Fate/Game Master   作:初手降参

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前回のパラドの補足

実質万丈龍我
常にガシャットから供給されるネビュラガス的な成分の影響で、火力は常にフルボトルを全力で振っているのと同等のものになっている
パワー以外はラビットタンクスパークリング並
ただし前回以上の時間戦闘を続けた場合は変身者が蒸発する



第十五話 Ring your bell

 

 

 

 

───

──

 

「……」

 

 

気がついた時には、パラドは何処かの城の中にいた。

確か自分はファントムを倒した後に気を失って──と彼は回想し、ここが自分のサーヴァントの過去なのだと結論づける。

 

 

「……こんな所に立ち往生するな処刑人」

 

「ああ、すまない」

 

 

誰かが苛立たしげな視線をパラドに向けながら通り過ぎた。パラドはその言葉を咀嚼し、自分がサンソンの役に当て嵌められたのだということと、ここはヴェルサイユ宮殿辺りだろうと推測する。

 

シャルル=アンリ・サンソン。フランスの処刑人にして最先端を行く医者。

処刑人の家に生まれた彼は人々の偏見に晒されながら、自分がするべき事は何かを考え、少しでも理想に近づこうと努力した人間だった。

 

 

「……」

 

 

パラドの足は勝手に歩いていた。自分がサンソンの役に当て嵌められた以上、この勝手に動く足はサンソンの足取りに従っているのだろう、パラドは特に慌てずに思考を続ける。

 

サンソン、彼は処刑人だった。それはつまり、最も死に、そして死体に近い人間であるということだった。

死に近い彼は人体に対する理解に長けていた。どこを切られれば人は死ぬのか、どこなら痛みは少ないのか、どこなら苦しまないのか、どこなら後遺症が残らないか。それを研究し続けた。人と罪を罰でもって切り離す──それを目指した男、それがサンソンだった。

 

 

「……ここは」

 

 

いつの間にか、彼は会議場のような場所に立っていた。宮殿の中なのか、別の役場なのか、それはパラドには分からない。しかし、この中に入れという声が聞こえた気がした。

 

 

   コンコン

 

「……入るぜ?」

 

 

広場の中では、何かの議論が行われていた。耳を傾ければ、その議論は死刑に関係するものだと用意に理解できた。パラドはそれに加わる。言葉は勝手に口をついて出た。

 

サンソン、彼は処刑人でありながら死刑に反対する人間だった。そして彼は当時としては異例な平等論者でもあった。だからこそこうして死刑に関する物事には積極的に参加し、死刑に賛成する世論と戦おうとしていた。

 

しかし、彼の望みは叶わなかった。

 

 

   ザッ

 

「……!?」

 

 

いつの間にか、パラドは何処かの広場、そこに設けられた台の上にいた。

コンコルドの革命広場──21世紀現在ではそう唄われるその広場にはまだ名前はない。あるのは、『これから王妃を処刑するギロチン』のみ。

 

 

「そこをどけ!! これよりマリー・アントワネットの死刑を執り行う!!」

 

 

台の下で誰かが言った。パラドが辺りを見回してみれば、前方のギロチンの他には、人の顔が並んでいるのみだった。

 

ギロチン……サンソンが開発に携わったもの。かねてより楽器を好んだサンソンは、親しかったチェンバロという楽器の職人に、ギロチンの作成の協力を依頼した。

最も痛みなく人を殺せるはずの処刑道具ギロチン。かつては数匹の牛に別々の方向に引かせて八つ裂きにしてしまう、等の残酷な処刑が横行していたフランスにとって、ギロチンの登場は革命であった。それは、簡単に効率的に、何人も人を殺せるようにしたのだ。

 

 

「来たぞ!!」

 

「マリー・アントワネットが来たぞ!!」

 

「早く殺せ!!」

 

 

遠くの方に一層濃い人だかりが出来上がった。その中に、パラドには見覚えのない白髪が見えた。

その瞬間、パラドの知らない記憶が彼の脳裏を往来した。マリー・アントワネット、ルイ16世の王妃、人々のアイドル足ろうとした女性、その最後は、こんなにも悲しく──

 

カツカツと音が響く。台を一段ずつ登る音に他ならない。マリー・アントワネット、彼女は人々に望まれるまま、殺される。

 

 

「死ね!!」

 

「死ね!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

 

パラドの胸がズキズキと傷んだ。殺したくない、そう思っても彼に職務は投げ出せない。投げ出しても、彼女の死に代わりはない。

 

サンソンは処刑人だ。最期までそうあり続けた。かつて愛した女性を結局処刑できなかったその一度を除いて、彼は誰だって処刑した。敬愛するルイ16世も、その妃も、代わりはない。人々の娯楽と化した処刑台から、逃げられない。

 

 

「ギロチンだ!! ギロチンにかけろ!!」

 

「首を跳ねて、これまでの悪事を思い出させてやれ!!」

 

「「殺せ!!」」

 

「「「殺せ!!」」」

 

「「「「殺せ!!」」」」

 

 

声が響く。もう王妃は台に上りきり、こちらに歩いていた。もう、すぐに彼女は死ぬ。パラドは耐えられない。下を向いた。かつてならいざ知らず、命の価値を知ってしまった今なら、命を奪うなんて、堪えられない。

 

その時、彼の足に小さく圧が加わった。

 

 

「御免なさいね……靴……汚してしまったら……」

 

 

その声で顔を上げる。マリーが小さく笑っていた。彼女以外に今のパラドの、処刑台の上の処刑人の靴を踏める者などいないのだから当然だったが、彼女がパラドの足を踏んだのだった。

パラドの脳裏に、彼女の笑顔が焼き付いた。

 

そして彼女は処刑台に横たわった。

 

 

「……執行時間だ」

 

 

そして時は満ち──

 

 

   ザンッ

 

──

───

 

 

 

 

「……っつ、つ」

 

 

パラドはそこで意識を取り戻した。よく貴利矢が寝転がっていた椅子から上半身を起こした彼は辺りを見回し、手近にいた永夢を見つける。

 

 

「あ、パラド」

 

「永夢……」

 

「お前は寝てたんだ。ビルドガシャットの副作用で大ダメージを受けて」

 

 

パラドはそこで自分の腹に手をやった。もうそこに穴はなかったが、しかし痛みは走った。

 

 

「もうあのガシャットは使うなってさ。変身も避けた方がいい」

 

「そうか。……アサシンは何処だ?」

 

「ここに」

 

 

呼んでみれば、サンソンがパラドの傍らに現れた。パラドは彼の肩を掴んで立ち上がり、彼を連れて歩き始める。

 

 

「……マスターの、記憶を見ました」

 

「……そうか」

 

 

先に切り出したのはサンソンだった。彼は、パラドがサンソンの過去を覗くのと同時に、パラドの過去を覗いていた。

 

 

「マスターがあんなに捨て身で戦っていたのは、ああいう訳だったのですね」

 

「……そうだな」

 

 

不思議と、パラドに不快感はなかった。パラドは自分の過去を悔いるべきものだとは思っていたが、隠すべきものとは思わなかった。

彼は、聞かれたならば話さなければならないと思っていたのだから、その手間が省けただけだった。

 

 

「……どう思った?」

 

「……」

 

 

サンソンはそれには答えなかった。まあ、答えにくいことだとはパラドも分かっていた。少なくとも最初に人を殺している段階で、最後に人の仲間になったとしてもその罪は消えたわけではない。純粋な好悪では語れない。

 

 

「実は、俺もお前の過去を見たんだ」

 

「……っ!!」

 

 

サンソンの顔が一瞬歪んだ。あまり触れられたい過去というわけではなさそうだった。

しかしパラドは、その夢の概要を話した。そして問う。

 

 

「お前はあれをどう思っているんだ」

 

「……仕方のなかったこと、ではありますが」

 

 

……いつの間にか、二人は病院の中庭まで出てきていた。二人の他には誰もいなかったが、太陽の光は二人を照らしていた。

 

サンソンは、パラドの言葉をあまり好ましくは思えなかった。自分の過去を見られてしまったことは仕方がないが、それでもそれについて掘り下げられるのは心が傷んだ。今でも、彼の頭の片隅にはあの笑顔がこびりついていた。

 

 

「そもそも、僕らは檀黎斗に作られた存在です。マスターが見たものは、真檀黎斗の描いたシナリオに過ぎません。そんなものに触れて、何になると?」

 

 

だからそう言った。パラドを少しでも遠ざけたかった。

 

 

「違う」

 

 

しかしそうはならなかった。パラドはそれを否定した。絶対に、パラドはその言葉は否定しなければならなかった。

 

 

「バグスターだって意思がある。大切に思う気持ちがある。痛みも、苦しみも知っているし、喜びも知っている。大切にしている設定があるなら、それは過去だ。大切な思い出だ」

 

 

パラドは知っている。彼と共に仮面ライダークロニクルのプレーヤーとなったバグスター達を。

マイティアクションXのソルティ。タドルクエストのアランブラ。バンバンシューティングのリボル。爆走バイクのモータス。ゲキトツロボッツのガットン。ドレミファビートのポッピー。ジェットコンバットのバーニア。ギリギリチャンバラのカイデン。シャカリキスポーツのチャーリー。そして、ドラゴナイトハンターZのグラファイト。

彼らは皆、黎斗によって産み出されたキャラクターだ。それでも皆が、プレーヤーに自分勝手に倒され、苦しみを受けた。反乱を共に起こした。仲間だった。

 

 

「だから、俺はお前の過去を受け入れる。お前の意思を尊重する。お前は俺のサーヴァントである以前に、同じバグスターだ」

 

「……怖いですね。あなたの瞳は、僕の迷いをあぶり出すようだ」

 

 

パラドはサンソンの目を見た。サンソンはパラドの目を見れなかった。二人は通じあってはいなかったが、すれ違っているという訳でもなかった。

 

 

「サンソン。お前の望みは何だ。ゲンムは、本来このゲームの勝者には聖杯ってのが与えられると言っていた。何でも願いが叶えられるって。だから……」

 

「……言うほどのことではありません」

 

「言ってくれ。俺はお前の、仲間の望みを聞いてやりたい。戦えない俺の代わりに戦ってくれるお前への礼にしたい」

 

 

パラドはそう言った。自分と戦ってくれる仲間への、このゲームのプレーヤーとしての最大限の礼だった。

それが、サンソンの心を少しだけ慰めた。彼が背負う過去に代わりはないが、それでも、小さな救いにはなった。

 

 

「……でしたら、細やかな願いですが。聞いてもらいましょう。全部が終わったら」

 

 

サンソンはそう言って霊体化し姿を隠した。パラドはそれ以上何も言わなかった。ただ、少しだけ満足げだった。

 

───

 

「……」カタカタカタカタ

 

 

その夜、作はやはりひたすらにキーボードを叩いていた。目の下を隈で真っ黒に染め、画面に写る文字を睨む。

その背後には、当然のようにキアラがいた。

 

 

「あと少し、あと少し……ふふ」

 

「キアラさま、キアラさま……」

 

 

最早この部屋は作のものではなく、キアラの物だった。彼女から溢れ出た魔神柱は壁に浸透し、ゲンムコーポレーションからの支配すら飲み込んでいた。

その柱は、同時にセンサーでもあった。サーヴァントが一つ近づいてきていることなど、手に取るように理解できた。

 

 

 

そのサーヴァントは、エミヤだった。数日の間大我のサポートに徹していた彼は、大我の命を受けて作を引きずり出しに来ていた。

既に、黎斗神と真黎斗のパワーバランスは崩れ、天秤はゲンムコーポレーションに傾いていた。耐えるには人手が必要だった。

 

 

   コンコン

 

「……いるか?」

 

 

扉を叩く。数秒の沈黙。

玄関に立ったエミヤは、不自然な程に自然な空気を警戒しながら立っていた。

この家にはサーヴァントがいるはずなのに、その気配がしない。何の魔力も感じないのだ。仮に今外出しているとしても、残り香は残ってもいいはずなのにそれもない。

 

 

   ガチャ

 

「……開いたか」

 

 

そう考察するエミヤの前で、扉の鍵が開けられた。彼は右手に短剣を投影しながら、作の家に入る。

……彼は、既に家自体の支配を済ませたキアラが彼を招き入れたのだということを、知るよしもない。

 

エミヤは廊下を歩いているうちに、男の声を聞いた。うっとりしたような、魅入っているような、そんな声。……明らかに、危険な声。

エミヤは慌てて扉を開く。そして……黒を見た。

 

 

「なっ──」

 

 

黒。黒。黒。その黒は全て中央の女性、キアラから溢れ出た魔神柱に他ならない。それらは部屋の壁に突き刺さり、同化していた。そしてそれらに全く気を回すことなく、作はキーボードを叩いていた。

そして、キアラがエミヤの顔を見た。

 

 

「……あら、いらっしゃいましたか。私はCRのアルターエゴ、殺生院キアラに御座います。よろしく、お願いしますね?」

 

「……不味いぞ、これは」

 

 

エミヤがそう言い終わらないうちに、彼を魔神柱の群れが襲う。エミヤはそこから飛び退くが、飛び退いた先からも魔神柱が伸びてきて彼の腕を掴んだ。

 

 

「マスター、聞こえるか!!」

 

『どうしたアーチャー!!』

 

「不味いぞマスター、小星作は自分のサーヴァントに支配権を奪われた!!」

 

『何だと!?』

 

 

エミヤは魔神柱を切り捨てて干将莫耶を投影し、キアラにそれを投げつける。しかしそれは容易く叩き落とされ、エミヤは小さく舌打ちをした。

 

 

「そこのマスターに何をさせているんだ?」

 

「あらあら、余所見をしている暇がありまして?」

 

 

魔神柱が廊下を埋め尽くす。壁という壁に染み込んでいた魔神柱が実体化し、廊下も部屋も全て黒に埋められる。

当然そうなっては逃れられる筈もなく、エミヤはその四肢を拘束された。

 

 

「……お前は何を企んでいる」

 

「とてもとても、気持ちの良いことですよ」

 

 

キアラがエミヤの顎を軽く撫でる。エミヤは不快感を露にして脱出を試みるも、もがけばもがくほど拘束は強くなる。エミヤはここに来たことを後悔した。

作は、この騒ぎが起こったことにすら気付かず、パソコンに向かっていた。85%、という文字が少しだけ見えた。

 

 

「……マスター!!」

 

『令呪をもって命ずる、俺の元に来い!!』

 

 

その刹那、エミヤはその場から消え失せた。令呪の力を借りてその場から強制的に転移し脱出したのだった。

獲物を取り逃がしたキアラは溜め息を一つ吐き、まだ力が足りないと実感していた。しかし、それももうすぐ終わる。

 

 

『随喜自在第三外法快楽天』完成まで、あと15%。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


──発生したパンデミック

「急患が多すぎる!!」

「まさか全員ゲーム病だと……!?」

「もう追い付けない!!」


──迷うサーヴァント

「あんなに沢山の人が……」

「これは少し不味いかしら」

「……すまない」


──正義の味方は何を思うか

「これは、いつになったら終わるんだ?」

「私に逆らうな!!」


第十六話 Eternity blue


「ゲームマスターの私こそが……神だ」

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