東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 威編がギャグだと言ったな? あれは今までの話だ。今回からはまやかしなのさ!
 東方霊恋記もいよいよ佳境に近づいてきたなぁ……。

 ※たまにある八千字という長文。


マイペースに『異変』

《地底生活、四日目》

 

 

 

「お兄ちゃん、私次は射的やりたーい!」

 

 満面の笑みを浮かべたこいしちゃんがうきうきした様子で俺の右手を引っ張る。見た目は少女とは言ってもやはり妖怪なのか、思わずつんのめってしまいそうなくらいの力だ。きゃいきゃいと笑顔を振りまきながら何度も俺の手をぐいぐいと引っ張ってくる。

 

「だ、駄目よこいし! たたた、威さんはわたっ、私と……金魚すくいに行くんだから!」

 

 子供のように駄々をこねるこいしを諭すようにさとりちゃんが声を荒げる。しかし、その顔には何故か朱が差していて、口調もどこか覚束ない様子だ。というか、素晴らしいレベルの噛みっぷりを見せている。普段から恥ずかしがり屋で不器用な面のあるさとりちゃんだが、今ばかりはいつも以上にテンパっている感じだった。しかしながら、俺の左手には万力の如き力が加えられているのだけれども。このまま放っておくと潰されてしまいそうで怖い。

 あーだこーだと口論する古明地姉妹に苦笑を浮かべてしまうが、不意に背中に妙な重量が加わるのを感じた。思わず前方に倒れかけてしまう身体を何とか留めると、顔の左右から巨大な鴉の羽がちらっとお目見えする。漆黒の翼に少し気を取られていると、背後からどこかぼんやりとした調子の声が俺の耳に届いた。

 

「あんちゃ~ん、(うつほ)は焼き鳥が食べた~い」

 

 とても鴉にはあるまじき発言に軽く度肝を抜かれてしまうが、やはり地獄に巣食う種族というのは一風変わっているのだろう。どこぞの鴉天狗及び夜雀さんが耳にしたら激怒の上に猛烈なスペルの嵐をぶつけられること請け合いだ。鴉天狗の方は配達屋さんに抑えてもらうにしても、先日店舗を崩壊させてしまった夜雀さんに攻撃されるのだけはぜひとも避けたいところではある。殺されかねん。

 あちこちがピンと跳ねた長髪を垂らしたお空ちゃんが俺の背中に負ぶさっているらしい。先程の重圧は彼女の体重だったのか。重い、とは口が裂けても言いたくはないが、巨大な翼と右手で存在を主張する木製(?)の制御棒の重量がまずハンパない。お空ちゃんの体重の半分はおそらくこれらの付属品が圧迫しているのだろうと真剣に考察する。……後は背中に押しつぶされている巨大な双丘か。地霊殿メンバーの中で最大級のグラマーさを誇る天然娘はうにゅうにゅ言いながら無意識に胸を押し付けていた。くそっ、誘惑なんかに負けはしな……おっぱいやっほー!

 

「はん、とうとう正体を現しやがりましたねこのド変態! アタシの目が黒い内はお空にもさとり様にもこいし様にも、誰にも手は出させねぇっすよ! ちなみにアタシは焼き鯖が食べたいです!」

 

 思わず欲望を口走ってしまった俺に辛辣な言葉を浴びせてくるのはお燐ちゃんだ。何やら最後に言っていた気がするが、もう罵倒しか耳に届いてこない。真紅の髪を三つ編みにして、ゴシックロリータっぽい衣装を着用している猫娘。種族名は火車というらしいが、どうにも(ちぇん)ちゃんと印象が似通ってしまう。まぁあっちも猫又だから何とも言えんが。というか、俺の前を歩きながら罵倒してくんのは勘弁してください。

 前後左右を妖怪に囲まれた、あらゆる意味でハーレム状態の俺が地底の大通りを練り歩いている姿はもはや衝撃以外の何物でもないのだろう。先程から俺の傍を通り過ぎていく人々が奇異の視線をぶつけてきている。特に男鬼衆がからの熱気はハンパない。嫉妬に塗れた男共が歯軋りしながら次々と罵倒を飛ばしていた。血涙流す鬼とかシャレにならんのでやめてもらいたい。

 まぁでも、こんな美少女達に囲まれているっていうのは、確かに幸せなんだろうけど――――

 

「っ……」

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「ぇ? あぁ、いや、ちょっとお燐ちゃんの罵倒が胸に刺さってさ」

「お燐、覚悟!」

「いやいやなんで急にアタシのせいにってこいし様危ないって!」

 

 突然息を漏らした俺にこいしちゃんが心配そうに声をかけてくるが、俺は誤魔化すように(・・・・・・・)苦笑すると(・・・・・)嘘をついて(・・・・・)追及を逃れた(・・・・・・)

 俺の嘘に気が付かないのか、こいしちゃんはお燐ちゃんに飛び掛かるとマウントポジションでゴスロリを剥ぎ取りかけている。お燐ちゃんが全力で抵抗しているものの、そこは妖怪としての格が違うらしい。少しづつではあるが確実に露出度が高くなっていた。普段の俺ならば興奮が止まらずに参加していたところだったろう。

 

「威さん……」

「大丈夫。大丈夫だよさとりちゃん」

 

 俺の思考を読み取ったさとりちゃんが、周囲に気付かれない程度の声量で気遣いの声をかけてくる。しかし、彼女にこれ以上心配をかけるわけにはいかない。唯一俺の異変に気が付いている彼女に違和感が生じれば、すぐさま俺の様子はバレてしまうだろう。それだけは、何としても避けたい。

 さとりちゃんの手を一際強く握って気持ちを伝えると、腑に落ちない様子ながらもなんとか引き下がってくれた。そこら辺はよく物を分かってくれるのでなんとも助かっている。

 ついにはお空ちゃんまでもが入り混じって大騒ぎしている前方に視線を投げながらも、俺はざわつく思考をなんとか抑えようと集中する。……が、妙な胸騒ぎを抑えることができない。朝から、ずっと。

 

「なんだってんだ……」

 

 普段の俺らしくない言動が続いている。この異変が始まった今朝の事を、俺は騒々しい空気の中思い返していた。

 

 

 

 

 

               ☆

 

 

 

 

 

 今日は朝から調子がおかしい。

 起き抜けに、なんとなくそう感じた。第六感が騒いでいるというか、とにかく無意識的に俺は自分の異変を察していた。確たる理由があるわけでもない。ただ、なんとなくそう思った。

 部屋を出るまでは憶測にしか過ぎなかった。疲れているのだろう。もしかしたら霊夢成分が足りないのかもしれない。禁断症状の一種だな、とか馬鹿な言い訳をしながら、朝食を取るために居間へと向かった。

 

「おはよーお兄ちゃん!」

 

 扉を開けると、開口一番元気に挨拶をしてくるのはこいしちゃんだ。邂逅から二日目にして、どうやら俺に懐いてしまったらしい。子供のように明るい笑顔を浮かべたまま、とてとてと俺の方に走ってくる。その幼い姿に思わず微笑んでしまう。可愛いなぁ。

 こいしちゃんは俺の手を引くと、先程まで自分が据わっていた席の隣に俺を座らせた。どうやら一緒に朝食を食べたいらしい。向かいの席では、やれやれといった表情を浮かべたさとりちゃんが困ったように苦笑していた。妹の我儘に付き合ってほしいということか。非常に姉らしい考えに少しだけ彼女を見直してしまう。弄られポジションだと思っていたのに、なかなかどうして大人びているではないか。そんなところもセクシーだよ、と不意にセクハラ思考を放り込んでみると、さとりちゃんの顔が一瞬で沸騰した。やはり初心という点については変わらないらしい。あたふたと慌てふためくさとりちゃんにちょっとだけ口元が綻んでしまう。

 そんな俺の様子に気付いたのか、こいしちゃんは上目遣いで首を傾げた。

 

「お兄ちゃんどうしたの?」

「ん? うぅん、なんでもないよ――――」

 

 そこまで言ってから、気付く。雪走威という人間ならば絶対にありえない事象に、思わず言葉が停止する。思わずさとりちゃんの方に視線をやると、彼女も驚いているようだった。目を見開き、開いた口を両手で隠しながらも驚愕を隠せないでいる。かくいう俺も、驚きが止まらなかった。

 

 俺は今、こいしちゃんに嘘をついた。

 

 神様を前にしても嘘を吐けなかった俺が、である。どれだけの権力者が相手でも絶対に本心を口にしてきた俺が、なんの違和感もなかったとはいえ会話の中で嘘をついた。別段大袈裟なものでもない、普通の人間なら誰でも一度はやってしまうような誤魔化し程度の微笑ましいものではあるが、それでも俺は嘘を言ったのだ。おそらく、幻想郷に来て初めて。

 

 ――――限界(リミット)は、もうすぐだぜ?

 

『っ!?』

「へ? 二人とも、どったの?」

 

 急に表情を一変させた俺とさとりちゃんにこいしちゃんが訝しげな視線を向けている。だが。そんなことに構う余裕はなかった。俺は直に、そしてさとりちゃんは読心能力によって間接的に今の声を聞いたのだ。不意に聞こえた、唐突に心の中に響いた声を。……俺そのものである、声を。

 おかしい。幻想郷に来てからまだ二カ月弱ほどだが、こんなことは今まで一度もなかった。性格上嘘もつけず、思ったことは片っ端から口に出てしまうような俺が、多少なりとも誤魔化しの言葉を吐いてしまうなんて。

 さとりちゃんが心配そうな視線を送っている。現在唯一俺の事情を呑み込んでいる理解者は、どう声をかけていいか分からない様子だ。普段は欲望まっしぐらで遠慮のない俺が真面目な雰囲気醸していることに違和感を感じているのだろう。今更ながら、いつもの俺はどれだけはっちゃけていたのかと軽く自己嫌悪に陥る。……自己嫌悪とか、もう本格的に異変だな。

 何とも言えない複雑な空気が居間に立ち込めている。いつの間にか合流していたお燐ちゃんとお空ちゃんがこいしちゃんと何やらひそひそと内緒話をしていた。何故かチラチラと先ほどからこっちに視線を向けている気がするのだが、いったいどうしたのだろう。

 このままシリアスな空気を出していても仕方がない。状況を打破すべくこいしちゃん達に話しかける。

 

「こいしちゃん、三人で何話してんの?」

「お兄ちゃんたち元気ないから今日は旧都に出かけようかなって思って」

「……唐突だな、なんでまた」

「唐突っていう言葉だけはお兄ちゃんには言われたくなかったけれど。まぁいいや」

 

 「あのね」クッと俺の顔を下から覗き込むように前屈みの体勢になると、人差し指を立てて悪戯っぽく笑った。

 

「今日は旧都でお祭りがある日なんだ。勇儀主催の大々的な夏祭り。まぁ地底には四季の概念はないんだけど、そこは風流ってことで!」

「勇儀さんが、ねぇ」

 

 以前ミスティアさんのお店で知り合った鬼を思い出す。同じ鬼である萃香さんとは対照的な肉体をお持ちの美人さんだったか。すっげぇおっぱいでかかったけど、あの後吐いて気を失うまで酒飲まされたからイマイチ良い印象が残ってないんだよなぁ。楽しい人ってのは分かるけど。

 

「地底のお祭りは地上にも負けないくらい盛り上がるから、そこに行けばお兄ちゃん達もきっと元気になるよ!」

「アンタはともかく、さとり様の元気がないってのはアタシ的にゃぁ許せないんでね。ついでにアンタも励ましてやるっていうこいし様の心遣いだ。土下座して感謝しな!」

「空ね~、あんちゃんと一緒に出店回りたい!」

 

 相変わらずまじりっけの一切ない純粋な笑顔を向けてくれるこいしちゃん。心底嫌そうに罵倒しまくるお燐ちゃんや幼さ全開のお空ちゃんのせいで感動的場面としては若干弱いけれども、彼女が俺やさとりちゃんのことをよく考えてくれているというのは伝わってきた。姉であるさとりちゃんは当たり前にせよ、まだ出会って二日しか経っていない俺を気遣ってくれていることは素直に嬉しい。愛されているんだなぁ、と素直に感じる。心が満たされるような感覚が身体中に広がっていた。

 ふとさとりちゃんを見ると、既にペット二匹によって言い寄られている最中だった。しばらく捲し立てられた後、苦笑しながらも了承する。こいしちゃん達がせっかく気遣ってくれているのだから、厚意を無下にするのも悪いだろう。俺はさとりちゃんと笑い合うと、彼女達の提案に従った。

 ……胸に巣食う一抹の不安は、まったく拭えないながらも。

 

 

 

 

 

               ☆

 

 

 

 

 

 そして、現在に至る。

 各々が焼き鳥やら林檎飴やらを片手に大騒ぎしている中、見守るように彼女らの後ろをついていく俺とさとりちゃん。いつもならばあの中に入って馬鹿騒ぎしている俺だろうが、何故か今日だけはほとんどテンションが上がることはなかった。これはいよいよ精神的に異常を来してきていると言っていいだろう。いったい、俺の身に何が起こっているというのか。

 そんな俺の思考を覚ったさとりちゃんは、握っていた手にそっと力を込めてきた。弾かれるように彼女を見ると、不器用な笑顔を浮かべて俺の方を見つめている。

 

「さとりちゃん……?」

「……大丈夫ですよ。威さんの身に何が起ころうとも、私達は威さんの味方です。いつでも頼って、いつでも甘えてください。変に平静を装ったり誤魔化したりするのは、ちょっと滑稽ですよ?」

「優しさにさらっと毒混ぜてくるねさとりちゃん……」

「ふふっ、性分なものですから」

 

 悪戯っぽく、それでいて上品に笑うさとりちゃんに釣られて思わず吹き出してしまう。優しいな、この子は。霊夢もツンデレながらに優しいし、東風谷も何気に俺を気遣ってくれる奴だけれど、さとりちゃんは彼女達とは違った優しさを向けてくれる。心が落ち着くような……喋っていて満たされるような雰囲気で包んでくれるんだ。彼女なりの『愛』が、俺の不安を消そうとしてくれている。

 ……しかし、何故だろう。心の中は満たされているのに、それに伴って『何か』がどんどん膨れ上がってくる。愛や好意を向けられる度に、何か恐ろしいものが心の奥底から這い上がってくるような感覚。得体のしれない化物が、封印から目覚めるような――――

 

 ――――もう充分、『愛』は吸っただろ?

 

「ぐァ……ッ!」

「た、威さん!? 大丈夫ですか!」

 

 いきなり頭を抱えて膝をついた俺に思わず声を荒げるさとりちゃん。彼女の叫びで異変に気が付いた三人が慌てた様子で俺の周囲に集まってくる。それぞれが優しく声をかけてくれるが、今はそれが逆効果だった。

 優しい声をかけられると、『声』が大きくなる。気遣われると、脳味噌がミキサーで掻き回されているような激痛に襲われる。まるで容量限界を迎えた瓶に酒を注いだときのように、飽和した『愛情』が『苦痛』となって俺の身体を駆け回る。

 痛いとか苦しいとか、そんな言葉で言い表せるレベルをとうに超えていた。自分が自分でなくなるような、現実離れした『悪夢』が俺を苦しめる。

 

 ――――この二か月はどうだった? 随分楽しそうだったじゃねぇか。

 

「何を、言って……」

 

 ――――まぁ、この間(・・・)に比べりゃ善戦もいいところだわな。十年もかかってたんだ。二か月に短縮したってのは大した進歩だよ。

 

「十年、進歩……?」

 

 ――――あー、別に意味を理解する必要はねぇんだ。お前はただ、オレに身を任せるだけでいい。

 

 『声』はあまりにも適当にそう言うと、心の中で徐々に全身を出現させていく。ジーンズに白のシャツ、クセのないストレートの黒髪少年が、屈託のない笑みを浮かべて俺の方を見ていた。――――紛うことなき『俺』が、俺に向かって手を伸ばしていた。あまりにも唐突で異質な展開に、俺は身動き一つ取ることができない。

 

「これは、何……? 威さんの中にいる貴方は、いったい誰なんですか……?」

 

 読心能力によって見えているのだろう『俺』に疑問をぶつけるさとりちゃん。それに気付いた『俺』は一際邪悪な笑みを浮かべると、伸ばした手を更に一層俺の方へと突き出してくる。何がしたいのか、彼の魂胆が見えずに狼狽えてしまう俺。コイツはいったい、何をしようというのか……。

 ――――気が付くと、俺はいつの間にか携帯電話を右手で握り締めていた。

 より正確には、携帯電話のストラップ。入手場所不明の白い勾玉のストラップを、俺は知らず知らずの内に強く握りしめていた。元々そんなの丈夫な材質でもなかったのか、俺の手に力が入る度にピキピキと不吉な音を発し始めている。

 勾玉(コイツ)を、壊そうとしているのか……? でも、何のために……。

 

 ――――『愛』は『哀』になり『会い』は『遭い』になる。

 

 不意に何かを口ずさみだした『俺』は、俺に勾玉を握らせたまま歌い始めた。純粋な悪意に満ちた笑顔のまま、決して揺らぐことなく黙々と何かを唱え続ける。

 

 ――――どんな言葉も紙一重。表があれば裏がある。

 

「っ……?」

「威さん!」

 

 急に視界が傾いたかと思うと、いつの間にかさとりちゃんに抱きかかえられていた。礼を言おうとするが声が出ない。立ち上がろうとするが脚に力が入らない。身体が、完全に俺の意識下から外れてしまっている。全神経が断裂してしまったように、指一本動かすことができない。

 

 ――――どれだけ純粋な人間でも、どれだけ一途な想いでも、その裏には必ず理由がある。本人ですら気づかない、誰も知らない理由が、必ずそこにはある。

 

「……何かを思い出せば何かを忘れる。何かが蘇れば何かが消え去る」

 

 気が付くと、俺は歌の続きを口走っていた。知らないはずなのに。聞いたことなんてないはずなのに、自分でも驚くほどにすらすらと言葉が口から零れていく。勿論俺の意志ではない。俺よりも大きな『俺』が、徐々に俺の身体を支配しているのだ。

 

「『愛』は『哀』になり『会い』は『遭い』になる」

「――――――――! ――――――――!」

 

 さとりちゃんが何かをしきりに叫んでいたが、もう彼女の声すら届かない。それどころか、意識すら徐々に薄れてきていた。深い眠りにつくように、俺は意識の奥底へと沈んでいく。代わりに『俺』が浮上してきていた。何かが変わる。何かが始まる。俺ではない『俺』が、何かを起こす。

 

「……さァてと、『愛』が主役のおとぎ話は終わりだぜお客さん」

 

 それは俺の口から発した言葉。あまりにも汚くて、醜くて、禍々しい声が俺の口から飛び出ていく。

 

 ――――あぁ、そっか。

 

 もう声も出ない。考える事さえ覚束なくなっている中、俺はようやく思い出す。俺の正体を。俺の真実を。……そして、俺が何をすべきかを。

 『俺』は勾玉を天に掲げると、右手に渾身の力を込め――――

 

 

「お次は『哀』の時代だ。存分に絶望しろテメェら」

 

 

 パキン、という小気味よい音が響くと、

 俺の意識は完全に闇の中に沈みこんでいった。

 

 

 

 

 

               ☆

 

 

 

 

 

『……封印が、解かれたわ』

 

『あらら~、歴代最高の封印術をもってしても十年が限度だったってこと?』

 

霊夢(あの子)や守矢の娘、後その他諸々が可愛がり過ぎたのよ。さすがの私も、まさかあんなに大量の愛情が注がれるなんて思ってなかったわ』

 

『無駄話はさておき、早く手を打ちましょう。このままでは地底だけでなく、幻想郷全体に被害が及んでしまう。十年前の悲劇を繰り返さないためにも、雪走威を止めなければ』

 

『分かってるわよぉ~。もぉ、映姫ちゃんったら相変わらず石頭なんだから』

 

『……幽々子。貴女は後で説教ですよ』

 

『落ち着いて映姫。今は対策を話し合わないと』

 

『貴女に言われたくはないですけどね。……博麗の巫女一行は現在どちらに?』

 

『妖夢ちゃん達は八雲家に向かってるわねぇ~。幻想郷観光ってあんな僻地まで行くものなの? 最近の観光旅行は変わってるわねぇ』

 

『それがトレンドなのでしょう。では幽々子と私はすぐに八雲家に向かいます。雪走威を止めるには、間違いなくあの子達の力が必要でしょうから』

 

『本当は、霊夢達を巻き込みたくはないけれど……』

 

『母親の感情は、今だけは捨ててください。大切なのは肉親を巻き込まないことではなく、幻想郷を滅ぼさないことなのですから』

 

『……映姫ちゃんのいぢわる』

 

『良心と言いなさいこの暴力巫女が。……貴女は少しでも足止めをお願いします。一度死んだから(・・・・・・・)と言って、手を抜くのは許しませんからね』

 

『はいはい。……そこら辺は、私の博麗としてのプライド的に保証するわ』

 

『大丈夫よぉ~。なんたって鏡華ちゃんは最強なんだから!』

 

『貴女はまたそうやって楽観を……』

 

『あ、あはは……まぁ、心配しなさんなって映姫。誰かを守るときの母親ってのは、存外強いもんなんだから』

 

『……御武運を、鏡華』

 

『おーけー。それじゃあ……――――ちょっくら異変解決して来ますかね』

 

 

 

 

 

 




 威編がギャグだけだといつから錯覚していた……?
 超展開でもご都合展開でございません。一応伏線はありました。それ自体が無理矢理だった感は否めませんけど! でもプロット通りだから僕は胸を張るね!
 ここからはおそらくほとんどギャグはありません。そういった展開を待ってくださっている方々には申し訳ありませんが、いつかギャグが舞い戻るその日までお待ちいただけると幸いです。
 それでは、次回もお楽しみに。感想もお待ちしています。

 ※風神録がクリアできません(泣)

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