Fate/Game Master   作:初手降参

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真面目に、永夢には彼女がいたのだろうか

パラド人格なら三、四人くらい引っ掛けてそうだけどなぁ……永夢の方だと皆内心で怖がってそうだしなぁ……怒らせたら怖いとか絶対思われてるよなぁ……

友達少なかったんだろうなぁ……チベスナとか渾名つけられてそうだなぁ……

……キスしたことあるのかなぁ……されたらどんな顔するんだろう……怖いなぁ……



第五話 Disillusion

 

 

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! X!!』

 

『アガッチャ!! デーンジャ デーンジャー!! デス ザ クライシス!! デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

黎斗神の姿が変わっていく。その姿は死を纏い、禍々しく障気を吐き出す。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

 

真黎斗の姿も変わっていく。その姿は黒くなり、誰よりも先を行かんとする。

 

 

『『ガシャコン スパロー!!』』

 

 

二人は同時に武器を取った。黎斗神のゲンムにとっては、九条貴利矢から調整と称して借りてきた武器、真黎斗のゲンムにとっては、ガシャットに残っていたデータからの複製品。

ゲンムにとっては使いなれた武器を構えた二人は、同時に足を踏み出して。

 

 

「はあっ!!」

 

「ふんっ!!」

 

   ガギンッ ガンガンガンガン ガギンッ

 

 

火花が飛び散る。風を切る音は頬を掠り、衝撃は骨の彼方まで。互いに油断はない、ただ、相手()を越える。それだけを見据えて。

 

───

 

「おー、やっとるやっとる。にしても初っぱなから同一人物の対決とか配分ミスも甚だしいじゃろー……こういうのは最終決戦一つ前位にやるもんじゃないのか? バランス大丈夫か?」

 

 

ゲンムコーポレーションの社長室から、信長はそれを見下ろしていた。どこからか持ってきた折り畳み椅子に腰掛けて、愉快そうに笑いながら眼下の戦闘を眺める。さながら野球かサッカーの観戦のようだった。

丁度、レベルにⅢを代入した真黎斗のゲンムがプロトドレミファビートを装備して、黎斗神のゲンム相手に七連続攻撃を加えていた。

 

 

「どっちも、黎斗さんですか……」

 

「どっちがどっちか良く分からないがのぅ。今のところは白い方が敵で黒い方がマスターじゃが、マスターも白くなったら見分けがつかぬ」

 

「でも、私のマスターの方が強いわよ、きっと!!」カタカタカタカタ

 

 

マシュもまた、信長の隣で座りながら戦闘を眺めていた。ナーサリーはパソコン操作の横目に確認する程度だが、己のマスターが勝つことは確信していた。

さらに観客は増えていく。

 

 

「おお!! 神対神の決戦でございますか!! これぞ正しく最後の審判!!」

 

「……それならばラグナロクの方が相応しくはないか?」

 

「おっ、ジルにアヴェンジャーも来たか!! 丁度いい、酒持ってこい酒!! マスターの戦闘を肴に飲むぞ!!」

 

 

やって来たのはジル・ド・レェとアヴェンジャー。社長室への出入りに制限はないこともあってか、段々とこの部屋も騒がしくなり始めていた。

 

 

「酒なんてあるわけないだろう。会社だぞ、ここは」

 

「むっ……一人くらいこっそりここで飲む奴とかおらんかったのか? つまらんのう」

 

「そんな人がいたらボーナス減らしてるわよ、全く……あ、ガシャット渡しておくわね?」

 

 

ナーサリーがそう言いながら、ジル・ド・レェとアヴェンジャーに、それぞれタドルクエストとドラゴナイトハンターZのセットと、パーフェクトパズルとノックアウトファイターのセットを渡す。そして二人に二つめ、三つめのガシャコンバグヴァイザーL・D・Vを差し出した。

 

 

「あれ、三つ目作ったんですか?」

 

「そうね……作ったというより、ガシャットのデータをコピーしたって言う方が正しいかしら」

 

 

そう言いながらナーサリーは誇らしげにウィンクする。機嫌は良さげであった。また、彼女の中の檀黎斗の才能の調子はすこぶる良好であった。

 

 

「……あ、マスターの方のゲンムがデンジャラスゾンビ使ったようじゃな。さっぱり見分けがつかなくなった」

 

 

再び二人のゲンムに目を落とした信長が実況を再開する。明日からは手頃な酒を買わないとな、等と、呑気に考えていた。

 

───

 

『デンジャラス クリティカル フィニッシュ!!』

 

「ぶぁぁあっ!!」

 

   ガギンッ

 

「っ……」

 

 

黎斗神のゲンムが、鎌の形態にしたガシャコンスパローでキメワザを発動した。死を刀身に滾らせた斬撃が真黎斗のゲンムへと襲いかかる。しかし真黎斗の方も黙って受ける訳はなく、己のガシャコンスパローで相殺を試みた。

結果、互いにこれといった傷はない。というか真黎斗はリプログラミングを受けていないデンジャラスゾンビを使用しているため、余程のことがない限り傷を負えない。

 

 

「なるほど……流石は私か」

 

 

ピンピンしている真黎斗を見て、黎斗神のゲンムは相手の状況を把握した。そして後ろに構えていたメディア・リリィに目線をやる。

それだけでメディア・リリィはやるべきことを察し、チャージした光線を一気に解き放った。

 

 

「サークル構築完了、撃ちます!!」

 

   ズドンッ バチバチバチバチ

 

 

光線が夜空を突き抜ける。長時間チャージされた高エネルギーのそれは強い輝きを放ち、予測不能な動きをしながら何本にも何十本にも別れて、四方八方から真黎斗のゲンムを狙う。

そしてその目的は攻撃に非ず。黎斗神がガシャットを奪うための目眩ましに過ぎない。

 

 

「貰った!!」

 

『デンジャラス クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ズパァンッ

 

「っぐぅっ!!」

 

 

光線を潜り抜けて真黎斗のゲンムの懐に飛び込んだ黎斗神のゲンムが、彼の胴を全力で斬りつけた。そして、その攻撃の勢いで大きく仰け反り一瞬死ぬ真黎斗からデンジャラスゾンビを抜き取る。

 

 

『ガッシューン』

 

「ふはははは!! 取ったァ!!」

 

「がはっ、賢い、真似をぉ……!! だが……来い!!」

 

 

高笑いする黎斗神。しかし真黎斗の方もただで終わるつもりは毛頭なく。

彼は空を仰いだ。ゲンムコーポレーションの屋上を仰ぎ見た。そして──そこから降ってくる男を見た。

 

 

「お待たせしました神よ!! 我が涜神をご覧あれ!!」

 

『バグル アァップ』

 

『辿る巡る辿る巡るタドルクエスト!!』

 

『アガッチャ!! ド ド ドラゴナーナナナーイ!! ドラ ドラ ドラゴナイトハンター!! Z!!』

 

「っ、ジル・ド・レェ!?」

 

 

その男こそは、真黎斗が危機に陥る徴候を見るや否やゲンムコーポレーションの屋上まで駆け上がり、出番を待っていたジル・ド・レェ。

今や彼はバグヴァイザーL・D・Vとタドルクエスト、ドラゴナイトハンターZの両ガシャットの力によって仮面ライダーキャスターとなっていた。そして空中で宝具を発動、切り落とすことに特化した無数の触手と共に黎斗神へと突撃する。

 

 

『タドル ドラゴナイト クリティカル ストライク!!』

 

「フフハハ、アーハハハハハハハ!!」

 

「っ、不味い!!」

 

 

黎斗神のゲンムは即座に飛び退くが逃げ切れず、デンジャラスゾンビを持った右手を深く切り裂かれた。当然ガシャットは取り落とし、黎斗神のゲンムは再び危機に陥る。

 

 

「君が来たか、ジル・ド・レェ……!!」

 

「ええ、お久しぶりでございますね、我が神の片割れよ……しかして今の私はサーヴァント、我がマスターたる方の片割れに従うのみ!!」

 

 

そう語るキャスター。彼は高笑いと共に黎斗神を威嚇し、飛びかかる。

黎斗神のゲンムはそれを受け流したがキャスターはその勢いのまま、黎斗神の背後にいたメディア・リリィを突き飛ばして触手で拘束した。

 

 

「っきゃあっ!?」

 

 

締め上げられて呻くメディア・リリィ。触手の刃が肉に食い込み、服は破れ、体は傷つけられていく。……まあ、誰も彼女を見ようとしていないことは数少ない幸運だろう。

キャスターは更に、真黎斗にデンジャラスゾンビを返還した。

 

 

「これを、マスター」

 

「よし、良くやったジル・ド・レェ」

 

『N=Ⅹ!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

そして真黎斗のゲンムは再びレベルにⅩを代入、デンジャラスゾンビの姿に変貌する。

対する黎斗神の方のゲンムは右腕に痛みが走る上、もう残りライフは半分も無かった。

 

しかし黎斗神のゲンムには、一つの確とした勝算があって。

 

 

「ならば……切り札を切らせて貰おう」

 

『ハイパームテキ!!』

 

「……来たか」

 

 

それこそがハイパームテキ。黎斗神は、永夢がこのレベル制限の設けられた空間の中でもハイパームテキが起動することは確認していた。それ故に、永夢からも調整と称してガシャットを奪い取ったのだ。

 

 

「……行くぞ」

 

『ガッチャーン!!』

 

 

そして黎斗神はそれを使用した。デンジャラスゾンビの入っていたスロットにハイパームテキを挿入し、彼の体は輝きに包まれる。

 

 

   ガコンッ ガコンッ  カンッ

 

『N=∞!! 無敵モード!!』

 

「はあっ!!」

 

 

それに対抗するように、真黎斗はNに∞を代入、無敵モードと化す。

そして同時に大地を蹴り、相手を全力で蹴り穿つ。

 

 

「「はああああっ!!」」

 

   ズバァッ

 

 

 

 

 

「っ、馬鹿な、っ……!?」

 

「んぐっ、マスター!?」

 

 

……膝をついたのは、()()()の方だった。本来ならあり得ないことだった。

ハイパームテキは、相手のパワーアップするシステムに干渉し無効にするシステムを持っている。本来ならマイティアクションNEXTの、攻撃力を無限に強化するシステムに干渉し無効化出来るはずなのだ。

 

 

「っ……」

 

「期待はずれだな、それでも私か?」

 

「……何故、だ?」

 

 

胴体の右半分を焼け焦がした黎斗神のゲンムが、痛みに堪えながら問う。ライフはもう残りゲージ二つ分程しかない。

 

 

「……不思議だとは思わなかったのか? 本来マイティアクションNEXTは、この世界にはないガシャットなのに……この世界で使うことは出来ないはずのガシャットなのに、なぜ使えるのか」

 

「……まさか、ここは?」

 

「そう、ここは既にFate/Grand Orderと同質の世界。私が創造神であり、私の意のままに動く世界」

 

 

……そもそもハイパームテキは、仮面ライダークロニクルのプレイヤーキャラとなるはずだった伝説の戦士、クロノスに対抗する為のゲームである。その力は仮面ライダークロニクルにてガシャットロフィーとなるゲームに対して作られたものである。

だからといって他の物に強くない、ということは断じてないが、それでも完全対応という訳ではない。本来、Fate/Grand Order等というゲームに対して使うことなど想定していないのだ。

 

更に、現在二人のゲンムが戦っているのは、真黎斗の支配下となった空間だ。既に一月の間情報収集を行ってハイパームテキの存在を把握していた真黎斗が、対策を行っていない筈がなく。

 

つまり、ハイパームテキの能力が下がっていた。相手に干渉出来なくなっていたのだ。ハイパームテキにはレベルは存在せず、レベル制限にはかからないが。それでも、相手に干渉する力が剥奪されたことによって、攻撃の威力は下げられたのだ。

 

 

「私はこの世界のテクスチャ全てを把握し、操る。……このように!!」

 

   ガンッ

 

「ぐっ……」

 

 

真黎斗のゲンムが手を振りかざすだけで、近くにあった明らかに金属製の街灯がねじ曲がり、ゴムのようにしなりながら黎斗神のゲンムの腹を殴った。

吹き飛ばされた黎斗神は街道から競り上がったコンクリートの壁に打ち付けられ、近くにあった分電盤に殴られ、足を捕まれて道に叩きつけられる。

まるで意思を持ったかのような動き。それらを制御しているのは他でもない真黎斗で。

 

 

「マスター!? この、放してっ、下さいっ!!」

 

「それは出来ませんねぇ。我が神の所業は誰にも邪魔できない神の意思であるが故に!!」

 

 

メディア・リリィは見ていることしか出来ない。触手に弄ばれ宙吊りにされている彼女は暴れても何にもならない。

 

彼女の前では、傷だらけでのたうち回る黎斗神のゲンムが、咳き込みながらよろよろと立ち上がっていた。

 

 

「げほっ、かはっ……だが、この程度で終わる私ではない!!」

 

「そうだろうとも、だが……教えてやろう。私のライフの数は──無限だ」

 

「なっ──」

 

 

さらに告げられる絶望。

真檀黎斗のライフに、限りはない。

檀黎斗神のライフは、あと二つだと言うのに。

 

 

「私の存在はこの空間そのものとリンクしている。この空間がある限り、それが私の存在を証明する」

 

「……私でありながら、厄介な奴め……」

 

()の残りライフは幾つだ、檀黎斗神?」

 

「……二つだ」

 

「そうか……では、また一つ削らせてもらおう」

 

 

苦い顔をする黎斗神のゲンムに、真黎斗のゲンムがガシャコンスパローを突き刺した。

加減は全くない。相手が自分でも関係ない。ただ、己より優れた才能を、ひたすらに否定するだけ。

 

 

   ザンッ

 

「っ──」

 

『Game over』

 

 

黎斗神の変身は解けた。彼の姿はぶれ、紫の欠片が飛び散り、そして霧散していく。

しかし彼には最後の手段が残っていた。

 

左手を掲げる。赤い光が腕に満ちて。

 

 

「……令呪をもって命ずる!! キャスター、私を修復せよ!!」

 

「っ……はい!!」

 

   シュッ

 

 

その命令によって、CRのキャスター……メディア・リリィはジル・ド・レェの元から強制転移し、消え行く黎斗神の頭上に現れた。そしてその杖を振り上げ、黎斗神へと降り下ろす。

 

 

修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)!!」

 

   カッ

 

 

光が消え行く黎斗を照らした。極光はその姿を白く染め──

 

 

 

 

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「……成功か。私の残りライフは、メディア・リリィの宝具によって回復した。残りライフ──98」

 

「何だと?」

 

 

土管から現れた黎斗神は、自分の手足を見ながら呟いた。今度は、真黎斗が驚く番になっていた。

 

 

「おかしい……メディア・リリィの宝具はあくまで疵を治す宝具、令呪があっても(ライフ)の回復は不可能のはず!! そしてハッキングは防いでいる、設定の書き換えは出来ない!!」

 

「と、思うだろう? ……私を嘗めるな。設定の変更は不可能だったが──定義への干渉は成立させた」

 

「……まさか」

 

 

彼が行ったことは簡単だ。メディア・リリィを解析し、その宝具の効果を確認した。そして彼女のシステムを解析し、抜け道を抉じ開けた。

 

 

「私にとっての死とは全てのライフを失うこと。私にとって無傷の状態とはライフが99あるということ。つまり」

 

「なるほど……範囲の変更か。だがもう種は理解した、次はないぞ」

 

「知っているさ」

 

 

それを承知でここに来た。彼はハッキング自体は難しいと判断し、己の体を賭して情報収集を試みた。

そして同時に、ライフの回復を実践したのだ。

 

 

「大丈夫ですか、マスター?」

 

「当然だ。……ところで、私の予想が正しければ、そもそも迎えが来る筈なんだがね」

 

「え?」

 

 

真黎斗のゲンムと睨み合いながら、黎斗神はそう言った。メディア・リリィは慌てて周囲を見渡す。

そして、夜の向こうに一台のバイクを見た。

 

 

『爆走 クリティカル ストライク!!』

 

「ぅうおりゃあああっ!!」

 

「はああああっ!!」

 

 

貴利矢の変身する仮面ライダーレーザーレベル2。どこからどう見ても立派なバイクであるそれにCRのライダー、マルタがまたがり、此方へと走ってきていた。しかもキメワザを発動しながら。

 

 

「「うおおおおおおおおお!!」」

 

「何とっ!?」

 

   ズガンッ

 

 

二人はそのままジル・ド・レェを撥ね飛ばし、真黎斗のゲンムにも排気を大量に浴びせてから、黎斗神の隣に停車した。

 

 

「「九条貴利矢ァっ!!」!?」

 

「勝手に行動するな、神!! あと待たせたなキャスター!! 逃げるぞ!! 乗れ!!」

 

「ほらアンタらこっちに……こほん、争いは悲しいことです」

 

 

どうやら二人は、いつの間にかいなくなった黎斗神とメディア・リリィを迎えに来たらしかった。マルタがレーザーのハンドルを握りながら撤退を促す。

 

 

「失礼しますね」

 

「丁度良い出迎えだァ、九条貴利矢ァ……!!」

 

「喧しいな神、さっさと退くぞ!!」

 

 

そしてマルタの後ろにメディア・リリィと黎斗神が詰めて乗り込んだのを確認して、レーザーはゲンムコーポレーションから撤退した。




次回、仮面ライダーゲンム!!


──英霊との対話

「つまるところ聖杯とは万能の願望機」

「何でも願いが、叶うのか?」

「そういうわけだ」


──始まる駆け引き

「なんで私が世界を救わなくちゃならないんです?」

「そんなこと言われても……」


──見定めるものは、何だ

「本当にそれでいいんですか!?」

「……すまない、今は、何も言えない」

「おお神よ!! 神は理想郷を作られるのかっ!!」


第六話 Arcadia


「わかりました、キアラさま……」

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