名探偵と料理人   作:げんじー

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このお話は原作 19巻 が元になっています。

PCの不調が深刻で次の投稿はちょっと分からないです。PCの不調は生活にも関わってきますので早めに解決して投稿も再開できる…ようにがんばります。


第二十三話 -浪花の連続殺人事件-

方針を決めて数週間、明美さんは男性時には「辻本夏」と名乗ることになった。傷も癒え、日常生活を送れるようになった。流石に20数年生きてきた性別と違う体は慣れず、物語であるような(トイレを間違える、女言葉になるなどの)失敗が続いた。そして――

 

「え?買い物帰りに哀ちゃんに会った?」

「そうなのy……なんだよ。横を向いたときの顔を後ろから見られたらしくて。顔立ちは私のままだから『お姉ちゃん!!』って呼ばれちゃって。つい後ろを振り向いたら小さな志保と同じく吃驚しているコナン君と……他にお友達かな?三人の子供と一緒にいたわ……いたんだ」

「今は家ですし言葉は戻してもいいんじゃないですか?」

「いや、男の時は変えないといつまで経っても変な顔されちゃうからね」

 

向き合えば、今日来ているのはタンクトップにジャケットだし男性だというのが分かるだろう。喉仏も出ているし声も低い。だけど明美さんの言う通り顔立ちはそこまで変化してないから短髪にしているとはいえ後ろから見れば勘違い(事実だけど)するか。一応哀ちゃんの事はちらっと見ていたりしていたので動揺しないように気を付けて、当たり障りのない事を話して別れたそうだ。ただ、新ちゃんはどうも納得していない、哀ちゃんはどうにも悲痛な顔をしていたそうだ。

 

「そうですか……もし、近所で会うようなことがあればここに住み込みで働いていることは別に話してもいいですよ。流石に何度も会って親交を深めて隠すのは不自然ですしね。ただ「辻本夏」として…ですよ?もしかしたら死にたがっている彼女もいい方向に行くかもしれませんし。明美さんにはつらいかも知れませんが…」

「いいの?勿論正体を明かせないのはつらいけど近くであの子を見れるのなら…あ、でもたしかに下手なことを言わないようにしないといけないのは大変かな」

「気を付けてくださいね。あの子たちは頭がいい。ちょっとしたことで気づいてしまうかもしれないですからね。まあ、一緒に風呂でも入れば疑念は払拭できるでしょうが」

「えっと……そこまでは。あはは…そ、それより!そろそろ私の体も復調してきたしそろそろ訓練をお願いしても大丈夫かな?志保の様子を聞くに早ければ早い方がいいだろうし」

 

そう、哀ちゃんが生きることに前向きでない傾向があるんじゃないかと新ちゃんが言っていた。そのことを伝えた時の明美さんは自責の念と決意の秘めた複雑な表情していた。今もその時と同じ顔をしている。

 

「あー。実はですね。寝たきりだったリハビリと、傷の回復そしてドクターフィッシュによる肉体改造はあらかた無事に終わっています。なので今日からでも戦闘面について指導していこうと思っていたのですが……」

「ですが?」

「実は明日から家を離れることになってしまいました。なので戦闘訓練は帰ってきてからということで……」

「あら残念。お仕事?」

「いえ、幼馴染みに呼ばれて大阪に」

 

 

 

 

「あれが天王寺動物園!あれが大阪ドーム!ほんでここが通天閣や!どや!?ええとこやろ大阪は!!」

「ほんと、いい眺めだね!」

「つってもなあ、東京タワーと変わんねーじゃねーか」

「アホ!あんな味気ない赤い塔と一緒にすんな!この通天閣はな……」

 

今日、俺は平ちゃんの誘いで毛利一家とともに大阪観光に来ていた。紅葉は不参加。どうやら東京のカルタ大会に出場するらしい。応援に行ってから大阪で途中合流すると言ったのだが、「こないな大会、龍斗の応援がなくても楽勝やから楽しんできー」と送り出されてしまったので単身大阪に来たというわけだ。家の事は明美さんに任せた。

…ん?なんだ新ちゃん俺と平ちゃんを引っ張ったりして。

 

「オイ、服部。そろそろオレや龍斗を大阪に呼んだ理由を話せよ。またなんかあんだろ?本当の理由が……」

「ちゃうちゃう、今度はホンマに仕事抜きや。一度お前らにじっくり大阪を案内したろとおもてな」

「「え?」」

「人間なんか……いつ死んでまうかわからへんのやからのォ…」

「!!」

「な、なんだそれ?」

「けったいな夢を見てもうたんや」

「夢?」

「ああ、今から犯人を捕まえるっちゅうとこで逆に犯人に刺されてしもて、おまえが死んでまう夢をなあ…」

「なるほどねえ」

「おい!龍斗もなんで納得してんだ!」

「そんで、龍斗とは京都の方ではようあっとったけど大阪ではほとんどなかったしな。丁度ええってことで誘ったんや」

「おーい、平次君!スマンなあ、おそうなった!!」

 

俺達が蘭ちゃんや小五郎さんと離れた場所で会話をしていると平ちゃんの後ろから声を掛ける眼鏡をかけたスーツの男がいた。

 

「お。やっときよったか!」

「どちら様?」

「大阪府警東尻署の坂田祐介ゆうもんです!」

「刑事さんがどうして服部君に?」

「ウチのオヤジがな。「毛利ハンや龍斗君が来はるんやったらちゃんと案内せえ!」ゆうて気ィ利かせてくれたんや!」

「流石は大阪府警本部長。平蔵さんもやるねー」

「あれ?そういえばオヤジはどうしたんや?顔を見せる言うとったけど」

「本部長は例の事件の会議でちょっと…」

(例の事件?)

「ほんで?ちゃんとあの車用意できたんか?」

「そらもう!普通の奴とちゃうんで数はまだ少のうて失敬するのに苦労しましたが。東尻署で一番目立つもんを持ってきましたがな!」

「お、おい……その車ってまさか……」

「さ、いこか!」

 

平ちゃんに言われ、俺達は通天閣を後にした。後にしたんだが……

 

「やっぱええのう!パトカーは!!渋滞でも車が避けていきおる!しかも普通のセダンタイプやのうてワゴンタイプやから、注目度もばっちりや!ほな、どこからいこかお客さん?」

 

そう、彼が手配をしていたのはパトカーだった。しかもキレーな新車。小五郎さんも文句を言っていたが平ちゃんは何が気に食わないのか分からない様子だった。

 

「何か、連行されているみたいで恥ずかしいかなって…」

「そんなん、悪いことしてへんのやから堂々としてたらええんや堂々と」

(ハハハ……)

「…っと龍斗?何でおまえさんはフード被っとるんや?マジもんの連行中の犯罪者みたいになっとるで?」

 

そう、俺は来ていたパーカーのフードを被り、横からも前からも顔が見えないようにして周囲を警戒していた。

 

「……いやあのね?平ちゃん。探偵の小五郎さんやその家族、高校生探偵で知られている平ちゃんはともかく俺は警察に血縁のある関係者はいないからね。一応、世界大会もあるしゴシップネタになりそうだから隠れておこうと。撮られたら説明しても泥沼になりそうだし」

「あー。そういや下手したらこん中で一番の有名人やったな。そこまで気がまわらへんかったわ。龍斗には悪いがこのままでええか?」

「囃し立てる連中のほうが悪いからね(平ちゃんのチョイスも悪い気もするけど)。警戒しているから問題はないよ。それよりツアー案内を頼むよ?ガイドさん」

「おっしゃ、まかせとき!」

 

そして俺達は平ちゃんのおすすめのうどん、たこ焼きを食べた。うん、美味しい。うどんの出汁の隠し味をうどん屋のオッチャンに言い当てたらそこからうどん談義が始まったりしてとても楽しかった。ん?蘭ちゃんの様子が…?

次はお好み焼きが良いと言うと、交通網の関係でかなり遠回りになるとのことだった。 そこで案内役の坂田さんが知っている店に急遽行く事になった。

 

「良かったね。近くにいいお店があって」

「そうだね、蘭ねーちゃん」

「ほんならオレ、ちょっとオカンに電話してくるよって。……おっちゃん、メシも忘れんといてな」

「え?」

「メシと一緒に食べんのか?」

「普通やんけ。お好み焼きはオカズやぞ?解説は任せた龍斗!」

 

そういうと平ちゃんは電話をしに行った。それじゃあまあ、解説というほどでもないけど。

 

「関西の方だと「お好み焼き定食」っていうのもあるくらいお好み焼きはオカズであるって考え方が他の地方より浸透しているんですよ。初めて食べる人はえ?ってなるんですけどタレがご飯とマッチしてて美味しいんです。まあお腹のすき具合でご飯ぬきにしたりするので一様には言えないですけどね…っと、おれもちょっとトイレ行ってきます」

 

俺はそう言って席を立った。『面白いね大阪って……』『だね』後ろでは新ちゃんと蘭ちゃんがそんなやり取りをしているのがかすかに聞こえた。

 

『ハハハハ……笑かしよんなこの女!』おや?トイレから出ると平ちゃんの陽気な笑い声が聞こえた。

 

「どうしたの?平ちゃん」

「どないしたもなにもコイツが笑かしてくれたんや!」

「ん??おやま、和葉ちゃんじゃない。久しぶり。和葉ちゃんが笑わせてきたの?」

「た、龍斗君久しぶりやな。な、なんでもあらへんよ!」

 

どうやら俺と平ちゃんが席を外してる時に蘭ちゃんに突っかかったらしい。平ちゃんを東京でたぶらかした「工藤」という女だと勘違いして。……東京で平ちゃんをたぶらかした「工藤」までは合ってるな、うん。でも…

 

「それは……ぷっ…わ、わらっちゃうね…」

「も、もうそない笑わんでもええやんか!」

 

何やら思いつめていた様子から表情もほぐれたようなのでお互いに自己紹介をした。取りあえず関東と関西どちらも知り合いである俺が音頭を取った。なぜか、和葉ちゃんは二人が悪ふざけして平蔵さんの古い手錠で遊んでいてしばらくつながって生活していた通称「鉄のクサリ」について話していたが。……蘭ちゃんへの牽制かな?

 

「なるほどなあ、つまり龍斗君の父親である龍麻さんとそこの二人の父親が幼馴染みで、母親である葵ちゃんはオレや英理と幼馴染で有希ちゃんとは高校からの親友。なんとも奇縁というか」

「こうして幼馴染み同士で縁が出来るのは嬉しいですね。普段は住んでいる場所が関東と関西で全く違うのでこんなことは中々ないとは思いますが。まさに奇縁ですね」

 

俺と小五郎さんは俺の奇妙な交友関係について話していた。いや、まあその大部分はオレ個人だけでなく、両親の縁が多分に入っているんだけど。向こうは向こうで話が盛り上がっていた。

 

「あー、食った食った!」

「おいしかったねー!」

「ああ、色々な種類が美味しく味わえてとてもよかったよ」

「そらよかった…やけど、龍斗は食いすぎや。なんや全種類って。お好み焼き屋のオッチャンビビッとったで?」

「服部君、龍斗君って気に入ったお店の料理全部頼むのよ。高校の帰りの寄り道とかでしてるし」

「…の割には全然お腹出てへんなー。ええなあ龍斗君、女の敵やで?食べても太らんちゅうのは」

「そういえば、今食べたばっかりなのに全然出てないね」

「あははは……」

トリコ世界じゃもっともっと食べるけどね。

 

「刑事さんも一緒にお食べになればよろしかったのに」

「いえいえ、僕は接待役なんで……」

 

小五郎さんが坂田さんに食事の同席を誘っていたが断られていた。俺達も雑談もそこそこにパトカーに乗った。

 

「ほな、次はどこいこか?」

「やっぱり大阪城しかないんちゃう?」

「……なんでおまえがのっとんねん」

「ええやん。私も連れてって―な。珍しく龍斗君と大阪で会えたんやし」

「まあ、ワゴン車だから席に余裕があるしいいんじゃない?」

「んー。まあええやろ。そんなら、大阪城に行こか」

『あ……うわああぁぁ……』

「ん?」「なんだ?」「え、なに?」

―――ヒュオ……ドシャ!

 

外の人たちが上を見上げ、何かを見て一斉にパトカーから離れたと思ったらパトカーの前のルーフ部分に人が落ちてきた。車の中はフロントガラス越しに男性の後頭部が見えている。どうやら車と平行に倒れているようだ。

 

「「きゃあああああああーーーー!!」」

 

し、しまった。死体が落ちてきたから反射的に聴覚を広げていたら二人の悲鳴が……!至近でしかも車という密閉空間だったからダメージが…

 

「お、おいなんなんだこの男は!」

「知らんがな!突然上から落ちてきよった!」

「平ちゃん、上……」

「な、なんや龍斗耳なんか押さえよってからに…上?」

「誰かいるよ!」

 

俺の指摘に屋上に人がいることを確認した新ちゃんと平ちゃんは現場保存と警察を呼ぶことを指示し屋上に向かっていった。

しばらくして屋上から二人は一人の男性を伴って降りてきた。屋上にいたこの人はこのビルで茶店をやっている人で状況的に事件の犯人ではないそうだ。平ちゃんは死体の胸に財布を貫いて刺さっているナイフを見て例の事件の続きで、人通りのあるところのパトカーの上に死体を落としたのは見せしめなんじゃないかと言っていた。野次馬の中に死体を見て青ざめて逃げていく女性がいた。その女性は車で逃げてしまったが新ちゃんが車の番号を覚えていたようでとにかく警察署で話をすることになった。

 

―――大阪府警 東尻署―――

 

「れ、連続殺人?さっき落ちてきた男がその三件目ってことなのか!?」

「そうや!三件ともナイフが財布を突き抜けて胸に刺さっとった。わざわざ絞殺した後でな…」

「財布?」

「その人ら、お金がらみで恨まれとったんとちゃう?」

「それがそうとは言えんのや」

 

そう言って、平ちゃんはこれまでの被害者について語った。一人目はコンビニ店長の長尾英敏、二人目は小さな居酒屋の女将の西口多代、三人目でさっきパトカーに落ちてきた人がタクシー運転手の野安和人。確かに小金持ちくらいにはなりそうだが殺されるほどとは思えない。しかも何一つつながりを見つけられていないそうだ。

 

「平次君、あったで!被害者の共通点!!」

「ホ、ホンマか!?坂田ハン!」

 

そう言った坂田さんが持ってきたDVDには府議会議員の郷司宗太郎が6年前にかけられた汚職疑惑の際の映像だった。そこに映っていたのは一人目と三人目の犠牲者の姿だった。

警察の方は一連の事件は郷司氏が関係していると見て、すでに動いているとのことだった。小五郎さんいわく、彼は警察嫌いで会うだけでも骨との事。

 

「ほんなら坂田ハン、オレらもそこに行ってみよか?あ、龍斗も出来れば来てほしいんやけど」

「おいおい、んなことは警察に任せておけば…」

「アホ!あんたらの大阪観光をメチャクチャにしよった犯人をほっとけるわけないやろ!……龍斗には悪いけどおまえなら郷司ハンも無下にでけへんと思うからのう。なんせ世界一の称号を持つ男や。そんな男の訪問を断ったとなったら……」

「大阪界隈での彼の評判に関わるってことね。下手すれば次の議員選にすら影響するかもしれない…こういう使われ方はされたくないんだけどねえ。今回だけだよ?無茶しないようにお目付け役も兼ねようかな?」

「お、おう。お手柔らかに頼むわ。ほな行ってくるで。おっちゃんたちは和葉にオレんち聞いて先待っててな!」

「あ、平次!龍斗君が一緒やから平気やと思うけどお守りちゃんと持ってる?」

「ああ、持ってるで!心配するな」

 

そう平ちゃんは返し、俺達四人はパトカーに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、お守りって何のこと?」

「ウチが平次に上げたお守りのことや。いっつも平次の命を守ってくれとるな」

「命を守るって随分と大げさな……」

「大げさちゃうよ。平次があのお守り忘れて出た剣道の大会で大けがしたんやから!この世に二つしかない大事なお守りや!」

「この世に二つ?」

「せやせや。さっきの「鉄のクサリ」のかけら、ウチのお守りだけやのうて、平次のお守りにもこっそり入れててん。……ってあんたには関係ない話やな」

「そ、そうだね」

 

この娘、なんか私に当たりが強いなあ。服部君と一緒で龍斗君と小さい時からのつきあいなんだから悪い子じゃないと思うし、仲良くしたいんだけどな。話題は……話題、そうだ!

 

「ね、ねえ。龍斗君とは幼馴染みなんでしょう?大阪ではどんな感じだったの?」

「そういえばあんたも龍斗君と幼馴染やっていうとったね。うーん、ウチらが会うんはほとんど京都の方やったけど……ウチも含めて世話かけとったな。ウチ一人っ子やけどお兄ちゃんってあんな感じなんやなって思っとったよ」

「なんだ、そっちでも同じなんだ」

「せやの?ああ、そういえば一度大阪の平次ん家に遊びに来たことがあったんやった。そんときにある事件があってな」

「ある事件?」

「ウチらが7,8歳くらいやったかなぁ。平次が調子にのって平次のおとんの部屋にあった真剣を抜いたんや。そのころ剣道の大会で負け知らずやったから天狗になっとってな。いつもならそんなん止めに入る龍斗君も丁度席を外しとってそれで……」

「そ、それで?抜いただけじゃないの?」

「平次が抜いた刀を天井に突き上げてポーズをとったんよ。ウチは正面からそれを見て「恰好ええでー、平次ィ!」なんて煽ってしもてな。まあその時は無邪気に騒いどったんやけど。子供が鉄の棒を掲げ続けてバランスなんかとれるわけもなくて。バランス崩して真正面にいるウチに丁度唐竹割りになるようにふりおろしてしもうたんや」

「え?」「おいおい、そんなのヘタしたら……」

「そう、死んどった。もうダメや…って思って目をつぶったんやけど一瞬風が横ぎったと思ったらいつまで経っても何も起きへん。恐る恐る目ぇ開けてみたら柄だけもって呆然としとる平次がまず見えたんよ。平次は部屋の奥を見とったんでウチもそっちに目をやってみたら部屋の隅で息を切らしている龍斗君がおったんよ……日本刀の刃を持った」

「は!?」

「まさか龍斗君…」

「せや。大きなって分かったけど、ウチが目をつぶったあの一瞬の時に振り下りてきた日本刀の刃をどうにかしてへし折ったんやって。部屋の入り口からウチらがそん時おった場所までは2,3mはあったからその勢いのまま部屋の隅に移動したんやと思う。その後はまあ……屋敷中に轟く怒声で平次を叱っとったな。声に気付いてきたウチと平次のオトンたちも止めに入るばかりかちょっと後ずさっとったから正面にいた平次は確実にトラウマになっとるで」

「ああ、あの龍斗君か。あれはマジで恐えからな……」

「私たちに危ないことがあるとホントに怖くなるからね龍斗君。私も見たことあるけど新一も絶対トラウマになってるよ……」

「なんや、そっちでも似たような事あったんか?」

「うん、あれは私と新一…服部君が工藤って言っている男の子と龍斗君と遊んでいた時にね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なんてことがあったねえ、いやあ懐かしいなー。」

「「……」」

 

ありゃ、パトカーの中で新ちゃん(平ちゃんのお腹の中に隠れてパトカーに乗った)が、俺と平ちゃんの昔話を聞いてきたので丁度大阪にいるわけだし寝屋川市にある平ちゃんの家で遊んだ時の話をして、その流れで日本刀の事件の話になった。最後の方になると二人は真っ青になって黙り込んでしまった。……ナンデカナー。

 

「す、すさまじいですね。平次君の反応からして話を盛っている様子もないようですし」

「まあ、事実ですし」

「そ、それはそうとあの議員の事務所に向かっとるんですが、平次君の言うてた不審な女の身元が分かりましたで!」

「ホ、ホンマか坂田ハン」

「ええ、丁度事務所に行く途中の近辺の西都マンションに住んどる岡崎澄江っちゅうらしいですわ。歳は39歳。先にこっちに行ってみます?」

「せ、せやな。なんか知っとるって様子だったし」

「そんなら電話してみますわ」

 

そう言って坂田さんは携帯で電話をかけ始めた。……どうでもいいけど、刑事が運転中に電話を掛けるってのはどうなんだろうな。お?

 

「あ、岡崎さんのお宅ですか?私、大阪府警東尻署の坂田という者ですが……」

『け、刑事さん!早うここに来て私を守って!!このままやと殺されてまう!!昔のこと皆しゃべるから早う、早う!』

「と、とにかく落ち着いて!家に鍵をかけて誰も入れんようにしてください!」

「ア、アカン!西都マンション、もうすぎてもうたで!」

「ど、どないします?この道は混んどるし、回り道しとったらえらい時間が…」

 

平ちゃんがそう言い、視線の先を見ると確かにこの車は目的地から大分過ぎてしまっている。

 

「走った方が早いわ!」

「あ、おい平次君!!」

 

平ちゃんは丁度赤信号で止まった車から飛び出して走って行ってしまった。新ちゃんも後をついて行ったみたいだ。って、

 

「坂田さん、岡崎さんの部屋番号って分かります!?俺が追いかけて平ちゃんに伝えますから!」

「あ、ああ。えっと……405号室です。すんませんけど頼みます!」

「はい!」

 

俺はそう言い、二人の後を追って車を出た。すでに姿を視認できる範囲に居なかったので匂いを参考にしばらく追っていくと、西都マンションと思われるマンションの前で二人を捕まえることができた。どうやら、ココは郵便受けにも名前がなく管理人も常駐していないようで二人は部屋が分からず言い合っているみたいだ。

 

「二人とも」

「「あ、龍斗」」

「彼女の部屋は405号室だよ」

「スマンなあ、うっかりしとったわ」

「サンキューな龍斗!」

 

三人で405号室に行くと家の鍵は開いていて、家の中には誰もいなかった。平ちゃんは坂田さんに電話をしてみるが彼女からの電話はないという。電話番号も教えていないそうなので当たり前か。

 

「なあ、龍斗……」

「わかった、ちょっと匂いをたどってみようk……」

 

うわああああああああああああ!!

 

「「「!!!」」」

 

俺が新ちゃんに頼まれて匂いでどこに行ったか辿ろうとした時、階下から悲鳴が聞こえた。

平ちゃんが部屋のカーテンを開けて下を確認すると尻もちをつく男性が見えた。

 

「あそこは公衆トイレか!」

「ま、まさか……」

 

俺はすぐに玄関に戻り、靴を履いて戻ってきた。そして窓を開けた。

 

「「へ?」」

「二人とも、先に行ってるから早く来て!」

 

俺はそういって窓から飛び降りた。あの公衆トイレは階段のある方と真逆で回り込む必要があるため出来るなら窓から飛び降りた方が早い。

俺が男性の後ろに着地し(着地音で振り向いた男性は目を丸くしていた)トイレに入った。そこには目を見開いて事切れている様子の女性がいた。……俺は彼女に近づき体に鼻を近づけた。……だめだ、死臭がし始めてる。もう助からない…か。

 

「「龍斗!!」」

「二人とも……」

 

俺は彼女がもう助からないことを伝えた。二人はその言葉に俺を外に連れ出し離れているように言った。俺も手伝うと言ったが。

 

「やめときぃや。なんだかんだで龍斗は慣れてへんやろ?」

「服部の言うとおりだ。いくら龍斗であっても、万能じゃないんだ。落ち込むなよ?ここからは探偵のオレ達に任せときな!」

 

……そういえば。なんだかんだ言って俺は事件に巻き込まれても被害者が死ぬことは無かった。すでに死んでいた野安さんとは違い岡崎さんはついさっき殺された。もしかしたら助けられたかもしれないってのは…つらいな。…俺って「傲慢」だよなあ、なあ紅葉?

その後、坂田さんが到着し現場検証と彼女の家の捜査を軽く行った後、応援の刑事さんに後を任せて俺達は当初の予定通り郷司氏の事務所に向かった。車の中では皆で被害者の四人のつながりについてあーだこーだ意見を言い合っていた。その先に財布の中に免許証があったことから車つながりではないかということでまた寄り道をして調査を行った。その過程で免許合宿でつながりがあるのではないかということで調べを進めていくとなんと被害者は全員20年前のとある合宿で一緒だったそうだ。……郷司宗太郎氏とそして

 

「ぬ、沼淵己一郎やと?!」

「今逃走中の強盗殺人犯のあいつがか!?」

 

そう、その20年前の合宿には凶悪犯の沼淵己一郎も参加していた。そしてさらに何かがないかを調べていくと合宿の卒業日に自動車学校の教官が飲酒運転事故で死亡していた。そこから沼淵がその事故絡みで郷司氏を金を脅しとる目的で事故に関与した人間を次々に殺し要求をのませようとしているか、郷司氏がスキャンダルをもみ消すために事故の真実を知る人間を次々に殺させているのでがないかという仮定を立てた。

どれが真実にしろ、この事を郷司氏に突きつければ話してくれるだろうということで移動しようとしたのだが……

 

「コナン君?やーっと見つけた!なにやってるのよこんなところで!」

(やっべ、連絡入れるの忘れてた)

 

どうやら和葉ちゃんが府警本部の大滝さんに運転手を頼み、坂田さんと連絡を取ってここまでいたようだ。流石にもう平ちゃんの家に行くということだった。新ちゃんが駄々をこね始めたので、平ちゃんがかがんで新ちゃんに言った。俺もそれに続いて

 

「おい、工藤。ここは大阪や。こっからはオレに任せとき!」

「ハハハ……」

「……はあ、抜け出す気満々か。今仕入れたネタを使えば俺抜きでも郷司氏には会えそうだからね。平ちゃん、新ちゃんは俺が見張ってるよ」

「お、おい龍斗!」

「おお、そりゃあいい!実はこのお守りお前に預けて家にもどっててもらおうとおもっとったけど龍斗の方が守護は強そうやしな!」

「お守り?」「守護ってなんだい平ちゃん……」

「まあ。帰ってからいくらでも話してやるさかい、今回はオレに譲れや。な?工藤」

「ほらー、コナン君!龍斗君ももう行くよー!!」

「……心配すんなや。これ以上大阪でふざけたことさせへん!命かけたるで!!」

 

俺達が話していると出発するために蘭ちゃんが新ちゃんの手を引いて車に乗った。セダン車で大人五人子供一人なので新ちゃんは蘭ちゃんの膝の上に収まった。

結局、車は新ちゃんを乗せ平ちゃん家に出発した。新ちゃんは憮然とした顔をしていたが、なんでお守りを渡そうとしたのか首をかしげていた。俺は新ちゃんに平ちゃんがお守りを渡そうとしたのはこの観光の発端になった夢を思い出したからではないかと伝えてみると「確かにお守りよりオメーの方がご利益ありそうだよな」と言われた。

車の中では夕飯の話で盛り上がり、和やかなムードだった。――大滝さんが沼淵の車を発見したという電話を受けるまでは。大滝さんは俺達に現場に行くことを断りを入れ、現場に向かった。

現場に到着してすぐ、真ん中に座っていた蘭ちゃんの膝の上から扉側に座っていた俺の膝の上にいつの間にか移動していた新ちゃんは飛び出していった。

 

「た、大変なことになっちゃったねこなんk…コナン君!?」

「ついてすぐ飛び出して行っちゃったよ……」

「な、なんで止めなかったの!?」

「周りに刑事さんがいっぱいいるし危険はないと思うよ。それにすぐそこにいるけど、後を追う?」

「も、もちろんよ!」

 

結局、全員外に出ることになった。……ん?さっきの事もあるし新ちゃんの様子を聞いていたけどこの付近だけでなく小屋にも誰かいる?……ふむ、新ちゃんの推理だと沼淵が潜伏していると。じゃああの小屋から聞こえる息遣いは沼淵の物か。

刑事さん達は新ちゃんの推理に従い小屋の方に移動し始めているようだった。

 

 

 

「もー、チョロチョロしないでって言ってるでしょう!コナン君!!」

「ご、ごめん蘭ねーちゃん」

 

小屋に俺達がついたとき警察は沼淵がいる屋根裏から彼を引きずり出している所だった。まったく。でもこれで事件は解決かな?

 

――ガシャン!「どけぇえええ!!」

 

連行されていた沼淵がよろけて倒れた。その際に床に散乱していたキッチン用品から包丁を得て、それをこっちに向けながら走ってきた。……その刃先を蘭ちゃんに向けて。

 

――ガシッ!

「あ、あ?」

「た、龍斗君?」

 

俺はその刃が誰かを傷つける前に刃を握り突進を止めた。新ちゃんが飛び出していたから蘭ちゃんにはその刃は届かなかったろう。その代り新ちゃんに刺さっていた。俺の、大切な、幼馴染みに、

 

「オマエ、オレノタイセツナソンザイニナニヲシヨウトシタ?」

 

俺は包丁を握っている両手の手首、膝、肩関節を一瞬で蹴り砕き、掌底で沼淵を吹き飛ばした。奴は5mほど垂直に飛ばされ柱に激突して悶絶していた。両腕はだらりと投げっぱなしになっていてその激痛から気絶もできないようだった。俺は奴が握っていた包丁を静かに床に置きゆっくりと歩いて行く。行こうとした。

 

「龍斗!落ち着け!!」

「龍斗君もう大丈夫だからやりすぎになっちゃう!」

「これ以上はアカンて!」

 

幼馴染み三人の声にふと、俺はやりすぎていることに気付いた。ああ、でも原形をとどめているなら一応手加減はしていたのか。

 

「あーえっと。…ゴメンやりすぎたみたい」

「せやで!いくらなんでもぼこぼこにしすぎや!ウチらが止めなかったら龍斗君あいつ殺してたで!!」

「そうだ!何したかは全然見えなかったけどあれ見りゃ何したかはわかるぞ!龍斗はいっつもいっつも……!」

「コナン君いつもって?」

「あ、いやそれは……」

 

その後、俺は警察の人に過剰すぎる防衛についてお叱りを受けた。まあ向こうも振り切られて蘭ちゃんと新ちゃんを危険な目に合わせた負い目からか注意だけで済ませてくれた。素手VS刃物、だからね一応。

でもこれで事件も一件落着……?え、沼淵は監禁されていた?

 

 

 

 

結局、犯人は刑事の坂田さんだった。被害者四人と沼淵、郷司氏は20年前自動車教官の稲葉徹治さんに無理やり酒を飲ませ、ブレーキオイルを抜いた車に乗せた結果、彼は亡くなった。坂田さんは稲葉さんの息子でそのことを調べるために刑事になり沼淵をあの小屋で追い詰めた時に事実を知った。

そして郷司氏を殺すために彼の家に行ったのだがそれは平ちゃんの活躍で阻止された。阻止できたんだが―

 

「平次!しっかりしてーな!」

「はあはあ……」

「そ、それで服部君の傷の容体は?」

「それは弾を取り出さないには何とも……」

「弾って……坂田ハンに撃たれたんか?」

「撃たれたんとちゃうわ。自殺しようとしてたとこ止めて、たまたまあたってもうたんや」

「な、なんでそこまでして……」

「ど、どっかのアホがいうとったんや。推理で犯人を追いつめて死なせたらアカン…ってな」

(服部……)

「ア、アカン。なんや目がかすんできよった……ちょっと寝かしてくれ…や…」

「だ、だめ、だめや平次!寝たら…平次?」

え?いや心音は…

「平次……平次ぃいいいいいいい!!」

 

「やっかましいいい!寝かせぇ言うトンのがわからんのかドアホ!ってあたたたた…」

「ま、まあこんだけ元気があれば大丈夫でしょう」

「昨日の夜は大阪のええとこ教えたろってことでほとんど寝ずに考えとッたから眠いんや。それに撃たれたのは横っ腹でな。跳弾が胸にあたったんやけど……」

「けど?」

「お守りで止まってくれてな。なんや、そっちでは龍斗が凶刃から守ってくれたみたいやしオレの判断はまちごうてなかったってことやな!ハーッハッハッハ!…いっててて」

 

 

 

俺と新ちゃんは顔を見合わせて溜め息をついた。

 

「「これは当分死にそうにないね(ねーな)」」

 

 




次話は来週木曜までには投稿できるように何とかします。
[今回のお話について]
服部の~死なせたらアカンというのは雑談でコナンから聞いていたことにしてください。

夏さんが蘭ちゃんポジションを取らないようにあまり絡めないようにしていきたいですね。

幼少時の日本刀のシーンはブリーチの一護と白哉の初邂逅で一護の斬魄刀を折ったシーンをイメージして頂ければ。

実は岡崎澄江の殺害は車に乗り続ければ防げたんですが、昔話で時間を取ってしまい部屋番号を聞きそびれてしまい結局犯行は成功してしまいました。流石に龍斗も刑事が連続殺人をしているとは気づかず結局原作通りで事件を防ぐことは叶いませんでした。

龍斗がトイレでもっと強く嗅覚を開放して匂いを覚えていれば坂田さんが来ていないのに彼の匂いがすることで犯人と分かった筈なのですが、場所がトイレであったことと、さっきまで生きていた人が殺されてしまったのが初めてで少なからずの動揺があったからです。



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