東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 毎度おなじみなのですが、本編は威編と霊夢編を交互にお送りいたしております。ご容赦ください。

 話は変わりますが、お気に入りが一気に八件も減って何気に落ち込んでいます。やはり実力不足を見抜かれたか……精進せねば。
 改善した方がいいところとか、アドバイスとか批評とか、どしどしお待ちしています。

 それでは今回は威編です。マイペースにお楽しみください♪


マイペースに古明地さとり

 人生は驚きの連続とはよく言われるが、最近になって全くその通りであると思うようになってきた。

 ついこの間まで普通の高校生をやっていたはずの一般人が気付けば妖怪だらけの別世界に飛び込んでいるということ自体そもそも驚きではあるものの、ツンデレ全開な美少女巫女と一つ屋根の下で生活したり色んな妖怪達と仲良くなっていたりというような、現代社会では絶対にありえないような経験をしているというのはもはや驚きを通り越して感嘆する勢いである。基本的にマイペース主義で驚嘆することはあまりない俺ではあるが、その点に関しては素直に驚いておくとしよう。いやはや、我ながら随分と遠いところまで来たものだ。

 まぁでも、別に後悔はしていない。幻想郷に来たのは最終的には自分の意志であったし、その結果霊夢や東風谷、紫さんというような魅力的な方々との邂逅も果たせたのだから。多少貧乏な生活だけど、十分満足しているしね――――

 

「ちょっと! 変な回想していないで私の話を聞いてください!」

「……えー」

「いや、『えー』じゃなく……って! うわわわわ! ななな、なにさっきの裸とか思い返しちゃってんですかー! おっぱいが小さかったとかロリ歓喜とかそんなことどうだって……ひゃぁぁあっ! おへそより下は思い出しちゃダメですぅ!」

 

 「きゃー!」と林檎のように顔を真紅に染めてあたふた狼狽えまくっている女の子。水色を基調とし、袖や襟にピンクのフリルがあしらわれた長袖の衣服を着用しているのだが、そのカラーリングと小柄な体躯のせいで小学生にしか見えない。色合いが幼児服っぽいから幼く見えるってのもあるが……そういうの一切抜きにしても目の前の少女はロリロリしていた。

 俺が思考を口に出す前に一人で勝手に混乱の渦中にド嵌りしてしまった少女だが、どうやら彼女には『他人の心を読む程度の能力』というけったいな代物が備わっているらしい。

 

 この子は一般的に『覚』と呼ばれる妖怪である。

 

 飛騨を中心に活動していた、現代日本でもそれなりに有名な妖怪。名前だけならば、おそらく半数以上の日本人が知っているだろう。

 心を読むことで知られる覚の有名なエピソードと言えば、やはり山小屋の猟師の話だろうか。

 

 ある夜中に突然山小屋を訪ねてきた老婆。囲炉裏の傍まで招き入れて座らせると、いきなり猟師の考えていることをズバズバ言い当ててきたという。ニヤニヤといやらしい笑みを湛えながら猟師の困惑する顔を満足そうに見るその姿を見て、妖怪だと察した猟師。

 このままでは食べられてしまう。何も考えないように努めながらひたすらに囲炉裏の灰をかき混ぜていると、灰の中で蒸していた栗が突然弾け飛び、老婆の顔面にぶち当たったのだ。

 「人間は考えることなく行動できるのか」思ってもみなかった反撃に恐れをなした老婆は一目散に山小屋から逃げ去ったという。

 

 この話だけ聞くと間抜けな妖怪に思えるかもしれないが、覚は人間だけではなく動物や妖怪の心でさえも読みとってしまうという大層恐ろしい妖怪なのである。言葉にする前に考えを全て悟られてしまうという都合上、人間からも妖怪からも嫌われてしまっている種族。仕方がないと言えば仕方がないのだが……、

 

「うぅっ。男の人だから仕方がないとはいえ、そうやって何度も自分の全裸を見せられるのは恥ずかしすぎますよぅ……」

 

 赤面したまま照れまくっている純粋無垢なこの子を前にすると、そういう一般的な評価が揺らいでくるのだから不思議だ。

 先程のお風呂パニックの後改めて顔を合わせた俺達だが、ご紹介に預かってみるとなんと彼女が目的の人物だったらしい。古明地さとりというその名前は、先日霊夢から渡された封筒にかかれてある宛名と寸分違わぬものだった。こんな小さな女の子が地霊殿の主だというのだから驚きなのだが……まぁ覚妖怪ってのはそれなりに力を持った妖怪だから、カリスマ性があったのだろう。どこぞの吸血鬼みたいに。

 お互いに名乗り終え一応の挨拶を済ませた後になんとなく手持ち無沙汰になったので俺が何の気なしにさとりちゃんの裸を頭に浮かべていたところからこのやり取りは始まった。

 恥ずかしさのあまり必死に違うことを考えるよう説得してくるさとりちゃんを他所にひたすらエロいことを考え続けていると、これがまた絵に描いたように狼狽えてくれるのだから面白くて仕方がない。なんだか近所の女の子を弄っている時のような気持ちになってしまって、やめようと思ってもやめられないのだ。

 結果、延々と弄り倒してしまうわけで。

 

「やめようって思っているのならやめてください!」

「いやでも、可愛い女の子虐めたいってのは男の性なわけだし」

「ふぇっ!? かかか、可愛いとかそんなお世辞を……って、心の中でも同じこと思ってる!? えっ、えっ? 思考と言動が完全に一致しているなんて……」

「何を言っているのかよく分からんが、とりあえず可愛すぎるので妹になってください」

「ベッドシーン想像しながら変な提案するのはやめてください!」

 

 一応俺の心を読んだうえで会話を行っているらしいが、俺は基本的に嘘がつけない人間なのであまり意味を成していないようだ。心の中で思っていることと口に出すことが全く同じなので、結構戸惑っているように見える。自分で言うのもなんだが珍しい人間だよな、俺。

 

「珍しいも何も……普通じゃあり得ませんよ」

 

 ぜーぜーと息をつきながらも嘆息するさとりちゃん。呆れたように言葉を漏らすその姿はどこか大人びて見えないでもないが、幼い容姿をしているせいで子供が背伸びした言動をしているようにしか見えない。さっき俺に詰め寄っていた時も子供が駄々をこねているようにしか見えなかったし……いやはや、やはり外見というものは非常に重要な役割を占めているようだ。

 でもこんな可愛いロリっ子は地上にはあまりいなかったから、新鮮と言えば新鮮だ。裸を見た時も思ったが、さとりちゃんは顔が整っている上に幼いながらもすらりとした手足をしているのでとても目の保養になるのだ。萃香さんとか勇儀さんとかの豪快な鬼達としばらく接していたせいかもしれないが、純粋無垢な美少女を見ると心が安らいでくる。うん、やっぱり美少女は正義だよな。

 ……さて、こんなことを考えると狼狽えはじめるのがさとりちゃんなのであって、

 

「分かってるのなら美少女とか可愛いとか連呼しないでくださいよぉーっ!」

「だって事実だし。さとりちゃん可愛いから仕方ないんだよ」

「ま、またそうやってすぐに甘言を……本心で言っているからタチが悪いです!」

「いやいや、美少女に可愛いって言うことは別段おかしなことじゃないっしょ?」

「無意識に言ってるところが尚の事厄介なんですよぅ……」

 

 何故か朱に染まった顔を俯かせてぼそぼそと何やら呟いているさとりちゃん。何かおかしなことを言ってしまっただろうか。まったく心当たりがないのだが。……ま、いっか。

 しっかし、心が読めるというのは意外と大変そうだな。

 

「そうですよまったく……見たくもないものを強制的に見せつけられちゃうんですから……」

 

 俺の思考を読み取るとどこか憂いだ表情を浮かべる。嫌われ者が集結している地底においても最奥の地霊殿に住んでいることから、彼女がいかに他の妖怪からも嫌われてきたのかが窺える。その能力のせいで、ずいぶん嫌な目にも遭ってきたのだろう。

 心を読む能力ってのは一見すると便利な能力に思えるかもしれない。相手の考えを先読みし、常に先回りして行動できるのだから。勝負事においては無敵と言ってもいい能力だ。利点は確かにあるのだろう。

 しかし、他人の思考を読むということは、同時に相手が隠したいような暗い記憶までを読み取ってしまうことでもある。

 家族を亡くした記憶、誰かを殺した記憶、地獄のような過去の記憶……あげていくとキリがないが、『悟る』ということはこれらの忌々しい記憶を半強制的に見せつけられるということと同義なのだ。普通の人間ならばまず耐えられないレベルの呪われた能力である。

 さとりちゃんはそんな不器用な能力を持っていたせいで周囲から嫌われ、地底に追いやられた。彼女自身には何の非もないのに、『覚妖怪』だというその理由だけで嫌われ者になってしまったのだ。可哀想というのは些か相手に失礼かもしれないが、素直に同情してしまう。

 俺のそんな思考を詠んだのか、さとりちゃんは困ったように苦笑すると頬を掻きながら口を開いた。

 

「別にもう気にしていないからいいんですけどね……でもまぁ、そこそこ辛い経験はしてきましたよ。誰からも受け入れてもらえないっていうのはザラでしたし、同じ妖怪から殺されかけたりもしました。……今となっては過去の思い出でしかありませんけど」

「さとりちゃん……」

「『無理しなくてもいい』、ですか……? ホント、貴方は不思議なくらい馬鹿で素直で優しい方ですよ」

 

 口元に人差し指を当ててくすりと微笑むさとりちゃん。どこか吹っ切れたようなその仕草が「これ以上自分の過去に触れないでほしい」と言っているようで、俺は二の句を継ぐことができなかった。こういう時にどんな言葉をかけてやればいいのか、馬鹿な俺には思いつかない。

 ……でも、何かで落ち込んでいる女の子を無条件に励ますくらいなら、俺にだってできる。

 

「さとりちゃん」

「なんですか? 励ましとかそういうのは別にいりませんが……」

「…………お風呂場」

「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 キーワードを呟くと同時に俺は衝撃的光景であったお風呂パニックを脳裏に浮かべる。未だ繊細に思い出すことができるさとりちゃんの裸を、想像の中でこれでもかというほどに辱めてみる。霊夢に知られたら一瞬で消炭にされてしまいそうなレベルの妄想を繰り広げる。

 俺が浮かべたイメージはさとりちゃんの胸の辺りでふよふよ浮いている第三の目を通して直に伝わっているようで、さとりちゃんは再び顔を真っ赤に染めると腹の底から悲鳴をあげていた。相当恥ずかしかったのか、俺の方に駆け寄るとぽかぽかとグーで俺の胸を叩いてくる。

 

「バカバカバカァッ! なんでそうやってすぐに私を虐めようとするんですかぁっ!」

「さっき言っただろ? 『可愛い女の子は虐めたくなる』って」

「だ、だから可愛くなんかないと……あぁもうそんなに褒めちぎらないで! 偽りのない完全な本心でそんなに褒められちゃうと、なんだか変な気分になっちゃうんですぅ!」

 

 何やら落ち着かない様子のさとりちゃんは頭から湯気を立ち昇らせながら沸騰し始めていた。ふむ、ちょっとばかし弄りすぎたかもしれない。顔を俯かせたまま胸の前で人差し指をつんつんさせて何やら呟いているが、恥じらいさとりちゃんも非常に可愛くて大変よろしい。うん、やっぱり辛そうにしているよりも照れている方が似合ってるよ!

 

「か、可愛いとか言われたの初めてだ……な、なんでこんなに心臓がドキドキ弾んでいるの……?」

「どうしたさとりちゃん。まだ顔赤いけど……熱でもあるのか?」

「い、いえ、別に熱とかはな――――ひゃぅぅん!? いいい、いきなり額を触らないでくださいびっくりするじゃないですか!」

「いや、熱計ろうと思っただけなんだけど……」

「大丈夫ですから! とにかくあんまり無闇に触らないでください恥ずかしいので!」

「お、おう……」

 

 有無を言わせぬ迫力を纏わせたさとりちゃんに押し切られ、思わず頷いてしまう。怖ぇ……さすがは大妖怪。いくら外見がロリであっても妖力は凄まじいということか。覚妖怪、恐るべし。

 

「うぅ……なんなんですかこの心臓の高鳴りはぁ……」

 

 さとりちゃんが先ほどからずっと何かを呟いているが、そこまで気にすることでもなさそうなのでスルーしておく。あんまり無闇に追及されるのも嫌だろう。

 何はともあれ、ようやく目的地に到着できたというワケだ。これから一週間、楽しく過ごすとしよう。

 

 

 

 




 次回は霊夢編です。
 お楽しみにー♪

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