Fate/Game Master   作:初手降参

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檀黎斗のフィギュアーツ発売と聞いて



第六十三話 Kaleidoscope/薄紅の月

 

 

 

 

貴利矢が異変を感じたのは、太陽が沈んだ直後だった。サーヴァントと交戦したりマシュに邪魔されたりを繰り返している内に彼らは疲れていた筈なのに──何故か元気になったのだ。まるで何者かによって体力を回復させられたかのように。

 

警戒しない訳がない。身構えた貴利矢は、次の瞬間に聞きなれた声を聞く。

 

 

『プレイヤーの諸君』

 

「っ、真黎斗か!!」

 

 

見回す。声の主の姿は見えない。

夜風が貴利矢の頬を撫でた。

 

刹那。

 

 

   ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「……地面が揺れてる」

 

「地震か!?」

 

 

突然大地が音を立てて揺らぎ始めた。身動きも出来ない貴利矢とマルタを包むように大地が競り上がり、墨田区に入る時と同じようにトロッコを形成し、そして二人を乗せて動き始める。

その目的地は……日本で最も高いと謳われる塔、それを核として作り上げられた見たことのない建物だった。

 

 

「これは……」

 

「きっと、そういうことなんでしょうね。ここは誘いに乗るしかないわ」

 

「そうだな……ああ」

 

 

トロッコは進む。砕けていく街を物ともせずに進み続ける。そしてそれは、発生した新たな建物に吸い込まれていって。

 

───

 

 

 

 

 

「……聞こえるな、姐さん?」

 

「まあね」

 

 

気づいたときには、二人はきっと建物の中であろう広場にてほの暗い明かりに照らされていた。二人だけではない。まだ残っている全てのマスターとサーヴァントが……正確には、マシュ以外の全てのサーヴァントが、塔の中にいた。

もう予選は終わったようで、マルタは彼らに向けて魔力弾を形成することは出来なかった。

 

 

「……いよいよか」

 

 

貴利矢はそう呟きながら、明かりの向こうに目を凝らす。……そこに、一つ穴があった。

 

そしてそこから、ゆっくりと人影が落ちてくる。いや……彼らは宙を歩きながらのんびりと降りてきていた。

 

言うまでもなく、真檀黎斗とそのサーヴァントだった。

 

 

「ゲームマスターの私達が、ゲームをナビゲートしよう」

 

「皆、ここまでお疲れ様!! そしてようこそ、ここパンドラタワーへ!!」

 

 

パンドラタワー。恐らくたった今真黎斗が名付けたのであろうそれに貴利矢は顔をしかめ、すぐにドライバーを身に付ける。他のサーヴァント達も、もう臨戦態勢に入っていて。

 

 

「君達には二つの選択肢がある。ここで敗北するか、私達ゲームマスターという神を殺すという大きな禁忌(ブレイクスルー)を犯して、このゲームに勝利するか」

 

「お互いに楽しみましょうね!! 私とマスターが勝つか貴方達が勝つかの待ったなし一本勝負、スタートよ!!」

 

 

その瞬間にブザーが鳴った。全方位から他のサーヴァント達が放った弾幕は、ナーサリーが展開したエネルギー弾によって打ち消されていく。

貴利矢も立ち上がり、マルタも真黎斗への攻撃を開始した。

 

 

「さあ、ラスボスの降臨だ。気い引き締めていくぞ、姐さん!!」

 

「そっちこそ怯むんじゃないわよ?」

 

「分かってる!!」

 

 

攻撃の向こうに真黎斗を望む。それは全く動揺もせず、全く警戒もしていないようで。

そしてその腰にはゲーマドライバーがあった。その手には……ガシャットがあった。

 

電源が入れられ、端子が光る。その光はパンドラタワーの内部を照らし、埋め尽くして。

 

 

『マイティアクション NEXT!!』

 

 

白く潰れた視界の中で、貴利矢はその音を聞いた。

 

 

「グレードN、変身……!!」

 

『ガッチャーン!! レベルセッティング!!』

 

 

視界が晴れていく。

 

彼が次に目にしたものは。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

 

全身から神々しさを思わせる光を放ちながらその姿を変え、地上に降り立った……仮面ライダーゲンム、この世界の新たなる神の姿だった。その神は何処からともなくガシャコンカリバーを引き抜き、それを構える。

 

 

「さて、久々のゲームと行こう。精々抗うといい」

 

「ヘッ、言ってろよ」

 

『爆走バイク!!』

 

 

ゲンムは貴利矢の方だけを向いていた。貴利矢はそれを挑戦と受け取って、努めて好戦的な笑みを浮かべながらガシャットの電源を入れる。

 

 

「0速、変身」

 

『ガッシャット!! ガッチャーン!!』

 

『爆走バイク!!』

 

 

そして、変身を完了したレーザーターボは即座にゲンムへと矢を放った。

ゲンムはそれを躱すような素振りも見せず、ただ足の爪先でパンドラタワーの地面を弱く蹴る。

 

それだけでゲンムの前方に半透明のシールドが展開され、レーザーターボの矢を防いだ。

 

 

「その程度か、君は?」

 

「チッ、厄介だな……ナーサリー・ライムは任せたぜ姐さん」

 

『スッパーン!!』

 

 

レーザーターボはガシャコンスパローを鎌の形態に変形させ、ゲンムへと斬りかかる。どうやら他のサーヴァント達はナーサリーとゲンムのどちらと戦うかをようやく決めたようで、全サーヴァントの三分の一程度の面子が同時にゲンムに襲い掛かった。

 

 

「……甘い」

 

 

しかし、初撃はやはりゲンムのシールドで防がれる。

それでもとレーザーターボは食らい付き、攻撃を継続した。

 

 

 

 

 

その時には、ナーサリーの方も宙に浮くのを止めていた。地上に降り立った彼女は他のサーヴァントの攻撃をいなし、まるで踊っているように攻撃を振り撒く。

そんなナーサリーに最も接近しているのは、未だに令呪のブーストが継続しているマルタだった。

 

 

「ムカつくわね……!!」

 

「あらら? どうしちゃったのかしらね?」

 

 

マルタの拳をナーサリーは躱す。一発も彼女の体に当たらない。反応速度が異常だった。

まるで雲と戦っているように思わせた。どれだけ手を伸ばしても触れられない、そんな領域にいるのではないかと錯覚させるような戦法。ただただマルタは疲弊して、ナーサリーには傷一つつかない。周囲からの攻撃は全て打ち消されていく。

 

 

「ふふっ? その程度じゃ、ゲームには勝てないわよ?」

 

「うっさいわねぇ……!! 本気でシバくわよ……!!」

 

 

まだ当たらない。まだ当たらない。まだ当たらない。拳を振る手を弱めることはなく、しかし攻撃は当たらない。

 

そんなことは百も承知だ。

 

マルタは攻撃に攻撃を重ねて、ナーサリーを壁際まで追いやった。そして──

 

 

「……出番だよ、荒れ狂う哀しき竜よ(タラスク)!!」

 

「■■■■■■!!」

 

 

彼女の掛け声に合わせて召喚されたタラスクが、ナーサリーを壁に押し付けた。そしてマルタは、その全力の拳をタラスク越しに、ナーサリーへと打ち付ける。

 

 

「とくと味わいなさい──逃げ場はないわ!!」

 

   バリ メキメキ グシャグシャ バリバリ

 

「■■■──ッ!!」

 

 

タラスクが悲鳴を上げる。その向こうからナーサリーのくぐもった悲鳴も掠れて聞こえる。

どうやら、確かに捕縛は出来ているらしい。マルタはそれを確認しながらさらに拳を振るい、追い打ちとばかりにタラスクの隙間から光弾も撃ち込む。他のサーヴァントも、同じように攻撃を加えていた。

 

 

   バリバリ ゴキ メキメキメキメキ

 

「■■■!!」

 

「行くわよ……鉄 拳 聖 裁ッ!!」

 

 

そして、最後の特大の一撃と共にタラスクは爆散し、辺りは砂煙に包まれる。爆風が辺りをかき回し、マルタは額の汗を拭った。ナックルの全体に、ヒビが入っていた。

 

 

「やったかしら……!?」

 

 

そうでなければ困る。マルタはもう、同じ攻撃を出来る気がしない。

 

……しかし。

 

 

「──ふぅ。ちょっとだけ痛かったわね。服が汚れちゃった」

 

「ッ……!?」

 

 

そう言いながら煙の中から現れたナーサリーは、実に飄々としていた。傷はあったが、それを気にしているようには到底思えなかった。

 

 

「効いていない……」

 

 

さらにマルタは気づく。ナーサリーの腰に、見たことのないドライバー(ガシャットドライバー:ロスト)がついていることに。

 

 

「……じゃあそろそろ、私も本気で行くわね!!」

 

『ときめきクライシスⅡ!!』

 

 

そしてナーサリーは、その手に濃いピンク色のガシャットを持って電源を入れた。周囲の空気に再び緊張が走る。

そのガシャットの音声は、マルタが聞いたことのある物だった。

 

 

「ガシャット……それも、ときめきクライシスなのかしら? 私が知っているものと随分形が違うけど」

 

「戦えば分かるわよ。変身!!」

 

『ガッチャーン!!』

 

 

ナーサリーはマルタの問いには答えない。彼女はドライバーにガシャットを装填し、微笑みながらそのスロットを傾ける。極彩色の光が溢れた。

マルタは変身を防ごうと殴りかかったが、ドライバーから出てきた壁によって弾き返された。

そしてナーサリーは、その壁に飲み込まれ変身する。

 

 

『ドリーミーンガール!! 恋のレボリューション!! 乙女はずっとときめきクライシス!!』

 

 

光が止む。そこには、先程までの面影を残しつつも、更に馬力を増した仮面ライダーが立っていて。

 

 

「成功ね、成功ね、成功ね!! マスター!! とうとう私だけの仮面ライダーよ、仮面ライダーナーサリーの完成よ!!」

 

 

しかし彼女はすぐにマルタを攻撃するということもなく、遠くでやはりサーヴァントを蹴散らしているゲンムに対して楽しげな声を上げた。

マルタはその間に、ナーサリーから距離を取る。彼女はサシで戦うには危険すぎた。

 

 

「私達の才能があれば不可能はない。さあ、クライシスゲーマーレベル100……テストプレイを始めよう」

 

「そうね!!」

 

───

 

 

 

 

 

「さて……面子は揃ったな?」

 

 

シャドウ・ボーダー内の黎斗神は、レーザーターボらの繰り広げる死闘から一旦眼を離し、車内にやや狭そうに収まった人々を見回した。

 

 

「さて、ここまで待って貰った諸君、時は満ちた」

 

 

そう切り出す。何も説明されていない人々は、簡単にその言葉には頷けない。

 

 

「説明しろ檀黎斗。態々俺達を呼び出して、こんなに待たせて、今から作戦開始だと? 俺達に一体何をさせるつもりなんだ?」

 

「そうだな。それを教えろ、ゲンム」

 

「ああ……君達には話していなかったな」

 

 

最初に口火を切ったのは飛彩、そしてパラドだった。彼らは早くから来たのにずっと待たされる損な役回りだった。その不満は最もだと、黎斗神は口を開く。

 

 

「君達を早くに呼び出したのは、シャドウ・ボーダーの防衛の要で居て貰いたかったからだ。ここにはもうサーヴァントは居ず、九条貴利矢もいない。そして私は計算に付きっきりだったからな」

 

「……」

 

「だが、どういうわけだか全く敵の手がここに伸びない。ここはゲンムコーポレーションに最も近い支配の薄いエリアだというのに、向こうの私は何もしてこなかった。ぁから君達の出番がなかったというわけだ」

 

 

飛彩は黙ってしまった。確かに、彼らが来るまでこのシャドウ・ボーダーの戦力は少なかった。戦力を補うためと言われたら頷くしかない。

黎斗神はそれに付け加える。

 

 

「で、これから何をするかだが……私達が行うのは……何の変鉄もない特攻だ」

 

「……ッ、何だと……っ!?」

 

 

飛彩は一瞬呆気に取られ、すぐに目を剥き、黎斗神に掴みかかった。特攻なんてしたら、確実に死ぬ。黎斗神はそれを忘れてしまったのかと、本気で思いながら。

しかし黎斗神は、飛彩をやんわりと引き剥がした。

 

 

「話を聞け。……何も、君達を特攻させるとは言っていない。特攻するのは……私と」

 

 

黎斗神はそこで黙って、車内を再び見回した。

バグヴァイザーが無く、変身出来ないポッピー。まだ立ち直りきれていない永夢。飛彩とパラド。聖都大学附属病院(臨時)をちびノブに任せてきた灰馬と信勝。黎斗神はそれらを見比べ。

そして。

 

 

「彼だけだ」

 

 

信勝を指差した。

 

───

 

 

 

 

 

「……ふふっ、皆もう疲れちゃったのかしら?」

 

「……っ」

 

 

変身しても、ナーサリーの戦闘スタイルに大きな変化があった訳ではない。彼女が手を振り上げれば周囲が弾け、彼女が踊れば大地が揺らぐ。力は変われど、彼女の持つ幼さは変わらない。

だからこそ、動きが読みづらい。マルタはそれをひしひしと感じていて。そして既に、彼女と最初に向き合っていたサーヴァントの半分が脱落していた。

 

マルタの隣を二体のサーヴァントが駆けていき、ナーサリーに斬りかかる。確か聖杯で強化されたランサーの宝蔵院胤舜と、同じくランサーの李書文だったか。

しかしそれも、ナーサリーには及ばない。ナーサリーはまるで槍を相手にワルツでも踊るように振る舞い、仮に当たっても怯むこと無く、超至近距離で光弾を霊核に撃ち込んでいく。

 

 

「ぐぅっ……しくじったか……」

 

「ッ、なんて、強さ……」

 

「当然よ。簡単に攻略出来ちゃったらつまんないでしょう? 女の子の身持ちは堅くないと、ね?」

 

 

彼らが膝をつくのは、戦闘開始から大して長くなかった。それを傍観していた回りのサーヴァント達は、もうナーサリーには勝てないのではないかと少しずつ引き下がり始める。

しかし、それを見逃してくれる訳もなく。ナーサリーはスロットからガシャットを抜き、腰の横のスロットに装填した。

 

 

「……あら、逃げるなんてつまらないわ? もっと遊びましょう!!」

 

『ときめき クリティカル ストライク!!』

 

 

そして、ナーサリーを起点にして、周囲にハートや星を伴った嵐が吹き荒れる。

 

───

 

「おー、やっとるやっとる」

 

「……そうだな。また新作を作ったらしい」

 

「派手ですねぇ」

 

「全く、ヤツの進化は止まらんなあ」

 

 

墨田区内部、パンドラタワーの中身の様子は、社長室に陣取ったアヴェンジャー、信長、そしてイリヤの目にも入っていた。

 

圧倒的。その三文字が似合う戦いだった。徹頭徹尾自分のリズムに敵を押し込む戦いには正しくゲームマスターの名が相応しい、そう思わせる位には、ゲンムとナーサリーは強かった。

 

 

「……じゃが」

 

 

しかし信長は、それを見て尚笑っていた。

 

 

「ちーとばかり、身内の警戒が薄いのう。今だって、好き勝手にわしらが弄れる場所にこうガシャットを置いている」

 

「それは……」

 

 

信長はそう言いながら、パソコンに繋げられたFate/Grand Orderガシャットを指でなぞる。

イリヤは信長を見上げた。底知れない物を感じた。

 

 

「お二人は……檀黎斗の、味方なんですか? それとも……敵?」

 

 

それは大切なことだ。今は受け入れられている彼女だが、イリヤは真檀黎斗の仲間にはなれない。もしアヴェンジャーが真黎斗と共にあるのなら、イリヤは……場合によっては、彼と戦わないといけない。

 

 

「ふむ……どちらとも言えぬのう。わしらはわしらのしたいことをするまで……敵も味方も、関係ない。そうじゃろうアヴェンジャーよ?」

 

「オレはただ、悪を見届けるだけだ。彼は復讐すべき悪ではあるが、実際に復讐するかは……まだ、判断しない」

 

「またまたぁ」

 

 

しかし、イリヤの内心の深刻さとは裏腹に、信長もアヴェンジャーも気楽そうな態度を取っていた。まるで悩んでいるのは自分だけに思えて焦燥に駆られる。

信長はそんなイリヤの頭をポンと叩いた。

 

 

「さて……お主はどうする?」

 

「わ、私は……」

 

「黎斗をどうするつもりなんじゃ?」

 

 

──イリヤはその時、もしかしたら初めて信長の瞳を覗いたかもしれなかった。

確かにその目の奥には、真剣さがあった。

それについ押し負けて窓の外を見る。今宵の月は紅色だった。

 

 

「私は……」

 

「……」

 

「私は……もう、何も諦めたくない」

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───ラーマの決断

「私やっぱり不安だから……」

「お主らは何処に……?」

「余も、仲間に入れてはくれまいか」


───各々の覚悟

「お主はそれでよかったのじゃな?」

「僕は、やるべきことをやりました」

「患者の運命は、僕が変える」


───仮面ライダーゲンムの脅威

「そろそろ私の本領を発揮しよう」

「強すぎる……!!」

「敵わないのか……!?」


第六十四話 Voice ~辿り着く場所~


「それでも、諦めてたまるかよ」

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