東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 ようやくスランプを脱した感じです。良かった……本当に良かった……!

 それでは最新話、霊夢編です。マイペースにお楽しみください♪


マイペースに甘味処

 慧音の好意によって寺子屋を宿泊所として使えるようになった私達は、旅行用の荷物を置くとそれぞれが自由気ままに人里へと繰り出していた。

 寺子屋の手伝いがしたい、と言って慧音に着いていったのは早苗と妖夢、そして咲夜。早苗は信仰集め、他二人にも色々と思惑はあるのだろうが、そういった雑多な云々以前に、彼女達が子供好きだからという理由もあるのだろう。三人に共通する世話好きという性格を鑑みると、手のかかる子供の相手をすることがどうにも好きらしかった。達成感が得られる、とか言っていたか。

 私も別に子供は嫌いじゃないのだけれど、あのデリカシーの無さがどうにも苦手だ。不機嫌になったらすぐに悪口言ってくるし、『悪戯』と称してお尻とかたたまに触ってくるし……あ、なんか思い出したら腹立ってきた。

 とにかく、従者同盟(風祝を従者として扱っていいかは微妙だが)三人は寺子屋に臨時教師として残ることにしたらしい。まぁ、本人達は能力も気持ちも多分に持ち合わせているから大丈夫であろう。中身的には性格の奇抜さが際立つ三人ではあるけども……うん、慧音ならなんとかしてくれると私は信じている。

 

「相変わらずテキトーだよな、お前」

「そう? ま、無責任な押し付け言っているのは承知しているけどさ、でもあの三人なら大丈夫でしょ」

 

 人里の商店街を魔理沙と二人で歩いていく。特に特技も用事もない私達の唯一の観光方法といえば、店を冷かすしかないのだ。お金あんまり使いたくないけど、楽しいから別にいい。ちなみに鈴仙は「薬の材料を見積もってくる」と薬屋に走っていった。さすがは医者見習い。

 

 さてさて、それでは寺子屋世話係の三人について考察してみよう。

 究極のアニメオタクを自称する早苗(トラブルメイカー)は確かに破天荒なトンデモ少女だが、外来人という性質上他の幻想郷住民に比べると幾分もマシな感性を持ち合わせていることは事実だ。現に彼女が雑務を総括している守矢神社は、社が妖怪の山にあるにも関わらず相当数の信者を誇っているのだし。私のただでさえ少ないお賽銭をさらに減少させている憎き守矢神社を称賛するのは正直腹立たしいのだが、早苗のカリスマによって信徒数が増加しているという事実は認めざるを得ない。アイツなんだかんだで可愛いし、天然だという点でも子供達から嫌われることはないだろう。

 

 そして妖夢は言わずもがな、小動物的な魅力もあるし、何より精神年齢が私達の中でぶっちぎって子供達に近いところにある。単純、というと聞こえは悪いが、純粋無垢な彼女であれば子供達の相手に適していると言っていいだろう。白玉楼の厄介亡霊の世話をこなしているくらいなのだし。

 

 唯一心配なのは咲夜だろうか。レミリアやフランといった超絶我儘吸血鬼達を日夜相手取っている彼女の包容力と仕事の腕は、おそらく幻想郷内においてもトップを争うだろう。料理や掃除、洗濯などの家事に関して言えば最強と言っても過言ではない。無敵の雑用係とはウチの居候の評価である。

 しかし、彼女の心配な点は、意外とアガリ症であるところ。内弁慶、とでも言い表そうか。知り合いのみで活動する時は無類の図太さと豪胆さを発揮するクセに、初対面の集まりに放り出された途端わたわたと焦りまくる始末なのである。まぁそれでも、数十分経ってしまえば慣れてきていつも通りになるのだから流石だが。

 以上の点を踏まえると、やはりこの三人は心配いらないという結論に落ち着きそうだ。

 

「子供の相手ってのは結構大変だぜ? 私もたまに寺子屋に遊びに行くから分かるんだけどさ」

「その割には世話係に立候補しなかったわね。ここぞとばかりに遊び倒そうとするのがアンタだと思っていたんだけど」

 

 弾幕に対して真面目だとか恋愛事情に初心な乙女だとかいろいろ言われる魔理沙だが、根本的な部分は純粋な子供だったりする。妖夢程ではないものの純粋な感性持っているし。弾幕好きなのは子供特有の「花火きれー!」とかそんな感じなのだろう。幼さゆえの直感的感性が彼女の特徴でもあった。

 しかし、どうも今回は思考が遊ぶ方向に向いてはいなかったらしい。

 

「私だってそういっつも遊び倒しているわけじゃないさ。たまにはこうやって親友と買い物を楽しんだりはするよ」

「親友ねぇ……いつも思うけど、よくもまぁそんな歯の浮くような台詞を真顔で口にできるわよね」

「本気だからな」

「そういうところがジゴロなのよアンタは」

 

 パチュリーとアリスから毎度のように相談される私の身にもなってほしい。性別云々を前提に諭そうとはいつも思っているのだが、魔法使いという種族はどうにも頭の固い奴らが多いようで、人の助言を全くと言っていいほど受け入れようとしないのだ。「そっちから相談してきたくせに自己完結してるんじゃない!」とたまには思いっきり言ってやりたい今日この頃である。今度会ったらぶん殴ろう。

 そんな女たらし魔理沙は歩を進めると、私に背中を向けるようにして歩いていく。

 

「それに、今回は気になることもあったしな」

「気になること? 霖之助さんの攻略方法なら魔法使い同盟にでも聞きなさい」

「違ぇよ馬鹿。私が気になるのは、昨日からずっと悩み事抱えている様子のお前だ」

 

 予想外の言葉にぶわっと全身から嫌な汗が吹き出した。図星を突かれたせいか口の中に異様に乾き、言葉を発することができない。

 ……あちゃー、バレてたか。

 

「隠し通せると思ったのになぁ」

「顔には出ていなかったよ。鈴仙や早苗達は気付いていないはずだ。だがまぁ、長い付き合いの私を相手に誤魔化せると思ったのがそもそもの間違いだったのさ」

「相変わらず余計なところで鋭いわよね。傍迷惑な奴だわ」

「名探偵霧雨魔理沙の眼は曇りない事実のみを見据えるんだぜ?」

 

 そう言うと、首だけをこちらに向けて悪戯っぽく舌を出す魔理沙。してやったり、というように「にしし」と笑みを浮かべている。普段の男勝りのせいか、少年のようなその行動がやけに似合っていた。

 ……はぁ、やっぱり魔理沙は誤魔化せなかったか。なんだかんだ言って、ライバルやら親友やらの呼称が付けられるほど仲のいい私達である。幻想郷内の交友関係ではおそらく一番と言っても過言ではないくらいの付き合いの深さだろう。幽々子と紫くらいに、睦まじい関係かもしれない。

 魔理沙にバレてしまった以上、このまま隠し通すというのは難しいだろう。だが、だからと言ってこの悩みを全員に話してしまうというのは正直抵抗が残る。彼女達を信用していないわけではないが、一応プライバシーに関わる案件なのであまり公にはしたくなかった。

 かくなる上は、コイツと二人っきりの秘密にしてしまうしかない。

 先を行く魔理沙の肩を掴んで引き寄せると、周囲に聞こえない程度の声量でそっと囁く。

 

「誰にも言わないって約束しなさい。これを知るのは私とアンタだけ。いいわね?」

「勿論。私は口が堅いことで有名なんだ」

「どうだか。フランに屋敷の外の事を色々喋ったせいで起こった一悶着を忘れたとは言わせないわよ」

「アレは私の意志じゃあない。依頼人が望んだから、霧雨魔法店が出張営業しただけだ」

「紅魔館を半壊させたクセに、よくもまぁぬけぬけと」

「主の不始末は使用人の不始末さ。私の知ったことじゃない。それに、あの時はフランもレミリアも騒動を楽しんでいたから結果オーライだよ」

「調子の良い奴」

「褒め言葉だな」

 

 些か信用性に欠ける会話だったが、魔理沙が約束を守る人間だってことを私は誰よりも知っている。伊達に何年も彼女の親友をしているわけではないのだ。いちいち口に出すのは恥ずかしいから言わないけど、魔理沙が思っている以上に私は彼女を信用している。

 ……こういうところが、威にツンデ霊夢って言われちゃう原因なのかもね。

 今頃地霊殿でさとり達と楽しくワイワイやっているであろう居候の姿を浮かべながらも、私は魔理沙に今回の旅の目的を話すのだった。

 

 

 

 

 

                       ☆

 

 

 

 

 

 話をするためには落ち着く必要がある。

 というわけで、私達は最近巷で評判の団子屋に入店することにした。注文を終えるとすぐに団子と茶が運ばれてくる。噂になっているだけあって、見た目も非常に食欲をそそる感じだ。

 まずは一口。……うん、美味しい。

 話をしながら摘まむには丁度良い大きさと味だった。団子を食べ進めながら、私は魔理沙に事の顛末を話していく。

 

「……なるほど。つまりはこういうことだな?」

 

 一通り私の話を聞き終えた魔理沙は食いかけの三色団子を手元の皿に置くと、口を開いた。

 

「不自然に欠損している記憶が夢という形で蘇る。母親の事とか、幼い頃の事とか。そんでもって、その夢を見るときはその首から下がっている勾玉が光っている。その二つの関連性を調べるために、妖夢の観光旅行に賛成したと」

「理解が早くて助かるわ。アンタって意外と頭いいわよね」

「意外とは余計だぜ。私は見た目も中身も秀才肌なんだ。……それにしても、昨日見た勾玉の輝きがまさかそんなに謎に満ちたものだったとはなぁ……」

「まだ確証は無いんだけどね。でも、無関係とは思えないでしょう?」

「確かにな。光る勾玉、蘇る記憶……くぅっ! なんだか異変の予感だぜ!」

「子供かアンタは」

 

 拳を握り込んで無邪気にはしゃいでいる魔理沙は放っておくとして、勾玉と夢の関連性についてもう一度だけ考察してみる。

 出所不明の勾玉は、おそらく博麗神社の陰陽玉を加工して作られたものだ。同じ形の勾玉がぴったり嵌り込むような形状をしているし、使われている素材が同じものだからである。陰陽玉は普通の勾玉とは違う特殊な素材で製作されているので、原料が同じということはイコールで元が一緒だということに繋がる。

 陰陽玉は、私が異変解決の際に弾幕の補助として使っている道具。いわゆるお助けアイテム的な扱いをしている。少し霊力を込めれば自立して霊弾を打ち続けてくれるし、スペルカードを使う際には霊力で札を具現化して撃ちだしたりもしてくれる。使い勝手が非常にいい便利な補助道具だ。

 そんな万能アイテムである陰陽玉だが、私が記憶している限りでは夢と関係するような使い道は無かったはずだ。あくまでソレは妖怪退治のアイテムであるので、人の夢に干渉するなどと言った余計な機能は付属されていない。使い勝手が悪すぎるし、何よりそんな機能を付加させることを紫が許してくれるわけがない。私が無自覚に添付したという可能性も考えられるが、基本的に説教は避けたい私がわざわざ機能を増やす意味がない。よって無意識に付属した案は却下。

 となると、陰陽玉には私が知らないような機能が最初からついていたということになる。

 妖怪退治以外の目的で使われるような用途が隠されている意義を全く感じないが、真実がはっきりしない以上とりあえずそういう風に仮定しておくのが無難だろう。確定するのは旅を終えてからでも遅くは無い筈だ。

 

「陰陽玉に封じられた妖力か何かが夢を誘発したっていう可能性は?」

「今考えられる中では、それが最有力案ね」

 

 正体不明の原因は基本的に妖怪だから、そう考えることもできる。自然の摂理とか常識とかを真っ向からぶっ潰すような存在が妖怪であるので、原因が思いつかない今の状況だとそれが最も信憑性のある説かもしれない。常識がぶっ飛んでいるあいつらなら悪戯半分で相当の事をしてきそうだし。

 だけどまぁ、妖怪達がわざわざお母さんの夢とか幼い頃の思い出とかを見せてくる意味が分からないんだけどさ。

 

「妖怪の思考は私達の考えが及ばない所にあるからなぁ」

「仮に妖怪が見せたとして、博麗の巫女に直接手を出すような真似をしたら紫が見つけ出して制裁しそうなものだけどね」

「あぁ、あの過保護妖怪ならやりかねないな。なんだかんだ言ってお前を溺愛しているし」

「やめてよ気持ち悪い。アイツこの前から威に対して異様な執着心見せてるから、結構警戒しているのよ?」

「夫の浮気を阻止するのが妻の務めだもんな。いやはや、博麗霊夢は一途だねぇ」

「喧嘩売ってんのなら言いなさい、魔理沙。弾幕ごっこで瞬殺してあげるから」

「魅力的なお誘いだが遠慮しておくぜ。万が一観光旅行途中退場とかいう事態になったら洒落にならない」

 

 そう言うと私の団子を頬張り、ずずずと茶を啜る魔理沙。その仕草がいちいち年寄り臭く見えて、思わず吹き出してしまう。

 ……ん? あれ、今なんか違和感があったような――――

 

「――――って! 魔理沙アンタ今誰の団子食った!」

「ツンデレ巫女のだが、それがどうした?」

「どうしたじゃないわよこの欲張り魔法使い! あぁもう、三色団子なのに後一色しかないじゃない……」

「いいじゃないか霊夢。減るもんでもないんだしさ」

「三色が一色に減ってんのよふざけんなこらぁーっ!」

「細かいこたぁ気にすんなよ霊夢。あんまり神経質だと老けるぜ」

「誰のせいだ誰の!」

 

 貴重な甘味がバカヤローの胃袋に収まった事実に怒りが抑えられない。わ、私からお団子奪うとはいい度胸じゃない魔理沙……。

 

「ごっそーさんでした。いやー美味かった」

「うきゃぁあああああああ!! いつの間にか全部食べちゃってるし!」

「よそ見している方が悪いぜ。食卓は弱肉強食だって雪走もいつも言っているだろう?」

「そのルールを甘味処にまで持ち込むな! もぉ! 弁償しなさい弁償!」

「いやだZE☆」

「ぶっ殺す!」

 

 なんとか弁償に持ち込もうと奮闘するが、当の容疑者はのらりくらりと躱し続ける。普段はちょろいくせにこういう時だけ狡猾だから腹が立つ。あぁくそ、誰だこんなヤツ親友って言った奴は!

 

「まぁまぁ落ち着けよ霊夢。そんなに怒っても小皺が増えるだけだぜ?」

「よーしもう怒った表に出なさいこの白黒ぉおおおおおおおおお!!」

「いい度胸だぜ覚悟しな紅白!」

 

 魔理沙は箒を、私は大幣を取り出すと店先の通りへと走っていく。お互いに霊力と魔力が高まっていくのを感じたが、どうやら向こうさんもやる気らしい。あれだけ途中退場がどうとか言っていたくせに……よっぽど家に帰してほしいらしいわねあの馬鹿は。

 懐から札を掴みとると、私は怨敵を滅ぼすべく大空へと舞い上がるのだった。

 

 

 

 ――――その後慌てて駆け付けた慧音に死ぬほど痛い頭突きを食らわされたのは、言うまでもない。




 次回もお楽しみに♪

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