檀黎斗は模範的な現代人だと思う
・己の才能を信じる
・目的の為に命をかける
・命を削って仕事に励む
・常に自信を持つ
・テンションのメリハリがある
・何処までも折れない精神性
いつか檀黎斗になりたい(小並感)
「……私は、もう、終わったと思っていたんです」
マシュがぼんやりと呟いた。
ジークフリートはマシュを背負って全力で走っていた。彼はゲンムのガシャコンカリバーを受けとめた直後に彼女を背負って逃亡を図っていた。マシュの霊体化は既に制限されていた。故に走って逃げる他なかった。
雨はますます激しくなっていく。落ちた粒は黒々とした地面を叩き、飛沫が上がっていた。
「でも、駄目でしたか……私の、全てを注ぎ込んでも、駄目でしたか」
「……そうだったな」
「じゃあ……どうすれば、勝てるんでしょう」
ジークフリートは、マシュを軽いと感じていた。断じてそれは彼女に気を使ってそう思っているのではなく、彼女は実際に軽かったのだ。……当然だった。彼女はもう透けている。
「……何で、今頃助けてくれたんですか? こんな状況で」
「すまない。だが、今がベストタイミングじゃ……と、言われたから間違ってはいない筈だ」
「……そうですか」
そんな風に言葉を交わしながら、ジークフリートはとある路地裏にてマシュを降ろした。マシュは頭を押さえながらよろよろと立ち上がり、空を仰いだ。
「……でも、まあ。こうなったら仕方がありません」
そして彼女は、自分の鞄に手をかけた。そこに仮面ライダークロニクルとガシャコンバグヴァイザーⅡをしまった彼女は、その代わりに一つの袋を取り出す。
「どうするつもりだ?」
「また、黎斗さんに挑むまでです。……丁度いいことに、ずっと昔にギルガメッシュ王から貰ったものがあります」
───
──
─
『明日にでもイシュタルの所に行って貰おう』
『……イシュタルとは、もしかしてあの、変な船に乗った、あれですか?』
『ん? それ以外にあるまい……我は奴自身に期待はせぬが、あれの従属である
『うぅ……自信、無くなってきました……』
『何、気に病むな。我は貴様に期待していないこともない。……財宝の一つ程度はくれてやる』
『あ、ありがとうございます……』
─
──
───
第七特異点でのちょっとした出来事だった。……ビーストとして覚醒するまではずっと忘れていたことだったが、マシュは彼から薬の原典なんて物を一つ貰い受けていた。
小さな丸薬のようなそれを、マシュは眺める。
しかしジークフリートはそれを飲もうとするマシュの手を止め、袋に納めさせた。
「……どうして、ですか?」
マシュは思わずジークフリートを見上げた。
そもそもマシュは、何故今さらになって彼が助けてくれたのかさっぱり分かっていなかった。あの時は渋ったのに、今さら、何をするのだろう。
「これを、君に」
「……えっ?」
気がつけば、ジークフリートは自分の愛剣、バルムンクをマシュに押し付けていた。マシュは思わずそれを手に取りながら疑問符を浮かべる。そして再びジークフリートを見て、唖然とした。
彼は己の胸の中に手を突き入れていた。
「何をしてるんですか!?」
「……
「駄目です!! 要りません!!」
マシュは慌ててそれを拒否する。訳がわからない。彼は気でも狂ったのか、マシュは真面目にそう考えた。
「俺が、こうしたいんだ」
「大丈夫ですから!! だから!! これを使えばきっと……」
しかしジークフリートはいくら制止しても止まってくれなかった。マシュは彼に刃を振るう気にはなれず、ただ口で制止することしか出来ない。
ジークフリートはマシュの瞳を見つめ、静かに話を始めた。
「……それは駄目だ。並の方法ではきっと駄目だ。確実にマスターは、君の存在を消去するだろう。そして、私も同じように。それから逃れる術はない」
「それは……」
「俺達はマスターに作られたキャラクターだ。生殺与奪の権利はマスターにある。マスターの想定した存在である限り」
「じゃあ、じゃあどうすればいいって言うんですか!?」
「……俺を受け入れろ」
「何で!!」
マシュの声は知らず知らずのうちに荒くなっていた。息も、仕草も荒くなっていた。頭がぼんやりしてくる。もう姿はかなり透けていた。
「マスターの想定した存在である限り、彼の支配からは逃れられない。……裏を返せば、彼の想定していない存在になったなら──」
「──!!」
……その瞬間、ぼんやりとしていたマシュの脳裏に、あの旅での記憶が蘇った。彼は自分であの旅を作ったはずなのに、その中で何度も、何かしらの形で動揺していた。
ロムルス・オルタの誕生。マシュによるバグヴァイザーの窃盗。ビーストⅣの覚醒。そして、暴発特異点。
彼に弱点があるとすれば、絶対的自信より来る傲慢、そしてそれが崩れたときの動揺。
「俺を受け入れろ。お前にはそれだけの容量がある。お前の中にはもう、ネロも、フォウも、いるのだろう?」
既にジークフリートの手には、彼の霊核が握られていた。ジークフリートの体も、透け始めた。
雨はまだ激しかったが、その音はもう二人の耳には届いていなかった。
「……最後に、聞きたいことがある」
「……何ですか」
マシュはジークフリートを見つめた。もう、彼の意思を否定しようとは思わなかった。
「俺達は、幾つもの別れを繰り返してきた。マスターに作られた世界の中で、傷つけて。苦しんで。失った。それらは過去となったが、俺達の中に残っている」
「……そうですね」
「あの世界は最早パラレルの物となり、俺達はこの世界に呼び出された。この、マスターによって作り変えられた悲しいだけの世界に!! それでも!! ただ悲しみにありふれたこの世界で!!」
ジークフリートの声も、荒くなっていた。マシュは、彼が霊核を握った手を支えていた。
ジークフリートがマシュの肩をもう片方の手で掴む。
「それでも……それでも!! 正義は勝つと、まだ言えるか……!!」
「……言ってみせます!! 何度だって!! どれだけ踏みつけられたって、言ってみせます!! ……止まれるなら、とっくに止まっていますよ……!! でも!! こんな世界の何処に隠れて、何処に逃げていられるでしょうか!!」
マシュは彼の意思に答えようと叫んだ。それが彼にできる最良の行動だとマシュは信じた。
正義とは何か。マシュはその正しい答えを知らない。しかし、言えることは一つある。
正義は人によって無数に存在し、その正義を否定することは出来ない。なら……今、マシュが成すべきだと思って成すことは、確かに正義だ。
「私は諦めない!! 私を支えてくれた全てを諦めない!! 私は……黎斗さんを、越える!! 越えて!! 私の世界を救う!!」
「なら……!! 俺の正義をお前に託す!! 叫んでみせろ……正義は、勝つと!!」
そしてジークフリートはその叫びと共に、勢いよく自らの霊核をマシュに押し込んだ。それはマシュに取り込まれ、マシュ自身の砕けた霊核と融合し、新たな一つの存在になっていく。
「……これは、お前が選んだ道だ!! 俺達が、選んだ道だ!!」
「これは、私達が選んだ道だ!!」
マシュの体は、元に戻った。比例してジークフリートの存在はますます薄くなっていく。しかし、ジークフリートに後悔はない。正義は、彼女が執行する。
そしてジークフリートは消滅した。
ゲンムのセイバーはゲームエリアから消え失せ……また、ゲンムのシールダーと呼べていた存在も、無くなった。
───
「一応処理、しておきましょう?」カタカタカタカタ
その時、ナーサリーは社長室にてジークフリートとマシュのデータを弄っていた。消滅させる為だった。
彼女は自分のパソコンに何重にもかけたロックを解除し、
「……よし。セイバーとシールダーの消去が完了したわ」
そして、一仕事したと言う顔で彼女は大きく伸びをして、真黎斗の方を向く。
「ライダーの完成状況は?」
「上々だな。だが、システムの完成にはワンクッション入れた方がいいかもしれない。試験が必要だ」カタカタカタカタ
「そうか……なら、丁度いいわね」
「そうだな」カタカタ ッターン
真黎斗はパソコンから立ち上がり、近くの棚を漁る。そして、水色のガシャットを取り出した。ガンバライジングガシャットだった。
「……では、次のイベントを始めようか」
『ガンバライジング!!』
そして彼はパソコンとそれを接続し、幾つかのライダーのデータを取り出し、それを弄って……そして、召喚した。
並ぶ。七体の仮面ライダーが、そこに並ぶ。
「おぉ……これだけ並ぶと壮観ねぇ」
「……そうだな。全員、性格と言うものを剥ぎ取っている。戦闘センスはそのままにな……ナーサリー、アナウンスだ」
───
『はーい!! 新しいイベントのお知らせよ!! 聞こえてるわね?』
「……っ!!」
自分の部屋で外を眺めていたエリザベートは、手近のスマートフォンから流れたナーサリーの声に飛び上がった。慌ててそれを引っ付かんで部屋を出た彼女は、近くの階段を降りていくウィザードの姿を見た。
「子ブタ……!?」
愕然とした。そして彼女は慌ててウィザードに飛び付いた。肩を揺すってみる。……しかし、反応はなく。
エリザベートの横を、赤い仮面ライダーや二色の仮面ライダーがすり抜けていく。
「子ブタ!? ねぇ、返事してよ!!」
「……」
いくら揺らしても、反応はなかった。それどころか、生気を全く感じなかった。かつては感じた彼の感情を、さっぱり感じられなかった。ウィザードは硬直したエリザベートを振り払って、階下へと降りていく。
残されたエリザベートの疑問に答えるように、ナーサリーが続けていた。
『これから、ゲームエリアに超強力な仮面ライダー型エネミーを七体放出するわ!! 強いプレイヤーの元へと引き付けられていくから、見つけたら倒してね!!』
「じゃあ、あの人は……」
エリザベートは、歩き去っていくウィザードを見ながら呟いた。何か、大事なものが崩れていくような心地がした。
彼は、かつての操真晴人の模造品。感情を、希望を奪い去ったダミー。
『討伐報酬は霊呪二画、そしてなんと、倒した仮面ライダーに擬似的に変身できるガシャットロフィー!! 手に入れたら聖杯が一気に近づくわ!! 現在、聖杯完成に最も近いのは新宿区、61%よ!! 皆も頑張ってね!!』
その声が、エリザベートの回りに虚しく響いていた。
エリザベートは天井を仰いだ。冷たい蛍光灯の光が眩しくて彼女は目を細めていた。
彼女の脳内に、晴人の顔が蘇る。初めは適当に付き合っていただけなのに、いつの間にか一緒にいるようになった仮面ライダー。最後の希望。
───
──
─
『……大丈夫でしょ、エリちゃんなら』
『そんな、気楽に言わないでよ』
『だって、ほら。今悩んでいる君は君だ。今君はきっと君の意思で悩んでいる』
『……』
『俺も、君も、最後の希望なんだ。誰も見ていなくても、君は今全世界を背負ってる、立派な女の子だ』
『……じゃあ。何かあったら、止めてくれる? 教えてくれる?』
『当然だ。そのときは俺が、最後の希望になってやる』
─
──
───
最後の希望は、ここにはいない。
エリザベートは考えた。天を仰いで考えた。自分は何故彼と共にいたのか。何故、希望であろうとしたのか。
抑止力、等というものはなかった。少なくとも、エリザベートにそれは干渉しなかった。それは真黎斗から言質をとった事実だった。
では、何故自分は正義でいられたのか?
「……っ」
何故か、頭痛がした。
エリザベートは頭を押さえながら壁に寄りかかる。その中で、一つのビジョンを見た。懐かしいものだった。
アイドルも、歌も、何も知らなかった頃のエリザベート・バートリーだった。ただ、領地を守護する者であろうとした頃の姿だった。
正義は、あの頃はあったのだ。彼女はあの瞬間だけは、希望を守ろうとしたのだ。
それが、例え作られた記憶でも。
「……そう。そうだった、のね」
エリザベートは、今さらになって答えを得た。希望は、自分にも元からあったのだ。操真晴人は、自分のその希望を、自分の胸元まで引っ張りあげてくれたのだ、と。
「私は……」
何を、するべきだろう。
次回、仮面ライダーゲンム!!
───討伐クエスト開始
「仮面ライダーが、敵になる……」
「勝てるのか……?」
「それでも、惑う暇はありません」
───狙われた病院
「しし、審議官!!」
「落ち着いてください!! やることは決まっています」
「貴方に会えて、本当に良かった!!」
───エリザベートの決断
「行かなきゃ」
「止めるんだ。余はお前を斬りたくない」
「……行かせてやれ」
第三十七話 Life is show time
「