東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 相変わらずの更新速度に我ながらびっくりです。でもこれだけは言える。こいし、可愛いよこいし。
 自分的には地霊殿キャラが一番好きかも。霊夢は別格ですけどね!


マイペースに古明地こいし

「お姉ちゃん、この人だぁれ?」

 

 不意に聞こえた鈴を鳴らしたような甘ったるい声に、俺は思わず周囲を見渡した。だが、三百六十度廊下の隅々まで視線を飛ばしても声の主の姿はまったく視認できない。あれ、幻聴? 俺、さとりちゃんの妹自慢にあてられてついに幻の妹キャラを生み出してしまった感じ?

 思わず冷や汗を流してしまう俺ではあるが、そんな絶賛混乱中の俺を腕の中で見上げていたさとりちゃんは呆れたように溜息をつくと、何もない虚空に向かって(・・・・・・・・・・・)若干の喜びが入り混じった声を放った。

 

「こいし、威さんが戸惑っちゃってるから早く姿を見せなさい。どうせそこにいるんでしょう?」

「ちぇー。もうちょっと愉快な反応を期待してたんだけどなー」

 

 そんな言葉が聞こえるや否や、目の前の空間が不自然に歪み始める。紫さんがスキマを出現させる瞬間に似た歪みは徐々に人の形を模していき、やがて一人の美少女をその場に出現させた。

 肩ほどまで伸ばされた緑のかった銀髪ウェーブに黒い鍔広帽。ベージュのだぼっとした上着の袖には黒いフリルがあしらわれていて、緑色の襟元や同色のフレアスカートが言いようのない特殊性を感じさせる。凄まじく物珍しいコーディネートなのだが、しっかり似合ってしまっている辺りはやはり美少女の特権ということか。

 ニコニコと天真爛漫な笑顔で俺を見ているこいしちゃん。だが、それよりも彼女の周囲をふよふよ浮いている紫色の目玉が気になって仕方がない。さとりちゃんと違って瞼が閉じているが、能力的な意味合いでも含まれているのだろうか。

 こいしちゃんは大きな瞳をパチクリさせると、笑顔を崩すことなく口を開いた。

 

「この人、お姉ちゃんのボーイフレンド?」

「違うわよ! だだだ、誰がこんな変態で覗き魔でデリカシーのない人間なんかと恋人関係になんてなりますか! 威さんは、霊夢から頼まれた例の居候。昨日貴女にも言ったでしょう?」

「さとりちゃんさとりちゃん。俺の心はナチュラルに踏みにじられているんだけどそこら辺気付いてる?」

「あー、神社から一時的に追い出された物悲しい人間だっけ? なんでもあまりにもヒモすぎるから頭冷やして来いって言われたんだよね? かわいそー」

「違うとは言いづらいが半分は嘘だよね! いくらなんでもそんな理由で追い出されちゃいないよ俺は! あくまでもお泊り会に邪魔だからって理由だからね!」

「こいし。嘘偽りのない真実は他人を傷つけてしまうと昔からあれほど……」

「今欲しいのは追い打ちじゃなくてフォローだよさとりちゃん!」

「やーい、お姉ちゃん顔真っ赤ー」

「前触れなしのさとりちゃん弄りだと!? 話の流れが無茶苦茶ですがな!」

「この子はこういう子ですから……」

 

 口元に手を当ててくしゃりと顔を綻ばせるさとりちゃん。俺にお姫様抱っこされている姉をこいしちゃんが取り留めもなくからかい始めていたが、被害者であるさとりちゃんはそこまで気にしてはいない様子だ。むしろ、彼女と会話していること自体を喜んでいるようにも見える。

 

「……昔、色々ありましたから。今はうんと甘えさせてあげたいんです」

「……そっか。仲良しなんだね、二人とも」

「そう見えるのなら、私は満足ですよ」

 

 俺の心を読み取ったさとりちゃんがぽつりと呟くが、俺はあえてそれには言及せずに素直な感想だけを述べさせていただくことにした。他人の過去遍歴に口を出しても嫌なことを思い出させてしまうだけである。だから、あまりシリアスな発言はしないほうがいいだろう。

 今俺がやるべきことはただ一つ。こいしちゃんと一緒になってさとりちゃんをからかうことだ!

 

「え、いや、いきなりなんてふざけた決心しているんですか!?」

 

 素晴らしい一大決心を覚った様子のさとりちゃんがバタバタと俺の腕の中で暴れはじめる。しかしいくら彼女が妖怪と言えどもお姫様抱っこの状態では思うように力が入らないらしい。俺が少しだけ腕に力を込めると、さとりちゃんは何故か顔を赤らめたまま黙り込んでしまった。はて、変なところでも触っちゃったかな?

 

「こいしちゃん、さとりちゃんって今生理?」

「前置きなしで妹に何聞いているんですか貴方は! ちょちょっ、意味分かんない! 私の羞恥心とか一切合財無視してますよねぇ!」

「うーん、最近のトイレ事情は把握していないからイマイチ確信は持てないんだけど……たぶん違うんじゃないかなー。ゴミ箱にもナプキンは入っていなかったしね」

「こいしぃいいいいいいい!! 色々ツッコミどころ満載の発言は大目に見ておくけれどもとりあえず私にプライバシーをくれないかしら! なんでそんな性的事情まで貴女は把握しているのかお姉ちゃんは心底知りたいのだけれど!」

「なーんだ、じゃあ今晩さとりちゃんを孕ませることは不可能じゃん。残念」

「そこで何故心の底から落ち込まれるのか分からない! 威さんには霊夢がいるでしょうに、そんなこと言ってると知りませんよ! 浮気とか言われても反論できませんよ!?」

「大丈夫。あくまで俺の遺伝子をさとりちゃんに宿らせるだけだから」

「どこが大丈夫なんですか一番危惧するところですよそこは! そ、それにそういう行為はお互いを好き合っている恋人同士だけがすることであって、今日出会ったばかりの私と威さんがやるようなことではありません!」

「でもじゃあなんでお姉ちゃんは顔真っ赤にして恥ずかしそうにしてるの? 恋する乙女みたいな顔してるけど」

「こ、これはさっきお風呂に入ったから身体が火照ってるんです! べっ、別にやましい気持ちがあるわけじゃありませんから!」

「さとりゃんさとりちゃん。俺もなんだか身体が熱いんだけど」

「興奮しているだけでしょうが! あぁもうなんですかこの際限のないボケの嵐は! 貴方達私をからかって楽しいですか!?」

『もちろん!』

「もうなんてイイ笑顔! 文句言いたいけれどこいしの笑顔が可愛いから許しちゃう!」

 

 俺の手を振りほどくとこいしちゃんに突撃、そのままぎゅぅ~と力強く彼女を抱きしめるさとりちゃん。こいしちゃんは若干苦しそうに呻いてはいるが、それでもどこか嬉しげな表情を浮かべたままさとりちゃんにされるがままにされている。なんだかんだでこいしちゃんもさとりちゃんの事が好きなのだろう。若干二人の俺に対する扱いが酷いようにも思うが、姉妹が仲がいいならば俺はそれだけで満足である。決して悲しくなんかない。……なんか涙出てきた。

 きゃいきゃいとガールズトークまで始め出した古明地姉妹。何故か姉妹共にチラチラと俺の方を窺ってくるのだがいったいどうしたのだろうか。特にさとりちゃんの方から変な視線を感じる気がする。ま、まさか俺に人生初のモテ期が到来しているとか!?

 

「ダメだよさとりちゃん、俺には霊夢という最愛の妻が!」

「黙ってくださいこの単純思考野郎! 貴方が考えているようなことは皆目万に一つも金輪際ありませんから!」

「お姉ちゃん、一目惚れっていう言葉があってね?」

「貴女は黙っていなさいこいし! 私はそんな節操のない女じゃないわ!」

 

 廊下のど真ん中で叫ぶ地霊殿の主。もはや威厳の『い』の字も見られないカリスマブレイクっぷりに俺とこいしちゃんはニヤニヤを隠せない。からかわれながらもなんとかプライドを保とうとしている辺りに萌えきゅんポイントを感じる。さすがは真面目系幼女さとりちゃん。弄られキャラが誰よりも板についている。何が可愛いって両手を腰の辺りに伸ばした格好で涙目のまま叫んでいる姿がもうハンパない。健気さと微笑ましさが相成って抱き締めたいくらいだ。

 

「って、もう抱き締めてるじゃないですかなんですか恥ずかしいですってもぉおおおおお!!」

「ハッ! 無意識のうちに思わず思考が行動となって表れていただと!? 俺のマイペース思考もここまでの進化を遂げたというのか!」

「自覚があるのなら少しは自制してください!」

「お兄ちゃんどことなく私と似ているところがあるよね! 仲良くなれそうだよ!」

「こいしも妙な親近感持たなくていいから! まずはお姉ちゃんを助けるところから始めようか! ほらほらほら、お姉ちゃんはこいしの助力を心待ちにしているわよ!?」

 

 もう涙目どころの騒ぎではなく笑いながら号泣している家主様によりいっそうの庇護欲をそそられてしまうのだから驚きだ。腕を離そうと思っても俺の中の本能がこのぷにぷにした柔らかい動物を逃すことを全力で拒絶している。女性的な美しさ(主におっぱい)を持つ霊夢や東風谷とはまた違った柔らかさに俺の息子は思わず夢想封印だ。このままではマスタースパークを放ってしまう恐れも否定できない。

 そんな俺の思考にさとりちゃんは今度こそ本気の悲鳴を上げる。

 

「い、いやぁあああああっっっ!! もうこの人の煩悩取り返しのつかないところまでいっちゃってるよぉおおおおお!!」

「お、落ち着くんださとりちゃん! 俺はあくまでも無害だ!」

「どの口からそんな言葉が出るんですか! 心の中煩悩一色で染まっているような一面性野郎の言葉じゃありませんよそれ!」

「お姉ちゃん、私ちょっとトイレに行ってくるね」

「あぁっ、この状況で私一人放置するのは勘弁してこいし! 威さんの相手は私一人には荷が重すぎる!」

「くっ……背中に回していたはずの手が思わずお尻に移動してしまうだと……!?」

「ひゃわぁんっ!? ちょっ、どこ触ってんですかいい加減怒りますよ私も! ふわっ、ひゃっ、撫で回さないでくださいよぉ!」

 

 結構ガチで懇願してくるさとりちゃんに良心の呵責を覚え始める俺。いや、まぁ確かに十割方俺の暴走によるところが大きいんだけど、やっぱり最大の原因はさとりちゃんが可愛すぎるところにあると思うんだよね! なんか俺はもうロリコンに目覚めてしまいそうだよ! でもこのままじゃ霊夢に何されるか分からないから我慢も覚えないといけないけれど!

 煩悩と良識の狭間で揺れ動く俺ではあるが、このままでは為す術なく煩悩の方に心を預けてしまう可能性大だ。し、鎮まれ俺の思春期センサー! このままだと博麗神社の御神体にされかねないぞ! 霊夢と、後なんかよく分からないけど東風谷あたりにぶち殺されそうな気がする!

 さっきトイレ行きを宣言したこいしちゃんは本当に用を足しに行ったらしく、いつの間にか俺の視界から完全に消え去っていた。さっきみたいに姿を消している可能性もあるが、あの特に何も考えていない様子から考えるとおそらく普通にトイレに行ってしまったのだろう。さとりちゃんの必死の訴えは見事に空を切ったというわけだ。他人事ながら哀れな姉である。

 しかしいつまでも思考をあっちこっちに飛ばしていてもこの状況は解決しない。もはや俺の身体は完全に俺の支配下から離れている。普段ならば発言だけに留まるマイペース回路が今回ばかりは某人型汎用機動兵器並の暴走を見せているようだ。可愛いは正義だが、時折トリガーとなり得るので扱いには注意しよう!

 さとりちゃんのお尻の感触を楽しみつつもあちらこちらに視線を飛ばして救いの手を探す。抱き締められているさとりちゃんの息がだんだんと荒くなっていっている気もしないではない。赤面率は上昇し、もじもじと身体をくねらせているようにも見える。まぁ気のせいだとは思うけど。

 

「だ、誰のせいだと……」

 

 ついには両目も潤み出して謎の性的魅力を放ち始めたさとりちゃんに視線を奪われないよう細心の注意を払う。これ以上の誘惑は俺の社会的立場を粉砕しかねない。いや、すでに八割方破壊されてしまっている感は否めないが、そこはまぁ最後のプライドということだ。なけなしの理性が必死にそう訴えている。

 

 ――――そんな時、突然俺の耳に激しい足音が聞こえた。

 

 ドドドドド、という歩行時には絶対にありえない効果音が俺の鼓膜を打つ。どんな速度で走行したらそんな騒音が出せるのだと首を捻ってしまうほどの爆音が、俺の遥か前方からエコーを効かせて廊下に反響していた。誰だろうか。もしかしたらこいしちゃんが戻ってきたのかもしれない。向かってくる影を見極めるべく視線を凝らす。

 絨毯の敷かれた廊下にも拘らず何故か土煙を上げて猛進してくるのは、赤い三つ編みの猫耳少女だ。黒いゴスロリに身を包んだその少女は、猫耳が生えているのに人間の耳もしっかり生えている。一歩踏み込むたびにお尻の辺りで揺れている二又の尻尾から彼女が猫の妖怪であることを察するが、その顔は何故か怒りの形相に染まっていた。――――って、なんで両目三角にして突っ込んでくるのかなあの猫ちゃんは!

 さとりちゃんを抱きしめたまま軽く驚嘆する。驚天動地の真っ最中な俺を他所に、その猫娘は凄まじい速度で俺との距離を詰めていた。気が付いたらすでに背後に回られている。え、全然見えなかったんですが!

 猫耳娘は「はぁぁ……!」とやけに気合の籠った呼吸法で拳を強く握り込むと、腹の底から渾身の叫びを放つ。

 

「アタシのさとり様に何やってんだいこのトーヘンボク!」

「言い訳ぐらいさせてくれぶるちっ!」

 

 怒鳴り声と共に放たれた右アッパーが俺の顎を捉えた辺りまではしっかり記憶に残っているのだが、あまりにも凄まじい激痛に俺は一瞬で意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 




 次回もお楽しみに! 感想もお待ちしています♪

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