東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 スランプです。絶賛スランプです。
 三人称は調子良いのですけど一人称がどうにも上手く書けない。どうしたんですかねぇ。
 早く脱出したいものです。


マイペースに観光開始

 ――――愛というものは曖昧だが、その思い出が記憶から無くなっても心から抹消されることはない。

 

「ないわねぇ……」

 

 夏も終わりを迎え始めた頃。霊夢が友人達とお泊り会をするとか羨ましい計画を嬉々として雪走君に語っているのを歯ぎしりしながらスキマから見た次の日、私は自室の押し入れの中身をすべて引っ張り出して探し物を始めていた。

 外来産の段ボールを山のように積み重ね、目的のものを捜索する。深緑色のアルバムを探しているのだが、これが何故かなかなか見つからない。

 探そうと思った理由は、別段特別なアレでもない。式神の藍や、配達屋の母であり家政婦の白夜と昔話に花を咲かせている最中にふと思い立っただけだ。久しぶりにアルバムでも開いて昔を懐かしんでみるか、と感情の赴くままに行動しただけである。

 最後に見たのは何時だっただろうか。およそ二十年ほど前だったと記憶しているが、どうにもそのあたりの記憶があやふやだ。それより昔、遥か昔の記憶ははっきりしているのに……どうしたというのか。

 

「紫さまぁーっ! 物置にはありませんでしたぁーっ!」

 

 明るい少女のようなキーの高い声が近づいてくる。スタッカートを利かせるような快活な話し方で私の部屋に入ってきたのは、黒いゴシックロリータを華麗に着こなした銀髪の少女……いや、外見では年若き女の子だが、実年齢はアラフォーな現役ママ、沙羅白夜だ。

 十六夜家の末裔である彼女はいろいろと不思議な能力を持っているのだが、詳細はいまいちよく分かっていない。主である私にすらマトモに教えようとしないのだから尚の事手に負えない。唯一分かっているとすれば、この女が常軌を逸した親バカであるという事実だけだ。息子を性的対象に見てしまうほどに溺愛しているこのどうしようもないロリ巨乳は暇さえあれば射命丸家に乗り込もうと画策するので、いい加減に手綱を握りたいところである。

 白夜は私の隣にちょこんと座ると、別の段ボールを開け始める。

 

「それにしてもどこにいったんでしょうかねぇっ。私がいない二十年間で荷物の配置が変わったわけでもないのにっ!」

「そうなのよねぇ……トランジスタラジオとかゲームボ〇イとかはちゃんと収納されているのに……おかしいですわ」

「そんな地味に現代風の機材を持っている辺り紫様は蒐集家ですよねっ!」

 

 そんな雑談を続けながらも次なる段ボールに手を伸ばす。

 ……何かが不自然に見つからなくなったのは、なにも今回が初めての事ではない。

 数年前に、春が終わったので衣替えでもしようと思った時、箪笥の衣服が不自然に減っているのに気が付いた。藍が捨てたのかと思い聞いてみたが、まったく心当たりがないということだった。

 そして、居間の物棚の上に飾っていた写真立てがごっそりとなくなった。一家全員で写っていたその写真は何気に大切なものであったため真剣に捜索したのだが、いっこうに見つからなかった。

 二十年前に関連する物品が総じて消失するなんてことが、果たしてあり得るのだろうか。

 

「どこにいったのかしら」

 

 なんだか釈然としない気持ちでいっぱいになりながらも、私は白夜と共に作業を続行した。

 

 

 

 

 

                     ☆

 

 

 

 

 

 軽く荷物を纏めると、私達は博麗神社を後にした。

 妖夢の提案により開始されることとなった幻想郷観光旅行。記念すべき最初の目的地は人里に決定したらしい。慧音に話を通すために、早苗が先に人里へと向かっている。さすがにサプライズで人里に行くのはちょっと慧音に悪い気がしたのだ。仮にも自機組なのだし、余計なトラブルがやってきたと思われるのも癪だし。

 

「観光かぁ……月にいる時は考えもしなかった単語なんだよねぇ」

 

 人里への道を歩きながら鈴仙が感慨深げにそんなことを呟いた。しみじみといった様子の鈴仙はどこか故郷を懐かしむように遠い目をしている。……そういえば鈴仙は月から逃げてきたのだったか。何かと思い出すこともあるのだろう。

 しかし鈴仙の言葉ではないが、私としても『観光』という言葉には慣れないものがある。

 幻想郷の住民はあまり旅をするという概念を持たない。それは幻想郷自体がそれほど広い面積を持っていないという理由もあるが、やはり最も大きな理由は交流の深さだろう。

 昔はどうだったかは知らないが、最近の幻想郷では地上地下天界問わず妖怪や人間達が交流するようになってきた。暇さえあれば各々の住処で酒を交し合い、宴を開催する。冥界だろうが人里だろうが妖怪の山だろうが、宴会という名目があればどこに住んでいる奴らでも瞬く間に馳せ参じるようになった。まぁ、良い傾向だろう。妖怪と人間が共存できているという証でもあるし。博麗の巫女としては歓迎すべきことだ。

 だが、だからこそ観光と言われるとイマイチピンと来ない。そもそも旅というものがあまりよく分かっていないため観光旅行が想像できないというのが本音ではあるが。……ま、どうにかなるだろうとは思っている。

 

「咲夜さんはこういうの興味ないと思っていましたけど、結構楽しそうですよね」

「あらそう? まぁ、妖夢に比べれば関心は浅いのでしょうけど、私だってそれ相応に観光旅行には期待しているつもりですわ。ここの所働き詰めだったから、いい息抜きになるかなって」

「やっぱり息抜きしたいですよね! 私も最近は幽々子様にこき使われっぱなしで全然お休み取れなくて……」

 

 従者二人が苦労人オーラを全開にして観光旅行への意気込みを語っているのを微笑ましい表情で眺めつつも、隣で鈴仙と馬鹿話を繰り広げていた魔理沙に話しかける。

 

「アンタはこういう行事みたいのは好きそうよね」

「あぁ。やっぱ探求ってのは魔法使いにとって一生の楽しみだと思うわけだよ。こういう観光旅行を通して今まで知らなかったことを発見出来るかと思うと……ワクワクが止まらないぜ!」

「いやいや、魔理沙っちは楽しければ何でもいいだけでしょー?」

「それもあるな!」

「あるんかい」

 

 相も変わらずこの白黒は元気だなー、と苦笑してしまう私であった。

 

 

 

 

 

                     ☆

 

 

 

 

 

 人里に着くと、もんぺ姿の白髪少女が私達を出迎えてくれた。

 

「よく来たわね。慧音はちょっと手が離せないらしいから、私が里の中を案内させてもらうわ」

 

 快活な笑顔でそう宣言する彼女――――藤原妹紅。とある事情で不老不死の存在である彼女は慧音に何かとお世話になっているようで、人里で何かある度によく手伝いに駆り出されることが多い。今回の観光案内も大方手伝いの一つであるのだろう。迷いの竹林の案内係をしている妹紅にとってはうってつけの仕事かもしれない。

 

「やーやーご苦労藤原さん。姫様にもこれくらい愛想良くしてくれると助かりますよ?」

「なっ、なんでそこで輝夜の名前が出てくるのよ! あああ、アイツは関係ないでしょう!?」

「いやぁ、私達に対しては普通にコミュニケーションとれるのに、姫様相手だといつも赤面してテンパっちゃう藤原さんを心配して言ってるんですけどねぇ。ほら、ツンデレだといろいろと苦労するっしょ?」

「知るか! わ、私は別にツンデレじゃないわよ!」

 

 アホ兎に輝夜との関係をからかわれて顔を沸騰させる妹紅。いつものことだがコイツは輝夜が絡むとホント駄目になるなぁ。もういい加減素直になっても良いでしょうに。

 

「お前が言うのかそれを」

「うるさい魔理沙。捩じ切るわよ」

「何を!?」

 

 身体を抱くように胸の前で両腕を交差させる白黒魔法使いは一先ず放っておくとして。

 どうやら妹紅と輝夜の間には並々ならぬ因縁があるらしく、彼女達は毎日のように殺し合いという名の弾幕ごっこを繰り返しているのだ。……まぁ二人とも不老不死だから死なないんだけどさ。そこら辺は本人方にも事情があるのだろう。ちなみに殺し合っているときは二人とも楽しそうというのはここだけの秘密だ。

 穿いているもんぺの色に染まるくらいくらい顔を火照らせていた妹紅はわざとらしく咳払いをすると、

 

「じゃあとにかくまずは寺子屋に案内するわ。出店とか居酒屋とか行きたいところは沢山あるでしょうけど、やっぱり人里と言えば寺子屋だろうしね」

 

 私達を先導して里の中を寺子屋に向けて歩いていく。擦れ違う子供達が妹紅に向けて嬉しそうに手を振っているのを見ると、彼女がこの里で受け入れられているのだなぁとしみじみ感じる。

 こういうところは、幻想郷のいいところかもしれない。外の世界では存在を認められなくなった妖怪達がこうして個として存在を維持できていて、尚且つ人生を楽しめているのだから。

 はにかみながらもどこか嬉しそうな妹紅の顔を見ると、思わず口元が綻んでしまう。

 

「どうしたんですか霊夢さん。雪走君と一緒にいるときみたいな顔していますけど」

「いきなり現れて核心ついた発言するのはやめなさい早苗」

 

 不意に登場した緑色の巫女に軽く驚いてしまう。最近の風祝は神出鬼没する程度の能力をデフォルトで所持しているのかと本気で思ってしまうほどだった。気配を消して行動するんじゃないわよ。

 早苗はどこで貰ったのか肉まんを美味しそうに頬張ると、私の横に並んでくる。

 

「はふはふはふはふはふ」

「見せつけるように食うな。喧嘩売ってるの?」

「……っくん。いやいや、そんなわけないじゃないですか。霊夢さんの貧乏を自覚させた上で雪走君の世話を買って出ようとか、そんなことを一切思っていませんよ」

「アンタ最近威並に思考がだだ漏れよね。このサブヒロインが」

「ひ、人が気にしていることを! 読者さん方が『アイツ噛ませ犬だよな』って思っていることを知っていての言葉ですかそれは!」

「知らないわよそんなの」

 

 というかサブヒロイン臭がするのは早苗の日頃からの行いによるものなので私に言われても仕方がない。寝取り方面の作戦しか考えつかない辺りコイツは終わっているんだけどさ。

 ぎゃーぎゃー耳元で騒ぎ続ける早苗を適当にあしらいながらも、私達は妹紅に案内されて寺子屋へと向かうのだった。

 

 

 ……威、今頃何しているかなぁ。

 

 




 次回もお楽しみに♪

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