名探偵と料理人   作:げんじー

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ぎりぎり日曜日に更新できました…


このお話は 原作第26巻 が元となっています。

この話では龍斗はほとんど事件には関わりません!


それではどうぞ!


第三十六話 -学園祭、黒衣の騎士-

―学園祭1週間前―

 

 

「もしもし、園子ちゃん?」

『どうしたの?龍斗君。珍しいわね。携帯じゃなくて家に電話だなんて』

「ちょっとお仕事を頼みたくてね」

『お仕事?』

「うん。学園祭の間なんだけど、マスコミのシャットアウトを頼みたいんだ。大手、フリー問わずにね。今年は俺も世界大会に出るし、去年はいなかった紅葉もいる。俺や周りの学生に無遠慮にインタビューして回るきちが…失礼。無礼な輩が何もしなければ湧くだろうしね」

『あー。去年も頼んでたやつね。確かに何人かその手の奴らが実際いたって報告あったし。今年はもっとひどくなりそうだわね。了解了解』

「話が早くて助かるよ。報酬は去年と同じ…いや、ひどくなりそうだし4割増しでどう?追加で貢献してくれた人全員に特製弁当+スイーツで」

『わお。それはいいわね!しっかり伝えておくわ。でも当日のガード以外にも裏であの手この手使うから結構な数になりそうだけど大丈夫?』

「大丈夫大丈夫。せっかくの(紅葉との)思い出作りの場なのに無粋なまねされたくないしね。お願いします」

『まっかせなさい!じゃあまたねー!』

 

 

―学園祭2日目―

 

どうやら、園子ちゃんへの依頼は大成功だったらしい。学園祭を狙い澄ましたような家にかかってくるマスコミの電話もあの依頼をした翌日からぴたりと止まり、学園祭の中での写真のお願いも一般人の人からだけだ。…一緒に撮ってくださいは分かるが、なんで俺と紅葉のツーショットを欲しがる人がいるんだ?

まあ、それはともかく俺は学園祭を大いに楽しんでいた。…隣に恋人がいるだけでこんなにも変わるとはね。

 

「ん?どうしたんです、龍斗」

「いや、なんでもない。楽しんでる?紅葉」

「ええ、とっても!」

 

知らず、紅葉の方を見ていたらしく怪訝な顔をされたがとてもいい笑顔で返された。ああ、依頼出しておいてよかった。

 

 

 

 

2年B組の劇の順番が次となり、俺達は体育館の舞台裏で準備及び客席の様子をうかがっていた。のだが、

 

「ちょ、ちょっと!次私たちの劇なのになんでこんなに人が増えてるのよ!?」

「それだけ期待大ってことよ!あのロミ・ジュリを凌ぐ超ラブ・ロマンスだって銘打って宣伝したし♪それに蘭や龍斗君、紅葉ちゃんが出るのも大きいわね」

「えー、何よそれ!聞いてないわよ!?」

「ほんんまに結構な数やねー」

「こりゃあ、蘭ちゃんがあがらないか心配だ…」

「蘭ちゃーん」

 

へ。何やら聞き覚えがある声が後ろから聞こえてきたので振り返ってみると。

 

「「「「和葉ちゃん!」」」」

「やっぱり来てもーた。平次には「邪魔になるからやめとけー」言われたんやけど」

「じゃあ服部君来てないんだ」

「ちぇー。あの色黒イケメン君は来てないのかぁ。いい目の保養になるのに」

「目、目の保養って。あんなん見てもおもろないで?園子ちゃん」

「なーんて、冗談冗談。まあせっかくの劇を見せられないのは残念だけどね」

「もー。あ、そんで?工藤君はどこにおるん?ウチだけ会うたことないんやなんてなんか悔しいやん?せっかく初遭遇できるとおもて楽しみにしとったんやけど。呼んどるんやろ?」

「別に。呼んでないよ…」

「ああ、いや。一応電話で伝えたんだけど。事件がーってね。なあ、紅葉」

「え?ああ、そういえばそんなことも言うとったような…でも、蘭ちゃんから伝えてないやなんて知りませんでした。てっきり…」

「そうなのよー。昔の友達とか近所の人とか呼んでるのに蘭ったら肝心な旦那にはひとっこともないのよ!」

「だから旦那じゃないってい「ボクだけじゃなかったんだね、呼んだの」って…?」

「お父さん?コナン君!?」

「まだ風邪が治ってねえから今日は寝てろって言ってんのに約束したから絶対行くって聞かなくてよぉ」

「風邪大丈夫?お腹痛くない?」

「大丈夫だよ、蘭姉ちゃん」

 

和葉ちゃんに続いて、小五郎さんと新ちゃんもやってきた。退院したてで、風邪もひいてるのに来るなんて健気だねえ。…んー?なんだ…?

 

「蘭さん、ちょっといいですか?ラストのセリフのきっかけなんですが…」

「あ、はい…」

 

シャロンさん扮する新出先生が最後のセリフ合わせに来た。流石は大女優というか、演技には余念がないね。

 

「男前やなあ。あの人が蘭ちゃんの相手役なん?」

「そうそう!結構お似合いに見えない?」

「んー。せやろか。なんや、新一君といるより蘭ちゃんが遠慮しとると言うか畏まってる感じがします。ウチは新一君を推しますけどなあ」

「えーっと。どうなんだろうね?」

「おやー?龍斗君にしては歯切れの悪い感じね?」

「ははは……」

 

だって中身女性なんだもの。

 

「じゃあボク席で見てるから…」

「あ…」

「じゃあな、蘭!あがるんじゃねーぞ!」

 

そう言って、新ちゃんと小五郎さんが客席に行ってしまった。なーんか、変だったな新ちゃん。それに続いて、

 

「じゃあウチも席につくね!楽しみにしとるよー。皆!」

 

と、和葉ちゃんも行ってしまった。

 

「期待されたからには頑張らないといけませんなあ。せやろ?龍斗、蘭ちゃん」

「そうだね。まあ一番頑張るのは主役の蘭ちゃんだけど」

「皆、頑張りましょ!さあ、もう本番15分前よ!ほら、龍斗君も紅葉ちゃんも着替えて着替えて!蘭も!あなたは初っ端から出るんだから急がなきゃ!」

「う、うん…」

 

先ほどの新ちゃんの様子が気になるのかどこか上の空の蘭ちゃんだったが、園子ちゃんと紅葉に連れられ女子更衣室に着替えに行った。

 

 

 

―――ビーーーーィ!――――

『只今より2年B組の「シャッフルロマンス」を上映いたします…ごゆっくりご鑑賞ください…』

 

「ああ…全知全能の神ゼウスよ!!!どうして貴方は私にこんな仕打ちをなさるのです!?それとも、この望みもしないこの呪われた婚姻に身を委ねよと申されるのですか!?」

 

俺達2年B組の劇、「シャッフルロマンス」が始まった。俺と紅葉は客席から見て左側の舞台袖で出番を待っていた。と、いっても俺達の出番は終盤なので今は袖から劇の方を楽しんでいる。

 

「蘭ちゃん、緊張であがったりはしてないみたいやね」

「そうだね。…ちょいちょい、聞いたことがある声が客席から聞こえてくるけど」

「小五郎さんの「蘭ちゃん、空手や空手!そないな連中いてもうたれーぇ!!」…と、和葉ちゃんやね。…演劇の鑑賞中のマナーとしてはアカンのやけど」

「まあ、あの二人らしいっちゃ、らしいよね…おっと、黒衣の騎士の登場…だ?」

「どないしたん?龍斗。この劇の見せ場やん」

「あ、ああ。なんか着地した時の音が…」

「音?」

 

シャロンさんが扮する新出先生だ。体格を誤魔化してはいるが体重については故意に合わせてはおらず、あの装いでも50kg前後のはず。だけど今の着地音は…

 

「あれ?なんや?台本とちゃう…?」

 

――――キャーーーーーーーー!!―――

 

至高の渦にのまれてしまっていた俺を引き戻したのは絹を裂くような悲鳴だった。そしてそれに起因して感覚を広げた俺は、今日感じた違和感の答えを知った。

 

 

 

 

どうやら、劇を鑑賞していた男性が毒殺されたらしい。事件が起きた際に体育館にいた人間は事情を聴くために体育館から出ることを警察に止められて、体育館の出入り口は警官が歩哨に立つようにして外から中の様子が分からないようにされた。

中に残った俺達は事件解決まで捜査の様子を撮影することがないように携帯の電源を落とすように言われた。撮影していた場合、最悪公務執行妨害の罪が科せられる可能性があることを示唆され、皆が素直に従っていた。舞台袖にいた俺や紅葉、他の同級生たちは舞台裏に待機する事となった。例外は悲鳴が上がった時、舞台にいたのは見せ場の場面のために黒衣の騎士と蘭ちゃん…いや、感覚を広げた事で分かった。()()()()()()()()だ。彼らは110番で呼ばれた目暮警部たちの傍に行っていた。新ちゃんが新一に。そして、コナンは変装した哀ちゃん。何故教えてくれなかったのだろう…

 

「あーあー。さいってい!変な事件は起きるし、劇は中止になっちゃうし…おまけに雨が降ってくるし。せっかくのお祭りムードが台無しよ…ねえ?新出先生?」

「こうなっては仕方ありません。諦めましょう…」

 

窓から雨模様の空を見ていた園子ちゃんがシャロンさんにそう言っていた。確かに気落ちしてしまうね…そうだ。

 

「ねえ二人とも。中身が新ちゃんに入れ替わってたけどいつの間に?」

「えぇ!?龍斗君、気づいてたの!?」

「黒衣の騎士の登場シーンの着地音がね。ちょっと…(重かった、とは言えないよなあ。体格的には新出先生の方がいいから重いはずだし。)」

「着地音…?」

「ま、まあ。なんだ。新出先生の体重じゃ出ないような音だったからさ。それで、気になって観察してみればよく見たことある人物だなって。彼の体重の音なら納得だし」

「うへぇー。もしかして龍斗君、歩く音とかで体重が分かったり?」

「あはは…これでも無手の古武術を仕込まれてるから。その気になれば間合い(身体の長さ)とか体重、利き手足、隠し持っている武器なんかは2,3歩歩く姿を見れば分かるよ」

「何それ初耳…まあそうよ。黒衣の騎士スタンバイの時に彼が来たのよ。それで…」

「私が彼に役を譲ったんですよ。蘭さんのKnightは工藤君が良く似合いますからね」

「…というわけで、彼に急遽代わってもらったってわけ」

 

なるほどねえ。しかしシャロンさん、ナイトの発音が妙にネイティブだったな。

 

「じゃあ、あのいきなり抱きしめてからのキスは園子ちゃんの差し金ですか?台本無視でびっくりしたやんか」

「あはは…あっちの方が面白そうだったから!だいじょーぶよ、何だかんだで新一君のアドリブ力はあの工藤有希子譲りで抜群なんだから!なんとかなってたわよ…多分」

「それに付き合う、演技力皆無な俺にも気を配ってほしかったよ…」

「それはごめんね…」

「まったく…」

 

 

 

「…それで?私の体重も知ってるのかしら?」

「あはは…普段は一々調べたりしてませんから(スタイルいいのにそう言うのは気にするんだ…)」

「その言葉、信じるわよ?それと、女性の体は秘密で美しくなるものよ?」

「…俺って考えている事顔に出やすいですか?」

「そうね、正確にわかるわけではないけど私にとっては容易い事よ?ボ・ウ・ヤ♪」

 

 

 

 

クラスメイト達と雑談する事、事件が発生して3時間ちょっと。舞台裏で待つ皆も辟易とした表情を浮かべ始め日も落ちた頃、事態が動いた。

 

「いや…これは自殺ではない。極めて単純かつ初歩的な…殺人だ。そう、蒲田さんは毒殺されたんだ。暗闇に浮かび上がった部隊の前で…しかも犯人はその証拠を今なお所持しているはず…ボクの導き出したこの白刃を踏むかのような大胆な犯行が真実だとしたらね…」

 

舞台裏から様子をうかがっていたが、黒衣の騎士の仮面を脱ぎその表舞台には決してあげてはならない顔をさらしていた…晒してしまった。

突然の登場に体育館内は騒然としたが、新ちゃんは一言で静めてしまった。…あんなセリフよくもまあ素面で言えるなあ。…あ。平ちゃんも来てたんだ。新ちゃんはその後、殺人事件の謎を解き明かした。…そろそろやばそうだな。

 

「…新ちゃん」

「た、龍斗」

「後で言いたいことと聞きたいことがいっぱいあるけど。今は舞台裏に行こう?(結構ヤバイでしょ?)」

「あ、ああ。すま…ねえ!?…っぐ!!??」

「新ちゃん!?」

「工藤!?」

「新一!?」

 

俺に言うようについて行こうと一歩を踏み出した瞬間、新ちゃんは俺に倒れ掛かってしまった。推理の後半に連れて彼の心音が乱れ始めていたことが分かっていたから大事になる前に回収したかったんだが推理が終わるまで待っていたのはやっぱり失敗だったか!?

 

「新一?新一ーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?この独特の臭い…保健室か?ああ、そっか。龍斗が俺を運んでくれたのか。くっそ、アイツには迷惑かけてばっかりだな。だからアイツもオレには…

オレは瞼を少しずつあける…一番初めに目に入ってきたのは蘭だ。青い顔してるな。他には服部、園子、和葉ちゃん、紅葉さん…そして龍斗。ああ、皆顔色が悪いな。そりゃそうか、人が目の前でガキにまで縮んちまったんだから…な!?

 

「おお、工藤!目ぇ覚ましよったか?!」

「え?」

「よかったー、気ぃついて!」

 

慌ててオレは手を見、体を見た。…黒衣の騎士の衣装がぴったり着れてる?ってことはオレの姿は高校生のまんまなのか?

 

「もぉ、心配させないでよね!」

「まったくだ。そういうことするなら事前に教えてもらいたかったな!」

「いやいや、龍斗。倒れることを事前に教えるなんて無茶なこと言ったらあかんよ?」

「…あれ?」

 

どうなってるんだ!?

 

 

 

 

 

 

 

…龍斗の目が笑ってなくて、それを見て背筋が凍ったのはココだけの話だ。

 




なぜ、龍斗に伝えられず新一になったのか。その当たりは次のお話で。

舞台裏で哀の変装に気づかなかったのは劇に気を取られていたことと、新一がそんな小細工をするなら何かしらの連絡を入れるだろうという考えがあったからです。

実際に事件に巻き込まれたことは無いので実際に警察の人が携帯の使用を禁じるかどうかは知らないので、コナン世界の公務執行妨害に含まれる捏造設定ということでお願いします。

食べ物に仕込まれた毒殺に気付くのにはその人物との距離が近くなければ発揮できません。今回は距離が開いていたため、松本先生の時のように気づくことができませんでした。

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