東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 更新遅れました。次はもっと早く更新したいと思います。 
 それでは早速。マイペースにお楽しみください。


マイペースに人里へ

 守矢神社での友人作りも一段落した次の日。

 ロボットオタクの東風谷に電話を掛けられる(番号いつ見た)などのハプニングはあったものの、前日に比べれば幾分か平和な起床に成功した俺は現在人里で霊夢とお買い物に勤しんでいる最中である。

 

「いらっしゃいませぇー!」

 

 気前のよさそうなおじさんの声がなんとも心地いい。しかし別にこの八百屋の店主が人一倍元気というワケではなく、人里全体が明るい雰囲気に包まれているのだ。江戸時代特有の空気と言うか。社会の喧騒に取り込まれてはいない、綺麗で素直な人達の笑顔がたくさんあって俺としては嬉しい限りである。

 あぁ、それと、霊夢と二人っきりで買い物とかしているのは夫婦みたいで誇らしい。

 

「ばっ……! 誰が夫婦だ! 調子に乗らないでよ居候の分際で!」

「なんだ、照れるなよ霊夢。ほら、手ぇ繋ごうぜ」

「話を聞きなさいこの変態!」

「あらあら、お二人さんアツイわねぇ。新婚さん?」

「あ、はい。そうなんですよぉ」

「平然と嘘つかない! 違うからね!? コイツはただの同居人よ!」

 

 いや、それも結構近しい関係じゃないか? ついに通りかかったおばちゃんにまで公認されてしまった霊夢は相変わらず顔を真っ赤に染めて照れ隠しをしまくっている。どこぞのマンガで『赤面する女性が最も可愛い』と言っていたが、幻想郷に来てから俺は全力でその意見に賛同する勢いである。えぇもうその通りですよ。ツンデ霊夢は俺の嫁です。

 

「……公共の場で何言ってんのよ、アンタは」

「ノロケだが、何か?」

「清々しく言い放つな。アンタねぇ、こんなときくらいマトモな発言……」

「霊夢、愛してるぜ」

「ぶふぅっ」

 

 突如として顔を背け吹き出す霊夢。だが俺は見逃さない。霊夢が赤面していたのを、未来の夫である俺は決して見逃すことはないのだよ。満更でもないとはこのことを言うのだろう。

 霊夢がゲホゲホと咳込んでいる。落ち着かせるために背中を擦ってやりつつ、声をかけた。

 

「嬉しいなら正直に言えばいいじゃん」

「威……殺す、わよ……?」

「涙目上目遣いは逆効果だぜ、霊夢さんや」

「こんな状態にしたのは誰だ!」

 

 俺ですね、はい。反省してます。

 そういえば、なんでいきなり買い物なんかに来たのだろうか。理由を聞いていないことを思い出したので聞いてみる。……再び照れを隠すように顔を背ける霊夢。か細い声でボソボソと呟く。

 

「それは……アレよ、ほら……」

「愛妻料理か?」

「違う! そうじゃなくて……か、歓迎の宴を……」

「歓迎? ……もしかして、俺の?」

「…………(コクン)」

 

 人差し指同士を突き合わせながらモジモジとする霊夢の可愛らしさは計り知れない。ツンデ霊夢の次はテ霊夢か。赤面女子のポテンシャルの高さに脱帽だな。

 赤ベコもドン引きするほど真っ赤な霊夢は恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。

 

「……威が幻想郷に来てからもう三日経つでしょ? 知り合いも増やさないといけないし、それならいっそのこと宴でも開いて紹介した方が早いかなぁって……。ほ、ほら。やっぱ仮にもアンタ博麗神社の住人なんだから、皆にも紹介しておかないといけないなぁ、なんて……」

「霊夢……お前……」

「か、勘違いしないでよ? これはあくまで博麗の巫女としての仕事なの。べ、別にアンタのために宴を開くんじゃないんだからね? あくまで、私の仕事の一環として! ふ、深い意味なんてないんだから!」

「……あぁ、分かってるって。ありがとう、霊夢」

「……ふん」

 

 正統派ツンデレ巫女は今日も顕在らしい。もはや頭から湯気が立ち昇っているようにも見える。ふじやまヴぉるけいのぅ。

 しかし……予想外にも嬉しい事態だ。感動しすぎて涙が出そう。昨日に続いて、ラッキーデイだな。霊夢が俺の為に何かしてくれる――まぁ本人は否定しているが――っていうだけで、俺は飛び上がりそうな程嬉しいんだ。いや、本当にありがとう。

 普段の軽い調子は置いておいて、素直に頭を下げる。『感謝を述べるときは真面目に素直に丁寧に』が俺のモットーなのだ。時と場合くらい、考える。

 

「ぅ……そ、そんなに喜んでくれるなら私も嬉しいけど……」

「なんだ霊夢、突然デレたな。トゥルーエンド突入か?」

「違うわよ! 勝手に話進めんな!」

「大丈夫。支度金は申し分ないから、これからの生活にも心配はいらないぜ? 安心して嫁稼業に勤しんでくれ」

「なんかもうツッコム余力もないわ……」

 

 肩を落とし八百屋を出ていく霊夢。あらら、少々からかいすぎたようだ。落ち込みがフルスロットルになってしまっている。

 八百屋のおじさんから買い物袋を受け取ると、霊夢の隣へ。……おい、なんだよその疲れ切った顔は。

 

「薄々分かってはいたけれど、威って時々物凄く面倒くさいわよね……」

「そうか? これでもセーブしているんだけどな」

「全力だとどうなるのよアンタは」

「霊夢が惚れる。三秒で」

「金輪際本気を出すな」

 

 なんだよ、素直じゃないなぁ。俺に惚れるのを何故そんなに嫌がるのか分からない。……まぁ、いじける霊夢も可愛いが。

 若干不貞腐れている家主に暖かな目を向けつつ歩く。次なる目的地である酒屋に向かおうとした俺達だったが、

 

「おぉ、誰かと思えば博麗の巫女じゃないか。人里に下りてくるとは珍しいな」

「久しぶりね、慧音」

 

 慧音と呼ばれたその女性。水色に白の混ざった長髪と小さな被り物が特徴的なその美人さんは、霊夢を見つけるや否やニコニコと屈託のない笑みで俺達の方へと歩み寄ってくる。

 どことなく大人びた雰囲気が、今まで俺の周囲にいなかった人材だ。つーか俺の知り合いってツンデレとロボオタ、神様に管理者と両極端な奴らばかりだから、こういう普通の人っていうのは珍しい。要所要所で見せる所作も綺麗で整っている。幻想郷にもこんなマトモな人がいたんだな。

 

「今日はどうしたんだ? いつもの買い物時期にはまだ早いと思うが」

「あぁ、いや、明日くらいに歓迎会を開こうと思ってね。コイツなんだけど、初顔合わせでしょ?」

「ん……?」

 

 霊夢に示された俺をマジマジと見つめてくる慧音さん。うぉ、美人な女性に見つめられると心拍数が無意識のうちに上がってきちまう。霊夢の前だってのに……平常心平常心。

 

「ふふっ、美人か。お世辞でも嬉しいものだな」

「あ、あれ? また声に出てたか?」

「もう治らないわね、ソレ。異常の極みよ」

 

 留まるところを知らないこの癖にそろそろ歯止めをかけたい雪走威、十七歳です。俺の無意識下で漏れた本音を聞いて照れ笑いする慧音さんは非常に綺麗だった。霊夢は可愛いが、慧音さんはアダルティな魅力だな。紫さんとはまた違った美しさがあって素晴らしい。幻想郷は美女の宝庫である。

 それにしても、こんなところで霊夢の知り合いに会えるとは僥倖だ。せっかくなので自己紹介をしておく。

 

「どうも。博麗神社に居候しています、雪走威です」

「これは丁寧にすまないな。私は上白沢慧音(かみしらさわけいね)、この里で教師をしているものだ。こんな格好だが、一応半妖だよ」

「半妖?」

「妖怪と人間のハーフの事よ。ちなみに慧音はハクタクの半妖ね。歴史を食べる伝説上の妖怪。名前くらいは知ってるでしょ?」

「知りません」

「ははっ、まぁ仕方ないさ。あまりメジャーな妖怪ではないからな。そういうのがいるということだけ覚えておいてくれ」

 

 慧音さんは苦笑交じりにそう言うと、置いていた荷物を持ち上げる。どうやら彼女も買い物の途中だったらしく、これから再開するようだ。

 申し訳なさそうに頭を下げる慧音さんは俺の方を向くと、

 

「明日の宴会、私も参加させてもらうとするよ。折角知り合ったのだから歓迎会くらいはしておかないとな」

「わざわざすみません。お手数かけます」

「なに、気にするな。それより明日は楽しませてもらうよ。雪走君」

「はい♪」

 

 ニコリと大人の笑みを残し、その場を立ち去る慧音さん。教師ということもあって、随分と丁寧な人だったな。ウチの霊夢にも見習ってほしいものだ。

 

「うっさい威。いいのよ、私は私なりに魅力があるんだから」

「知ってるよ。世界で一番魅力的なことくらい」

「……アンタよくもまぁそんな恥ずかしいことを素面で言えるわね」

「本気だからな」

「……もう、馬鹿……」

 

 この会話も何度目か分からないが、徐々に距離が縮まっているように感じて俺としては嬉しさ満点である。いつかこの距離がゼロになることを心から祈っておこう。

 新たにできた友人。大人な彼女を思い返しつつも、俺達は宴に向けて買い物を続行した。

 

 




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