ゲキトツとジェットのコラボスバグスターにはそれぞれガットンとバーニアの面影があるのに、どうしてドレミファのコラボスにはポッピーの面影がないんだろう
同じキャラのバグスターが同時に存在できないから別のキャラが現れたと考えたら社長がどれだけバグスターウィルスをばらまいても次の感染者が出なかったことと上手く噛み合わないし……
「皆、本当にごめんなさい……」
ポッピーは、深々と頭を下げていた。それを見つめる黎斗神と貴利矢とパラドの顔は複雑そうだった。
CRは、もう使い物にならない。荷物はもう纏めてある。仕方のないことだった。
「……過ぎたものは仕方がない」
「で、これからここはどうなるんだ、神?」
「……攻略されるだろうな。こちらは抵抗は不可能だ」
黎斗神はそう首を振った。パソコンのデータや、パソコンと繋げていたセンサーなどの周辺機器自体は無事だったが、もう暫くは爆走バイクに手はつけられないし、真黎斗への対抗も不可能だった。
「BBのパソコンを使えば──」
「不可能だ。先程軽く彼女のパソコンで確認したが、既にアクセスは不可能になっていた」
「ちっ……後どれだけで支配される」
「もって二時間だろう。花家医院が何もされていない以上患者に危害は加えないだろうが、少なくとも
非常電源の件もあるから断言は出来ないが、とも黎斗神は付け足した。
既に事情を把握した飛彩と永夢、そしてナイチンゲールはもう患者の元へと急行していた。もう、東京に安全圏はない。全てが、真黎斗のゲームエリア。
「そんな……」
ポッピーが俯く。後悔が彼女を埋め尽くした。マシュを連れてきたこと自体は間違いではなかったと思いたかったが、それも無理だった。
黎斗神はそんなポッピーを見て少しだけ目を瞑り、何かを考える素振りを見せていた。しかし、すぐに目を開き、無言で歩き始める。
「……黎斗?」
「私が何も対策をしていないと思ったか?」
───
「何で、ですか」
マシュは、信長とジークフリートから要望をはね除けられたマシュは、虚ろな目を二人に向ける。
「何でですか?」
マシュには、分からない。信長はともかく、何故ジークフリートが頷いてくれないのか分からない。彼もまた迷っていると、感じていたのに。
信長がやれやれと肩を竦め、問った。
「マシュ。お前は裏切ってどうする。何をする。何が出来る。具体的にどうしようと言うのじゃ?」
「私は……」
……答えは、出ない。
最早何時ものことだった。彼女は、何も知らなかったのだ。結局自分は何をしたいのかすら。
黎斗を倒せという衝動が今は彼女を動かすが、どうやってか、と言われれば曖昧なイメージしか出てこなかった。
『何かあったなら、私の元へ来るといい』
「──」
そして、曖昧なイメージの中でそんな声を聞いた。昨日聞いたばかりの声だった。
───
黎斗神に連れられて、CRにいた面々は地下駐車場にやって来た。数日前に飛彩がジャンヌと共にゲンムのセイバーとキャスターを迎え撃った場所だ。既にここは真黎斗の支配下にあったが、特に何かが動いているということもなかった。
黎斗神はその片隅へとまっすぐ進み、そこにあった黒塗りの貨物車、所謂バンと呼ばれる車に手をかけた。この車だけ、何故か真黎斗からのテクスチャの支配がかかっていなかった。
「……何これ」
「現実の車を弄るのは初めてだったが、私の神の才能に限界はなかった」
そう言いながら彼は車の鍵を開け、助手席に座り、穴の開いたパソコンをカーナビに接続する。それと共に彼は車のエンジンを起動した。
「というわけで、ここをキャンプ地とする」
「え?」
「は?」
「あ?」
全員がその口をあんぐりと開けた。何を言っているんだ、こいつは。
「そもそも何処で買ったのよこれ!?」
「元々持っていた車だ。殆ど運転することはなかったがな。それをかつて改造した。もしもの時に備えてな」
飄々と言う黎斗神。彼がカーナビを軽く弄るだけで、後部座席のドアも開き、椅子と簡易なテーブルが顔を出した。黎斗神はそれをドヤ顔で確認し、親指で座席を指し示す。
貴利矢は物珍しそうに眺めていたが、安全なのは確かだとは察していた。
「残念ながら乗れる人数は本来よりは少ないがな。キャスター、ライダー、乗れ。後はどうする。どちらにせよポッピーは残るだろう?」
「俺も残る。ここは空けられない」
……結局、パラドとポッピーとBBが残り、運転席にマルタが、後部座席にメディア・リリィと貴利矢が座ることとなった。全員がシートベルトを締め、マルタがハンドルを握る。
「ライダー、運転は出来るな?」
「当然よ」
「そのカーナビは、ゲームエリアの薄い部分を自動的に探し当てる。そこに移動しろ。そこなら、私が介入せずとも侵食を避けられる」
そして、エンジンがかけられた。バンは動きだし、ポッピーとパラドとBBを残して駐車場から飛び出していく。
「ネットワーク潜航救急車シャドウ・ボーダー、出航だ……さて、パソコンの修理を開始するか」
黎斗神は少しだけ感慨深げに呟き、穴の開いたパソコンを工具で弄り始めた。
───
「……何しに来た」
「……エミヤさんは、いますか?」
……マシュは、一旦信長とジークフリートと別れ、一人花家医院までやって来ていた。当然それは感知され、ゲーマドライバーを付けた大我がガシャットを構えながら出迎えることとなる。大我も、CRが崩壊したことは既に聞いていた。
「アーチャー? あいつは用入りだ。なるべく誰にも姿を見られないように警戒しながら、ずっと裏方仕事をやってる」
マシュはエミヤとの会話がしたかったのだが、すぐには無理そうだった。彼女は一瞬自分勝手に失望しそうになり、慌てて向こうにも用事があるのだと自らに言い聞かせる。
「……で、何の用だ」
「会いに、来たんです。困ったなら来い、と言ってたので」
そしてマシュは、エミヤとのやり取りの概要を小声で伝えた。あまり話しすぎないように気を使いながら。
大我は本当なら力ずくでマシュを追い出したかった。この病院まで破壊されたらどうしようもない。
しかしポッピーから、マシュが訪れたら話を聞いてやってくれ、とも言われてしまっていた。
───
「今度は花家医院に入ったようねマスター。どうする? 令呪、使うかしら?」
やはりモニターを見ながら、ナーサリーがくすりと笑う。その視線の先の真黎斗はキーボードを弄りながら、どうでもよさげに呟いた。
「いいや。そこで暴れたら直に患者に危害が加えられるだろうからな」
「……それを言うなら、カリギュラを自爆させたのはどうしてだ、って言われるわよ?」
「あの時は、シャルル=アンリ・サンソンの行動を予測していたから思いきった行動に移ったまで。どちらにせよ、プレーヤーにゲーム病以外で死なれたら困るからな」
そう言いながら、聖都大学附属病院を侵食する。既にCRはテクスチャを弄って封鎖した。患者達のスペースも微妙に弄って、ストレスを与えるように工夫する。
「私ながら回りくどいわよね、マスター」
「仕方ないだろう。ゲーム病で消滅して貰いたいのだからな。ゲーム病で消滅しても、ゲームエリア内ならすぐにバグスターとして復活できると広まればまた違うのだろうが……」
「まあ、どうしてもダメなら次の手があるから、無理はしなくても良いんじゃない?」
「そうだな……そろそろ、始める方が良いだろうな。私の、究極のゲーム──」
そう言葉を交わす。二人の間では、既に今後の展望が共有されていた。
そこに、公園から帰ってきた信長が現れる。
「失礼するぞ」
「あら、どうしたのかしら?」
「何、ちょっとした頼まれごとじゃ──」
───
「なるべく早く済ませろ」
大我はそう毒づきながら、マシュを診察室の裏の部屋まで通した。あまり綺麗とは言えない空間だった。本やら道具やらガシャットやらが山積みにされていたし、ゴミ箱はゴミで埋まっていたし、隣ではフィンがひたすらに水をバケツに移していた。
「なるべく、とは……」
「言うこと言ったらさっさと出てけ。ここは病院だ。てめぇに長々と付き合ってる暇はないんだよ……!!」
そう言いながら、大我は白衣を羽織って部屋を出ていく。まだ沢山の診察を待つ患者がいた。本来の何倍もの患者を抱えた彼は、狂ったように働かなければ全ての患者を救えない。
「おや、また美しいお客さんだ」バシャバシャ
「あ、貴方は……」
マシュは、呼び掛けられて初めてフィンの顔を見た。そして、第五特異点で敵対したことを思い出した。マシュはそれをフィンに話す。
しかし、フィンの方にはマシュと相対した覚えはない。記憶にはサーヴァントごとに違いがあるのだった。
「きっと、私ではない私との話だったのだろうね。……それはそうと、アーチャーならそこに入ってきたよ」バシャバシャ
「あ、ありがとうございます……」
フィンに指し示されてマシュはエミヤに気づく。彼はマシュに椅子を一つ渡し、彼自身も椅子に腰かけた。
「……エミヤさん」
「思いの外早く来たな、マシュ・キリエライト」
「……」
エミヤの声は、決してマシュを歓迎しているような物ではなかった。彼は彼で、ずっと裏方仕事に徹して疲れきっていた。百人分の病院食、百人分の看病ともなれば、疲れはてるのは明白だった。
しかし彼は、マシュとの会話は断らなかった。自分が切り出してしまったことだったし、何もせずに彼女に暴れられたら本当に困る。
「エミヤさんは、どうして、そうしていられるんですか? 貴方の人生は、全部、黎斗さんが作ったのに」
「……そうだな」
エミヤは、その問いに対して少し俯いた。彼は聖杯からの知識で既に自分の人生が作り物だと理解していたが、それでもマシュのように混乱はしなかった。それこそ、エミヤ自身にとっても不思議な位に。
しかし、理由なら思い付く。
「……私の命は、決して良いものではなかった。裏切られ、絶望した、苦しいものだった。だが……その中に、美しいものを見た。そして、私の物語が終わりを迎えたとき、きっと私は満足していた」
だからだ。そう彼は締めくくった。
彼の物語は、終わりを迎えている。彼は、もう自分の結論に満足している。だからこそ、黎斗という創造主が提示されても冷静でいられた。
自分が作られた存在だ、と言われても、それがどうした、私は私がするべきことをするだけだ、と言えるだけのしっかりとした過去があった。
今でも彼の中には、忘れられない記憶がある。忘れてはいけない景色がある。間違ってなんかいない思いがある。だから。
しかし、それは今のマシュにはないものだ。
「物語……」
彼女は、自分の物語がない。彼女にあるのは、黎斗に破壊された悲しみと、怒りと、怨みと……それらの入り交じったどうしようもない絶望のみ。彼女の全ては黎斗に作られたものだ、そう言われたら簡単に揺らぐ精神のみ。
「ないんです。私には。何もない。私には何もない……」
「……」
エミヤは、マシュの概要を把握していた。大我にポッピーからの頼みが来るのと同時に渡ってきた情報を、彼も読んでいた。
そして、彼なりにマシュへの回答は考えていた。
「……ないのなら」
「……?」
「何もないのなら、作ればいい」
それが答え。生み出す者であるエミヤが出せる答え。
「作る……?」
「何もないのなら、作ればいい。自分はどうなりたいか。何がしたいのか。何処を目指すのか。それを探せ」
───
「……」
その後マシュは、急病人が出たという理由で花家医院から叩き出された。何の追撃もしてこなかったことが、純粋にありがたかった。
「……全く……手間のかかる奴じゃ」
「信長さん……」
……玄関で霊体化して待っていた信長が、顔を出した。その背には小さめの鞄が背負われていた。中には、マシュ・キリエライトの私物一式が揃っていた。
「で、お主は何をするためにどう動くのか、決めたのか?」
「私……私は、結局最後まで黎斗さんの良いようにされるのかもしれません。それでも、後悔したくないから」
鞄を投げ渡す。マシュはそれを受け取り、肩にかける。
「私は、探したいと思います。何をしたいのか。何をするべきなのか」
「呑気なもんじゃのう。ま、是非もないか」
マシュは歩いて去っていく。その手には、大我のガシャットの山からこっそり抜き出した仮面ライダークロニクルが握られていた。
信長は、彼女が黎斗に邪魔されず答えを得られるよう思いながら、彼女に背を向けた。
次回、仮面ライダーゲンム!!
───記憶の追体験
「何が医者だ、何が仮面ライダーだ──」
「……オレは」
「……俺は救いたかった」
───出芽する狂気
「俺達、死ぬのか?」
「ゲーム病が定着してるって──」
「新型の、仮面ライダークロニクル?」
───残存した天国
「初めまして、でしょうか?」
「貴女は……!?」
「早速ですが……」
第二十四話 NEXT LEVEL
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