Fate/Game Master   作:初手降参

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前回の前書きのチキンラーメン、ちゃんとハーメルンから回答貰えました
ハーメルン的にはOKだけど企業から注意されたら即処分だそうです

ネタはゆっくり温めとくか……



第六十二話 Burning My Soul

 

 

 

 

 

───

──

 

「悪かったなぁ、汚しちまって」ゴシゴシ

 

『……今回は仕方ないので別に良いですけどね。本当に、これからは他人の背中でゲロ吐くの止めてくださいよ?』

 

「悪かった悪かった。疲れてたみたいでさ」ゴシゴシ

 

 

貴利矢は川辺にいた。現実の川辺ではない。夢の中だ。

……彼は意識を失っていたときに、数少なかったとはいえ胃の中身を盛大にタラスクの甲羅に戻したらしく、その埋め合わせとして夢の中で彼の甲羅を磨いていた。

 

 

「……よっし、ここら辺はもういいか?」

 

『ええ、大丈夫です。……次はもう少し下の側面部分もお願いできますか? 攻撃力に関わる部分なんで』

 

「よしきた」ゴシゴシ

 

 

どういうわけかは知らないが、夢の中なら貴利矢はタラスクと会話が可能だった。どうやらここでの整備は現実にも影響するらしかったので、貴利矢は念を入れて丁寧にタラスクを磨いていく。

ついでに、彼はタラスクに聞いた。

 

 

「姐さんの調子がどんな感じか分かるか? 半ば無理矢理拳を使わせたけど、異常無いか?」

 

『んー……多分無いと思いますけどねぇ。今まではただ自重してただけですし』

 

「そうかい、なら良いんだが」

 

 

タラスクの飼い主であるマルタの事だった。戦力が彼自身と彼のサーヴァントしかいない現状、コミュニケーションは大切だ。

 

 

『でも令呪で強化してる部分は、あと二、三回の戦いで切れるでしょうね』

 

「……逆にそんなに持つんだな」

 

『姐さんですからねぇ』

 

 

タラスクは心なしか目を細めながらそう呟く。貴利矢は小さく苦笑いを返して、再び甲羅磨きに没頭し始めた。

 

──

───

 

 

 

 

 

「ん、んぅ……ハッ!!」

 

   ガバッ

 

 

貴利矢は飛び起きた。どうやら自分は真っ暗な民家の中で、ソファーの上に寝かせられていたようだった。

周囲を見回す。近くに見えた台所に、一人マルタが立っていた。

 

 

「……マスター、起きた?」

 

「ああ、姐さんか。……今何時だ? 結構暗いが」

 

「午前一時よ。随分とぐっすり寝てたわね、マスター。……まだまだプレイヤーの数は多いから、じっとしておくのが賢明ね」

 

「そうかい。まだ終わらないか……」

 

 

分かりきっていたが、と彼は続ける。

この程度の時間で、このステージまで生き延びたサーヴァントは止まるまい。恐らくここに集まっているのは逃げることが苦手ではないサーヴァントであろう以上、籠城戦法に期待はしない方が良いだろう。

 

 

「……そういや、勝手にこの家に入って大丈夫だったのか?」

 

「仕方ないでしょ? 鍵も開けっぱなしだったし」

 

「それでもな……」

 

 

貴利矢はソファーに座り直しながら何処か複雑そうな顔をする。

そんな貴利矢の前に、台所から戻ってきたマルタが皿を置いた。明らかに缶詰めの物であろうサバやトマトが、それなりの調理をされて並んでいた。

 

 

「暗いうちは動かない方がいいわ。私は夜目が利くけど、貴方はそうでもないでしょう?」

 

「ま、暗所でのデスクワークは慣れてるが、戦闘だとあんまり自信はないな」

 

「そうよね。……取り合えず、これでも食って体力養っときなさい」

 

「はいはい」

 

 

貴利矢はそう言って箸に手を伸ばす。余りにも周囲が暗かったので色味は正直よく分からなかったが、少なくとも温かいことと柔らかいこと、結構濃い目の味付けがされていることは理解できた。

 

 

「夜は冷えるから、なるべく厚着もしなきゃダメよ?」

 

「何か母親みたいなこと言ってるな姐さん」

 

 

マルタは貴利矢が起き上がった時に投げ出した布を彼の肩にかける。……貴利矢はその時漸く、自分は彼女の来ていた服を毛布にしていたのだと気がついた。

 

……次の瞬間。

 

 

   ガァンッ

 

「っ、この音……」

 

「──伏せてマスター」

 

 

かなり大きな、鉄と鉄とがぶつかり合うような音が響いた。また、肉弾戦のような音も。警戒したマルタがその場から霊体化する。

 

そして数秒後に、彼女は貴利矢に念話を送る。

 

 

『サーヴァントの戦闘よ、マスター。息を潜めて……まだここは気づかれてない』

 

「……そうかい。誰と誰の戦闘かは、分かるか?」ボソッ

 

『ちょっと待って……あっ』

 

「どうした?」ボソッ

 

『片方が……あのサーヴァントよ』

 

 

マルタの視界の先では、見慣れないサーヴァントの攻撃を、仮面ライダー鎧武が落ち着いて受け流していた。

 

───

 

鎧武は戦っていた。マルタとレーザーターボが撤退したのを確認し、現在の状況を把握してからは、彼女はずっと戦っていた。

……出来れば、弱いサーヴァントを優先して倒そうとしていた。

 

この後に残っている対真黎斗戦に備えて。

真檀黎斗が強いことは分かりきっている。相手は運営なのだから、最強の座は揺らぐまい。だが、だからこそ、最強の面子を温存した状態で連れていき、少しでも勝機を多くしよう……そんな考えだった。

 

 

「……申し訳ありませんが、ここで貴方には倒れて貰わないといけません」

 

『影松!!』

 

『ドンカチ!!』

 

「嫌よ……嫌よっ!!」

 

 

今目の前にいるのも、恐らく引きこもることで生き延びたのであろうサーヴァント──どういうわけだか自らの死因である銃を携えて召喚されてしまったアーチャーのマタ・ハリだった。もしも、かつて手玉に取った男達まで召喚できるのなら強かっただろうがそれは出来ないようで。

だから鎧武は、彼女を倒そうとしている。マスターと引き剥がし、少しでも被害が少ないようにこうして人気のない街に押し込んで。

 

 

「こうすることが、きっと、貴方のマスターの世界を救うことに繋がります!!」

 

 

嘘はついていない。彼女が彼女のやりたいように世界を救うことは、結果的にこの世界の人々を救うことにも繋がるだろう。鎧武は己に言い聞かせて、違和感を噛み殺す。

マタ・ハリはかなり弱っていた。もう銃の照準も定まらない。

 

 

「嫌……マスター……マスター……!!」

 

「……」

 

『無双セイバー!!』

 

『大橙丸!!』

 

『火縄大橙DJ銃!!』

 

 

鎧武は新たに呼び出した三種の武器を合体させ大剣を作り上げ、そこにオレンジロックシードを装填した。

……もう、勝敗は決していた。

 

 

「……っ!!」

 

『オレンジ チャージ!!』

 

   ザンッ ザンッ ズダァンッ

 

 

斬りつける。斬りつける。……三度の切断の後に、マタ・ハリは近くの古びた民家に叩きつけられ……呻きと共に消滅した。

 

 

「これで……二十一体」

 

 

鎧武は変身を解き、道程の長さに一つ溜め息をする。当然だがいい気分はしなかった。

そしてマシュは顔を上げ……マタ・ハリが叩きつけられて半壊してしまった古民家から、見覚えのある顔が覗いていることに気がついた。

 

 

「……あっ」

 

───

 

「……そっちでは、何があったんですか? どうしてここに?」

 

「自分らは仮面ライダーを倒せなかっただけだ。ずっと車に引きこもってたら、ここに入る権利が回ってきた」

 

「そうですか……」

 

 

……マシュは戦わなかった。彼女はマルタの誘いにのって半壊した家の床に座り、貴利矢とマルタと情報を交換する。マルタはややマシュを警戒していたが、貴利矢は完全にリラックスしていた。

外はまだまだ暗い。マルタが気を効かせて彼の肩に服をかけていたと言うのに、部屋はもう冷えきっていた。

 

 

「……あっと、そう言えば……」ガサゴソ

 

「えーと、何してるのマスター?」

 

「ちょっと思い出してな」

 

 

唐貴利矢がそう言って、胸元につけていた金属片……黎斗神はカメラだと言っていた物を手に取り、自分の持つ携帯に装填する。そうすることで、真黎斗の壁によって遮断された通信が回復するようになっていた。

 

 

「……おっ、神からメールだ」

 

「……そちらの黎斗さんですか」

 

 

そしてどうやら、早速黎斗神からの意見があるようだった。きっとここまでの成り行きもモニターしていたのだろう。

貴利矢がメールを読み上げる。

 

 

「そうだな。どれどれ……『マシュ・キリエライト。君の協力を仰ぎたい』」

 

───

 

 

 

 

 

「さて、マシュ・キリエライトはどう動くか……」

 

 

黎斗神はそう呟きながら、キーボードを再び叩き始める。ポッピーは運転席に座って大きく欠伸をしていた。永夢は後部座席で壊れたように寝息を立て続けている。

 

 

「ふわぁぁ……ねぇ、何時になったら作戦を始めるの? 私、ちょっと怖いんだけど」

 

 

ポッピーはそう言って後部座席を、永夢の後ろに大量に積み上げられた段ボールの山をちらっと見る。しかし黎斗神は彼女の方を確認することもなく、ひたすらに作業に没頭していて。

 

 

「戦いはまだ始めない」

 

「……本当に大丈夫なの、黎斗?」

 

「檀黎斗神だ……そう焦るな。今はまだ機会じゃあない。最高のタイミングを待ち続けろ……ゲームクリアには、我慢と辛抱も必要だ」

 

 

黎斗神はそう言った。まだ作戦は確定しない。

まずは大型戦力が一つ増えるかどうかが、計算を大きく揺るがすことになるだろうとは思われた。

 

───

 

 

 

 

 

「……」

 

 

飛彩は一人、窓際で月を眺めていた。まだ部屋は暗かったが、あと一時間もすれば朝日が射すことは分かりきっていた。

彼の手には、まだジャンヌを刺した触感が残っていた。何度手を洗ってみても、手を強く握ってみても、その触感は取れなかった。

 

 

「……小姫……」

 

 

月を見上げる。

彼女の夢見た己に自分は近づけているのか、それがどうしようもなく不安になった。

 

彼の元にも、黎斗神からのメールが届いていた。あと一時間後には、彼はもう出発の支度を整えているだろう。

 

 

「何やってるんだブレイブ?」

 

「……パラドか」

 

 

そんな飛彩に、音も立てずに彼に近づいていたパラドが声をかけた。飛彩はやや気だるげにパラドに振り返り、しかし言葉が出てこずに目を伏せる。

 

 

「……」

 

「まだ引き摺ってるのか?」

 

「……そうだな」

 

 

パラドは飛彩の顔を見なかった。見るべきではないタイミングなんだろうと悟っていた。

彼にどんなことばをかけるべきなのかも分からない。励ましは無意味、慰めは無価値、そう思われて何も言えなくなりそうになる。……それでも彼は口を開いた。

 

 

「未練も斬れ……とは、俺は言えない。俺もやり直したいことが沢山あるからな」

 

「……」

 

「だがこのゲームにリセットはないんだ。俺達は止まっちゃいけない。進み続けないと、クリア出来ない」

 

 

パラドにも未練がある。このゲームの中だけでも沢山ある。サンソンを失い、BBも失い、その後悔は残っている。

それでも。立ち止まってはいられないのだ。

 

 

「だから、まずはクリアしようぜ? キリをつけて、そこからなら……いくらでも、手を加えることは出来るんだからな」

 

「……そう、だな」

 

───

 

 

 

 

 

幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)──はあっ!!」

 

   ザンッ

 

 

そして、太陽は登った。気温が徐々に上がっていき、冷えた大気を暖めていく。

 

まだ暗いうちにマルタと貴利矢から離れたマシュは、また一体サーヴァントを狩り終えていた。返事は……まだしていない。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

「嫌だ……ボク、は……」

 

 

目の前に横たわるサーヴァント。消えていくサーヴァント。気持ちのいいものではない。見たいのはこんなものではない。……それでも、これしかない。魂を燃やし、決意を焚べろ。檀黎斗を越えるためにはそれしかないのだ。

 

 

「……彼らは、もう動き始めたでしょうか」

 

 

マシュはふと呟いた。

彼らが動くかどうかで、残留する面子はまた違ったものになるだろう。彼らは強い。強い彼らは恐れずに隠れたサーヴァントを探すことも出来るが、他の強いサーヴァントとも対戦することになるだろう。そうなれば、マシュは仲裁に入る気でいた。

 

───

 

「……おはようございます」

 

「あっ、起きたんだ永夢。調子は大丈夫?」

 

 

目覚めた永夢は気だるげだった。彼は寝惚けた目を擦りながらシャドウ・ボーダーの窓を開け、朝の匂いを一杯に吸い込む。

そうすることでようやく真の意味で目覚めた彼は、その目の先に飛彩とパラドを捉えていた。

 

 

「飛彩さん、パラド……」

 

「ん? あ、本当だ……来たみたいだよ黎斗!!」

 

「そうか。取り合えずは乗せておけ。まだ時間はかかるだろう」

 

 

黎斗神はそう言いながら、貴利矢の視界を間借りして墨田区の中を確認する。前よりかは戦火は小さくも思えたが、それはきっと気のせいなのだろう。

 

飛彩が扉を開く。そして彼は車内を見回した。

 

 

「待たせたな」

 

「ううん、待ってないよ飛彩。座って座って」

 

「分かった……待て、何だこの山は」

 

 

飛彩の目には、後部座席を埋め尽くす段ボールの山が入っていた。無視なんて出来る訳がない。質問するのは当然だろう。

その疑問にポッピーは小声で答える。

 

 

「ああ、それね? 実は──」

 

───

 

 

 

 

 

朝は終わった。昼は去った。夕方を迎えても尚、戦いは続いていく。始めは五百以上もいたプレイヤーも、今ではとうとう二百を切った。

 

 

「……感知出来ない存在がまた一体脱落させたわね」

 

「捕捉は出来そうか?」

 

「すぐには難しいわね……全部のプログラムが感知出来ないから存在自体はデータの空白で認識できるけれど、現行のシステムだと反応が出来ないの」

 

「やはりか……」

 

 

そしてマシュ(バグ)の存在が、ゲームを大きく揺るがしていた。

 

社長室にいた二人のゲームマスターは、誰にも運営を邪魔されることなく、悠々と開発を進めていたが、バグの存在だけが気掛かりだった。

 

 

「きっと、今からプログラムを組み直すよりは……」

 

「私達自身が出向く方が早いのだろうな」

 

 

真黎斗がそう言いながら立ち上がる。ナーサリーもそれを見てキーボードから手を離し、パソコンをスリープモードにして立ち上がった。

 

 

「……とうとう、迫ってきたか」

 

「そうね……本当、久しぶりの戦いね!! 最新のライダーも完成しそうだし、ガシャットの整備も良好よ!!」

 

 

立ち上がった彼女はそう言いながら真黎斗に調整を終えたマイティアクションNEXTを渡し……そして、自分もガシャットドライバー:ロストと濃いピンク色のガシャットも手に取る。

 

 

「楽しみね、楽しみね!!」

 

「ああ……私達は変身し、戦闘し、勝利する。この戦いをテストプレイとして、私達はゲームを拡大する。日本を掌握し、アジアを掌握し、世界を掌握して──全ての人々に分け隔てなく刺激と娯楽を与えよう。ああ……愉快だ」

 

 

真黎斗は外を眺めた。墨田区の壁もスカイウォールも、社長室からは見ることが出来た。

 

 

「……いるな、アヴェンジャー?」

 

「……」

 

 

真黎斗が声を一つ上げるだけで、アヴェンジャーが窓際に現れる。彼は何も言わずに真黎斗の瞳を見ていて、しかし真黎斗は動揺することもなく用件を言いつける。

 

 

「私達は一旦ここを開ける。大体の防御はシステムが勝手に行うだろうが、最悪の場合は君も対処に当たってくれ」

 

「……分かった」

 

「行くぞナーサリー。さあ、裁きの時だ」

 

「うふふっ!! 楽しみね!!」

 

   ザザッ

 

 

……そして、歩き始めた二人の姿は掠れて消えた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───現れた神

「さあ、ラスボスの降臨だ」

「怯むんじゃないわよ?」

「分かってる!!」


───起動した計画

「揃ったな?」

「何をさせるつもりなんだ?」

「……特攻だ」


───裏で進む作戦

「わしらはわしらのしたいことをするまで」

「オレは復讐する」

「私は……もう、何も諦めたくない」


第六十三話 Kaleidoscope/薄紅の月


『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

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