一応、大まかなことはこのお話で一区切りになっています。
次話は二元ミステリーの後日談…というか、龍斗の隠してきたことを話す説明会になるかと思います。
作者も気を付けて書いたつもりですが、「伏線っぽいことが○○にあったけどかいしゅうしてなくね?」など気づいたことがあれば教えて頂けると幸いです。
それではどうぞ!
―杯戸港。夜のとばりが下り、日中は作業員で騒がしいこの場も今は二人の女性がいるだけで他に人気はなかった。二人は英語でいくばくか会話を交わしていたが金髪の薄い女性がこう切り出した。
「ここは日本、郷には郷に従って日本語で話しましょう?FBIの」
――ジョディ・スターリング捜査官?
「成程?流石は千の顔を持つ魔女ベルモット。貴女のその変装技術と女優としての演技力をもってすればどこにでも侵入し放題ってわけね?私の事も筒抜けだったってわけ…」
「貴女こそ。よく私がDr.新出に変装しているって気づいたわね?…まあ、見ただけで私の変装を見破れる
「(…彼?)わかるわよ。病気でもないのにお忍びの体で女優クリスのまま新出医院に通う貴女を監視していたら…彼を殺して成り済ますつもりだってことくらいはね」
「へえ?じゃあ彼の車が、私が尾行している時に目の前で崖から落ちたあの事故。あれは彼方達の仕込みだったのかしら?」
「ええ。殺される前に事故で死んだように見せかけたのよ。車も海に沈ませたままにしてね。そうすれば彼が死んだのを知っているのは貴女だけ。潜入しやすくなってうまく立ち回れるでしょう?勿論その車に乗っていたのは
「そこは感謝しているわ。お蔭で私は自分の手を汚さないで彼に成りすます事が出来たから。あの子の事、近くで感じてみてよく分かった。あの子に嘘は通用しない。
「?なにがおかしいのかしら」
「いえね。天下のFBI様が汗水たらして大量の人員を使って網を張って私の変装を察知したのに、あの子は会った瞬間に私の事を見抜いたから。それがおかしくってね」
「(さっきから頻繁に口にする「あの子」…彼についても聞かないとね……)そのことについてはまた後で聞くわ。貴女の
「…………」
「さて、ここからは尋問の時間よ。貴女の連れ出したこの娘。確かにあの写真の女性と瓜二つだけど本当にあの女性なの?この子にも私と同じ証人保護プログラムを適応させる準備は勿論しているから二度と貴女とは会うことは無いだろうけどどう見ても七歳の女の子よ?それにまだあるわ。あの写真の下に張ってあった三枚の写真。そのうちの二枚は個人の写真で
「それに、あの男の子をバスジャックの時に体を張って守ろうとした理由。彼が
―ドン、ドォン!!
「動かないで!」
「あらあら?ずいぶんと
「こっちの警察との合同捜査は貴女の身柄を確保して追手がつかない場所に移送してから要請するわ!勿論、処分は受けるつもり……でも、その前に個人的に聞いておきたいことがあるわ」
「あら、何かしら?」
「貴女、どうして…」
―どうして年を取らないの――?
「私が貴女に目を付けたのは一年前の母親の棺桶の前で言ったセリフ。記憶に残っているそのセリフを聞いて、父を殺した女の手掛かりが一切なかった私は胸を高鳴らせて調べたら見事に一致したわ。私の父の眼鏡に残った指紋とね!でもそこで新しい疑問が生まれたわ。
「……」
「そしてやっと見つけたってわけ。貴女の逮捕を妨げていた年齢という壁を、その謎を説明してくれそうな証人を!
――ダァァアアァン!
「う、っぐ……!?」
「Thank you,Calvados……まだ殺さないでね?この女には聞きたいことと言いたいことがあるから…」
「ど、どうして?」
「貴女は私をおびき出して罠にはめたつもりだったんでしょうけど。私、二時間前に一度ここに来たのよ。貴女に変装してね。そして貴女の声でこういったわ。
「タツト…そう、緋勇龍斗。貴女のボードにあった写真の最後の一枚。貴女が素顔で彼のほほにキスをする写真があった…あの写真は貴女が彼の母親の緋勇葵に変装したときの服装だった。素顔をさらして、キスまでする間柄なんだから貴女の組織の一員なんでしょう…?」
「ふふ…はっはっはっはっは!」
「な、なによ……?何がオカシイの?」
「車の中のシェリーも聞きたがっているみたいだから話してあげるわ。冥土の土産にね。彼は
「う、うそ…だって素顔で……」
「帝丹高校でタツトと再会したのは出会った回数にして三回目。一度目は有希子に紹介して貰って。その時に……」
「その時に、何よ?」
「…いえ。とにかく私は彼のファンになった。二度目はシャロン・ヴィンヤードの葬式の時。私はクリスとして参列していたけれど、彼は私がシャロンだって分かっていた風だった。そして三回目。Dr.新出に変装して高校で彼と再会して初めて話しかけた時よ」
「そんな、わけ…」
「そうよね。でも彼、私の
「そんな…じゃあ、貴方たちがデートしていた時の尾行を巻いたのは…」
「ああ、あれ?実は私もよく分からないのよね。ほんの数秒目をつぶっていたらあの写真を撮った高層ビルの屋上だったから」
「そんなの信じられないわ!尾行していた捜査官が貴女達を見失ったのはほんの10秒足らず!写真から割り出したあの屋上になんて行けるわけないわ!」
「それはあの子が『緋勇』だからよ。その一言に尽きるわ…でもよかったわあ。あのデート。彼に一回だけなら守ってあげるなんて言われたし。そんなこと言われて生娘のように舞い上がってしまったわ」
「ひゆ、う?」
「そこに食いつくのね…私も色々調べたわ。でも出るのは緋勇という家が京都にある旧家である事、それと緋勇の名を持つものが異常に戦闘能力を持っているという事。それでね、ちょっとした雑談のつもりでボスに緋勇の話を出したら…」
「出したら…?」
「奴らに手を出すな、ですって。彼らは表でも裏でもなく鏡の向こう側から1000年以上人類を守ってきた守護者の一族。彼らはこちらが手を出さない限り、牙をむくことは無いが敵対すれば…ってね。まあ私は知らなかったし、彼らは彼らでルールがあるらしいけど。ボスの話じゃあ、日本に落とされた原爆。彼らなら被害を0に抑えられる…正確には打ち消すことができるそうよ。《個人でね》」
「なによそれ…」
「さあ?でもアメリカにもそういう人たちがいるらしいから後は自分で調べたら?…ああ!貴女には無理ね。だってここで死んじゃうんだから!」
「っく!まさか全くの無関係者だったなんてね。それにまさか先手を取ったと思ったらここまで後手後手に回っていたなんて…もしかして忍び込んだことも知ってて放置していたの?」
「ああ、それ?勿論よ。あの写真を見せればあの女の居場所を貴女達が見つけてくれると思って。まさにビンゴだったってわけだけど。それにしても貴女には二度驚かされたわ。一つは貴女が20年前の少女だったってこと。もう一つは貴女がDr.新出の事件の真相を知っていたという事…どうやって聞き出したのよそんな裏話」
「き、聞いたんじゃないわ。頼まれたのよ。そう問い詰めて、貴方と敵対している姿と貴女が私を敵として認識している姿を見せれば私の事を信用するって。この車に乗っている女の子に」
「へえ、そう。この子が…じゃあ最後にもう一つだけ貴女がさっき語ったことの訂正をしてからお別れにしましょうか」
「訂正?」
「ええ。その娘が男の子から離れるのを待って動いたって言うけど、正確にはもう一人…タツトが世界大会で日本を離れたからよ。そしてFBIは彼に抱くのは疑念でなく感謝であるべきだった」
「感謝……?」
「あの子、私がDr.新出に変装していていることを初日で見破った後にこう言ったのよ。「シャロンさんが新出先生の事故を通報しなかったのは悪い事…悪い事?だから。その姿を借りている間は悪いことをしないこと。それを守ってくれるなら俺は黙ってるよ」って。だから私は
「…なによ、なによ!なんであんたがそんな顔を…!!ぐ!!!」
「あら、お腹に風穴開けてそんな大声を出すから…そろそろ、20年振りの再会もここまで…お別れの時間よ。さっきタツトが授賞式に出ているのを生放送で見たから、次のインタビューまでの空き時間でコトは済ませておきたいのよ。私がどんな顔をしていたのかは気になるけど、それを抱えて天国のパパに再会しなさい…Bye♪」
――ボォン!
「…っなっ!サッカーボール!?ま、まさか貴方…!?」
「ああ…」
――江戸川コナン、探偵だ!!!
――
どうする?有希子さんのメールだと確実に原作の「二元ミステリー」が起きている。しかも有希子さんの話だとすでに季節外れの船上ハロウィンパーティの時間…つまりもう、シャロンさんと新ちゃんが対峙していてもおかしくない…!
「龍斗?どないしたん?そないな怖い顔して」
「え?ああ、そんな顔してたか?」
「どうしたんだい、龍斗?龍斗がそんな顔をするのも珍しいが、ちょっと落ち着きがなくなっているぞ?少し冷静になってみなさい」
「父さん…」
確かに父さんの言う通り、俺が覚えている原作エピソードの中でも関わっている人物が俺が親しくしている人ばかりの事件だったから頭が沸騰してたけど…よくもまあ1,2分の表情の変化が分かるもんだ。流石は父さん。
うーん、冷静に考えてみれば確かに危惧するほどでもない…のか?今から日本に戻るのは
新ちゃん、蘭ちゃん、哀ちゃん、ジョディ先生、そしてシャロンさん…シャロンさん!?
「まさか……父さん!」
「考えは纏まったかい?でも、随分と時間がかかったようだ」
「あはは…でもちょっとまずそうなんだ。俺は今すぐ日本に戻って事の次第を見届けないと行けなさそうなんだ」
「…今からかい?」
そう言った父さんは料理を作る時の真剣な表情でもなく、いつもの優しげな顔でもなく、
「分かっているとは思うが、龍斗。我々の力が公になってはいけないんだよ?」
「分かってる。下手を起こしたら自分でしっかり
トリコの世界の技術には特定の記憶を消す、なんてものも発展しているし大丈夫だ。
「そうか…それじゃあ行ってきなさい」
「いいの?」
「当主である、父さんがその場にいたことはラッキーだと思うんだよ?普通はこんなすんなりいかないのだから」
「ありがとう。インタビューまでに間に合わなかったら、「授賞式でトロフィーを授与されてからあの技術に費やした
「わかったわかった」
「じゃあ、行ってくる!紅葉もまた後でね!」
「帰ってきたらしっかり事情を話してもらうんやからな?行ってらっしゃい」
俺は裏のチャンネルを開き、日本の自室に飛んだ。
――
日本に戻った俺はすぐさま感覚を開放し、皆の現在位置を探った。皆がいるのは港か…あっちは行ったことがないから足で行かないとな。
俺はビルの上を飛び跳ねながら、さっき行き着いた思考が正しいのかもう一度考えた。それは数日前にシャロンさんが何かの覚悟を決めた表情をしたことだ。あの時はただ「覚悟」としてさらっと流してしまったが、あれはただの覚悟じゃない。「
原作では蘭ちゃんの身体を張って庇ったことで未遂になったがあの覚悟を決めたシャロンさんはもしかしたら撃ちやすい位置に移動して殺してしまいそうだ、と思い至った。
思い至ってしまったので、結末をフランスで聴くの体勢から見届けるにシフトし俺は現場に急いで向かっている…着いた…!!
高めに跳躍した俺が見たのはシャロンさんが撃たれそうになっている姿。射線は立位なら腹の位置だけど前傾になって頭が下がっている今のシャロンさんには致命傷になりかねない…!
「うぐっ!」
俺はコンテナに着地し、ついでに寝そべりながら拳銃を取り出してた男の首を踏みつけて気絶させてシャロンさんと射線の間に飛び出した。
「タツト…」
「呼んだ?シャロンさん」
「タツト…タツト!!?」
俺はショットガンを撃ったニット帽の男性、赤井さんを一瞥しシャロンさんに向き合った。
「ええ、龍斗です。約束を守りに来ました」
「や、約束って…それに貴方、つい一時間前のフランスでの授賞式に…!それにショットガンで……!!」
「約束…貴女を一度だけ守る、ですよ。ですが…」
何故ここにいるかの質問には答えず、俺は約束を口にした。
シャロンさんが覚悟を決めたように俺も決めたよ。
「シャロンさん。もし貴方が
「タ、タツト…」
俺は眠らされている新ちゃんの方を見た。彼女も俺と同じ視線を向けて…
「そう、ね。私もこれ以上貴方に
そう言って彼女は俺を突き飛ばし、新ちゃんを抱き上げて車に乗って行ってしまった。
「シュウ!なぜ撃たなかった…の!?」
「……」
俺とシャロンさんが会話している間、赤井さんは動かなかった。それをとがめているジョディ先生。だが、彼女が見たのは顔にびっしりと汗を浮かべた赤井さんの姿だった。
さっき一瞥したときに少々
まずは……
「お久しぶりですね。Dr.ワトソンでピエロのお兄さん?」
次話は緋勇家について語ったり、撃たれたあとの港での話だったりを書こうと思っています。
少しネタバレですが、実は「七つの子」はしっかり行っています。理由として、赤井のショットガンでスマホが壊れて無事だった予備のガラケーでメールをしたと言う感じです。