名探偵と料理人   作:げんじー

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このお話は原作第43巻が元になっています。

8/13に最新話を「お知らせ」として投稿した行為が運営の規約違反に引っかかり、一定時間完全非公開の措置を取られてしまいました。該当箇所を削除し、今は公開状態になっています。
二度目の規約違反を行うと作品のロックが行われるとのことなので今後はより一層気を付けていきたいと思います。それでも何かあれば、すぐに対応しますのでメッセージで教えて頂けると助かります。
心配のお声をかけて頂き、また混乱させてしまい申し訳ありませんでした。
今後とも、よろしくお願いいたします。


第六十四話 -忘れられた携帯電話(前編)-

「いらっしゃいませー…ってあら、龍斗君!こんなに朝早くから来るなんて初めてじゃない?まだ八時よ?しかも今日は日曜日、せっかくの休みでしょう?」

「おはようございます梓さん。いやあ、梓さんが働き出す前は何度か来たことありますよ?最近はいつも学校帰りとかに寄らせてもらってるからかなり久しぶりになりますけどね。今日来たのは小さい時からちょくちょく来ているのにモーニングは食べたこと無いなあと思いまして。朝ゆっくりできるのは休みだけですしお邪魔させてもらったんです。丁度今日は家人が俺一人でしたし」

「あ、おはよう……そういうことなのね。じゃあ後ろのコナン君は?」

「おはよう、梓姉ちゃん。実は昨日から蘭姉ちゃんが空手の合宿でお泊りなんだ。だから朝ご飯は下で食べようって昨日の夜小五郎のおじさんと話してたんだ。おじさんは支度でもうちょっと時間がかかりそうだったからボクだけ先に来たんだよ。龍斗にいちゃんとは偶然そこで会ったんだ」

「そうだったの。じゃあ二人とも一緒の席でいい?」

「ええお願いします」

「うん」

 

梓さんに案内されたテーブル席に着き、俺は新ちゃんと後で来るであろう小五郎さんの分のモーニングセットを頼んだ。

 

「それにしても」

「ああ。まさかポアロの前で会うとは思わなかったぜ」

 

そう、梓さんに説明した内容は嘘の方便でも何でもなく完全なる事実。新ちゃんとは示し合わせたのではなくばったりかちあったのだ。

 

「新ちゃん、京都で何かあったのかい?新ちゃんロスでへこんでいた蘭ちゃんが元気になっていたけれど?」

「え?あ、ああ。実はな……」

 

どうやら、俺が援護し平ちゃんに逃がしてもらった新ちゃんはあの山道で蘭ちゃんと遭遇したそうだ。その後、タイムリミットが迫っていた新ちゃんは一言二言彼女と言葉を交わした後麻酔銃で眠らせて彼女は新ちゃんとの遭遇は夢だったのだと結論付けた。だけど、新ちゃんは余りに沈む蘭ちゃんを見ていられなくなり京都駅で新幹線のホームでわざと新ちゃんと実際に会ったと言う痕跡に気づかせたそうだ。

 

「へえ~~?」

「い、いやだからな。別にアイツが可哀そうだからとかじゃねえし。アイツが暗い顔しているのがなんか居心地わりいっつうか、収まりが悪いっつうか、居候として!辛気臭い顔している住人がいるのは我慢ならないと言うか……」

「そうかそうか」

「っておい。なんか楽しんでないか?」

「イヤイヤソンナコトナイヨー?」

「をい!」

「ははは、ごめんごめん。まあでも()()に関しては俺とか他の人たちじゃあ根本的なことはどうしようもないからね。早く何とかしなよ?」

「わーってるよ。今回の事で灰原も有用なデータが取れたって言ってたしよ。そう言えば灰原と言えば、アイツ。FBIに打診されていた証人保護プログラムを蹴ったらしいぜ」

「へえ?あの後俺、哀ちゃんとしっかり話し合えてなかったけどそう言う動きがあったんだ」

 

シャロンさんとの対決の後、京都に行ったりして哀ちゃんとはしっかりと会話を交わす事が出来ていなかった。新ちゃんとは京都で話せたけどね。

 

「心境の変化、というより自分(灰原)も逃げているだけじゃないって考えたらしくてな。あと、(龍斗)が、周りに迷惑をかけるのは(灰原)が組織に対して逃げの一手を取っているから。それじゃあ証人保護プログラムで逃げても何も変わらない、むしろダメになる。だってよ」

「そんなことを…」

「あと、龍斗には話したいことと聞きたいことがあるから時間を作ってほしいとも言ってたぜ」

「ああ。じゃあ、機を見て話してみるよ」

 

――ガランガラン

 

新ちゃんと話が一段落した丁度その時ドアベルが鳴った。

 

「いらっしゃいませー!」

「おう、おはよう梓ちゃん。うちの居候が先に……ってあれ?なんで龍斗君がココにいるんだ?」

 

 

――

 

 

小五郎さんと朝のあいさつを交わし、紫煙をくゆらせながら新聞を読み始めてしばらくして梓さんがモーニングコーヒーを持ってきてくれた。

……なんか、ダンディズムを演じながら?コーヒーを手に取り。

 

「あっちゃあっちゃあ!」

「((何なんだこのおっさん(何してんだろ小五郎さん)……))」

「さっきコナン君から聞きましたけど蘭ちゃんが合宿なんですって?でもこの時間に来たってことは依頼人さんとこの後待ち合わせがあるとか?」

 

今の時間は八時過ぎ。蘭ちゃんのお蔭で休日でも規則正しい(というか、探偵業をしているので日曜日が休みというわけではない)生活をしているので大体7時くらいに朝食が出ているはず。梓さんは恐らくその当たりの事を知っているんだろう。

 

「いやいや。今日は日曜日。普段は休日なんてないひっきりなしの依頼を片付けて、世間様に合わせて日々の荒んだ日常(探偵業)から癒しを求めてココ(ポアロ)に来たってわけさ……」

『都民の皆様おはようございます!倍賞周平でございます!!皆様の一票でこの倍賞周平と静かな街づくりを目指しましょう!!』

「……ははは。まったく。マニフェストと違う行動をまず改めて「prrrrrr」…おお?はい!こちら毛利探偵…!!?――ねぼけてんのはあんたの方だ!ちゃんと番号確かめろ!!」

 

どうやら間違え電話だったみたいだな。しかも、その前は格好つけたセリフに反する選挙カーが通っていらいらしてる。今も乱暴に通話ボタンを切っているし。

 

「くそ、くそ、くそ!」

「あのお、もしかして。暇なんじゃありません?」

「え″?」

「(そうなの?)」

「(ああ、実際この一週間は依頼ゼロだからな)」

「でもなあ、こんなこと名探偵の毛利さんに頼むのもなんだか……」

ん?

「あれ?梓ちゃん、何か困ってるの?もしやストーカー?それとも空き巣?ひょっとして彼氏の素行調査とか!?」

「ち、違いますよ!私の私生活には何ら問題はないです!ただ三日前にお客さんの忘れ物があって。それがちょっと変で落とし主を探してほしいなあって」

「あー…そういうのって扱いに困りますね。店で落としたものだから店で管理して落とし主が来るのを待つのか、はたまた交番に届ければいいのか」

「そうなのよ。名探偵の毛利さんならぱぱっと解決してくれるんじゃないかなって」

「それで、その変な落とし物ってなんなの?梓姉ちゃん」

「あ、うん。これなんだけど」

 

そう言って彼女が差し出したのは迷彩柄のガラパゴス携帯電話。今時ガラケー…いや、蘭ちゃんもそうだし電話とメールだけしか使わない人はスマホの多機能性はいらないって言うしそう言う人の物かな?柄的にお年寄りが持っているようには思えないし。

なんて考察していたら、梓さんが「変な落とし物」といった理由を教えてくれた。なんでも、その携帯電話に三度電話がかかってきたそうだがその全てがおかしな内容だったそうだ。一度目は間違いといい、二度目は誰かに電話の向こう側で話しかけた風で音が鳴ったかの確認、三度目は…

 

「『おいコラ!テメエ奴の女だな!奴と代われ!さっさとしねえとぶっ殺すぞ!!』って言われたんです」

「「「ぶ、ぶっ殺す?」」」

「それで?梓姉ちゃんなんて言ったの?まさかポアロの店の名前とか言っちゃった?」

「バーカ。事情を説明したときに言ったに決まってるだろ?なあ梓ちゃん?」

「それが…怖くなって電源切っちゃったから。一度目も二度目もこっちが何か言う前に切っちゃったからこのお店の名前言いそびれちゃって」

「それは…不幸中の幸いだったかもですよ」

「え?どういう事?私、ちゃんとポアロに忘れ物があることを言えなかったってマスターに怒られちゃったのに」

「電話越しとは言え女性にぶっ殺すなんて言葉を吐く男…男ですよね?」

「ええ、男性の声だったわ」

「男が奴……落とし主の女と勘違いしている梓さんに対して危害を加えないとも限りませんし。お店の店員だってことも方便として捉えられるかも」

「えー!!じゃあどうしたらいいの?!あ、でもマスターに怒られた次の日にずーっと電源を入れっぱなしにしていたけど丸一日かかってこなかったし。手掛かり無くて私本当に困っちゃって」

「ウーム…」

「やっぱりちゃんと事情を説明していたら…そもそも電源切らなければよかったのかなあ」

 

困り顔で肩を落とす梓さん。

 

「いや。これ、梓姉ちゃんのせいで電話がかかってこなかった訳じゃないと思うよ」

「え、どうして?コナン君」

「だってこの電話、通じてないもん!」

「ええ?」

 

梓さんに電話を渡されて耳に当てたりしていた新ちゃんは電話が話し中になっていて通じないことに気づいたみたいだ。

小五郎さんは携帯の料金を支払えず、解約になったせいだと当たりをつけさらに電話してきたのは借金取りだと推理した。

確かに筋が通ってるなあ。でも最近の借金取りってがなり立てたりするのだろうか?ネットが発達したお蔭で自分で自分の身を守る・守った武勇伝のような体験談が跋扈している世の中だ。言質を取られてしまうようなミスをするのか?

梓さんは、新ちゃんに携帯電話の落とし主の特徴を聞いていた。彼女が言う落とし主の容姿は確かに特徴的でその落し物(携帯電話)を気にかけてしまうのも仕方がないな。

 

「ねえ。携帯電話の中身見て見たの?電話帳にある番号にかけて持ち主に連絡を取って貰えばいいんじゃない?」

「私もそう思って、悪いとは思ったんだけど見ちゃったのよ。電話帳。幸いロックとかかかってなかったからすぐに帰せると思ったんだけど」

「思ったんだけど?」

「毛利さん、その携帯の電話帳を見てもらえます?」

「ん?ああ……なんじゃこりゃ。電話番号になってねえぞ、唯の数字(10ケタ)の羅列だ。しかも苗字はともかく名前がカタカナっていうのも妙な感じだな……」

「はい。なんか、偽名みたいだし」

 

小五郎さんの横から覗き見ると確かになんか変だな。名前の横に「・」があったりなかったりするし。

 

「まさかこの番号、何かの暗号か?」

「そういえば聴いてなかった。この携帯電話ってどこにあったの?」

「それは、丁度今小五郎さんと龍斗君が座っているソファの下よ。場所は小五郎さんの足元かしら。一度目の電話が鳴ったからすぐに気が付けたけど多分それがなくても閉店後には気づいてたと思うわ」

「どういうこと?」

「だって、携帯のアンテナがニョキってソファからちょっとはみ出てたもの」

「!?梓姉ちゃん、携帯を見つけた時ってその携帯開いたまんまだった?折りたたまれてた?」

「え?二つ折りに畳まれていたわよ?てっきり、携帯をポケットに入れ損ねて落として、それに気付かないでソファの下に蹴り入れちゃったんだと思うけど」

「んん?二つ折りでアンテナだけでてた?」

「どうしたの?龍斗君」

「ボクも龍斗にいちゃんと同じとこがおかしいと思う!だってポッケに入れようとするなら折りたたんだ後にアンテナも仕舞うでしょう?」

「あー、確かにな。それをしなかったって言うなら余程ずぼらな奴だったか…」

「電話のベルで誰かに発見されることを見越してわざとここに隠したか…とか何とかだったりしてね!おじさん!!」

「あ、ああ。しかしいったい何の目的で?」

「やっぱりお金じゃないですか?持ち主は携帯を解約されるくらいお金に困っているみたいですし」

「その携帯電話がどうしてココにあったのかは気になるんですけど、やっぱり持ち主は分かりませんか?」

 

あ、そう言えば梓さんの言う通りこの相談を持ってきた梓さんはこの携帯を持ち主に返したいんだったな。

 

「あ、それなら見当はつくぞ!」

「え?」

「ど、どうやって?連絡取れそうな手段なんてないのに」

「梓ちゃん、携帯電話。しかもこのガラパゴス携帯って言うのはね、裏のカバーを外してバッテリー電池を抜けば貼ってあるんだよ……製造番号が表記されたシールがね!後はその番号を製造メーカーに問い合わせて販売した店を特定、そこに行って事情を話せばこの落とし主が分かるって寸法だ」

 

おお。「探偵」っぽい…いや、こっちが普通なのか。殺人事件に遭遇しまくるのがおかしいだけで。

 

「「「「え?」」」」

 

バッテリーを抜く小五郎さんの手に注目していた俺達四人は同時に声を上げた。なぜなら。

 

「な、ない!ないぞ、製造番号が書かれたシールが!!な、なんでだ?」

「梓姉ちゃん、このお客さんの事もう少し詳しく教えてくれない?覚えていることを些細なことでもいいからさ!」

「え?えーっとね……あ、そう言えばそのお客さん焼きそばとカルボナーラとフルーツパフェとトマトジュースとシーザーサラダを頼まれて、しかもそのお会計が丁度3000円!このお店のメニューでぴったり3000円になる組み合わせってそれしかなくてお会計したときにちょっと感動しちゃ……って」

 

俺達が困惑している様子に気づいてちょっと赤面しつつ梓さんは続けた。

 

「こ、コナン君が些細なことで持っていうから……」

「にしても、結構食ってるな。しかも3000円って結構豪勢だぞ?」

「借金取りに追われているとは思えないね。龍斗にいちゃんの言ったことが正解なのかな?ほら、お金が入るから浮かれてたとか」

「確かに、この携帯がどういう価値があるのか知らんがこれ(携帯)のお蔭で金が入ってくるって言うならつじつまはあうな」

 

あれ?ここ喫茶店だよな?焼きそばとかシーザーサラダとかおいてるんだ。

 

「あ、お会計と言えばその人領収書貰って行ってたなあ」

「「領収書?!」」

「それで、あて名は!?」

「もちろん、「上様」で…」

「っだよなあ。わざわざ携帯の製造番号を示すシールをはがすくれえだもんな。しっかし一人で食事して領収書をもらっていったってことはそいつの肩書はいくつか絞られてくるな。出張中のサラリーマン、個人事業主…」

「もしくは普段からそういう(領収書を取る)癖がついている人かも」

「と、なるとルポライターか、探偵か。警察とかもか」

 

へえ。そう言う業種の人は個人で動いている時に領収書を取るんだ…いや、当たり前か?

 

「交番のお巡りさんとかもご飯食べたら領収書を取ってくるんですねぇ」

「あ、いや交番の警官は…」

「それは刑事!」

 

小五郎さんの言葉を遮ったのはポアロの入り口に立っていた制服を着た婦警さんだった。

 

「張り込みとか聞き込みとか尾行とか、刑事なら操作に必要な交通費や飲食代の領収書はとるけど私たち制服警官は捜査費用を使う事はまずないわ」

「あ、あんたたしか高木とよくつるんでる…」

「由美さん!どうしてここに?」

 

んー?どこかで見たことあるな……あー、爆弾事件の時か?

 

「もっちろん!駐車違反の反則金を中々納めてくれない名探偵さんに催促に…」

「あ、いや、本日払込みに行こうかと…」

「なーんてね、冗談よ冗談。実はある男の足跡をたどっててね。この領収書が唯一の手がかりだから聞き込みに来たってわけ」

 

彼女が見せつけたポアロの領収書には。

 

「「「「3000円!!」」」」

「え?」

 

おお、これで事件解決か。結局携帯が何の価値があるのかはわからずじまいだが持ち主に戻るならいいだろう。

 

「なあ、そのある男ってのは眼鏡の小太りの(梓さんの証言した)男じゃねえか?」

「え、ええ?そ、そうよ?」

「小五郎さん、そんな詰め寄らなくても。でもよかったね?」

「そうだね龍斗にいちゃん。ねえ由美さん、その人の居場所知ってるの?」

「知っていると言えば知ってるけど……」

 

そこで言葉を濁す婦警さん……なんだ?

 

「良かったー。やっと携帯を返す事が出来ます」

「返す?何を?」

「その男の人、ココに携帯電話を忘れちゃってて変な電話が何度もかかってきて大変だったんです!でも持ち主がどこの誰か分からなくてとうしようもなくて…」

「そうだったの…でも返すのは無理よ。だって」

 

 

 

――その人、一昨日の夜亡くなったから……

 




短い話なのに二編に渡ってしまいました。ちょっと原作エピの書き方を忘れてしまっています。文字数的には6000字超えと夏バテ前並みにかけてはいるんですけどね……徐々に勘を取り戻していけるようにしたいです。

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