Fate/Game Master   作:初手降参

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次のウルトラマン何か凄いなぁ



第六十四話 Voice~辿り着く場所~

 

 

 

 

「ふふふっ!! 楽しいわ楽しいわ楽しいわ!!」

 

「っ……」

 

 

マルタの横で、また一人脱落した。

彼女の能力は留まるところを知らないようだった。初めは方向を指示して爆発を起こす程度だった遠距離攻撃の力が、戦うにつれて衝撃波がパンドラタワー全体に行き渡るようになり、爆発痕から薔薇の蔓が生い茂るようになり、地形が波打って近くのプレイヤーを襲うようになった。

こうなっては、もう敵からの距離など問題ではない。サーヴァントから離れて指示を出していたマスター達も攻撃に飲み込まれて消えていく。勝ちの目は埋もれていき、絶望だけが浮かび上がった。

 

 

「どうしろって言うんだ……」

 

「ここまでか……!?」

 

「っ……ダメだ……!!」

 

「強すぎる……!!」

 

 

周囲から聞こえる言葉は、そのままマルタ自身の本心で。しかし、今更降参なんて選択肢は取れやしない。

 

また爆発が起こった。

 

 

「まだまだっ、刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)!!」

 

   ガキンッ

 

 

衝撃を防いで、すぐに盾から離れる。その次の瞬間には盾は蔓に飲まれていた。このフィールドに安置はない。

マルタは飛び退きながらナーサリーに光弾を放ってはいたが、展開されたバリアによって簡単に弾かれていた。

 

 

「本当に厄介ね……!!」

 

「貴女はもっと遊んでくれるのね? 嬉しいわ!!」

 

「チッ……付き合ってやるわよ、貴女が倒れるまでね!!」

 

───

 

 

 

 

 

「大我はっ!! 休んでなさいよっ!!」

 

「バカ野郎、てめぇだけ行かせてたまるか」

 

 

その時、大我とニコは避難所から脱け出して、痛みに顔を歪めながら歩いていた。全身に走る痛みは無視できる物でもなかったが、まあ一日休めばましにはなった。

 

 

「そっちこそ、病人は休んでろ」

 

「はぁ? アンタの方がよっぽど病人よ!! それに私は、やっぱり、アイツに任せるのは不安だから……!!」

 

「まあ、ゲンムの野郎の作戦なんてろくなもんじゃねえ。だが、もし奴を止めるなら俺の方がよっぽど適任だ。すっこんでろ」

 

「あぁ!? 私だって戦えますー!!」

 

 

互いに相手を詰ることで痛みを誤魔化しながら歩く。ニコはスペースギャラクシーフォーゼを大我に見せつけこそしたが、今変身したって三秒足らずで強制解除だろう。

もう、彼らを助けてくれるサーヴァントはいない。もう、彼らの自衛の手段は働かない。彼らは無防備だ。

 

 

「だーかーらー、アンタは休んでなさい!!」

 

「うるせぇ!! てめぇこそ──」

 

 

……そして。そんな無防備な大我は、ニコは、とうとう敵に出会ってしまった。

大我は即座に、ニコを制するように手を伸ばす。

 

 

「……下がれ」

 

「何で──っ!!」

 

 

ニコも気づく。自分達の進んでいる道のずっと先に、見覚えのあるサーヴァントが二体。

ラーマとシータが立っていた。

大我はゲーマドライバーを装着し、バンバンシューティングガシャットを構える。

 

 

「……何の用だ」

 

「……」

 

 

シータは俯いていた。ラーマは、大我の目を見据えていた。

ラーマは手の剣を大きく振り上げて──

 

──地面に強く投げた。金属音が辺りに響く。

 

 

「余は、戦うつもりはない。……もう戦いに意味はない。ここで勝ったところで、余は誰に顔を見せればよいと言うのだ」

 

 

ラーマは武器を捨てた。大我はそれを見て警戒を緩め、やはり痛みを押さえ込みながらラーマに歩み寄る。

 

 

「じゃあ、何で俺たちの前に立った」

 

「余は……檀黎斗を倒さねばならない。そして、人々を守らなければならないのだ。故に、その体で出歩くのを、見過ごすことが出来なかった」

 

「余計なお世話だ」

 

 

そして大我は、ラーマの元を通りすぎた。ラーマは一瞬フリーズした後に慌てて振り返る。

 

 

「では、お主らは何処に往くのだ……?」

 

「……檀黎斗の元に行く」

 

 

その言葉にラーマは目を見開いた。止めろという意思と、ついていけという意思とが混在する。

彼らをこのまま戦わせるのは危険だ、そう思った。しかし……彼は、大我を説き伏せられる自信も持ち合わせていなかった。

 

 

「ではせめて、余も、仲間に入れてはくれまいか」

 

 

そういうわけで、勝利したのは彼らと共に行くという選択肢だった。

大我は、後ろを歩くニコと目を合わせる。ニコはほんの少しだけ逡巡して。

 

 

「……」

 

「……私は、別にいいと思うけど」

 

 

ニコの言葉で、ラーマ達の行き先も確定した。

 

 

「そうか……好きにしろ」

 

───

 

信勝は、紅い月の下で散歩も兼ねた哨戒を行っていた。黎斗神は最後の調整に入ったらしく、後十分で作戦を開始すると言っていた。

 

 

「……」

 

 

空を仰ぐ。黎斗神の作戦に従うのなら、自分は恐らく生きては戻れまい。それは信勝は悟っていた。しかし、恐怖があるかと考えればそうでもない。

もう灰馬とはするべき会話はしてしまった。もう、あの避難所に戻ることもない。

 

もし、最後に心残りがあるとするなら。

 

 

「……暗い顔をしておるのう、信勝」

 

「っ……姉上」

 

 

最後に、織田信長に会いたかった。

 

しかし現実に会ってしまうとなると話は別だ。彼女は敵であり、敵が来たなら仲間を呼んで押さえ込めと言われている。

 

 

「……」

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブゥ!!」

 

 

ちびノブを呼び出す。信勝は自身も火縄銃を取り、何をされても堪えられるように身構えた。

しかし信長は何もせずにけらけらと笑う。

 

 

「安心せい、わしは何もせん」

 

「……」

 

「にしてもお主ら、大胆なことをするのう。こんな敵陣近くに陣取るなんて、さすがはマスターの片割れと言うべきか」

 

「気づいてたんですか!? じゃあ、そっちの檀黎斗も、僕たちを──」

 

「それはない。知っているのはわしらだけじゃ」

 

 

……信勝には分からなくなった。何故彼女は、真黎斗と情報を共有しないのか。彼女が嘘をついていないことは信勝は勘で分かった。その勘を証明するかのように、信長は信勝に手を出す気配は未だなく。

しかし嘘をついていないならば、何故ゲンムコーポレーション内の他のサーヴァントとは情報を共有したのか。

 

 

「……どこまで、知っていますか?」

 

「……作戦の概要は知っておる。お主、特攻するそうじゃな?」

 

「っ!?」

 

 

そして、信長自体はどうやって情報を知ったのだろう。しかも、事細かに。信勝は再び強く火縄銃を握る。しかし、信長はまだ言葉を続けていた。

 

 

「……お主は、本当にそれでよかったのじゃな? 後悔は、ないな?」

 

「……っ!!」

 

「どうなんじゃ?」

 

「……ええ。僕は、やるべきことを。やりたいことを、やりました」

 

 

……信勝は再び警戒を解いた。

問いに答える。答えない理由はいくらでも見つかったが、意図的にそれに蓋をした。

 

信長は、思う通りの事をすればいいと信勝に言った。そして、自分もやりたいことをやるとも。……きっとそれが、答えなのだ。

 

 

「そうか……満足か?」

 

「はい」

 

「なら、それでよしか」

 

 

信長は背を向ける。信勝ほ追わなかった。ただ、溢れ落ちそうな涙を無理矢理止めて、一つ深々と礼をした。

 

 

「ありがとうございました、姉上……っ!!」

 

───

 

灰馬は月を見上げていた。夜風に晒され、闇に体を浸しながら、紅い月に見とれていた。

その隣に立っていた飛彩はしばらくそんな父親を眺めていたが、我慢できなくなって質問する。

 

 

「親父」

 

「何だ?」

 

「その……本当に良かったのか?」

 

「……ああ。私は彼の意思に従いたい。彼が受け入れ、あれを望んでいるのならば私は止めない」

 

 

アサシン(信勝)のことだった。サーヴァントを望まないままに失った飛彩は、自らサーヴァントを手放すと決めた父親の心情に同意できずにいたからだった。

このまま行けばアサシンは消えるだろう。それを知っていてかつ同意した彼ら主従の考えを、飛彩には理解が出来ない。

 

 

「お前は大丈夫なのか、飛彩」

 

 

今度は灰馬が問った。飛彩はそれにちょっとだけ黙り込み、ぽつぽつと話し始める。サーヴァントを失った苦しみを。この手で倒してしまった嘆きを。

 

 

「……正直に言うと、まだ、彼女の死に様が脳裏にこびりついている。まだ、倒した触感を覚えている」

 

「……そうだろうな」

 

「彼女は笑っていた。だが、俺には……」

 

 

飛彩はいつの間にか下を向いていた。誰に向けて振るう訳でもないが、それでも拳に力を込める。爪が掌に痛かった。

 

……そんな飛彩の頭を、灰馬は撫でた。

 

 

「っ、親父……」

 

「お前は優しい子だ」

 

「……そうだろうか」

 

「そうだとも。私の自慢の息子だよ」

 

 

飛彩が顔を上げると、灰馬は寂しげに笑っていて。

 

 

「その触感を忘れるな。犠牲をを忘れず、しかしメスを衰えさせてはいけない。私達は積み重なった救えなかった人々の上で『死』と闘う人間だからな。救えなかった人々よりずっと多くの人を助けるよう抗うのが、真のドクターだと私は思う」

 

───

 

「永夢……」

 

「……」

 

 

その時、永夢はシャドウ・ボーダー内で新たに完成したガシャットを眺めていた。これまでのあらゆるガシャットとも違う特性を持つガシャット、「Holy grail」──それは、永夢にしか使えないようだった。

 

ポッピーは見守ることしか出来ない。サーヴァントを失い、それでもまだ戦いを続けると決めた彼に掛ける言葉は彼女には見つからない。

 

 

「……もう、大丈夫」

 

「……本当?」

 

 

しかし、永夢の方はもう踏ん切りがついているようだった。彼は唐突に立ち上がって、一つ大きく伸びをする。

 

 

「もう、こんな戦いは終わりにしましょう……ええ、全ての患者の運命は、僕が変える」

 

「……」

 

「僕は、信じているって言われちゃいましたからね」

 

 

無理をしていることは分かった。しかし、彼を休ませることは出来ない。もう、作戦開始のリミットはすぐそこにあるから。

 

……檀黎斗神は、黙って助手席に未だに座っていた。レーザーターボらの戦いを監視し、現在の戦力の調整を行って。

 

しかしそれも、もう終わる。

 

 

「……よし」

 

 

黎斗神が一言呟いた。

 

 

「ポッピー、全員集めろ。作戦を開始するぞ」

 

───

 

「さて。大分プレイヤーも減ってきたな」

 

「ッッ……そうだなぁ」

 

 

レーザーターボは、ゲンムから飛び退きながら辺りを見回す。

さっきまで戦っていたサーヴァント達はもう殆どいない。幾らかのサーヴァントは外に出られないかと画策しているようにも見える。……こうなれば、もう援軍は期待できまい。

 

レーザーターボは一つ舌打ちして、プロトシャカリキスポーツガシャットを装填する。

 

 

「……でも、自分を簡単に落とせるとは思うなよ? ……爆速」

 

『ガッチャーン!!』

 

『爆走バイク!!』

 

『シャカリキスポーツ!!』

 

 

そしてレーザーターボは、ゲーマを装着するや否や、その車輪をゲンムに投げつけた。

大地を一直線に駆け抜けるそれはゲンムの出した壁によって易々と阻まれる。しかしその間に別の角度に回り込んだレーザーターボがガシャコンスパローによっての遠距離攻撃を叩き込んだ。

 

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ダダダダダダ

 

「っ……」

 

 

殆どは避けられたが、二発ほどは当てることが出来た。しかしそれでゲンムが倒れる訳もなく。

レーザーターボは戻ってきた車輪を掴みながら舌打ちする。

 

 

「まだ抗うか、九条貴利矢」

 

「当然だろ。何だ、自分が弱いってか?」

 

「いや、君はよくやっているさ。……見たまえ、他のプレイヤーはもう脱落してしまった」

 

「……そうだな」

 

 

レーザーターボは再び車輪を投げつける。それはバリアに弾かれて戻ってくる。何の手応えもなく、ただ戻ってきただけ。ゲンムのライフゲージは未だ満タンで。

 

 

「だからこそ、そろそろ私の本領を発揮するとしよう。君の健闘を称えて」

 

「っ……」

 

 

そしてゲンムは、追い討ちとばかりにガシャットのギアを動かす。

 

 

   ガコンッ

 

『N=Ⅹ!!』

 

「それは……」

 

 

ゲンムの姿が変わっていく。妨害しようと矢を放っても、それは余所へとすり抜けていく。

そして敵は、とても見慣れた姿に……いや、見慣れている筈なのに、全く未知の姿に変貌した。

 

 

『マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

デンジャラスゾンビガシャットを使用した白いゲンム。見慣れているはずだ。しかし。

 

そのゲンムは、あり得ないほどに、()()()()()を纏っていた。

 

 

「……何だよそれ」

 

「驚きで声も出ないか」

 

「あれー……おっかしいなぁ……? 自分、そんなゲンム知らないんだけど。趣味悪いな」

 

「この神の輝きを理解できないとは悲しい男だな、九条貴利矢!! この私は、この私こそは仮面ライダーゲンムの最終形態、『ハイパームテキゲンム』だぁ!!」

 

「あぁ!?」

 

 

その発言に耳を疑う。ハイパームテキ──それは、本来檀黎斗神が産み出したエグゼイド用のガシャットの銘。何故、それをこのゲンムが使用した?

 

 

「全く、どういうつもりだてめぇ」

 

「私は全てを知っている!! 檀正宗の末路も、宝生永夢の力も、全て!! だから今回は、その中に発生した向こう側の私の作品のデータを、こちらに導入させてもらった!! 私の才能を私が改良したのだ、最早私に敵はない!!」

 

「はぁ!? マジかよ!?」

 

 

思わず声を荒げるレーザーターボ。……それが本当なら、レーザーターボのスペックでは敵う余地はない。

ゲンムは余裕を崩さずに、それでも口調は楽しげで。

 

 

「そんなに疑うのなら……味わうといい。この世界の神の力を!!」

 

 

そう、言い終わらないうちに。

 

ゲンムの姿はその場から掻き消え。

 

レーザーターボの頭上に現れ、手元に取り出したガシャコンカリバーを降り下ろした。

 

 

「チッ!!」

 

   ガギンッ

 

 

レーザーターボは咄嗟にガシャコンスパローで受け止める。

両者は数秒間拮抗し。

 

ガシャコンスパローは、砕け散った。

 

 

   バリンッ グシャッ

 

「嘘だろっ!?」

 

「嘘など何処にもない。全ての真理は私が握っている。君に勝ち目はない。諦めろ」

 

「それでも、諦めてたまるかよっ!!」

 

 

飛び退くレーザーターボをゲンムが煽る。レーザーターボは車輪を投げつけたが、ゲンムは避けもバリアを貼ることもせず、その車輪を素手で奪い取った。

 

 

   ガシッ

 

「緩いな」

 

「はぁ!? 無茶も休み休みやれよこのやろう!!」

 

 

ゲンムは車輪を握り潰し、投げ捨てる。

レーザーターボはちらっとマルタの方を見たが、そっちもナーサリーにかかりきりのようだった。

 

 

「チッ、だよなぁ……!!」

 

 

今更ガシャットの交換なんてしている暇はない。レーザーターボは拳を握り、来るべき攻撃に備えた。

 

 

「それでは……終わりにするとしよう」

 

『Noble phantasm』

 

 

ゲンムがガシャコンカリバーのトリガーを引く。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)──」

 

 

 

 

 

刹那。

 

 

   バリバリバリバリバリバリメキメキメキメキメキメキメキメキメキ

 

「なんだあっ!?」

 

 

空が割れた。いや、正確にはパンドラタワーが真っ二つになっていた。その裂け目では。

 

マシュが、二振りの剣を降り下ろしていた。

 

 

「……来たか」

 

「あいつは……!!」

 

「やはり、バグは君だったかマシュ・キリエライト!! 今度こそ……君を削除しよう……!!」

 

 

ゲンムが、マシュに飛びかかる。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!



───マシュの再戦

「決着をつけましょう」

「君に私が倒せるか?」

「貴方を、貴方の世界から引き剥がす!!」


───ゲンムコーポレーションへの戦闘

「力を使わせていただきます」

『Holy grail』

「……変身!!」


───輝く物は、何だ

「令呪をもって命ずる」

「行くぞ」

「全ての計算はこの日の為に!!」


第六十五話 Time of victory


『Grail Critical Hole!!』

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