ぐだ男「だから見ていてくれ。俺の、変身!」 作:おはようグッドモーニング朝田
よろしくお願いします。
6 導者Ⅱ
「待ってたぜマスター。やっと来やがったな」
「兄貴!」
待っていたのは、青い槍兵。ケルトの大英雄、クー・フーリンその人であった。
「第二の試練でお前を導くのは……」
「御託はいらねーよ復讐者。さっさと始めようぜ」
アヴェンジャーが言おうとしているセリフを遮って兄貴が歩き出す。そして湧いてくる敵、敵、敵……。
「兄貴ちょっとせっかち過ぎない……?」
もう少し会話とかあってもいいと思うんだけど。敵出てくるの早すぎない?
「うるせーやい。説明とか注意とか、そういうの俺には似合わねぇし必要ないんだよ」
自慢の赤い槍をグルグル回しながら関節をほぐす兄貴。
そういえばこういう人だったな。兄貴が、というよりケルト出身のサーヴァントは皆こうだ。習うより慣れよ精神でガンガン突き進む。現代人としてはもう少し言葉が欲しいところではあるのだが……
「それに……」と言い、槍を振り回し構える兄貴。
「ココがどういうところか。お前はもう知ってんだろ?」
知っている……のだろうか。何故俺がここにいるのか。何のために。それらを俺は知らない。でも、ここでやらなきゃいけないことはわかる。マルタにも言われたことだ。そう……
「見る。見てるよ。兄貴のこと。戦う姿を、困難に立ち向かうその背中を。この目に焼き付けるんだ」
この夢から覚めたら忘れちゃうかもしれないけど、きっと心が覚えてる。
だから……
「痺れるようなやつ、お願いね!」
今は、こんなことしか出来ないのだろう。周りを見て、状況を伝える。自分はやられないように、ちょこちょこ移動しながら戦う皆を見てるだけ。
「おう!わりぃが直接教えることはできねぇからな。見て覚えろよ!これが俺ら(ケルト)式ってやつだな!ワハハハハ!」
それがマスターの仕事だ、それだけで十分なんだって言ってくれる人もいた。でも俺が納得できなかった。ちょっと、苦しかった。傷付くのは、いつだって仲間たちだった。
「だが、よく言うだろ?学ぶっつーのは“
「それ、自分が最高だって言ってるの?」
「そりゃあそうに決まってるだろうが。俺以上に有名な槍使いがいるかってんだ!」
ガハハと豪快に笑う兄貴。その裏には積み上げた経験と自分への確かな自信が垣間見えて、少し羨ましかった。
「確かにクー・フーリンのネームバリューは現代でもずば抜けている……!悔しいけどその通りかもしれない……!」
「そうだろそうだろ?だがまぁ、マスターも世界最高のマスターだと思うぜ?」
「えっ」
クー・フーリンがそんな風に俺を認めてくれているなんて……!
「なんせこの世界にオメー以外マスターが残ってねぇからな!世界最高に決まってらぁ!ワハハハハ!」
「えっと、令呪で自害ってどうやらせればいいかな……」
「悪かった。この通りだ」
歴代最高の槍使いが俺に頭を垂れていた。
「冗談だよ。もう、不謹慎だよ?この状況で」
「悪かったって。んじゃ、お喋りはここまでだ。さぁ始めようぜ」
そう言って目が変わる兄貴。戦闘態勢になったようだ。
兄貴との軽い雑談のおかげで身体が、頭が、心がほぐれた。
俺は今まで、戦うことの出来ない自分が嫌だったのだろう。敵に弱点を晒しているようなものだ。仲間が存分に力を発揮できていないんじゃないか。
でもここに来てわかった。言ってくれた。今後俺の道に大きな転機が訪れる。それは苦しみの始まりなのかもしれない。良いことではないのかもしれない。けど、俺にとっては、きっと救いだ。
「……だからよぉ、敵さん方。アイツのために……いや、オレたちのために、盛大にやられてくれやぁ!」
だから今は、これでいい。見ているだけじゃない。見ることが大事なんだ。いつか来る、その日のために。この身体の中に潜む熱が世界に放たれる、その日のために。
部屋の中に、兄貴に貫かれた異形の断末魔が響き渡った。
(目つきが変わったな)
アヴェンジャーは藤丸立香の様子をうかがっていた。
(どうなるかわからなかったが、この塔にアイツを引き込んで正解だったらしい……)
その瞳に映るのは、如何なる炎か。
(どうやら“覚悟”はできたようだな。これならきっかけ次第で
その熱は、真意は、彼のみぞ……
(オレの身を燃やす、この復讐の炎がアイツに燃え移らないことを祈るばかり、だな)
その表情は、帽子に隠れて影の中へと消えてしまった。
赤い槍が最後の獣の心臓を突き穿ち、立っている者は三人のみとなった。
今日も生き残ることができたらしい。
「これにて第二の試練終了というわけだ」
「お疲れさまってやつだ、マスター」
兄貴が労いの言葉を掛けてくれる。
「うん、ありがとう。兄貴もお疲れさま!」
元気よく返し、拳を突き出す。
「おう!」と言い、ガツンと自分のそれをぶつけてくる兄貴。
「いった!」
「ヒョロっちぃなぁ」
ハイタッチには少々強すぎる気がするが、野郎と野郎なのだ。こんなものだろう。
「さて、だ」
兄貴が切り出した。
「どうしたの?」
「おめぇらは、次に進むんだろ?俺の役目は、ここまでだ」
「……そうだったね。ありがとう兄貴。俺はもう、迷わないよ」
「そいつは良かった。んじゃ、最後に一つ言っとくぜ」
「受け流せ。そんで薙ぎ払え。正面きってぶつかるばっかが生き方じゃねぇぞ」
「……え?」
なんだろう、よくわからないんですけど。
「わかんねぇか?例えばアレだよ。そう、槍。見てただろ?俺の戦い方」
「まぁ、見てたけど」
「槍ってのは細くて長い。真正面からぶつけてばっかりだと折れちまうんだよ。だから、受け流す。ま、真っ向から受け止めることが全て素晴らしいとは限らねぇってことよ。覚えときな」
「あぁ、なるほど」
そういうことか。
「イメージは流れる水だ。サーっと流してバッとやる。そういうこった」
「わからん」
「いやわかれよ。流れで察しろよ」
「水だけに?」
「そんなつまんねぇこと言えんなら大丈夫だな」
「冗談冗談。わかってるよ。届いた」
兄貴から光の粒子が立ち昇っている。もう別れの時のようだ。
「部屋に戻るぞ」
そう言って歩き出すアヴェンジャーについていく。
「じゃあね兄貴!」
「おう、早く全部終わらせろよ?他の奴らも心配してるぜ?」
「それじゃあ、パパッと終わらせないとだね」
「頑張れよ。じゃあな」
兄貴に背を向け、歩き出す。
「もう一つ、忘れてたわ」
「……え?」
振り向いたとき、兄貴の姿は完全に光の粒となっていた。
「お前はすげぇマスターだと思ってるのは本当だぜ。あんな大勢のサーヴァントと契約するなんてのは、聞いたこともねえ。それだけだ」
自分の姿がこっちから見えないからって、ズルいこと言うなぁ。
返事をしないで歩き去ることが、唯一の反撃で、照れ隠しだった。
Bound for Next Ordeals
長い間空けてしまい、すみません。いくつか更新します。
次回もよろしくお願いします。