Fate/Game Master   作:初手降参

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今回も難産でした

よくよく考えたら、パラドもポッピーもバグスターなんだから、それなりには戦えるはずなんだよね
パラドは謎バリア張れるし、ポッピーはクリスマスにナイフ巨大化させてたし……
Vシネでは生身での殺陣増やしてもいいのよ



第十四話 Believer

 

 

 

 

「っと……ギリギリ間に合ったみたいだな」

 

 

貴利矢……いや、既に変身してマルタを背負って全力で駆けてきたレーザーターボは、メディア・リリィの攻撃で拘束されているゲンムのアサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラの元に辿り着いた。

 

 

「ああ、こいつあの時の歌ってる奴じゃねえか!!」

 

「そうみたいね、ええと……?」

 

「ファントム。ファントム・オブ・ジ・オペラ……!!」

 

 

ゲンムのアサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラ。オペラ座の怪人……恐らくはそのモデルとなった誰か。

歌手クリスティーヌの歌声に希望を見た彼はあらゆる残虐な手段を尽くして彼女を歌姫の座まで押し上げ、しかし彼女と決別し、殺人鬼に成り果てた男。現在は、黎斗の才能に光を見た男。

 

彼はレーザーターボを見るやいなや拘束を振り払い、真黎斗より渡されたバグヴァイザーL・D・Vを腰につけ、二本のガシャットの電源を入れる。

 

 

『マイティ アクション X!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

『ガッチョーン』

 

「……変身」

 

『バグルアァップ』

 

 

プロトマイティアクションXにプロトドレミファビート、それがファントムに与えられたガシャット。ファントムはそれを迷いなくバグヴァイザーに挿入し、変身した。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! X!!』

 

『ド ド ドシラソファミレド オーライ ドレミファビート!!』

 

「よりにもよってプロトガシャットの二本挿しとかありかよ……!!」

 

 

ファントムが変貌する。仮面ライダーアサシンへと変貌する。彼はその面影を残しながら、全く違う存在へと生まれ変わった。

 

 

「大丈夫マスター、倒せる?」

 

「まあ善処はする。姐さんはそこを守ってくれ、あの壁の向こうが非常電源だ。壊されたら詰む」

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

 

レーザーターボが弓を取りながらそう言った。しかし彼が放つ矢は容易く叩き落とされ、攻撃の意味を成すことはなく。

 

 

「ッチ、遠距離じゃ駄目か!?」

 

『ス パーン!!』

 

 

今度はガシャコンスパローを鎌にして斬りかかる。しかしその攻撃はアサシンの爪に阻まれ、レーザーターボは反撃をもろに食らってしまった。

 

 

『Quick brave chain』

 

   ズダァンッ

 

「なあああっ!?」

 

 

叩き込まれたのはたったの一閃。しかしレーザーターボの体力は二割は減ってしまっていた。

相手がどんなかくし球を持っているか分からない以上、迂闊には近づけなくなってしまった。レーザーターボは再びガシャコンスパローを弓に戻して矢を放つ。

 

そこに、遅れてパラドとサンソンが駆けつけてきた。真っ先にサンソンが刃をアサシンに突きつけるも、容易くその攻撃はいなされ、壁まで吹き飛ばされる。

サンソンは壁に数センチめり込み小さく呻いた。すぐに彼は体勢を立て直すが、相手の脅威は既に十分理解していた。

 

当然レーザーターボとマルタも攻めあぐねていた。マルタは大事な非常電源を背にして防衛に徹し、レーザーターボは遠距離から攻めるも有効打を持てない。

 

 

「下がってろパラド!! 最悪、永夢や飛彩が来るまで持たせればいいんだ、無茶はするな!!」

 

 

レーザーターボはパラドに言った。しかし彼の体力の減り具合からして、永夢を待つには彼は脆すぎた。

 

パラドはビルドガシャットを手に取った。ガシャットに描かれた赤と青のライダーは何処か自分(パラドクス)のようにも見えたが、やはり違うようにも見えた。

 

 

「……行くぞ、俺」

 

 

その瞬間、流れ弾が一つ非常電源に突き刺さった。

 

……もう、迷う時間はなかった。

これ以上非常電源が壊されたら、聖都大学附属病院の電源は完全にストップする。そうすれば……この病院の患者は、命の危機に晒される。

パラドの脳裏に、永夢の姿が瞬いた。

 

 

『仮面ライダー ビルド!!』

 

「……やるしかない!!」

 

『ガッチャーン!! レベル アップ!!』

 

 

その瞬間に、パラドの迷いは振り切れた。彼はガシャットの電源を入れ、それをゲーマドライバーに装填しレバーを展開する。

 

 

『ラビットタンク!! ウサギと戦車!! ベストベストマッチ!! イェーイ!!』

 

 

その音声と共に、ガシャットから飛び出した赤と青の粒子が、煙のように彼を満たした。

 

一瞬パラドを包んだそれが晴れると共に、彼の瞳は赤と青に変色する。彼の節々から吹き出す二色の障気が、彼の変質を明示していた。

 

 

「何だ、この力……!!」

 

 

パラドが左腕を振ってみれば、それは轟音と共に空気を揺らした。左足で踏み込んで試しにアサシンに飛びかかってみれば、一瞬で敵に肉薄することができた。

 

仮面ライダービルドガシャットは、黎斗神が遭遇した仮面ライダー、仮面ライダービルドの変身形式を分析、模造したものだ。即ち……フルボトルの、そしてスマッシュの技術である。

現在のパラドには知るよしもないが、今の彼は人の姿を保ちながら、スマッシュのようになっていた。ビルドが本来いる世界の人物を引き合いに出すならば……万丈龍我だ。

 

 

「おい、大丈夫かパラド!!」

 

「ああ、今は、な……!! 今なら、負ける気がしねぇ!!」ブゥンッ

 

 

青いエネルギーを纏った、戦車の左腕。それはアサシンの胸元を殴り付けた。確かにへこませた。赤いエネルギーをウサギの左足に纏わせて突撃するパラドは、今度は右腕で素早くアサシンの頭を狙う。

 

攻める。攻める。攻める。絶え間無く距離を詰めて拳を振りかぶり、絶え間無くその足裏を叩き込む。

傍目から見れば、パラドはアサシンを圧倒していた。

 

しかしその在り方は無理があるものだと、レーザーターボは見抜いていた。いくら強くなったように見えても、パラドは生身だ。戦闘の途中で彼を形作るバグスターウイルスの一部が一瞬霧散したのを、彼は見逃さなかった。

 

 

「チッ、長引かせるのは不味いな……」

 

「ええそうね、それにこれ以上暴れられたら本当に不味いわよ!!」

 

 

マルタもそう悲鳴を上げる。

アサシンは押されているように見えて、既にパラドの攻撃に対応し始めていた。同時に非常電源の攻略にも本気を出し始めたらしく、彼の放つ音の刃はマルタの出す盾や光弾では防ぎきれなくなり始めていて。

 

そしてさらに都合の悪いことに、アサシンは宝具を発動しようとしていた。彼はパラドの攻撃を受け流しながらそのドライバーに手を伸ばし、キメワザを発動する。

 

 

『マイティ ドレミファ クリティカル ストライク!!』

 

「っ、不味い!! 宝具を使わせるな!! ここで攻撃用の宝具使ったらどうなる姐さん!!」

 

「壊れるわよ!!」

 

 

アサシンの背後にパイプオルガンが呼び出された。レーザーターボが危険を感じて激を飛ばす。あれを使われたら、一瞬でこのフロアは粉砕されるだろう。それは避けなければならない。かといって打ち消す手段はない。

 

マルタの宝具は二種類ある。どちらも、彼女が重複した幻想種、タラスクに関係するものだ。

一つは、今レーザーターボの言った攻撃用の宝具、愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)

そしてもう一つは防御用の宝具、彼女が何度も出している盾、刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)。少しの間だけ呼び出せるタラスクの皮であるそれは、今のままの使い方では心もとないにも程があった。

 

 

「……だったら」

 

 

レーザーターボが不意に何かを思い付いたらしく、マルタの所まで飛び退いて盾の裏を見た。内側に反ったそれはやはりゴツゴツとした竜の鱗を揃えていて。

 

 

「……行ける」

 

「え? 何、何を思い付いたの!?」

 

「話してる暇は無い、とにかくその盾であいつらを囲め!!」

 

「無理よ!!」

 

 

しかし、彼の提案は飲まれなかった。単純に不可能だったのだ。

 

レーザーターボの考えはシンプルな物だった。相手の攻撃を防ぐ手立てがなくとも、それを外に漏らさなければ耐えられる。マルタの盾を防壁に転用することで相手の攻撃を防ごう。そういうものだった。

しかしそれは不可能だ。マルタの出せる盾には限りがあった。時間にも限りがあった。リミッターがあった。

 

 

「いや、でも自分にはもうこれしか思い付けない。ここは自分に乗れ!!」

 

「だから無理なんだって!!」

 

 

そう言い合っている間にも、パイプオルガンにはエネルギーが溜まっていた。いつ破裂するか分かったものではなかった。向こうは何時でもこの病院の息の根を止められるのだ。もう予断を許さぬ状況だった。

 

 

「……そう言えば、ここにリミッターを外せる物があったじゃねえか」

 

「……まさか」

 

「令呪をもって命ずる!!」

 

 

レーザーターボの装甲越しに令呪が浮かび上がった。そしてその一画が消滅し、彼の言葉は絶対命令権を帯びる。

 

 

「ゲンムのアサシンをCRのアサシンとそのマスターごと、盾の宝具で包囲しろ!!」

 

「……ああもう分かった分かった!! 了解よマスター!! 刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)!!」

 

 

令呪によって数が増え巨大になった盾が、競り上がり、ファントムとパラド、そしてサンソンを囲んだ。即席のリングだ。外への攻撃の全てを防ぐ防壁だ。

維持できる時間は長くない。再び産み出すことも出来ない。ここで決めなければ、病院に明日はない。

 

 

「……宝具は使えるな、アサシン? 俺がお前にアイツを渡す、確実に決めろ」

 

「ええ、お任せを」

 

 

即席のリングとなった空間内で、パラドは己のサーヴァントに小さく呟いた。彼は突然現れた壁に対して始めは驚いたが、すぐにレーザーターボの意図を読んだ。

彼はサンソンの返事をろくに聞くこともなく飛び出し、キメワザを発動しながらその拳をアサシンに振りかぶる。

 

 

「はあああああっ!!」

 

『ライダー クリティカル ストライク!!』

 

 

その音声と共に、パラドを包んでいた障気が一層濃くなった。そして彼の全身は一瞬煙と化し、瞬時にアサシンの前に移動してその拳を顔面に叩きつけた。

 

 

   グシャッ

 

「ぬおッ……!!」

 

 

アサシンがよろける。体を仰け反らせ後方に下がり──しかし、それと同時に宝具を解き放った。

 

 

「……時は満ちた。歌え歌え我が天使……!!」

 

   ガガガガガガガガガガ

 

「っ──!?」

 

 

物理的破壊力を伴った音の洪水がパラドを襲った。それは彼を構成するバグスターウイルス一つ一つに大ダメージを食らわせ、ドライバーを剥がして防壁まで叩きつけた。

 

しかしパラドは吹き飛ばない。意地でもって大地にしがみつき、アサシンからバグヴァイザーをもぎ取った。

 

 

『ガッチョーン』

 

「……!?」

 

 

当然、アサシンの変身は解ける。パラドは切り傷まみれの自分の体を省みることもなくファントムのバグスターバックルにしがみつき立ち上がった。そして自分の全体重をかけて、ファントムをサンソンの方向へと投げ飛ばす。

 

 

「宝具を使え、アサシン!!」

 

 

そしてそう言った。腹をファントムの刃が突き抜けたことなど気にしてはいなかった。ファントムはよろけ、その全身はその一瞬だけ宙に浮いていた。

その一瞬で、サンソンは勝負を決めにかかる。

 

 

死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)!!」

 

   ザンッ

 

 

ギロチンの幻影が顕れた。その刃はファントムが地面に落ちるのと同時に落とされ、ファントムの首に突き立てられる。

しかし、断ち切れない。ファントムの意思がそれを拒んだ。

 

 

「クロスティーヌ……おお、輝かしきクロスティーヌ……!!」

 

 

ファントムの口が歌を紡ぐ。彼にあるのは愛した者への思いのみ。彼が思い返すのは黎斗の歩んだ旅路と、その自信に満ちた声のみ。

彼は信じている。クリスティーヌは勝利すると。勝利するのがクロスティーヌだと。

 

 

「このままだと駄目ですマスター、令呪を!!」

 

 

サンソンが悲鳴を上げた。既に幻影のギロチンは綻びを見せていた。防壁も消えかけていた。

 

 

「令呪をもって命ずる!! ゲンムのアサシンの首を断て!!」

 

 

他の手段はない。パラドの腕から令呪が一画消え失せる。その代わりに、ギロチンに力が加わり、とうとうファントムの首を断ち切った。

 

 

   ザンッ

 

 

 

 

 

「……君の声は聞こえない……二度と……二度と」

 

 

転がった首がそう言って、どこか満足げに消滅した。体も黄色い粒子になって、配管に消えていく。

既に壁は消えていた。そこにいた皆が、彼の消滅を見送った。

 

───

 

しばらく後。

 

 

「……そうか、間に合わなかったか」カタカタカタカタ

 

 

出来ればその光を捕獲したかったのだが、と言いながら黎斗神はキーボードを叩いていた。

現在の彼のライフは86。聖都大学附属病院の防衛と、傷だらけで気を失っているパラドの検診と、残留しているファントムの因子の解析と、非常電源のチェックを同時に行っているため、少しでも心が折れたら過労死するような状況だった。

 

 

「今のマスターは、どのような状況なのですか?」

 

「ビルドガシャットの副作用でバグスターウイルスの随所にバグが見られる。現在修復中だ。全く、私の手を煩わせて……」

 

 

コードだらけのヘルメットを被ったパラドが、眠っているにもかかわらずきまり悪そうに俯いた。彼は疲れが溜まっていた。それこそ、意識が保てない程に。黎斗神は彼を見ることもせずに彼を修復していく。

 

 

「君達バグスターが使ったからまだ良かったものの、生身の人間が使ったら確実に体が変質するだろうな、これは」カタカタカタカタ

 

「じゃ、自分もそれ使える?」

 

「使えるが使うな。これは私がまた改めて作り直すべき代物でウッ」

 

   バタッ

 

『Ga──』

 

「待って待って待って下さいマスター!!」

 

 

過労で倒れ付し消え行く黎斗神に、慌ててメディア・リリィが治癒をかける。これによって、ライフの節約になっているのだ。まあ、限界のときは何をしても黎斗神は過労死するが。

 

 

「……と、危ない危ない」カタカタカタカタ

 

 

何事もなかったかのように再びパソコンを睨む黎斗に、貴利矢は何処か訝しげな目を向けた。

 

 

「所で、あの光は何処に行ったんだ?」

 

「……恐らく聖杯の元だ」カタカタカタカタ

 

「聖杯?」

 

 

黎斗神はキーボードを叩きながら、彼が設定したときの聖杯について軽く解説する。

曰く、サーヴァントの魂を溜め込む器であると。

曰く、サーヴァントの魂が満たされたなら、万能の願望器と化すと。

 

 

「まあ、聖杯とは言ってもこの世界においてはFate/Grand Orderガシャットそのものがその役割を果たすのだろうが」カタカタカタカタ

 

「ほーん。じゃ、あの光は聖杯にまで飛んでったんだな? ……幾つの魂が入ったら完成するんだ?」

 

 

別に、貴利矢は万能の願望器は求めていない。本当に願いが叶うならばかつて死んだ友人の復活を望むかもしれないが、それは命の摂理に反することだ。

彼が気にしていたことは、既に相手の手元に聖杯(ガシャット)があるということだ。魂が貯まればすぐに願望器となるならば、相手が自由にそれを扱えることになってしまう。

 

 

「ざっと、七だ。七つの魂が籠った聖杯は願望器になる」カタカタカタカタ

 

「……そうか」

 

 

貴利矢はガシャットの奪取について彼に黎斗神に問おうとしたが、止めておいた。それだけ黎斗神の目に焦りがあった。

 

 

「……チッ。駄目だな、もう追い付けない……!!」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神から漏れた声を、貴利矢は聞かないふりをした。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


──パラド、夢の世界へ

「……ここが、サンソンの記憶か」

「御免なさいね……靴……汚してしまったら……」


──そして見えた本心

「お前はあれをどう思っているんだ」

「仕方のなかったこと、では、ありますが」

「……違うだろ?」


──進行する悪夢

「不味いぞマスター」

「あと少し、あと少しで……!!」

「どこまでも、ついていきますキアラさま……!!」


第十五話 Ring your bell


「怖いですね。あなたの瞳は、僕の迷いをあぶり出すようだ」

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