ぐだ男「だから見ていてくれ。俺の、変身!」 作:おはようグッドモーニング朝田
よろしくお願いします。
5 導者
「赤い……戦士?」
待っていたのは、
「ちょっと、今私のこと戦士って言った?」
「え……」
「あ……んんっ、ごほん。私は戦士ではありませんよ、マスター。私はマルタ。そう……ただのマルタです」
扉を開けて待っていたのは、我がカルデアの聖女(?)マルタさんその人であった。赤いジャージを身に纏った。
赤いジャージを身に纏った!!!
「恰好のことは気にしないで!気付いたらコレだったの!杖も無いし、なんだっていうのよもう!」
「マルタさん素が出てるよ」
今日もバリバリ絶好調のマルタさんであった。
「第一の試練でお前を導いてくれるのはこの
参考?なんのことだろう。
しかし考え事をする暇も無く飢えた獣のごとき魔獣や死霊が襲い来る。
「だぁれがステゴロですって!?私はただの聖女。それもおこがましいってものだけど、そんなか弱い乙女代表みたいな私に何をしろと!?……ふん!」
このか弱き乙女、会話の片手間に二匹の獣を屠っている。
「今回は聖女なんてやつとしてのお前に頼んでいるわけではない。その拳で敵をバッタバッタとなぎ倒す格闘家としてのお前に頼んでいる」
「格闘家としての私なんているか!ぶっとばすわよ!」
「おぉ、そっちだそっちだ」
また二体の死霊が消し飛んだ……。
「あぁっもう!せめて杖!杖出ないかしら!……出ない!」
「グズグズしていていいのか?ここでの敗北は死に繋がると言っただろう。マスターがやられてしまうぞ」
「うぐぐ……オラ!」
こっちの方が動き良い気がする……
少しの間沈黙が部屋を包む。もちろん敵の咆哮や怨嗟の声は聞こえているんだが。何かあったんだろうか。
少し経った頃、マルタが降参とばかりに溜め息をこぼした。
「……主は私に戦えと仰るのですね。わかりました。マルタ、拳を解禁します。……セイッ!」
あ、蹴った。
「マスター!」
「あ、はい!」
「なによその返事……」
いっけね。とっさに敬語が出ちゃった。
「なに?マルタ」
「今から全力で敵をブッ飛ばしにかかるわ」
「マルタ言葉使い言葉使い……」
出ちゃってるよ。
「いいのよ。もう腹くくったわ。それに、アンタならいいかなとも思うし。ていうか、知ってたでしょう?」
それはそうだけど。
「アンタをこんな所で死なせない。絶対守るから」
「守る……」
ここでも、俺は……
「いいのよ。それで」
「でも、俺は」
「いいのよ。
ま……だ?
「アンタ守られてるってことに過剰に反応し過ぎなのよ。私たちからしてみれば、自分たちの良い所悪い所全部知ってて付き合ってくれるってだけで十分なのに、ちょっと贅沢な悩みじゃない?アンタ」
「でも」
「わかってる。納得しないんでしょアンタは。だから私はここにいるんじゃない」
「マルタ……」
それってどういう……
「いいのよそんな細かいことは。ただ覚悟しておきなさい。あなたの望みはいつか叶う。良いことでもあるし、悪いことでもあるわ。言ったでしょう?守られてなさい。今はまだ、ね」
マルタが言っていることはわかるようでわからない、所々が欠けたパズルのようだった。
「マスターとしての仕事、忘れないでね。さ、指示を出しなさい!そして、見てなさい。私の戦いを、その姿を。目に焼き付けるのよ。あなたの望む日々が来たら、きっと役に立ってみせるわ」
そう言って彼女は駆け出した。その四肢には、邪悪を払う聖なる力が宿っていたのだった。
「第一の試練は終了だ。戻るぞマスター」
ヘトヘトになりながらも敵を全滅させ、試練が終了した。アヴェンジャーが踵を返し、俺を呼ぶ。
マルタが光の靄に包まれながら近づいてきて、言った。
「マスター、このまま進んで、全ての試練をクリアなさい」
「そのつもりだけど……」
「そう。なら、私から一つ」
「希望を捨てないこと。あなたは今のあなたのままでいてね」
「それだけよ」
特別なことは言われていない。しかし、なんだかとても大切なことだ。そう思えた。
「ありがとう、マルタ」
「いいのよ。きっと、ここでのことは忘れてしまう。全部じゃないにしても、多くのことを。でも、その様子なら大丈夫ね。……きっと、世界を救いましょうね」
「……?」
「ほら、返事!」
「は、はい!」
「ふふっ、可笑しい。あなたに、神の祝福を……」
そう言って微笑み、彼女は消えていった。カルデアに戻ったのだろう。心に、暖かい炎が揺らめいている。大事にぎゅっと握りしめ、部屋の外へ向かって走り出した。少しアヴェンジャーを待たせてしまったかもしれない。
試練は、あと三つ。
「マスター、次の試練に向かうぞ」
一つ目の試練が終わった後、俺たちは最初の部屋に戻ってきていた。進まなくていいのか、とアヴェンジャーに問うたところ、空間の概念が違うとのことらしい。常に始まりの場所はここだが、行く先は異なるそうだ。
「どうした?行かないならそれはそれで構わんぞ。救いの手がどこからか差し伸べられるのを待ち続けるか?」
「それは必要ない。すぐ行く」
待つことなんてしない。背中を押してくれたマルタのこともあるし、何よりこれは俺に必要なことのように感じる。未だになんで俺がこのような所にいて、何に巻き込まれているのかもわからないけど、俺の中の炎が急かすかのように熱を放っている。前へ前へと身を焦がしている、気がする。
「フン。ならばいい。行くぞ」
空間の概念が違うといっても、前回と変わり映えのない廊下を歩く。相変わらず薄暗く、ヒンヤリしている。
「そういえば、俺がいない間カルデアはどうなっているんだ?」
「……?何を言っているんだお前は」
ちょっとした疑問をアヴェンジャーに聞いてみたところ、ヘンテコなものを見るような目を向けられた。
「いや、だから、俺が試練を受けている間カルデアは……」
「お前は今もカルデアにいるぞ」
「……は?」
カルデアに、いる?どういうことだ。
「何を寝ぼけたことを。言ったはずだ。ここは魂を捕らえる監獄。ならばここにいるお前はお前そのものではなく、お前の魂ということだ。お前の身体は今もカルデアにある」
「ここにいるのは、俺じゃない……?いやそんなはずはない。でも、魂だけ?肉体は……」
「まぁ、認識するのは難しいだろう。此処と彼方では時間の流れも空間の概念も違う。向こうが心配なら早く全ての試練を終えるんだな」
どうやらこの肉体と魂の乖離を終わらせるには用意された全ての試練を吹き飛ばすしかないようだ。
なんだかんだ俺に道筋を示してくれるアヴェンジャーを不思議に思いつつ、大きな扉の前へと辿り着いた。
「さぁ、この扉をくぐれば第二の試練の始まりだ。覚悟はいいかマスター?」
「ゴチャゴチャした考えが浮かぶ前にさっさと入ろう。進むことに迷いはない」
「フッ……良いぞ。それでこそ、というものだ」
これしか道がないなら迷っている暇なんてない。扉に手をかけ、一歩踏み出す。
扉を開けた先、待っていたのは、槍を持った青い戦士……
Bound for Next Ordeals
ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。