ぐだ男「だから見ていてくれ。俺の、変身!」   作:おはようグッドモーニング朝田

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よろしくお願いします。


8 導者Ⅳ

 

8 導者Ⅳ

 

 

 

最後の部屋で待っていたのは、鎧を身に纏った騎士だった。

 

 

 

 

 

 

「Arrrrrrrrrrrrrrrrrr!!」

「そっちじゃない」

「Sorrrrrrrrrrrrrrrry!?」

 

 

 

 俺たちを歓迎(?)してくれたランスロットらしき人影がアヴェンジャーの開幕速攻ビームによって瞬時に吹き飛ばされてしまった。壁に激突し、崩れ落ちる瓦礫に飲まれ、その姿を確認することができない。南無。

 

「ちょっとアヴェンジャー!?さっきの手助けしてくれる仲間じゃないの!?」

「いや、奴はこの部屋に住まう悪霊の類に違いない。主への不義、罪悪感、贖罪の気持ちに縛られ続ける亡霊だろう。間違いない」

「そんな馬鹿な……いや、ほとんど合ってるけど」

 

そっちじゃないとか言ってたし、どういうことだ?

 

 

 

 

 積みあがった瓦礫は動く気配がない。え、まさかの助っ人無し?最後だからとかそういう?勘弁してくれよ。最後まで面倒みてくださいよ。

 

そんな淡い希望?のこもったジットリとした視線をアヴェンジャーに向けていると、あぁそうだ、と如何にも今思い出したかのようなわざとらしいリアクションでアヴェンジャーが口を開いた。

 

「どうやら今回のサーヴァントはまだ到着していないようだな。集合時間も守れないようでは、主への忠誠など高が知れているな。それにここは敵意渦巻く監獄塔。それもど真ん中だ。いつマスターが敵に襲われるかもわからん。そんな所にマスターと正体不明なサーヴァントを放置するなんて、騎士としてどうなのかという話だ」

「え、声がデカい」

 

二人の距離感わかっているのだろうか。俺に言い聞かせるにはあまりに大きな声量でアヴェンジャーが話し出した。適性声量って知ってるか?それにやけに饒舌だ。これ俺に言ってるのか?誰かの悪口でも叩き合ってワイワイ盛り上がりたいのか?やるにしてもこんな場所は勘弁してほしい。

 

誰のことかな。ロビンとか?でも騎士じゃないし……モードレッドか?

 

 

 

 

「どうやら少々、えぇ、ほんの少しだけ、遅くなってしまったようですね」

 

 

 

 

 瓦礫は依然としてピクリともしないが、背後からコツコツと足音が聞こえた。

 

きた!助っ人だ!良かった「最後だし誰の手も借りずにやれよ」とかいうクソ仕様じゃなかった!ありがとう来てくれて!ていうかさっきのアヴェンジャーこの人に言ってたのかもしれないな!遅れてんじゃないよこの野郎!敵に襲われたらどうすんだ!俺は仲間の悪口なんか言わないよ!

 

肩パンくらいしてやろうと思い遅れてきた下手人の方に振り返ると、

 

高い背。紫色の騎士甲冑。短く、ツンツンとした紫の髪。あまりにも爽やかな顔。とんでもないイケメン。

 

 

 

 

「え、誰……?」

 

 

 

 

知らないサーヴァントがこちらへ歩み寄ってきた。

 

 

 

 

 

 

「失礼、申し遅れました。私はセイバー、ラんーっォッホン!!ただの通りすがりの騎士です。セイバーと、そうお呼びください」

 

紫のイケメンはそう名乗った。近くで見れば見るほど美形だ。背も高い。イラついてくる。

 

「よろしく、セイバー。見ず知らずの俺に力を貸してくれるなんて」

「いえ、当然のことです。助けを求める者があれば、それを助ける。騎士として当たり前のことをしたまでです。それに円卓の同僚がお世話に……」

「え、円卓?」

「いえ、何も言っておりませんが」

 

さっき円卓って言ったかこの人?もしかして円卓の騎士なのか?それならばこの美形も頷ける。

 

「そういえば入ってきた時ランスロットさんが見えたような……」

「……」

「アヴェンジャーがそっちじゃない、って言ってたような……」

「……」

「セイバー?円卓?もしかしてクラス違いのランスロット?ちょっと瓦礫退けて聞いてみよ」

「フライングなんちゃらかんちゃらオーバーロ――――ド!!」

「斬撃飛んだぁぁぁぁぁ!?」

 

瓦礫の山が粉微塵になった。

 

「失礼、ゴーレムと見間違えたようです」

「そんな馬鹿な!」

 

都合が悪くなって証拠隠滅を試みたようにしかみえない。しかも目の前で破壊するとかいうパワープレイ。脳筋か?

そこにあったはずの瓦礫の山は綺麗さっぱり、初めから無かったかのように消えている。壁はゴッソリ抉られているけども。

 

これはアヴェンジャーにまたメンタルをチクチクやってもらうしかない。

 

「アヴェンジャー?」

 

……反応がないな。

 

「ちょと、アヴェンジャー?」

 

振り返る。

 

 

 

 

ゴーレム「……」

 

 

 

 

「本物だぁぁぁ!!!?」

「マスターしゃがんでください!」

 

地面に這いつくばった途端一刀両断されるゴーレム。クリティカル。流石としか言えない。

 

 

「ありがとう、セイバー。それで、あの……」

「マスター」

 

静かにこちらへ語り掛けるセイバー。見上げたその眼には、俺の蒼い瞳が映っている。言葉が出ない。

 

「こんな見ず知らずの私の言葉を信じてくださり、ありがとうございます」

 

……え?

 

「いや、礼を言うのはこっちだよ?助けてくれてありがとう」

 

まさかあんな近くに敵がいるとは思わなかった。

 

「いえ、そうではないのです」

 

ふるふる、と首を振るセイバー。

 

「私はあなたを試すような真似をしました。先程私は、あなたと向かい合って話していた。あなたの死角にいる敵性エネミーに気付かないと、思いますか?」

 

試した?俺を?……まぁ、確かにセイバーならあのゴーレムに気付いていてもおかしくはない。

 

「気付いてた……かもね」

「正直にお話しましょう。気付いていました。そのうえであなたが自力でゴーレムに気が付くのを待ち、私と連携して事に当たってくださるかどうか。そして様々なサーヴァントを率いるに値するか、仲間の……そして私の剣を預けるべきかどうか、失礼ながら測らせていただきました。もちろん危険を感じたらそのようなことする前に切り伏せるつもりでしたが」

「あんなやりとりの間にそんな難しいことを考えていたのか……」

 

何も考えてなかったぞ、俺は。

 

「思えば、私はとんだ邪な思いを抱えていたものです。あなたは私の言葉に、考える間もなく実行した。敵の目の前で屈む、ましてや腹を地につけるなど、無防備を晒すもいいところです。カルデアで絆を育んだワケでもない、この私の言葉を信用してくださった。もし私があの時動かなかったら……」

「動く」

「……はい?」

 

 

「動くよ、君は。動かないわけがない。だって言ってたもの。助けを求める人を助けるのは当然だって」

「それくらいで、初対面の私のことを?」

「まぁ、ほぼ直感かな?その、試そうとしたことだって、言わないことはできたはずじゃない?でも君は全部伝えてくれた。それで十分だ。それに借りられる力は借りなくちゃ。疑ってる余裕なんか、無いよ」

 

そんな試すとか試されるとか、考えもつかなかった。余裕がないのは本当のことだ。加えて、今までの出会いが良すぎたのかもしれない。

 

 

 

セイバーが黙ってしまっている。

 

「セイバー?」

「……ふふ、ハハハハ……」

 

静かに笑ってるよこの人。

 

「どうしたの?」

「失礼しました。いえ、他のサーヴァントの方々が、そしてあの子があなたを慕っている理由が少しわかった気がしまして」

 

あの子?

此処ではない何処かを見つめるセイバーの瞳からは、その複雑な感情を読み取ることができない。

 

「……改めまして、マスター。先のご無礼、お許しください。そして、私の名前をお預けします。私の名は」

「いいよ。伝えたくない理由があったんでしょ?俺もさっきはごめんね?よく考えずに探りとか入れて」

 

別にここで名前を聞いておく必要はない。きっとまた会える。

 

「しかし……」

「いいんだよ。それに」

 

名前がわからなくったって

 

「俺たちもう、コンビでしょ?」

「……それも、そうですね」

 

準備はできた。舞台は整った。

 

「そんじゃ、最後の試練……張り切って行きますか!」

「共に参りましょう!マスター!」

 

湧き出る敵も怖くない。

セイバーが何者でも関係ない。

立ちふさがる困難を叩き潰す。

 

 

負ける気が、しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘終了。なんとかなりましたね、マスター。見事な采配です」

 

俺たちは、今日も生き残ることができた。これで全ての試練を突破したことになる。

 

「アヴェンジャー?」

「……あぁ、お前は全ての障害を払いのけた。見事と言っておこう」

どうやらこれで本当に終わりらしい。アヴェンジャーが珍しく笑っている。

 

「セイバー、手ぇ挙げて!」

 

そう言って顔の横に手のひらを前へ向けて掲げる。

 

「はぁ、こうですか」

 

それに倣いセイバーも手を挙げる。

 

「そうそう。じゃあ……」

 

良い音が部屋中に響く。普通のハイタッチだ。

 

「なんでしょう?これは」

「アニキ……えーと、他のサーヴァントたちとね、戦闘終了後とか良いことがあった時によくやるんだ。セイバーももう仲間なんだから、やらないとね」

 

主に野郎限定だけど。仲のいい友達と悪ノリしてるみたいで、俺は好きだ。

そう思ってセイバーを見上げると、また笑っていた。

 

「……貴方は朝の陽射しのような方ですね、マスター。暖かく、周りを照らす」

「そんなことないよ」

 

照れくさくて、鼻の頭を擦る。

 

「俺は光ってなんかいない。照らされてるのは、俺の方だ。皆の光が、俺を導いてくれる。その光を受けて、俺も輝きたいって、そう思うんだ」

「……そうですか。今はそれで、納得しておきましょう」

「なんだよそれ」

 

そう言って俺たちは、また笑い合った。

 

 

 

 

 

 

「どうやら、私の役目はここで終わりのようです。私はカルデアに所属していないサーヴァント。すぐ貴方に会いに行くことは出来ません」

「セイバー……」

 

そうだ、君と俺の線はまだ交わっていない。ただでさえこの場所でのことを俺はきっと忘れてしまうのに。

 

「そのようなお顔はよしてください。私まで別れが辛くなってしまう。大丈夫ですよ。貴方がこの旅を続ける限り、いつか、何処かで必ず出会えます。私の霊基が、そう言っています」

 

そう言って、セイバーは俺に微笑みかけた。

 

「そうだね。俺も、そんな気がする」

 

また何処かで、この線は交わる。

不思議と、そんな確証が得られた。

 

 

 

 

「では最後に、貴方に魔法をかけましょう」

 

言葉がいちいちクサいのはどうにかならないのだろうか。

 

「心に鎧を。その手に剣を」

 

鎧と、剣。

 

「貴方は決して屈してはいけません。その膝が地に着いたとき、その心が折れたとき、旅路は閉ざされてしまうでしょう。貴方が周囲の光を浴びて輝くように、貴方の仲間も貴方の影響を強く受けます。マスターとサーヴァントなら、なおさらです」

「……」

「だから貴方は、諦めてはいけない。立って、耐えて耐えて、一筋の光明が見えたときにそれを手に取り、困難を断ち切る。そのための鎧と、剣です」

 

 

 

 

「周りのサーヴァントが貴方の身を守ってくれるでしょう?ならばマスターは、仲間たちの心を守る存在になりなさい。そういうことです」

 

 

 

 

「俺が、守る?」

 

心を守る。そんなこと、考え付かなかった。

 

「貴方にはそれができる。だって支え合う仲間が、たくさんいるじゃないですか。それに、あの子もいる」

 

目の前の騎士が、光となって消えていく。この手に新たな光を灯してくれた人は、最後まで穏やかに笑う、まるで波のたたない湖のような騎士だった。

 

「……あの子のこと、よろしくお願いします」

 

光の粒が、天井に昇っていった。

 

 

 

……さっきから思っていたことだけど、

 

「あの子って誰―!?」

 

 

 

 

届いた声は、質問の答えではなかった。

 

「きっと貴方は、世界を救うでしょう。その剣となること、楽しみにしています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とアヴェンジャーだけが残されたこの空間は、沈黙と塔の揺れる音で支配されている。

役目を終えたこの塔が、生者である俺に「早く帰れ」と言っているようだ。まもなくこの夢世界は崩壊するのだろう。名残惜しくはない。待っている仲間たちがいるのだ。一刻も早く戻らなければ。

 

「何をモタモタしている。お前は全ての困難を退けた。監獄塔はじきに消える。それはそうだ。ここは本物のシャトー・ディフではないのだからな。さぁ早く行け。向こうの扉をくぐれば帰れるはずだ。それとも死霊どもと共に消えゆくか?」

 

アヴェンジャーに帰れと急かされる。もちろん帰るさ。早くカルデアに戻って、心配している皆を安心させなければ。でも……

 

「君は、どうなる?」

 

揺れは大きくなるばかりだ。そう長くはもたないだろう。

アヴェンジャーは心配するこちらを嘲るかのように笑い、言った。

 

「少しは考えろ。今までお前をここで手伝ったサーヴァントはどうなった?消えただろう。オレとて変わらん。俺も役目を終え、消えるだろうな。それに、もし消えずにこの塔の消滅に巻き込まれたとして、何も問題は無いだろう。曲がりなりにもオレはサーヴァントだ。座に帰るだけだろうな」

 

だから早く行け。横顔がそう語っていた。塔はもうすぐにでも消えそうだ。これ以上お喋りしている余裕はないだろう。でも、これだけは聞かないといけない。そう思った。それは、さっきアヴェンジャーも言っていたこと。

 

「君の役目って、なんだったんだ……?」

 

それを聞いたアヴェンジャーの顔が歪み、軽く舌打ちをしたのが聞こえた。

 

「最後の最後に下手を打つとは、オレも甘くなったものだ」

 

時間がないのは向こうも承知のようで、無視することはなさそうだ。

 

はぁ、と一つ大きな溜め息をつき、こちらへ振り向くことなく言った。

 

 

 

 

「道に迷ってウジウジしてるやつがいてな。そいつの尻を蹴ろうと思っただけだ」

 

 

 

 

 空間が揺れる音は聞こえない。塔は光の粒となり、消えかかっている。

この光は何処に向かっているんだろう。上へ上へ、光は昇る。雪が空へ昇るような、普通では有り得ない幻想的な景色。この光が向かう先が英霊の座なのだろうか。目の前の男からも、徐々に光が漏れ出している。時間がない。なのに俺の身体は動かない。伝えなきゃいけないことがある気がするのに。

 

 

「お前は早く自分がしなければならないことに集中しろ。早く行け。オレはお前をここで送り出す。お前はやるべきことを為す。事の次第はお前次第。そうすればオレは今度こそ途中で投げ出すことなく為すべきことを為せるというわけだ。わかったか?ならば行け。振り返るな」

 

 

最後の最後までアヴェンジャーは彼らしい物言いをする。少し心が軽くなった。

 

「今度は俺が呼ぶよ。道に迷って、どうしようもなくなったとき。そしたら、来てくれる?」

 

「オレはこう言うしかあるまい。待て、しかして希望せよ、だ」

 

予想してた答えとあまりに一致していて、笑ってしまった。

そうだ。俺は進まなくてはならない。今まで以上の出会いと別れを乗り越えて。

 

「じゃあね」

 

俺は走り出す。現実へ。戦いへ。未来へ。

 

扉をくぐると、全てが白く染まった。真っ白な空間に、一人佇む。俺を呼ぶ声が聞こえる。現実までもう少しだ。俺は一歩踏み出した。

 

 

 

 

「ありがとう。俺の神父」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……オレはお前のファリア神父になるつもりはない、と言ったはずだがな」

 

アヴェンジャーは聞いていた。未だ未熟で、誰かの助けがなければ生きられないほどちっぽけで、それでいて強い光を魂に宿す青年の、その最後の呟きを。

 

「お前に復讐の炎は似合わない。その光を怒りで曇らせてはいけない。囚われてくれるなよ」

 

扉を見るその眼には、煌々と燃える焔は見当たらない。

 

「さぁ行け藤丸立香。この先お前を待ち受けるのは、生易しい苦痛ではないだろう。お前は辛く苦しい戦いの日々にその身を落とすことになる。だが、それでいいのだ。喜べ。お前の願いは、漸く叶う」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、何も無くなった。

 

おかえり、目を開けろ。

 

さぁ、目覚めの時だ。

 

 

 

……Hello World, Welcome New Legend.

 





ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。

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