Fate/Game Master   作:初手降参

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リヨぐだ子でもビルドになる時代



第二十五話 我ら思う、故に我ら在り

 

 

 

 

 

───

──

 

「──!?」

 

 

マルタは、気付いた時には暗い部屋にいた。目の前にはモニターと書類があって、隣には見覚えのない(見覚えのある)友人がいた。

マルタはその瞬間、これが貴利矢の夢だと悟った。

 

 

「なあ、話って……」

 

 

友人はそう言った。マルタの体は勝手に視線を書類に落とし、その書類の一文だけに集中する。

それを読み上げなければならない。その衝動が、マルタを突き動かした。

 

 

「……貴方は、ゲーム病よ」

 

 

……言ってしまった。

 

友人の愕然とした顔が、どうしようもなく印象に残った。

 

 

   ザッ

 

「──」

 

 

次の瞬間には、彼女はベッドの隣にいた。

そこに寝ていた友人の顔には、白い布がかかっていた。

マルタの脳内に知らない後悔が往来する。真実を言ってはならなかった、真実は人を傷つける、だから──

 

──

───

 

 

 

 

 

「……アンタねぇ……大事なことはもっと最初に言いなさいよ……ん?」

 

 

寝言を言っている途中で、マルタは目を覚ました。車内で寝たせいか、肩が妙に凝っていた。彼女は一旦シャドウ・ボーダーを下車して深呼吸する。

 

 

「ふわぁぁ……少し、飛ばしすぎたかしら」

 

 

現在シャドウ・ボーダーは東京のとある路地に停車していた。辺りには人影もなく、誰の声も聞こえない。早朝の朝はどこまでも澄んでいて、見上げれば逆に自分が吸い込まれそうな心持ちがした。

マルタは後部座席のドアを開け、貴利矢を起こす。何となくだが、彼も自分の過去を見たのでは、という、そんな気がした。

 

 

「ねぇ、起きなさいよ」ユサユサ

 

「ん、あぁ……?」

 

 

貴利矢は半目でマルタを認め、大きく伸びをしてから立ち上がった。見渡せば、黎斗神は無言でパソコンを弄っているし、メディア・リリィはその背に杖を突き立てたまま眠っていた。

貴利矢はマルタをシャドウ・ボーダーに引き入れ、座らせる。……召喚されてからずっと思ってはいたが、彼女の格好は目立ちすぎな気がしていた。主に悪い方向でだ。

 

 

「ねぇ。アンタ、私の夢、見た?」

 

「あー、俺の見た夢? 夢、夢……あぁ、それっぽいのは見たな」

 

 

マルタに問われ、貴利矢は窓の外に目をやりながら答える。マルタはそれに耳を傾け──

 

 

「……どんな夢?」

 

「タラスクと温泉に浸かりながら姐さんについて語り合った」

 

 

──そしてガクッとなった。

 

 

「え、えぇ……?」

 

「タラスクがな、『姐さんもっと淑やかにしないと友達なくなりますよ』だとよ」

 

「余計なお世話よっ!!」

 

 

今すぐタラスクを呼び出して説教(物理)でもしてやろうかとも思ったが、何となくその言葉にも嘘があるように思えて、止めておいた。

 

 

「ところでさ姐さん」

 

「ん?」

 

「……そろそろ服着替えねえか? 丁度そこにファッションセンターのしま○らがあるんだが」

 

「あ?」

 

───

 

 

 

 

 

「……」

 

 

マシュは歩いていた。キアラの中を歩いていた。やや少ないながらも段々と増加していく魔神柱の上を歩きながら、彼女は下の方へと歩いていた。上の方には、何もなかった。

どうやら、キアラの中は広い縦穴のような状況になっているようだった。下の方で、誰かの声が聞こえた。ここまで魔神柱で埋め尽くされていると、あの時間神殿を彷彿とさせた。

 

 

「……どうしましょう」カチカチ

 

 

マシュはそう言いながら、先程落ちていたのを回収した仮面ライダークロニクルを触る。

空間の影響だろうか、電源はどうやっても入れられなかった。

 

 

 

 

 

───

 

「……作さんの意識がはっきりしたって本当ですか!?」

 

「うん、そうみたい。良かった……」

 

 

永夢と明日那はそう言葉を交わしていた。

キアラから解放されてもう三日になる。助かって良かった、永夢はそう安堵した。

もうキアラのような災害が起こらなければ良いのだが……それは、まだ分からない。もしかしたら起こるかもしれない。そう思えば不安が募る。

 

 

「……何か、言ってました?」

 

「あー、えっと」ガサゴソ

 

 

永夢がそう聞けば、明日那は懐を漁り出した。そして、一枚の紙と一つの鍵を彼に渡す。

 

 

「……これは?」

 

「作さんの家の鍵。入院したままでも作業はしたいから、パソコンとか持ってきて欲しいって。永夢もずっと働き詰めでしょ? 外の空気も吸った方が良いだろうし、行ってきなよ」

 

「……分かりました」

 

 

永夢は紙を見る。パソコンや周辺機器等の、持ってきて欲しいもののリストだった。

その中には、当然のようにガシャットの名も入っていた。

 

───

 

「もう朝ねマスター」カタカタ

 

「そうだな」カタカタ

 

 

ゲンムコーポレーション社長室では、ナーサリーと真黎斗がひたすらに作業を続けていた。

既に聖都大学附属病院も落としたし、完全な支配が通っていないのはキアラに汚染された作の部屋程度の物。殆ど完全に、東京は二人の物だった。

 

そんな彼らが現在手をつけているのは、ゲームエリアの拡張や整備ではなかった。彼らのパソコンには、最新のライダーの姿が移っていた。

 

 

「にしても暇よね。……何か、もっとワクワクすることないのかしら?」カタカタ

 

「私達の作っているこれが人々をワクワクさせるのだろう?」カタカタ

 

「それはそうだけど……私達がずっと動いていないじゃない? マスターだって、折角バージョンアップしたそのマイティアクションNEXT、一度も使ってないじゃない」カタカタ

 

「……それもそうだな」カタカタ

 

 

そう言葉を交わす。真黎斗の傍らにあるガシャットは、アップデートされてから一度も電源を入れられたことがなかった。真黎斗はそれを一瞥し、そして目を離す。

 

……その時、ジル・ド・レェが社長室に入ってきた。書類の束を高々と掲げながら。

 

 

「おお神よ!! この資料をご覧あれ!!」

 

「……これは?」

 

 

ジル・ド・レェはその資料を受け渡した。

……黎斗が彼を産み出すときに組み込んだ神話についての資料だった。

 

 

「これは……」

 

「ほう、クトゥルフ神話か……」

 

 

そういえば最近触れていなかったな、真黎斗はそう呟き、開発を進めていた画面を一旦セーブして閉じる。ナーサリーが首を傾げた。

 

 

「あら、マスター?」

 

「……興が乗った。クトゥルフ神話のデータ、探すぞ」

 

 

……ガシャット開発は、やはり檀黎斗にとって最大の興奮要素であった。クトゥルフ神話をモチーフにするのと悪くはない、真黎斗はそう思ったのだ。

 

 

「一度に手をつけすぎじゃないかしら……?」

 

 

そうは言いつつも、ナーサリーも即座にブラウザを開き、資料を漁り始める。ナーサリーにとっても、新作のガシャット開発は最高の楽しみであることに代わりはなかった。

 

───

 

「……はははは!! はははははははは!!」

 

「いやうるせえょ神」

 

「私の才能に限界はない……!!」

 

 

その頃、黎斗神もまた開発を続けていた。現在の彼のライフは68。何度も過労死はしてしまったが、その代わりに多くを得られた。

買い出しから戻ってきた貴利矢は紙袋をマルタとメディア・リリィに押し付けて、騒がしい黎斗神を覗き込む。

 

 

「んで? 結局何がどうなったんだ?」

 

「まず、パソコンの画面をプロジェクターに変更した。もう破壊される心配はない。そして……これだ」

 

 

黎斗神は高笑いを続けながら、貴利矢にブランクガシャットを見せつけた。サンソンとカリギュラの魂を入れている物だった。

 

 

「これが、どうしたよ?」

 

「マシュ・キリエライトに(真黎斗)が令呪を使用したとき、その時の空気をスキャンしていた。データを解析した結果、令呪を使われた瞬間に一瞬ゲームエリアに干渉することで、令呪の効能を弄ることが可能になったかもしれない」

 

「おお、マジか!!」

 

「はははは、崇めろ崇めろ。まだあるぞ──」

 

 

……会話している二人の後ろでは、一つのカーテン越しにマルタとメディア・リリィが着替えている。

マルタが自分用の服がどれもこれもヤンキー臭いと嘆いていたが、貴利矢は意図的に無視した。

 

───

 

 

 

 

 

「……ここは」

 

 

マシュは、いつの間にか最下層までやって来ていた。結局一度もガシャットの電源は入らなかった。

最下層には、取り込まれたのであろう人々が皆集合していた。まだ誰も消滅はしていなかったが、長い間取り込まれていた人々はもう虚ろな目で魔神柱に溢れた天を仰ぐのみだった。

本来ならばこの中に取り込まれた者は皆、現実を消失し、自我を説き解されて理性を蕩かされる。防御は意味を成さず、いずれ生まれたばかりの生命のように無力化し、解脱する。まだ誰もそうなってはいないのは、一重にキアラがまだ弱っているからだった。

 

 

「大丈夫ですか? 聞こえますか!?」

 

「……もう、ダメだ。僕らは死ぬんだ」

 

 

ぐったりとしていた一人の少年に駆け寄ったマシュは、その呟きを聞いた。絶望が、人々を塗りつぶしていく。

立ち上がれば、そんな人々だらけだった。皆が皆、希望を失っていた。ここには、出口はない。

 

 

「だめです、皆、生きてください。生きないと……」

 

 

ここにいる人々は、マシュには救えない。全員を救うことは出来ない。彼女の剣は壊すことしか出来ないし、彼女の鞄の中には全員を助ける薬はない。

マシュはどうにか彼らを励ましたくて、それでも上手い言葉が思い付かなくて、それでもどうにかしたいと思って声を張り上げる。

 

 

「私は……私は!! 私は、諦めません!! 絶対に、ここを、抜け出します!! 絶対に!!」

 

 

その声は、響くことはなかった。

人々は意識を溶かしながら、それでも鬱陶しげにマシュを見る。

 

 

「……嬢ちゃん、アンタ、何者だ」

 

 

近くにいた一人の中年の男が、マシュに呟いた。やはり彼もまた意識は朦朧としていた。

 

 

「諦めたほうがいい。何も考えなきゃ、ただ気持ちがいいだけだ」

 

 

……それすらもない。弱ったキアラは、取り込んだ彼らに与える快楽にまで気を配れない。彼らにあるのは、何となく気持ちいいような、その程度の物。

 

 

「結局俺たちは、バグスターに好き勝手されて、バグスターに殺されるんだな……はっ、笑えねぇ」

 

「まだ死んでません、死んでないのに……」

 

 

マシュは天を仰いだ。助けは、ない。

 

───

 

「……」

 

 

エリザベートは、スマートフォンを弄っていた。もう、都市部の施設は殆どがパンデミックのせいで麻痺していた。

 

 

「仮面ライダー、ウィザード……」

 

 

スマートフォンの画面には、都市伝説として語られる仮面ライダーの一人、ウィザードの姿が映っていた。

ウィザード、人々の希望を守る魔法使い。そのあり方は、今の自分とは全く違うように思えて。

 

 

「……」

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

 

ガシャットの電源を入れても、操真晴人は出てこない。彼と会えるのは、あくまでFate/Grand Orderの中でだけ。

エリザベートは唐突に、自分のこれまでの行いが恥ずかしく思えた。

 

 

「私の、やりたいこと……」

 

 

ガシャットをしまう。今も何処かにいるのであろうオリジナルの操真晴人は、今何をしているのだろうか。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───気付いたもの

「私は……私が、救いたかったのは……」

「バグスターは死ね!! 消えろ!!」

「私はもう、何も……」


───見つけたもの

「これは?」

「作さんのガシャット、だと思うんですが……」

「……もしかして、この近くに」


───思い出したもの

「これは……」

『この文を読んでいるとき、君はきっと迷っているだろう』

「それでも私は、諦めたくない……!!」


第二十六話 Brake the chain


『ビーストⅣ、君が世界を救うんだ』

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