Fate/Game Master   作:初手降参

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言うことないな……



第五十二話 サクラメイキュウ

 

 

 

 

「……ここも、大分がらんとしてしまったな」

 

「……そうだな」

 

 

ラーマはアヴェンジャーと向かい合って座って、そう静かに呟いていた。

もう、回りを見渡してみても人影はない。

 

ランサーは裏切って消えた。キャスターは殉死した。アサシンは使命を果たした。バーサーカーは命令に消えた。セイバーとシールダーは裏切って消去された。

 

ここにはもう、静寂があるのみ。

 

 

「……もう一人はどうした」

 

「……シータか?」

 

 

ラーマの顔は暗い。彼は恩人の為に尽くすことに何の躊躇いも無いが、しかし彼の妻は、それについていくのに疲れ始めていた。

 

 

「……彼女は、優しい人だ」

 

「……」

 

「今は一人にしてくれ、と言われてしまった」

 

 

シータは、今は布団に踞っていた。彼女は一度苦しむ人々を見てからは小さな後悔の染みを抱えていて、それがここに来て膨れ上がっていた。

消える人々、失われた生活、存在しない非難が彼女を苦しめた。

 

アヴェンジャーは窓の外を眺めた。伽藍とした街中には活気はない。彼はタバコでも吸おうとして。……一人の人間に気がついた。

 

 

「あれは、何だ?」

 

「……あの仮面ライダーか」

 

 

仮面ライダーレーザーターボ。それが、会社の前に一人立っていた。彼がここに現れるのはこれで何度目だろうか……ラーマはそんなことを思いながら、窓枠に手をかける。

 

 

「余が向かおう」

 

「……そうか。分かった」

 

 

そして、ラーマは窓から飛び降りた。それと共に彼は手に刃を呼び出し、落下の勢いと共にレーザーターボへ剣を降り下ろす。

 

 

   ガギンッ

 

   ガンッ

 

   ザンッ

 

 

「……」

 

 

そんな音が、すぐに聞こえ始めた。

 

 

「明らかな挑発行為じゃのう……」

 

「……いつ来た」

 

「いつって、今じゃが?」

 

「……そうか」

 

 

目を離していた隙に真横に現れていた信長にアヴェンジャーは一度眉を上げ、すぐに戻す。眼下では、レーザーターボがラーマの剣を受け流していた。

 

 

「じゃあ、わしはシータでも呼んでくるかの」

 

「好きにしろ」

 

───

 

 

 

 

 

「……」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神はその時シャドウ・ボーダー内にて、パソコンに接続したブランクガシャットの意思、正確にはそれを形作るデータをテール・オブ・クトゥルフに移植していた。

何かを浄化するためには、汚れを押し付ける犠牲が必要だ。今回は、その汚れを押し付ける役をテール・オブ・クトゥルフにしようと黎斗神は画策していた。そしてその計画は、もうすぐ成就する。

 

 

   カタカタカタカタ

 

「ふふ……ハハハハハハ!!」

 

「黎斗!? 貴利矢来たよ!!」

 

「分かったァ!!」

 

 

ポッピーの声で、黎斗神は発熱し始めたテール・オブ・クトゥルフを握ってシャドウ・ボーダーを飛び出した。

彼は今になって気づいたが、シャドウ・ボーダーはビルの合間の広場に止まっていたようだった。そして視線の先では、ラーマから逃げながらレーザーターボが走っていて。

 

 

『テ/36[$>.@;ル・オ#**($6]-%・5\>><|トゥ0+.1.0フ!!』

 

「はあっ!!」

 

 

黎斗神は迷いなく、ガシャットを起動し、レーザーターボ目掛けて投げつけた。

 

それはレーザーターボの頭に当たり、地面に転がり──

 

 

   ドロッ

 

   ムクムクムクムク

 

「……おい神、あれでいいのかよ?」

 

 

端子から、黒い泥のような物を排出し始めた。

 

 

「……何だ、これは?」

 

 

ラーマも足を止め、泥を試しに剣で突く。ぶにぶにとした感触は伝わるが、それ以外の反応はなく。

 

それは、黎斗神にも予想外の動きだった。彼の想定だと、そのガシャットは最も近くにいるサーヴァントを取り込んで破裂する筈だったのに、目の前の泥は爆発とは対極にいた。

 

 

「おいおい……檀黎斗神よぉ。まーさか、神を自称するあんたに限って、失敗とかしないよなぁ!?」

 

「当然だ!! 神の才能に不可能はない!!」

 

「じゃああれ何なんだよ!!」

 

「今から解析する!!」

 

 

そう言いながら黎斗神は泥に背を向けようとし……止めた。

 

次の瞬間には、周囲に広がりかけていた泥はガシャットを取り込んで収束し、隆起し、変形して……ヒトガタになっていた。

見慣れた姿に。もう見たくなかった、最悪の姿に。

 

 

「……これは……」

 

 

ヒトガタの泥は、自分の手足を見つめていた。黒々とした泥が剥き出しの肢体は、その泥が自らを認識することで着色されていく。肌色、白、肌色、白……それらが紡ぎ出した、その泥の名は。

 

 

「やっぱり出来ちまったじゃねぇか殺生院キアラ!! 自分逃げていいか!?」

 

「良いわけが無いだろう!! 君も付き合え……にしても、まさかここまで再現してしまうとは……やはり私の敵は私の才能!!」

 

 

殺生院キアラ。恐れていた可能性が、生まれてしまった。

キアラを挟んだ右手にラーマが剣を構え、左手にレーザーターボがガシャコンスパローを構え、黎斗神が変身する。

 

 

『マイティ アクション X!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「グレードX-0、変身!!」

 

『『ガッシャット!! ガッチャーン!!』』

 

『マーイティーアクショーン!! X!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

三対一。キアラは三人の敵に囲まれている。

しかし彼女は、動じることはなかった。泥でできた指を舐めて頬を染め、愉快げに呟く。

 

 

「それでは……参りましょうか」

 

───

 

「あれは、どうして……!!」

 

「わしが知るわけないじゃろー、マスターの頭脳などわしには分からん、アヴェンジャーに聞けアヴェンジャーに」

 

「オレに話を振るな」

 

 

その戦いを、部屋から引きずり出されたシータは信長とアヴェンジャーに挟まれながら、ハッキングした監視カメラ越しに眺めていた。

 

シータは、机の下で手を握っていた。顔には出さないように心がけてはいたが、彼女の肩が震えていることは隣の信長には簡単に分かった。

 

 

「のう」

 

「……何、ですか?」

 

「お主は、本当にこのままで良いのか?」

 

 

そしてそれに気づいた信長は、それを黙っておこうとはせず彼女の肩に手を置いて囁く。

 

 

「……どういうことですか」

 

「もう、お主は疲れたのではないか? 使命のため恩人の為夫の為……それは尊いじゃろうが……ちと、キツくはないのか?」

 

「……」

 

 

シータは俯く。アヴェンジャーは、信長の頭を見つめるだけで何も言わない。

 

───

 

「うーん、これは予想外ね……」

 

「……ミスはともかく、目の付け所は素晴らしい。流石は私だ」

 

 

戦闘の様子は、社長室の二人も眺めていた。真黎斗もナーサリーも、焦りはなかった。

 

画面の向こうでは、ラーマが近距離で泥のキアラと斬りあい、それをレーザーターボとゲンムが纏めて遠くから狙うという構図が出来ていた。

 

 

「マスター、あれいつ倒されるかしら?」

 

「ふむ……そもそも、あれの発生経路がまだよく分からない。解析を開始するか?」

 

「それはそうね。解析は……後で良いわ。時間ならたっぷり作れるんだし」

 

 

ナーサリーはキーボードから手を離して伸びをする。真黎斗は、自分が華麗に戦っているのを外から眺めるのが楽しくて、画面の前に肘をついて無言で戦いを眺めていた。

 

───

 

『デンジャラス クリティカル ストライク!!』

 

「はああっ!!」

 

 

ゲンムの蹴りが、確かにキアラの胸元に当たった。しかしそれは泥の粘性で軽減され、簡単に弾き出される。

 

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

 

回転する剣が、確かにキアラの上半身を引き裂いた。しかし体はすぐに再構成され、キアラに傷は残らない。

 

ガシャットからの泥で構成された彼女は、それまでの法則を無視した挙動を可能にしていた。

 

 

「何だよあれ!! おい神!! どうすりゃいいんだよ!!」

 

「再生までの時間に一瞬ラグがある。一気にに破壊に破壊を重ねて、コアになっているであろう中のガシャットを破壊すれば……!!」

 

「どんな無理ゲーだよ!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

レーザーターボが怒鳴り散らす。そう言いながら発射した矢は、キアラをすり抜けてラーマへと飛んでいった。

攻略方法は分からない。出口が、見えない。

 

───

 

「何だって!?」

 

 

キアラの復活。その知らせは、誰もいなかった公民館を新たな避難所にした灰馬達の元にも届いていた。

灰馬は頭を抱える。その隣で、作は思い詰めた顔をしていた。

 

 

「僕が、決着を……」

 

 

そんな言葉が溢れていた。

 

 

「作さん、何を言ってるんですか!! 怪我したらどうするんです!!」

 

「でも、キアラさ……アルターエゴは、元はと言えば僕のサーヴァントだった存在です。僕が彼女を引き当てた瞬間に自害させていれば、決してこうはならなかった」

 

「そんなこと出来る訳がないじゃないですか!! 貴方は、何も悪くありません!!」

 

 

慌てて灰馬は作をフォローする。小星作には、悪いところは何もない。それは事実だ。彼に落ち度は何もない。

 

しかし、作は納得できていないようだった。彼は優しかった。殺生院キアラという彼のサーヴァントだったモノが人々を苦しめたことは辛く思っていたし、それが復活したことをどうでも良いと言えるほど無責任ではなかった。

そして、彼の意見を支えるものも一人。

 

 

「好きにさせれば良いだろう」

 

「君は……!!」

 

 

アルトリア・オルタだった。近隣のライドプレイヤーの制圧を終えてきた彼女は少ない戦利品を適当な机に下ろし、己のマスターに手を伸ばす。

それを灰馬は引き剥がそうとしたが、簡単に投げ飛ばされた。

 

 

「邪魔をするな」

 

「で、でも、患者ですよ!! それに貴女のマスターだ!! 死んだらどうするんですか!?」

 

「どうでもいい」

 

「どうでもいいって……!!」

 

「私が好きなものは、強いものだ。私のマスターは体は貧弱だが、少なくとも心の強さは中々だ。だから、その強さを折るな」

 

 

アルトリア・オルタはそう言いながら作の手を掴んで、やや無理矢理持ち上げる。灰馬はやはり止めようとしたが、その手は届かなかった。

 

 

「行くぞ、付き合ってやる。……終わったらありったけのハンバーガーを寄越せ」

 

「……はい……!!」

 




次回、仮面ライダーゲンム!!



───本当の決着

「あら、貴方は……」

「僕は、ここで」

「命令しろ、マスター!!」


───シータの決断

「ラーマ様!!」

「何故ここに来た!!」

「私は……」


───マシュの暴走

「私は、貴女を超える」

「倒せないのか……!?」

「貴女にされたことを返してあげます」


第五十三話 BEASTBITE


「私は、疲れたんです」

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