「貴虎に教わらなかったのか?何故悪い子に育っちゃいけないか、その理由を。嘘つき、卑怯者…そういう悪い子供こそ、本当に悪い大人の格好の餌食になるからさ!!」
本当に悪い大人……(ニュースを見ながら)
剣が飛ぶという光景はもう何度も見てきたが、ここまでの猛攻は初めてかもしれない。鎧武は彼女目掛けて飛んでくる剣をいなしながらふと思った。
彼女は、エミヤの宝具にして固有結界、
「君が挑むのは無限の剣だ」
そんな声が聞こえる。鎧武は自分の周囲に呼び出したアームズウェポンで剣の嵐を凌ぐのに精一杯だったはずなのに、その声は何故かよく聞こえた。
「君は私を超えなければならない。それが、檀黎斗を超えるための最初の一歩となる」
「分かっていますよ、そのくらい……!!」
自然と声にも力が籠った。どれだけ剣を取り出しても、既に用意されている剣には取り出す速度では敵わない。
ガシャコンカリバーにかける火力を強くする。青い炎はますます猛り、飛来する贋作を融かす。しかしそれでも剣は止まらない。
バルムンクの斬撃を広範囲に放つ。青い刃は空を裂き、飛来する贋作を打ち砕く。それでも剣は止まらない。
エミヤはそれを見つめていた。そして彼はまた口を開く。
「君のその戦いは一時しのぎでしかない」
「どういうっ、ことですかっ!!」
その言葉に鎧武は仮面の下で顔をしかめた。不快になるのは当然だ。エミヤもそれは分かっていて、しかし口はつぐまない。
「終わりがないからだ」
「終わり……?」
「檀黎斗と私に共通点があるとすれば、それは共に、無限に武器を産み出せるということだろう。ああ、私は贋作を。彼は真作を、無限に作り出す」
「そっ、そのくらい知っています!!」
「ではどう対処する!!」
剣の嵐は止まらない。どれだけ堪えても。鎧武が防戦に徹している限り、この戦いに終わりはない。
鎧武は不安に駆られた。……しかし、対処の方法は思い付かない訳ではなかった。
だから声を張る。虚勢でも構わない。少なくとも、意思は本物だから。
「……私は、貴方を乗り越えるっ!!」
ザクッ
彼女は、剣の大地にバルムンクを突き立てた。
「
……次の瞬間、大地が抉り取られ、全てが揺れ、浮き上がる。エミヤは一瞬動きが止まり、すぐにまた攻撃を開始しようとして。
次の瞬間、自分の真上に鎧武がいたことに気がついた。
『無双セイバー!!』
『マンゴパニッシャー!!』
『スイカ双刃刀!!』
「
アームズウェポンが降り注ぐ。それはエミヤの呼び出した盾に突き刺さり、エミヤに刃は届かない。花弁が一枚散った。
エミヤは声を上げようとした。その程度か、と。それでは足りない、と。
……しかし思い止まった。
彼の視線の先で、彼女は己の内へと声をかけていた。
「力……お借りします」
次の瞬間。
「その才を見よ。万雷の喝采はここに無く、それでも私は彼女の光を受け継ごう。貴方も讃えよ……黄金の、劇場を!!」
カッ
固有結界の中に、更に舞台が練り上げられた。観客は誰もいない、ただ演者二人だけの舞台。
ネロ・クラウディウスの黄金劇場。それを鎧武は擬似的に発動した。……いや、もう鎧武ですらない。ここまでで蓄積したダメージのせいなのか、変身は解けていて。
エミヤは膝をついていた。投影は出来ず、立ち上がることも儘ならない。
「……黄金劇場か」
「お借りしました。ネロさんから」
「……そうか」
エミヤは一つ溜め息をして、劇場を見渡す。発動者が違うせいなのか寂れたように見える光景はもの悲しくて。
「……君の戦いは正解だ。不意を討て。隙を与えるな。徹底的に、自分の世界に引きずり込め。相手のペースに飲まれるな。君は、君のままで戦い抜け」
「……はい」
「君の物語は、完成しそうか?」
最後にエミヤはそう聞いた。マシュは静かに頷き、彼の胸元にエクスカリバーを添える。
「そうか……ならば、完結するまで貫いてみせろ」
「……ええ。ありがとう、ございました」
ザクッ
そして、アーチャーの物語は完結した。
───
それと平行して。ゲンムコーポレーション内では、怖いくらいにスムーズに迎え入れられたイリヤが、ロビーの中で無言で立っていたアヴェンジャーと向き合っていた。
「……アヴェンジャー、さん……」
「……そうか。戻ってきたか」
アヴェンジャーはそれだけ言って、イリヤの現在の状態を確認し、また黙り込んで彼女に背を向けて歩き始める。
イリヤはそれに追従した。二人は黙ったままで階段を登り、黙ったままで廊下を抜けた。
イリヤは、この空間を重苦しく占める沈黙の存在を悟った。ここは、前に自分が入ったときよりもますますがらんとしてしまっていた。それはきっと良いことなのだろうが、彼女自身はそれを寂しいと思ってしまった。
「……」
「……」
アヴェンジャーが自室に入る。扉を開け放しにしたままで。……イリヤはその中に踏み入り、静かにドアを閉めた。
アヴェンジャーは立っていた。イリヤはドアの前に立ったままで彼の目を見つめる。
ほんの数秒の我慢比べの後に、アヴェンジャーは一つ溜め息をして壁にもたれた。
「その体は、黎斗のせいだろうな。仮面ライダーを倒したんだろう?」
「私は……殆ど見ているだけだったけど」
「それでも戦った数にカウントされたんだろうな。全く、檀黎斗め……」
アヴェンジャーはやや投げやりな仕草でイリヤに乱雑に外套を被せ、宝具を発動する。
「……
「……っ!!」
それだけで、イリヤの体は元に戻っていた。
「……」
「……」
「まーた酔狂なことをやっておるのう」
唐突に、部屋にそんな声が響く。イリヤが振り向けば、信長がそこにいて。
───
「……」
飛彩は無言だった。自分と共に戦ってくれたサーヴァントを己の手で屠った彼は、何も言わずに立ち、何も言わずに
ジャンヌは消滅した。希望を託して消滅し、その魂は永夢のブランクガシャットに取り込まれ、その思いは空に溶けていった。
「飛彩さん」
「……」
返事はない。
残された永夢は、いかにもやりきれないといった感じでそっぽを向き、そして暫くしてから議事堂の外に向かって歩き始めた。
「永夢? 何処に行くんだ?」
「……」
「永夢」
「ナイチンゲールさんを、探しに行きます」
「今は無理をするな永夢、もうダメージが溜まってるだろ」
永夢はその言葉に答えることはなく。
パラドは一人風に晒され、どういうわけだか身震いした。
───
「
「
宝具が交差する。フィンの槍の放つ水流はラーマの剣に掻き乱され、霧散させられていく。しかし水流に途絶えはなく、剣は一向に進めない。
槍を手に持つフィンの顔が自然と歪む。彼は望んで戦ってはいなかったが、それはそれとして、この強敵との戦いは楽しんでいられた。
だからこそ、激励の言葉を投げ掛ける。
「その程度なのかい君は? このままでは、私が強さでも勝ってしまうが?」
「っ……」
ラーマの顔が歪んだ。まだ、彼は腹の中に迷いを抱えていて。それを殺すことが出来なくて。だから、フィンを殺せない。
「私が勝ってしまってもいいのかな?」
「……」
フィンの宝具の水流がますます強まった。
それによってとうとう
「私が勝ったら、私のマスターは死ぬだろう。その仲間も死ぬだろう」
「……」
水流はねじ曲がり、ラーマを執拗に付け狙う。ラーマはそれを躱すが、振り切ることは出来ず。
「そうなれば、君の正義は遂げられない」
「っ……」
不意に、ラーマは後ろを見た。一瞬だけだったが、その風景は目に刻み付けた。
崩れた道。砕けた家。倒れ付したマスター達。
そして、ただ立ち尽くす愛する人。俯いていた愛する人。
その瞳を知っている。悲しげな瞳を知っている。
……かつて彼女がラーマの元に戻り、しかし民に受け入れられずに死を選んだラーマにとって忘れられないあの時と、同じ瞳だった。
「何より……君の妻が、悲しむだろう」
「……そうだろうな」
ラーマは、フィンの攻撃から逃げることを止めた。破壊力を無尽蔵に秘めた水流が彼を飲み込む。
それでも彼は、水の中で踏み留まって。
次の瞬間、その水柱は打ち砕かれ、ラーマの剣がフィンに襲い掛かった。
「ああ。だから余は……僕は、負けられないんだ!!」
グシャッ
回避は出来なかった。これが、止めの一撃となった。
フィンの胴体の右半分と右手が吹き飛ぶ。
全身の三分の一を壊された彼は勢いに逆らうことも出来ずに遠くの壁に叩きつけられ、もう起き上がることも出来ずに、手を上げることも出来ずに空を仰ぐ。
「……やっと、終わりか」
その姿は、透け始めた。
「まあ、こんな状態では、いくら私でも本領を発揮することは出来なかったさ。この敗北に悔いはない」
「……」
ラーマは無言で一つ礼をして、シータの方に振り返る。その顔は、笑っているようにも見えて。泣いているようにも見えて。何処と無く、雨のせいでずぶ濡れになった花を思わせた。彼には、彼女の感情がもう見えない。
そんなラーマの隣を、ニコがよろよろと通り抜けた。彼女はふらつく足に鞭を打ち、フィンのすぐ側まで歩み寄る。
「ランサー……」
「何だかんだで、君と共に戦うのは楽しかったよマスター……ああ、なかなか満足いく結果、だったよ。君も、君の大切な人も守れた。せいせいする程に清々しい英雄譚だ」
「……」
フィンはマスターの顔を仰ぎ、微笑んだ。少なくとも自分は、彼女を不幸にさせなかった。それが何処と無く嬉しかった。満足だった。
そして彼は末端から消滅する。
「今度こそさようならだ。……マスター。君達の戦いの向こうに、幸せがあることを祈るよ」
「本当、ムカつく奴ね……」
「ハハハ……」
……その全身が消えるまで。CRのランサー、フィン・マックールの顔には笑顔があった。
───
「……さて」
ゲンムコーポレーション社長室にて。真黎斗は東京都の地図を眺めていた。既に、東京23区の聖杯は全て完成していた。
真黎斗は暫く迷っていたが、心を決めて画面上に新たなファイルを開き、ゲームの次の段階を用意する。
「始めるのね?」
「明日の朝からな」
時刻は、短針が時計の真上を少しだけ過ぎた頃だった。外は暗く月も見えず、ナーサリーは静かに紅茶を口に含む。
「では、参加募集を開始する。ゲームエリアの準備を始めてくれ」
「分かったわ」
そして彼女は紅茶のカップを置き、キーボードで都内の誰もいないエリアを操作し始めた。
それだけで、都内の一角に壁が競り上がり、誰もいないフィールドが形成される。確かに、彼女は
「さて……たまには私も、動かないとな」
「そうねマスター。私だってずっとここにいるのは退屈だもの。ふふっ」
───
そして。
「……見つけました」
「……」
永夢は、黎斗神から渡されたガシャットを使用して微弱な繋がりを辿ることで、ナイチンゲールを見つけ出していた。
ナイチンゲールは、誰も見つけず、誰にも見つけられなさそうな路地裏に佇んでいた。
「……マスター」
声をかけられた。永夢は、その声で、自分は彼女を追ってきたのに、自分が彼女を殺す覚悟も、彼女を助ける手段も持っていないことを思い出した。
ふいに手足が震え始める。ナイチンゲールは、その手に銃を握っていた。
「……」
「……」
危機を覚えた体が勝手にガシャットを握る。理性は戦いたくないと訴える。彼にはどちらも正しく思えて、だからこそどちらにも傾けない。
『マイティ アクション X!!』
電源を入れてしまった。ナイチンゲールが引き金をひけは弾丸が永夢へと食らいつき、永夢はそれを回避する。
『ガッシャット!!』
今日までの戦いで、変身の方法は体に染み付いていた。何も考えなくても、変身は出来る。しかしそこからが、さっぱり分からなくて。
『ガッチャーン!! レベルアップ!!』
『マイティジャンプ!! マイティキック!! マイティマイティアクション X!!』
次回、仮面ライダーゲンム!!
───ナイチンゲールとの戦い
「僕は、殺したくない……!!」
「貴方は病気です」
「嫌だ……嫌だ……!!」
───始まる第二ステージ
「これは……?」
「私は、参加しない」
「……行ってくる。後は、任せた」
───進められた駒
「何が始まるんだ?」
『皆、ここまでお疲れさま!!』
「……今からもう始まるのかよ!!」
第六十話 花の唄
「……自害せよ、バーサーカー」