名探偵と料理人   作:げんじー

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よろしくお願いします。


第二話

『米花保育園』

それが、俺が今日から通う保育園の名前だ。…うん、何となく想像がついてた。米花町にある保育園なんてここぐらいなんじゃないかなって。そして、父さん。父さんも転生者なんじゃなかろうか。だって…

 

「おはようございます、英理さん。史郎さん、朋子さん」

「おはようございます、龍麻さん、葵ちゃん。今日はおめでとう、龍斗君」

「おはようございます、龍麻さん、葵さん。今夜はよろしくお願いしますね。龍斗君、入園おめでとう」

「三人ともおはようございます。今日は腕を振るっちゃいますね。楽しみにしていてください」

「おはよーございます、えりおねーさん、ともこおねーさん。しろうおじさん」

 

そう、両親と挨拶を交わして歓談しているのは二年前に初邂逅してからちょくちょくあっている毛利英理さんと、こちらは一年前にとあるパーティで父さんに連れられて逢った鈴木財閥会長の鈴木夫妻だ。なるほど、今日の夜呼ぶのはこの二組の家族ってことか。

父さんの交友関係が原作キャラばっかりでびっくりだわ。いや、母さんも負けず劣らずなんだけど。

親同士が歓談しているので、足元で暇そうな女の子二人に話しかけることにした。

 

「おはよう、蘭ちゃん、園子ちゃん」

「おはよー、たつとくん」

「はよー」

 

ちょくちょく会う機会があって隠れて作ったお菓子をあげてたら友達になった。……字面だけだと変質者だな。いや、傍目幼児同士だから問題ないな、うん。

 

「二人は、ここにずっと来てるの?」

「うーん、ずっとかなあ」

「たぶんそうだよ、ずっとらんちゃんといっしょだったよ」

 

流石に、まだ2歳児には難しい質問だったかな。春夏秋冬とか月の感覚なんてまだわからないか。話を聞く限り、どうやら去年の夏の終わりの同じころに途中入園したらしく、今日の入園式には一緒に参加するみたいだ。毛利小五郎さんは張り込みが長引いて未だに格闘中らしい。

 

「それじゃあ、今日からよろしくね。ふたりとも」

「うん、またおかしちょーだいね、たつとくん!」

「わたしもほしい!おとーさんとおかーさんにもたべさせてあげたいし!!」

「今度持ってくるから。お菓子上げてたのは秘密だって!ね?」

 

そういうと、二人は人差し指を立ててお互いにしーっ!っとしていた。やっぱり無邪気で子供はいいな。

 

親同士の話もそこそこに終わり、そのまま入園式に参加した。入園式の式場では俺らの両親が目立ちまくっていた。英理さんも朋子さんも美人だし、俺の両親も美男美女だしな。史郎さんもいるんだが彼はすごく周囲に馴染んでいた。……彼も財閥の会長ですごい人なんだけどね。

式が終わり両親に連れられてきたクラスはチューリップ組だった。幼女2人とも同じクラスだった。「ひゆうたつと」と書かれたシールが貼ってある机につくと近くに蘭ちゃんがいた。は行とま行で近くになったようだ。園子ちゃんだけはさ行で少し離れた席だったのでこっちをちらちら見ていた。蘭ちゃんにそちらの方を指さして手を振ると真似して手を振ってくれた。園子ちゃんが笑顔でぶんぶんと振りかえしてきた。うん、よかった。

クラスの担当の先生の進行でクラスの決まりごと、自己紹介、一日の流れなど俺ら向けの説明と保護者向けの説明を行い今日の入園式は無事お開きになった。

 

「それでは、私たちは一度戻って会社の仕事を軽く終わらせてきますわ。それでは6時に」

「じゃあ、葵ちゃん。私も一度アパートに戻るわ。あの人も帰ってきていたら一緒に連れて行くから。」

「はい、お待ちしていますね。英理ちゃん、ごろーちゃんに優しくね。」

 

親に連れられて、蘭ちゃんと園子ちゃんは帰って行った。多分、お昼を食べてお昼寝してからうちに来ることになるんだろう。俺も両親に連れられて、商店街に寄って食材の補充をしてから家に戻った。

 

「「「ただいま」」」

 

三人揃ってそう言い、今度は母さんの昼ご飯を食べた。父さんと母さんは夜の仕込みをするため二人でキッチンに向かったけど、俺はおなか一杯になったこともあって体が睡眠を欲していたのでそのまま睡魔に身をゆだねた。

 

 

「やあ」

「お、おう。何とも短い再会までの時間だったな。……え、俺死んだのか!!!?」

「いや、違うよ。ちょっと言い忘れたことがあってね。」

「言い忘れたこと?」

「うん。転生特典ではないけど、君の力についてね。まず、トリコ世界で得た身体能力、グルメ細胞を用いた技。あれ、年齢を重ねるごとに段階的に開放されるようになってるから。全開放は15歳ね。逆にリミッターも自分でかけられるよ」

「は!?こっちにもグルメ細胞があるのか?!」

「いや、その世界にグルメ細胞はないよ。ただ、『気』の概念があるからそこら辺をちょちょいとね。」

「……まあ、なくてもいいがあって困るものでもないしありがたく貰っておく」

「そうそう貰っておきなさい。それから、トリコ世界に行き来する力……というか渡った世界を行き来する力が君には備わっているよ。時を遡ることはできないけどね」

「それはまた、便利な力だな。もう、貰えるものは全部貰うよ。もうないよな?」

「ああ。これで本当に最後。次は君が死んだ時だ」

「精一杯長生きするさ。じゃあまたな。」

「うん、またね」

 

 

「あら、起きたの?たっくん」

「うん、もうみんな来たの?」

「まだよ、それと丁度よかったわ。これからたっくんにも手伝ってもらおうと思って起こそうと思っていたの」

「手伝ってもらうって何を?」

「それはね……」

「今日の皆さんに振舞う料理やお菓子をだよ」

「父さん。え?どういうこと?」

「龍斗、お前は俺や葵に似てすごく料理に関心があるよね?おもちゃで遊ぶよりも俺たちの後ろで料理を作っているところを見るのが何よりも楽しそうにしているし、気づいていないかもしれないけど動きを真似ている。その動きを見て葵と俺は確信したんだ。この子は俺たちよりずっとすごいところに立てるって。難しいことを言っているのはわかってるし今は分からなくてもいい。ただ、俺たちはそんなお前の料理を食べてみたい。そしてこう言いたいんだよ。これがうちの自慢の息子ですって」

 

三歳児に言うことではないことを自覚しているであろうに、父さんの顔は料理を作っているときと同じかそれ以上に真剣な顔でそういった。後ろの母さんも微笑みながら頷いていた。……ああ。俺はこの二人の子供に産まれてよかった。この個性を、こんなにも早く見抜きそして肯定し自慢としてくれる人なんてほかにいるだろうか!!

 

「父さんと母さんと一緒にお料理作るってこと?」

「ああ、一緒に作るのは嫌かい?」

「ううん、一緒に作りたい!!」

「じゃあ一緒に作りましょう。でもまだ危ないから包丁を使わないでいいものを作りましょうね」

 

そして、父さんと母さんと今生で初めてとなる料理を作った。それはパンとクッキーというとてもシンプルなものだったが今まで作ってきたものの中で最も温かい料理になったと胸を張って言える。

 

「いらっしゃいませ、ようこそおいでくださいました」

 

六時になり最初に阿笠博士が来た。次に毛利一家、そしてなぜか目暮警部補夫妻が到着した。どうやら小五郎さんが呼んだらしい。勝手に追加したことに英理さんは激怒していたらしいが二人増えたところでなんら問題ない量を作っていたので父さんは快く受け入れていた。

そして、最後に鈴木一家が到着した。こっちもなぜかあの次郎吉氏も来ていた。どうやら、史郎さんがぽろっとこぼしてしまったらしい。こちらも朋子さんが史郎さんに怒っていたが父さんが仲裁して事なきを得ていた。

 

「それでは今日は皆さん、三人の子供たちが入園式を無事迎えられたということでささやかながらお祝いの席を用意させていただきました。存分に味わってください。龍斗、蘭ちゃん、園子ちゃんおめでとう!それでは皆さん、乾杯!そしていただきます!!」

「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」「「「「かんぱーい!」」」」

「「「「「「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」」」」」

 

父さんの音頭により今日のお祝い会が始まった。料理は父さん担当、そしてその後のデザートが母さん担当だ。父さんの本気度はいつものパーティに出すものと遜色ない、むしろ勝っているんではなかろうかと言うくらいの気合の入れようだった。普段は和食の依頼が多いみたいだけど今日は和・洋・中に各国の料理が所狭しと置かれている。そしてそのどれもがうまい。最初は歓談しながら食べようとしていた大人陣も一口二口食べるとそのまま黙々と食べ始めてしまった。

ああ、父さん本気出しすぎたな。父さんのほうを見ると母さんと一緒に苦笑していた。事件終わりの刑事二人が酒も飲まずにご飯食べている姿は中々見れないんじゃないかな。しかもあの小五郎さんがだよ?

必然、子供の面倒は俺が見ることになるわけで。

 

「おいしいーーーー!!うちのシェフのよりずっとおいしいわ」

「うん、うちのおかあさんのよりももっともっとおいしい!」

「ああ、ほら二人とも口の周りについてるよ」

 

美味しい美味しいと言いながら子供用に味付けされた料理をぱくぱく食べている二人の口元についた汚れを拭きながら俺も自分用にとった料理に手をつけた。…うん、これは大人の人が黙ってしまうのも分かるなあ。どれだけ気合いいれたんだよ父さん。

 

「んん!?何だこのパン」

「どうした毛利君」

「いえ、目暮警部補殿、このパンがですね」

 

おや、あれは俺が作ったパンかな。料理を両親と一緒に作れることがうれしくて、培った経験と技術をこれでもかって自重なく注ぎ込んだ塩パンだから美味しいとは思うんだけど。

 

「いや、このパン。めちゃくちゃ美味しいんですよ!シンプルなのになんというか、これがパンの頂点だって言われても可笑しくないってくらいに」

「本当かね、毛利君。どれ……た、たしかに。なんて旨さだ。それに他の料理とあわせても互いの味と喧嘩することなく調和している!!」

 

二人のやり取りを見ていたほかの人もパンに手を伸ばし口々に褒めてくれた。シチューにつけて食べている人もいればカレーつけている人もいる。そのみんなに共通しているのは笑顔であることだ。……これだよな。やっぱり料理人としての最高の報酬ってのは。

 

「ほんとにうまいのう。流石は『料理の神』と呼ばれる龍麻君のパンじゃ!!!」

「いえ、その塩パンを作ったのは龍斗ですよ。材料の割合やらパンのこね方、寝かし方、焼き加減に至ってもそれが美味しくなる最良のものだと分かっているかのように目分量でやっていました。私たちが手伝ったのは、成型とパンをオーブンに出し入れすることくらいですよ」

 

父さんはそう言って誇らしげそうにパンを食べていた。その言葉に周りの大人はびっくりしていたが、我にかえった後俺のことを褒めてくれた。

 

「さあ、皆さんのお腹も良い頃合いでしょうし、次はデザートになります。こちらにもたっくんの作ったものがあるので当ててみてくださいね」

 

そういうと、母さんは色とりどりのケーキやクッキー、父さんと同じく各国の代表的なお菓子を乗せたお皿を持ってきた。女性陣はそれを見て歓声を上げていた。…蘭ちゃんも園子ちゃんも幼くても女の子なんだねえ。

 

「ああ、葵ちゃんのケーキ。小さいときから食べてるけれど、歳を重ねるにつれてどんどん美味しくなっているわね。ここ三年は仕事に出ていなかったのに前より美味しいじゃない」

「たっくんのために作ってたからそのおかげよ」

「うん、本当に美味しいわ。ぜひ今度うちのパーティでも腕を披露してもらいたいわ」

「しばらくは日本中心で仕事の依頼を請けようと思っているのでその時は是非!」

 

女性陣はきゃいきゃい言いながらさっきまでご飯を食べていたとは思えないほどのペースでデザートを食べていき、男性陣もそれには及ばないが普通の男性が食べるペースよりは早いスピードで舌鼓を打っていた。

 

「うむ、わかったぞ。」

「何が分かったんですか、史郎さん?」

「あなたは、確か……」

「わしは、この家の真向かいの家にすんでおる阿笠博士というもんじゃ」

「おお、これはすみませんな。どうにも料理のインパクトに押されて。自己紹介をしてもらったというのに」

「いえいえ。その気持ちもわかるというもんじゃ。それでわかったとは?」

「そうそう、龍斗君が作ったものですよ。ずばりこのクッキーだ!パンを食べたときと同じような衝撃を感じたよ。今まで仕事柄美味しいといわれるものは古今東西食べてきたが緋勇一家の作るものは本当に一線を画している!ねえ、兄さん」

「おお!確かにわしもうまいもんはあらかた食べつくしていたと思っておったんじゃが、まだまだ甘かったようじゃ!!」

 

そういって、次郎吉さんもクッキーをほおばった。それを聞いていたのか母さんが笑顔を浮かべながら

 

「正解です!私もたっくんとこれを作ったとき成型くらいしか手伝っていないんですよ。実は出来上がったものを味見したときこのクッキーは出さないで独り占めしたいなって誘惑に駆られて、それに負けないようにするのが大変だったくらいなんですもの」

 

その言葉を聴いた女性陣は今まで華やかなケーキのほうばかりに気をとられていたようで、シンプルなクッキーゆえに地味に見えて隠れていたそれをすぐさま見つけて口にした。すぐさま笑顔になっていく様子を見て俺も笑顔になった。

 

 

「それでは皆さん。今日はそろそろお開きと言うことで。お土産に龍斗の作ったパンとクッキーを包みますので。何かパーティなどがあればこの緋勇一家にお任せください!」

 

そういうと、みんなから自然と拍手が出てこのお祝い会は終了となった。三人で門扉まで見送りし、みんなが見えなくなってから聞いてみた。

 

「父さん、最後のあれなんだったの?」

「あれ?」

「パーティっていってた」

「ああ、あれな。今度から時間があれば龍斗も俺たちが呼ばれたパーティに積極的に連れて行こうと思ってな」

「パーティって今日みたいにいっぱい人が集まってご飯食べる?」

「そうだ。鈴木会長は作る側にとても配慮をしてくれる良い方でこちらからお願いしたいくらいだし、ああ言えば色々な場所で宣伝してくれると思ってね」

「それにね、今日のたっくんをみてわかったの」

「母さん?」

「たっくんは本当に私たちの子だって。料理で人を笑顔にすることが何より好きなんだって。それなら親として料理を作る機会を与えてあげたいって思ったの。そして世界中の人に自慢したいのよ、これが自慢の愛する息子だって!!」

 

いまはわからなくてもいいのよ、と続けて母さんと父さんは俺と手をつないで玄関のほうへ歩き出した。

 

 

……ここまで言われちゃあ、なんにもしないってのは息子としてダメだろ俺。やってやろうじゃないか。自重?家族愛のためになんの役に立つ?そんなもんどっかに置いていけ!おれは!!父さんと母さんの!!!自慢の息子になる!!!!

 




これから、幼少期に主人公の心の声が不安定な口調になることがあると思いますが、それは現実で子供っぽい演技をしていることに引っぱられるせいです。

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