ぐだ男「だから見ていてくれ。俺の、変身!」 作:おはようグッドモーニング朝田
よろしくお願いします。
4 夢枕
闇を打ち払う炎、
全てを飲み込む激流、
どこまでも吹き荒ぶ風、
決して揺るがぬ大地。
なんだろう。これは。
これは、きっと、
(夢……)
自分は今、暗闇にいる。いや、いるという表現が正しいかよくわからない。意識だけが浮上している。
そして目まぐるしくこちらを刺激する、先ほどの四つの光景。
闇を打ち払う炎、
全てを飲み込む激流、
どこまでも吹き荒ぶ風、
決して揺るがぬ大地。
ぐるぐる、ぐるぐる。回る、回る、回る。
徐々に移り変わるスピードが上がり、まるでフラッシュの明滅のようにチカチカと俺を揺さぶる。
次第に正しく場面を認識できなくなる。バチバチと稲妻を走らせ、ホワイトアウト。何も見えなくなっていく。それと共に、自分の意識も段々と薄れていく。
待ってくれ!
何故か、もっと見ていたいと思えた。なんというか、何か掴めそうな、そんな感覚があったから。俺の体の奥が、そう言っている。
だからと言って夢が待ってくれるなんてワケもなく。段々と何が見えているのかもあやふやになっていく。消えていく情景の中、最後に見えたのは……
(人影……?)
サムズアップを残し、消えていく。
あなたは……
あなたは……
あなたは……
……
……
今度こそ意識が覚醒する。
「やっぱり、夢か」
なんだったんだ、あの夢は。今まで見てきた、どんなモノとも違う。でも、アレを俺は知っている……というわけではないような、あるような。
上体を起こし、首を回す。なんだろう。いつもより凝っている。それになんだかベッドが心なしか硬いような……
「ってココ何処だぁぁ!?」
四方を石畳に囲まれた、狭く暗い部屋。数本のロウソクが怪しげに揺らめき、ぼんやりと部屋内を照らしている。
そして鉄格子。
「え、牢屋だこれ」
ひと昔前のThe牢屋みたいな所だった。
不意に誰かの声が響いた。
「絶望の島、監獄の塔へようこそ戦士よ!未だ覚醒訪れぬ汝の名は藤丸立香!」
覚醒?なんのことだ。いや、それ以前に俺は戦士じゃない。
「誰だか知らないけど、人違いじゃないか?」
「いや、貴様で合っている。人類最後の希望、人理修復者よ」
コイツ、事情を知っている……?靄がかかっていて姿がよく視認できないが、声などから判断するに若い男だろう。
「なぜそれを知っている?見るからに牢屋みたいな感じだけど、ここは何処なんだ?そして、お前は」
「まぁ待て。落ち着けよマスター。その質問たちには一つ一つ答えてやる」
少し溜めを作り、勿体ぶるように答える男。
「なぜ事情を知っているか。それはオレが英霊だからだ。お前がよく知っている筈のモノの一端だ」
「英霊……」
「そうだ。だから人理崩壊について、ある程度知っている。まぁ、だからといって人理救済の手助けのために……なんて善人じみた考えでここにいるわけではないがな」
どうやらこいつもサーヴァントらしい。グランドオーダーが始まって以来、突拍子のないことに巻き込まれ続け、このような事態にはもう慣れてしまった。自分が怖い。
「ここは何処か。そうだな。ここは地獄。恩讐の彼方たるシャトー・ディフの名を有する監獄塔!如何なる魂も囚われる、罪深き者たちの場所さ」
「なぜそんな所に俺が……」
「知らないことは罪なこと、というわけだ」
知らないという罪?いったいなんの……
「そしてオレが何者か。先程も言ったが、オレは英霊だ。哀しみより生まれ落ち、恨み、怒り、憎しみ続けるが故にエクストラクラスを以て現界せし者」
エクストラクラス?
「そう……アヴェンジャーと呼ぶがいい」
部屋を出て、アヴェンジャーと共にこれまた薄暗い廊下を歩く。松明が焚かれ、鉄格子の扉が一つ、二つ、三つ……。見れば見るほどに監獄で、不気味さに脚が竦む。
「死なぬかぎり……生き残れば、お前は多くを知るだろう。歪んではいるが、此処はそういう場所だ」
多くのことを知るって……どういう?
「そんなことオレがわざわざ懇切丁寧に伝えてやる義理はない。オレはお前のファリア神父になるつもりはない。気の向くままお前の魂を翻弄するまでだ」
何のことだかよくわからない。しかしなんとなく、俺を突き放すような物言いではあるが、微妙に俺を気遣うような雰囲気も感じる。
「フン。まぁ、最低限の事柄は教えておいてやろう。手短にな」
やっぱり地味に面倒見がいい。
「まず、お前の魂は囚われた。カルデアなぞに声は届けられないし、同じくしてあちらからの言葉が届くことも有り得ん。脱出のためには七つの部屋を突破せねばならない……筈だったんだがな」
はずだった……?
「お前の中にあるモノのおかげでな。どうやらそう長くお前の魂を縛っておけないらしい。だから、脱出のためにお前には四つの『試練の間』を超えてもらう。試練の間で敗北し殺されれば、お前は死ぬ。何もせずに四日目を迎えても、お前は死ぬ。以上だ」
……は?
脱出のために試練を超えなければいけないことは、まぁ、いい。デッドラインがあるのも、まぁ、よく……は無いけど、慣れた。しかし。
「俺の中にある、物?」
聞き捨てならない言葉があった。何だそれは。
「ははは!身に覚えがないか?そんなことはないだろう!お前も知っている筈だ!お前の中にある、古代の遺産を!」
「……!まさか、それは」
オケアノス後に召喚され、俺に吸収された(らしい)あのベルトのこと、か?
「いや、でも、それは……無くなったって。綺麗さっぱり、俺の中には見当たらないって……。身体に異変もないし」
「クハハハハ!それは楽観視が過ぎるというものだ!無くなってなど、いるはずないだろう?あの自分を改造して悦ぶ変態も言っていたハズだ。おかしくないことがおかしいと!何もないことはあり得ないと!」
「でも現に、俺の体に変化は無い!」
そうだ。なにもおかしい所なんて……
「いや、変化はある」
ロマンでも、ダヴィンチちゃんでも、マシュでも、そしてカルデアにいる誰にでもなく。突然現れた目の前の男によって語られる、真実。
「右手の甲を見てみろ。どうだ?さぞ見覚えのある令呪が刻まれているハズだが?」
角の生えた顔のような、見知らぬ形に変わった令呪が……そこにはあった。
気付くと、今までの鉄格子の扉とは比べるべくもなく大きな鉄の扉が目の前に佇んでいた。
「ははは、変化に気付かなかったからといってそう凹むこともないだろう。それに微々たる変化だ。機能には何の変わりもない。見て呉れだけだ」
そう……なのだろうか。しかしまぁ、この事態でそうブルーになっていられないことも事実。生き残ってカルデアに戻るために、目の前の困難を乗り越えることに集中するしかなさそうだ。
「そう、それでいい。さぁ、第一の『試練の間』だ。お前が四つの夜を生き抜くための、第一の関門だ。四匹のケモノがお前を殺そうと手ぐすねを引いているぞ?」
今更引き返すことも、戦いを拒むこともできない。早く前に進まなければ。
扉に手を掛ける。
「そうそう。言い忘れていたが、各部屋につき一人のサーヴァントがお前を手伝ってくれる。存分に学ぶといいだろう」
学ぶ、という表現に引っかかりを覚えた。しかし、無視して扉を一気に押し開けた。
ギィィィィ、と重い音が鳴り響き、大きい部屋の明かりに一瞬目がくらむ。
待っていたのは、赤い衣を身にまとい、邪悪を払う格闘の戦士だった。
Bound for Next Ordeals
話の区切り上、短いです。
次回もよろしくお願いします。