Fate/Game Master   作:初手降参

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そろそろ察し始めたかもしれないけど、この特異点のタイトルは全部Fateシリーズか仮面ライダーシリーズの曲名です
そのせいでもう早速タイトルに困ってます



第十三話 SURPRISE-DRIVE

 

 

 

 

「……クロスティーヌ、クロスティーヌ……」

 

 

ファントムは社長室を出て、階段を下りていた。そして自分に与えられた部屋に戻る途中で、外を眺めていたマシュと出くわした。

声をかけたのはマシュの方だった。ファントムが真黎斗に何かを言われたことは、ファントムの様子からして簡単に分かることだった。

 

 

「……ファントムさん」

 

「おお、マシュ……マシュ・キリエライト……」

 

「……黎斗さんに、何を言われたんですか?」

 

 

ファントムの方に、話さない理由はない。彼はマシュを、同じ歌姫(マスター)をサポートする仲間も思っていたから。故に彼は迷いなく、先程黎斗から言い渡された計画を説明する。

 

 

「……っ!!」

 

 

それはマシュにとってはやってはいけないことだった。

病院の電源を破壊する。それは、病院に生きる人々の命を剥奪することに等しいからだ。少なくとも聖杯(ガシャット)に与えられた知識はそう言っていた。

 

手術中に電気が止まれば、必要な機械が動かなくなる。それだけで、手術はほぼ不可能になる。手術中でなくとも、透析の為の機械など生命維持に欠かせない機械が止まれば、人は簡単に死んでしまう。

それは許せないことだと、マシュは思った。それを許してしまえば、許した自分はあの第四特異点での黎斗と、あの殺戮者と、もう何ら変わらないことになってしまう。

 

 

「駄目です、それはやっちゃ駄目です!!」

 

「クロスティーヌ、クロスティーヌ……我が魂はクロスティーヌと共に」

 

 

マシュはファントムを制止する。しかしその程度ではファントムが止まらないのは当然のことだった。当たり前のことだった。

彼は愛する者、クリスティーヌを真黎斗に重ねている。そういう風に、作られている。その認識を改めない限り、彼はクロスティーヌ以外の誰の言葉も聞こうとはしまい。

 

 

「いけません、それはやってはいけないんです!! 黎斗さんは、クリスティーヌではありません!!」

 

 

だから、そう言った。

 

それは、ファントムに対しては禁句だった。

 

 

「……言ってはならないことを言ったな」

 

「……!?」

 

 

次の瞬間には、ファントムの鋭い爪がマシュの喉元に添えられていた。一瞬の出来事だった。

もうファントムの声には歌うような調子すら残っていなかった。それはつまり、彼がいよいよ冷酷な殺人鬼に成り果てようとしているということだった。

 

 

「クロスティーヌの声は我が愛するクリスティーヌの声に他ならない。ならば彼はクリスティーヌだ。クロスティーヌだ」

 

 

マシュは何も言えない。彼女の命は、ファントムが少し親指を動かすだけで落ちかねなかった。

 

 

「私を止めるな。私は暗き底より神の御業を見上げるもの。私を阻むな。罪に濡れるとしても、私はそれを望む」

 

 

……次の瞬間には、彼は消え失せていた。初めからいなかったかのように。何とか一命をとりとめたマシュは、何も出来なかったことを悔いながら、しかし何かをすることも出来ずに天井を見上げる。

 

───

 

三日目は、これといった惨事はなく過ぎていった。聖都大学附属病院は深夜を迎え、少数の看護婦や関係者のみが病棟に残る。

CRもまた、夜を迎えていた。

 

 

「むー、暇ですー。ひーまーでーすー!!」バタバタ

 

「あのさぁ……」

 

 

サーヴァントに睡眠はいらない。眠る理由がない。趣味で眠る者もいるにはいるが、本来なら必要ない。故に眠らないBBは深夜という有り余った時間を持て余し、己のマスターで遊んでいた。

ポッピー……いや、仮野明日那の髪を弄り、背中をくすぐったりする。

 

 

「もう、暇だったら黎斗の手伝いとかしたら?」

 

「なんであんなゾンビみたいな……というかゾンビでしたね、なーんで私が、あれを、手伝わなくちゃいけないんです?」

 

「あぁ……」

 

 

明日那はその時、衛生省から届いた資料の整理を行っていたのだが、BBが彼女の髪を勝手に触ったりしてきたので、ちっとも集中出来なかった。

彼女はストレスを溜め、しかし発散することも出来ず悶々とする。

 

 

「私を退屈させちゃあいけません。裏切りますよ!!」

 

「何でこの子ここに来たのぉ……ねえ黎斗!? サーヴァントって、マスターと似ている存在が来るんだよね!?」

 

 

明日那は堪らず、防衛中の黎斗神に助けを求めた。

 

 

「基本的には、だが。君達は……共通点は……コスチューム、チェンジか?」カタカタカタカタ

 

 

しかし黎斗神の方も、二人を結びつける強い共通点は見つけられなかった。

今回、黎斗神はCRのサーヴァントを呼び出す際には何の触媒も使用していない。つまり縁召還と呼ばれる形式を実行した訳だ。

縁召還とは、マスターとの縁……性格や性質の共通点を触媒として、マスターと似た、もしくは相性の良いサーヴァントを呼び出す形式である。

 

 

「「コスチュームチェーンジ!!」」

 

「あー、センパイ目立ちすぎですねそのデザイン!! あの地味ーなモードに戻って下さいよ」

 

「あーもう!! ピプペポパニックだよー!!」

 

 

ポッピーとBBではどうにも相性は悪く、根は真面目なポッピーとどうにもふざけて見えるBBでは、黎斗神は似ているとは思えなかった。真黎斗がBBを完成させた以上、設定を弄っている可能性も大いにありはするのだが。

 

 

「まあまあ。仕方ないから、出掛けてきたらどうだ?」

 

 

角砂糖を二つ程入れたコーヒーを飲みながら貴利矢が言った。

妥協案だ。BBは戦力にはなり得る以上、裏切られるのは不味い。令呪で自害させることは出来るらしいが、ただ失うのも勿体無い。

 

 

「でも、一昨日も休んだのに……」

 

「裏切られたら困るだろ? 周囲の監視ついでに、二人で出とけ」

 

「そうと決まれば外出しましょう!! ほら早く!!」

 

「今から!? ……ピヨる……」

 

 

今は言うことを聞くしかなかった。

ポッピーは肩を落とした。非常にやりにくいが、こうもなってしまえば仕方がない。諦める他なさそうだった。

 

───

 

午前4時。

CRには、キャスター陣営、ライダー陣営、アサシン陣営が残っていた。ムーンキャンサー陣営はさっさと出ていってしまった。

 

黎斗神のライフは残り89。現在はギリギリチャンバラとシャカリキスポーツの調整を終わらせ、ドラゴナイトハンターZの調整中だった。

貴利矢は椅子の上に横たわって眠っていた。本来ならバグスターに睡眠はいらないのだが、彼は生前の習慣から眠らずにはいられなかった。

パラドはゲームしていた。とはいっても昨日のように気まずくなるのは避けたかったので、画面はサンソンに見せないようにしていた。

 

その時だった。

 

 

   パッ

 

「なっ!?」

 

「電気が、消えた!!」

 

 

突然CRが停電したのだ。電灯も、パソコンの画面も暗くなり、CRは闇に包まれる。

 

数秒の後に非常電源に切り替わったことで再び電灯はついたが、パソコンは当然暗いままだった。電源が落ちたのだろう。黎斗神は再びパソコンをつけながら舌打ちする。

 

 

「……やられた。これは不味い」

 

「どうしたんですかマスター!?」

 

「先程までのデータが破損した。修正しなければ……!!」カタカタカタカタ

 

 

停電して、セーブもせずに電源が切れたことによって、調整途中だったドラゴナイトハンターZのデータと、これまでに積み重ねた真黎斗との戦いのデータに破損が生じたのだ。当然ドラゴナイトハンターZは作り直し、真黎斗とのデータも直さなければ、向こうの組み立てるCR攻略プログラムに対抗できない。

 

 

「……どうやら東京が一斉に停電したらしいな」

 

 

パラドがスマホを取り出して、ニュースの速報を音読する。それは、東京全体の変電所、発電所等が一斉に動きを止めたということを告げていた。

それが真黎斗によるものだということは、皆察していた。しかし抵抗する術は、CRにしかなかった。

 

 

「今は非常電源で長らえている、ということか。パラド、ここの非常電源は何で動いている?」カタカタカタカタ

 

「知るかよ、ガスか何かだろ」

 

「……まあ、君が知っている訳はないか」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神はそう言いながら復旧作業に勤しむ。

しかし、メディア・リリィが何かに気づいたようで、恐る恐る黎斗神の肩を叩いた。

 

 

「どうしたキャスター!!」

 

「……今、私の敷いた探知網にサーヴァント反応が出ました。アサシンのサーヴァントです、気配遮断されたせいで気づけませんでした……」

 

「……いよいよここまで来たか!! パラドォ!! 九条貴利矢ァ!!」

 

「うぇ!? 何だ何だ!?」

 

 

黎斗神は目を見開いて貴利矢を叩き起こした。

どうやら、一応聖都大学附属病院をメディア・リリィの工房のような状態にしておいたことが功を奏したらしい。気づけなかったら終わりだった、と思いながら黎斗はサーヴァントの場所を問う。

 

 

「場所は……地下三階です。地下三階にアサシンのサーヴァントが侵入しています!!」

 

「地下三階? ……まさか」

 

「……マジかよ!! 非常電源はまだ無事なんだな!?」

 

 

地下三階。そこに、聖都大学附属病院最後の生命線、非常電源が設置してあった。もう、一刻の猶予もない。

既にメディア・リリィは妨害のためのトラップを起動させてゲンムのアサシンを止めていたが、それもいつまで持つかは分からなかった。

 

 

「……駄目だ、人手が足りない!! 向こうも変身するからな、自分と姐さんとアサシンじゃ足りねえぞ!!」

 

 

貴利矢が白衣を羽織ながらそう言った。非常電源を守るためには、拮抗状態では足りない。指一本も動かせなくするために制圧する必要がある。

 

今地下三階に出向けるのは、ライダー陣営とアサシン、後は戦えないパラドしかいない。

黎斗神は言わずもがな、メディア・リリィもトラップの操作のため残らなければならなかった。

 

 

「……これ、使えるか?」

 

『仮面ライダー ビルド!!』

 

 

……パラドが、黎斗神の机の中から仮面ライダービルドガシャットを取り出して言った。電源は入る。使える。

しかし黎斗は彼を止めた。

 

 

「止めた方が良いぞ、それは。それではビルドには変身出来ない。それはあくまで私が交戦した仮面ライダービルドの変身方式をガシャットにて再現したものであり、ビルドの形を真似ることは出来ない」

 

「使ったらどうなる?」

 

「使ったら──」

 

 

黎斗はパラドに、仮面ライダービルドガシャットの難点を話す。

そもそも、そのガシャットは未完成であること。故に、ビルドにも、ビルドを模したレジェンドゲーマーにもなれない。

そして、そのガシャットが再現したのはあくまで変身の形式であること。つまりそれを一本で使用したならば──

 

 

 

 

 

「……つまり、戦えるんだな?」

 

 

……しかしパラドは、黎斗神の説明を飲み込んだ上でそう言った。そして飛び出していく。

黎斗神はその背中を見送り、再びキーボードを叩き始める。貴利矢はどうすればいいのか迷う様子を見せたが、黎斗神に怒鳴られて飛び出した。

 

 

「とにかく早く行け!! 非常電源が壊されたら終わりだ!!」

 

「はいはい分かった分かった!!」

 

 

聖都大学附属病院の患者の命が、彼らにかかっている。




次回、仮面ライダーゲンム!!


──非常電源防衛戦

『ラビットタンク!! ウサギと戦車!! ベストベストマッチ!! イェーイ!!』

「何だ、この力……!!」

「長引かせるのは不味いな……」


──切られたジョーカー

「「令呪をもって命ずる!!」」

刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)!!」

『ライダー クリティカル ストライク!!』


──狂人の希望

「共に、歌いましょう……!!」

「駄目だ、宝具を使わせるな!!」

「ここで、倒す!!」


第十四話 Believer


「君の声は聞こえない……二度と、二度、と……!!」

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