろ!!」

 

『マイティアクションX!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『Holy grail』

 

『Taddle fantasy』

 

『Knock out fighter!!』

 

『爆走バイク!!』

 

 

それを慌てて回避しながら、ライダー達はガシャットの電源を入れた。今度こそ最終戦だ、そう己を激しながら。

 

 

「「「「「変身!!」」」」」

 

『『『『『ガッシャット!!』』』』』

 

───

 

「はあっ!!」

 

   ブンッ

 

 

真黎斗のゲンムが腕を一度振るえば、衝撃波が空間全体に広がった。触れた物は太陽すら越える熱に晒され吹き飛ばされる死の一撃。ライダー達はそれをすり抜けて攻撃を仕掛けていく。

 

 

『Knock out Critical Smash!!』

 

「はあああっ!!」

 

 

パラドクスが一気に真黎斗のゲンムに迫り、かれの溝尾にアッパーを仕掛ける。その拳は確かにその装甲を捉えて──

 

 

   ジュワァッ

 

「っ!?」

 

 

すぐにパラドクスは飛び退いた。右手が熱い。確認すると、拳を作っていたパーツが溶けていた。もう使えそうにない。

 

 

「どうなってるんだ……!!」

 

「……熱を持ってるってことだな?」

 

「それもそうだろう。あの装甲がカルデアスを模しているならば、あれを殴るのは恒星を殴ることに等しい」

 

 

黎斗神のゲンムはそう考察しながら、シャドウ・ボーダーから下ろしてあったバグヴァイザーからビームを放つ。

しかしそれも、真黎斗のゲンムの装甲の熱が打ち消した。どこからともなく、舌打ちが聞こえた。

 

───

 

戦い始めて一時間もしないうちに、ライダー達はくたびれていた。パラドクスはパズルゲーマーに切り替えて戦闘を続けたが上手くいかず、レーザーターボは徒手空拳では打つ手がなく、マルタも光弾が届かず、ゲンムにも打つ手がなく、ブレイブも近づけない。

 

そんな中、エグゼイドだけは真黎斗のゲンムと戦えていた。

 

 

「はあっ!!」

 

『ガシャコンブレイカー!!』

 

 

聖杯のブーストで熱を誤魔化しながらエグゼイドは剣を振るう。相手がFate/Grand Orderガシャットを使っているからこそ、それ由来の聖杯を纏ったエグゼイドは最高のスペックを誇っていられた。

 

降り注ぐ剣をゲンムが吹き飛ばし、飛来する衝撃波をエグゼイドが打ち砕く。このゲームエリアでまともに立っているのは二人だけだった。

 

そう、二人だけ。

 

 

「……待て。あいつ、何してるんだ?」

 

 

ナーサリーも、立っていなかった。

彼女は真黎斗のゲンムの後方に腹這いになって、一心にパソコンに何かを打ち込んでいた。何かの作業をしているのは確実だった。

 

しかしそれに気づいたのが遅すぎた。

 

 

「……ついに、ついに完成したわ、究極のライダー……!!」

 

 

パソコンに向けて仕上げを行い続けていたナーサリーが、エンターキーを強く強く押し潰す。

その瞬間に真黎斗のゲンムの足元に魔方陣が発生して、エグゼイドすらも吹き飛ばした。

 

ゲンムはそれを見て、すぐに言葉を紡ぐ。まるでこの瞬間を待っていたと言わんばかりに、その声色は明るくて。

 

 

 

 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖こそは私、真檀黎斗」

 

「その呪文は……」

 

 

エグゼイドは思わずそう呟いた。

彼はその呪文を知っている。その意味を、かつて黎斗神より教えられた。そして彼自身も、無意識のうちに唱えたことがある。

サーヴァントを召喚する呪文。

 

 

「 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

真黎斗のゲンムのすぐ前の魔方陣が光り輝く。影の問題なのか、サーヴァント召喚の魔方陣、そこからは黒が染み出しているようにすら見えた。

 

 

「……しかし今更、一体のみの召喚だと?」

 

 

黎斗神のゲンムが思わず漏らす。

今更、ここで一体を加えたところで何になるだろう。いや、今の状況なら一体でも増えられると邪魔だが、Fate/Grand Orderが使われている現在サーヴァントに対してはエグゼイドが有利を取れる筈なのに。それなのにどうして、今サーヴァントを呼んだ?

 

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

「続けさせるな!!」

 

『タドル クリティカル スラッシュ!!』

 

       

衝撃波が来ないと見て立ち上がったブレイブが魔方陣を切り裂かんと剣を振るう。……しかしガシャコンソードから放たれた斬撃は、魔方陣に触れた瞬間に腐食して掻き消えた。

 

 

「っ、これは……」

 

「告げる。汝の身は病、その命運は私の元に。 我が望みに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

真黎斗の呼び出すサーヴァント、その特異性。

 

 

 「誓いを此処に。我は常世総ての神と成る者、我は常世総ての死を殺す者。汝我が産みし病める騎兵、ガシャットより来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 

それが何かは、すぐに分かることとなる。

 

 

「顕れろ──」

 

 

……その魔方陣から。()()は現れた。

黒い泥。そう思わせるフォルムだった。それは魔方陣を伝って現実に這い出し、空間全てを侵食していくような怪物。

 

 

「あれは……」

 

「欠けていたゲンムのサーヴァント、その最後の一体という訳か」

 

 

CRの面子は、もうそれを眺めることしか出来ない。そのサーヴァントから溢れ出る障気は、近づくことさえ許さない。

 

 

「サーヴァント、ライダー……病める騎兵……」

 

「いや、あれは寧ろ、病その物……!!」

 

「つまり……」

 

 

その真名は。名付けるならば。

有史以前より人々を蝕み畏怖を集めた、風に、水に、鳥に、人に乗ってきた存在。もっとも多くの人間を殺した存在。医者の敵である存在。

 

病そのもの。

 

 

「ペイルライダー……!!」





次回、仮面ライダーゲンム!!



───ペイルライダーの脅威

「まさか……」

「合体した、だと?」

「最強のライダーよ」


───蹂躙と抵抗

「まだだ、まだだ!!」

「貴方をここで討つ!!」

「余は貴様を倒さねばならない!!」


───訪れるのは、敗北?

「君はもう用済みだ」

「駄目だったのか……?」

「無駄な足掻きを……」


第六十七話 きらめく涙は星に


「いいえ。彼らの戦いは、決して無駄ではありませんでした」

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