この作品は今日まで恋愛要素なしでやって来たけど(あるとしても微弱なマシュロマ的な何か)、やって来たけど……
うーん、うーん……魔力供給()とかいう美味しい設定あるし……せっかくのマスターとサーヴァントのしっかりいる聖杯戦争だし……
……困ったなぁ、脳内の宝生永夢が恋愛経験皆無のチベスナ系男子と化してるからなぁ……
……どう思います?
「ん……ふわぁ……」
宝生永夢が目を覚ましたとき、真っ先に感じたのはアルコールの臭いだった。布団から起き上がって辺りを見回してみれば、何故か部屋は整理整頓され、埃の類いも取り払われている。
「……あれ、あの……ナイチンゲールさん?」
「おはようございます、マスター」
そして彼のサーヴァントであるナイチンゲールは。
永夢のベッドの下を掃除していた。
「……何してたんですか?」
「部屋の掃除ですが、何か」
「……」
別に、別にベッドの下にそういう類いの本があったわけではないが。それはそれとして、寝ている間に部屋の隅々まで綺麗にされていたというのは何処か複雑だった。
というか、物凄く丁寧に掃除してある。とても一、二時間で出来る技とは思えない。
「……もしかして、僕が寝てからずっと……?」
「ええ。部屋の衛生は健康に不可欠ですから」
「寝なくて良いんですか?」
「サーヴァントに睡眠は不要です」
ナイチンゲールはそう言いながらも手を止めない。永夢の家にあるアルコールはもう底をつきかけている。
ナイチンゲールはそれを確認して小さくため息をつきながら立ち上がった。そしてどこか満足げに綺麗になった部屋を眺めて、その後に唐突に永夢を押し倒す。
「失礼します」
ドンッ
「ふえっ!? え、ナイチンゲールさん!?」
「昨日怪我した足首の様子はどうですか」
そう言いながら彼女は永夢の右足を診察し始めた。永夢はといえばそのことはこれまでの展開のせいで忘却の彼方に追いやっていたのだが、患部に圧が加わったことによる痛みで再びそれを思い出す。
「イッ……たた」
「……最近の技術とは凄いものなのですね。私たちの頃なら即切除でしたが、これほどまでに治りが早いとは」
ナイチンゲールはそう言いながら包帯を取り替えた。馴れた手つきだった。永夢は身動きすることも出来ず、熱心に包帯を替えるナイチンゲールの頭を眺めることしか出来ない。
そして、今さらになって彼は、女性と一晩同じ部屋にいたのだという事実を実感した。
「……終わりましたマスター。マスター?」
「~~!!」
永夢は顔を赤くして塞ぎ込んだ。
───
「あ"ぁ"……う"ぁ"ぁ"……!!」カタカタカタカタ
「……全然進まないな、神」
「データが……データが足りないぃ……!!」カタカタカタカタ
CRでは、相変わらず黎斗神が呻いていた。メディア・リリィも流石に疲れてきたらしく、ベッドの上で無言で震えている。
進まない理由は簡単だった。単純に情報が足りないのだ。サーヴァントの情報に厳重に鍵がかけられているせいで、ちっとも対サーヴァントプログラムが組上がらないのだ。
「でもサーヴァントを産み出したのも貴方なんですよね? だったら仮に別の存在になっていても分かるのでは……」
マルタがそう言う。その言葉は至極最もで、貴利矢も頷いた。
黎斗神はそれに首を振り、キーボードを叩きながら答える。
「……向こうには、恐らく真黎斗に加えてもう一人私がいる。そっちがパスワードを好き勝手に書き換えたのだろう……!!」カタカタカタカタ
「……は?」
「……え?」
……今、何と言ったか。
黎斗が? さらに、もう一人?
「……おい神、どういうことだ」
「ナーサリー・ライム……私の才能を引き継いだキャスターのサーヴァント……向こうではそれが加勢している筈だァ……」カタカタカタカタ
「何でそれを言わなかったんだよ!!」
「わ"た"し"に"口答えす"る"な"ァ"ァ"っ"ー!! ……ヴッ!!」バタッ
『Game over』
叫ぶ貴利矢。黎斗神はそれに叫び返し、そのショックで地に伏した。そして灰となって砕け、消滅する。まあ、次の瞬間には紫の土管が生えてきて、そこから黎斗神が現れるのだが。
テッテレテッテッテー!!
「フゥッ!! 残りライフ、95……この際だ、私が事の顛末について簡単に語ってやろう」
「奇跡の概念が崩れていく……」
マルタは頭を抱えた。キリストの復活の奇跡がこうも簡単に、手軽に再現されてしまってはどうしようもない。
それはそれとして、黎斗がもう一人いるという衝撃の事実については、確かに黎斗神を問い詰める必要があった。向こうから話してくれるなら話は早い、貴利矢はマルタの座っていた椅子の近くの壁にもたれ、黎斗神の話を聞くことにした。
「あれは、私がFate/Grand Orderの原型のテストプレイを行っていた時だった──」
───
「……分かってくれたか、親父」
「……お前を疑ってすまなかった」
「いや……俺も、事前に知らせるべきだった」
またCRの二階では、飛彩とジャンヌが灰馬と向かい合って話していた。灰馬はずっと怒り心頭なままでここまで連れてこられたが、飛彩の必死の説明によってようやく状況を理解し、素直に謝罪する。
「じゃあ、そこにいるジャンヌさんは、バグスターで、お前のサーヴァントなのか?」
「そういうことだ」
「サーヴァント・セイバー。ジャンヌ・ダルクです」
ジャンヌはそう言って頭を下げた。灰馬はその様子がどこかお見合いのように思えてあまりよい気分ではなかったが、今大切なのはそれではない。
「ジャンヌ・ダルク……百年戦争の、ジャンヌ・ダルク?」
「はい、そのジャンヌ・ダルクです」
「……正確には、ジャンヌ・ダルクの逸話を元に真檀黎斗が産み出したバグスターだが」
ジャンヌ・ダルク。救国の聖処女。
百年戦争にて、イギリスに追い詰められオルレアンに立てこもったフランス王シャルル七世を救うために立ち上がった農村の娘。
騎士のしきたりを無視した当時あり得ない戦法でフランス軍を動かし、オルレアンを解放した彼女は最終的に彼女の人気を怖れたシャルル七世によってイギリスに売り渡され、火刑に処された。
そんな人物がいるのだ、灰馬は少しばかり敬語になる。例えそれがバグスターでも。
「……所で、小姫さん、とは……誰なのですか?」
……今度はジャンヌが聞く番だった。彼女は、飛彩と灰馬の口論で何度も出てきた小姫、という人物について全く知らなかったのだ。昨日飛彩が言っていた彼女なのかもしれない、とも思うが根拠はない。
飛彩と灰馬は少しの間見つめあった。話すべきか話さないべきか、その葛藤は共に抱えていた。
……しかし、話さないという選択肢を取る気には、飛彩はなれなかった。昨日ジャンヌに諭されたばかりかもしれない、そう思いながらコーヒーを啜る。灰馬の目を見てみれば、彼も話すべきだと思っているように見えた。
「……」ズズッ
「……飛彩」
「分かってる……俺が話す」
灰馬はそこで席を立った。彼の後方から、飛彩とジャンヌが小声で会話するのが聞こえてきた。
───
「なーんでどこのゲームセンターも空いてないんでしょうかねー!!」
「仕方ないよ、どこも機械の調子悪いんだから」
カフェに入りそびれて行く宛を失った明日那とパラドとBBは、仕方なくパラドや永夢行きつけのゲームセンターを訪ねようとしたが、しかしそれも出来ず困っていた。
既に、どこのゲームセンターの機械も真黎斗による干渉が加わり、動作不良を起こしていたのだ。画面には紫のラインが走り、カメラは乗っ取られ、クレーンゲームのアームは操作している人間を襲おうとするのだ。
「黎斗……どうしてこんなことをしたんだろう」
「あのゲンムは滅茶苦茶だ、こっちのゲンムならこんなことしないのに……!!」
そう呟く。恨みを込めて。
しかし、本来の檀黎斗ならそれをしても何ら不自然ではないのだ。何しろ小学生の才能に嫉妬してウイルスを送りつけた男だ、人々の機械を全て乗っ取るなんて、彼にとっては造作もないことなのだ。
それをCRの檀黎斗がしないのは、ポッピーピポパポという、彼の母から生まれたバグスターの制止があるからにすぎないのだ。
「じゃあいっそ、ゲンムコーポレーション潰しに行きますかセンパイ? 暇で暇でBBちゃん死にそうです!!」
「駄目だよそれは!! 今は向こうのことよく分かってないんだから!!」
BBが漏らした言葉に、明日那は慌てて反論した。今ゲンムコーポレーションに突撃しても、ガシャットがない以上どうしようもない。バグヴァイザーⅡは明日那の手元にあるが、それだけでは何も出来ないのだ。
……しかし、そうも言っていられない事態が発生した。
ブゥン
「っ──」
「なっ──!?」
明日那とパラドが違和感に目を見開いた。既に彼らが何度も肌で味わってきた感覚が、長時間体に押し寄せてくる。
「これは……ゲームエリアの拡張!?」
「この勢い、まさか」
そう、ライダーガシャットの電源を入れたに展開されるゲームエリア、あれが広がるときの感覚が彼らを襲っていた。しかもそれは一瞬ではなく、何秒も続いていく。それはつまり、それだけゲームエリアが広いということ。
明日那とパラドは顔を見合わせた。これは、不味い。
唐突に、役所の方向からサイレンが聞こえてきた。本来なら地震やミサイル等の災害時にのみ流されるそのサイレンの後に、誰かの声で放送が入れられる。
『東京都全体にザザッ謎の電波障害がザザッ発生しましザザッ』
「っ──」
『個人情報ザザッ漏洩の恐れザザーッあります、パソコン、スマホ等のザザーッ ザザザザッ ブチッ』
「……不味い、これじゃあ、東京都が……!!」
黎斗の支配する地平が広がりに広がって、東京都全体に伸びた瞬間だった。
───
『ザザザザッ ブチッ』
「おーおー、面白いことになってきたのう」
「そうねー、子ブタがあたふたしてて面白いわ」
「……」
その頃信長とエリザベート、そしてマシュは、クレープを食べ歩きながらビル街を歩いていた。回りの人々は慌てて黎斗の支配下に置かれたスマホに手を伸ばしているが、彼女らはそれを気に止めなかった。いや、マシュは気に止めていたが、声に出せなかった。
唯一この三人だけが、屋外で慌てていない存在だった。
「にしてもこれも美味しいわね、ずるいわ本当」
「そうじゃなあ、正直このくれえぷなら十は余裕じゃぞ、十は。マシュはどうだ?」
「え、ああ、私も美味しいと思います」
全く動じない三人は、端から見れば異質だった。彼女らは、これが己のマスターの計画だと理解していた。
この地上が真黎斗の、ひいてはバグスターの物になるまでのカウントダウンは、始まりを告げようとしていた。
次回、仮面ライダーゲンム!!
──動き出す真黎斗
「聖都大学附属病院を襲撃しろ」
「……了解した」
「承りました、我が神よ!!」
──調整されたガシャット
「爆走バイクの仮調整完了!!」
「逆にこっちから攻めに行くのか?」
「今こそ向こうは手薄の筈だ……!!」
──そして、病院前での攻防
「これ以上は下がれないぞ!!」
「ジャンヌ!! ジャンヌではありませんか!!」
第九話 Brave shine
「俺に斬れない物はない!!」