東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 連続投稿。次も早く書きたいです。
 それでは早速、どうぞ~♪


マイペースに空を飛ぶ

 目を覚ますと、視界が一面真っ白に染まっていた。

 

「……?」

 

 目覚めたばかりで寝惚けているせいか、頭が上手く働かない。なんかむにむにとした柔らかい感触が顔中を包み込んでいる。というか、全身に柔らかいモノが当たっている感じがする。なんだろうか。すっごく気持ちがいい。

 顔を上げて状況を確認したいところなのだが、この気持ちよさを手放したくないという思考が脳を支配しているので、指一つ動かすことができない。むぐ、そろそろ呼吸がヤバイかも。

 顔を上げない代わりに、もぞもぞと手を動かして物体を確認する。

 

「んっ……」

「……むぐ?」

 

 なんかサラサラとした長い物に触れた。細やかで、特徴的な感触のソレ……。

 ……髪の毛、か?

 

「ぁん……」

 

 ……どうしよう。なんかすっごく嫌な予感がする。先ほどから身を動かすたびに聞こえているコレは、先日知り合ったばかりの家主様ではないだろうか。そして、そんな艶っぽい声をあげるということは……。

 ゆっくりと、できるだけ刺激しないように身体を上げる。

 

「……おぅ。マジかよ神様」

 

 下にいたのは案の定博麗霊夢だった。布団を蹴飛ばし、巫女装束もはだけてしまっているやけにエロい巫女。む、サラシを付けているという予想は当たっていたみたいだな。

 ……いや、そんなくだらないことはどうでもいい。この光景を見るに、結論は一つ。

 

 俺は自分の布団を抜け出し、隣で寝ていた霊夢に圧し掛かっていたようだ。

 

 ……なんてラッキースケベ。ということはさっきの柔らかさはコイツの胸か。見た目よりずいぶんとボリューミィな胸部だ。サラシさんは今日も大活躍しているらしい。

 状況を理解すると、冷や汗が止まらなくなってくる。ヤバい。このままゆっくりとこの場を離れねば、俺の儚い命が彼岸に向かってしまうのは避けられない。

 そうと決まれば即行動。起きないでくれと必死に祈りつつ、忍び足で寝室を後に――――

 

 ガンッ! ←俺が襖に半身をぶつける音。

 

「んぅ……?」

 

 さようなら。俺の人生。

 その時、俺は確かに刻の涙を見た。

 

 

 

 

 

             ☆

 

 

 

 

 

 結局あの後行いを洗いざらい吐かされ、俺はサンドバッグもびっくりのラッシュでボロ雑巾にされた。寝相だから悪気はないというのに、酷い奴だ。

 

「女の子の布団に忍び込んだ挙句、押し倒した馬鹿の台詞じゃないわね」

「喘ぎ声出していた奴が何を今更」

「秘技・湯飲みアタック」

「がっふ!」

 

 今日も絶好調な霊夢さんは既に武器と化している湯飲みを顔面に投げつけてくる。俺も避けない。というか、間に合わない。て、照れ隠しも相変わらず可愛らしいな霊夢よ……。

 だがしかぁし! 俺は見逃さんぞ。折檻中に顔を真っ赤にして羞恥に身を染めていた貴様を!

 

「夢でも見てたんじゃないの?」

「正直に吐け、霊夢。気持ちよかったんだろ?」

「セクハラで紫に突き出すわよ」

「申し訳ございませんでした」

 

 ツンデレは怒らせると怖い。これは幻想入りして最初に学んだ理だ。

 まぁわざとではないにせよ、今回は俺に非があるのは確かだ。女の子の布団に入り込むなんて、死刑になっても文句は言えない。折檻で済んだことを喜ぶべきだろう。

 

「霊夢、本当にすまん。寝相が悪いのを忘れていた」

「……もういいわよ。お仕置きもしたんだし、トントンで」

「あぁ、助かるよ」

 

 今だけはコイツの後腐れない性格に感謝だ。いつまで引き摺られるのも嫌だし。とりあえず飯を食いながら徐々にテンションを戻していこう。

 霊夢が作ってくれたお茶漬け(ご飯少なめ)を啜りながら、今日の予定について話を振ってみる。

 

「今日は守矢神社に行くんだよな?」

「そうよ。妖怪の山にある神社。結構遠いのよねぇ」

「そんなに遠いのか? 一日で行けんの?」

「まぁ一時間程度じゃない? 今日は風もないし、一っ跳び――――」

 

 はた、と霊夢が動かしていた箸を止め、俺の方を見つめてくる。なんだ、ついに惚れたか? なんか戸惑ったような表情をしているが、これは照れていると捉えて正解なんだろう。たぶん。おそらく。めいびー。

 ……冗談です。冗談ですから湯飲みを置いてください。一日二発は辛いです。

 攻撃をやめた霊夢は「しまった……」と額に手を当てると、昨日にも増して大きな溜息をつく。

 

「どうした霊夢」

「そういやアンタ、空飛べないのよね……」

「そういう質問が来ること自体おかしいということに気付け。俺は一般人だ」

「私は飛べるわよ。人間だけど」

「不思議世界の巫女と人間を一緒にするな」

 

 どうやらコイツは飛んでいくつもりだったらしい。もはや人間じゃねぇな。スーパーマンだ。

 『空を飛ぶ程度の能力』。霊夢が持つ能力らしいが、なんてチートな能力だろうか。羨ましい。人間の長年の夢を能力で解決しちまうのか。科学者が聞いたら首吊るぞ。

 

「俺がお前に捕まっていけばいいんじゃねぇの? そうすりゃ飛んで行けるじゃん」

「えー? 面倒くさいじゃない。重いし」

「だったら歩いていくしかないな。俺は飛べないから!」

「なに威張ってんのよアンタ」

 

 だって本当だもん! 飛べないんだから仕方ないじゃないか! 胸を張って言うしかねぇんだよ!

 

「そんなこと言われても平手打ちくらいしかできないわよ」

「少しは言葉で返せこのバイオレンス巫女が。それと今回は俺に非はねぇ! 当然のことを言ったまでじゃねぇか!」

「じゃあ手間賃ね。吊って飛んでいくの疲れるから、その代わりということで」

「手じゃなくて胸掴むぞコラ」

 

 

《少女虐殺中……》

 

 

「何か言うことは?」

「調子こいてすみませんでした」

 

 顔を赤らめてひたすら殴り続ける霊夢に思わずキュンと来てしまった。照れ隠しがだんだんと可愛くなってきている。いやぁ、惚れた弱みって奴かなぁ。

 

「何笑ってんの気持ち悪い。食べ終わったら早く行くわよ」

「結局飛んで行ってくれるんだな。優しいねぇ霊夢は」

「……馬鹿」

 

 そのトーンで陰陽玉投げつけてくるのは反則だと思う。

 

 

 

 

 

             ☆

 

 

 

 

 

「おぉ……すげぇ! 本当に空飛んでる!」

「あんまり喋ると舌噛むわよ」

「分かってるって!」

 

 雪走威、人生初のフライトに現在心が踊り狂っております! 建物があんなに小さく見える。米粒みたいなのは人里の村民達だろうか。朝の慌ただしい空気が届いてくるようだ。

 興奮気味にはしゃぐ俺。……しかしなぁ。

 

「いくらなんでも襟首掴むのはどうかと思うんだ。霊夢さんや」

「し、仕方ないでしょう!? 手を繋ぐなんて不潔よ!」

「今朝のことを思い出すんだ。あんなにお互いを求め合ったじゃないか」

「手、離すわよ」

「わーわーわー! 冗談だって!」

 

 この高さから落とされてはシャレにならない。愉快なオブジェが出来上がってしまう。

 というか、この一日で霊夢の赤面確率が急上昇しているように思うのは俺だけだろうか。喜ばしい限りではあるが。俺のことを少しでも気にしてくれているのなら、男としてそれに越したことはない。さぁ霊夢よ、俺の愛に応えてくれ!

 

「寝言は寝て言えこの色欲魔!」

「違う! 俺は淫魔だ!」

「なんのフォローよそれは!」

「冗談だって。……あぁでも、俺の霊夢への愛情は冗談では――――」

「手が滑りそうね」

「これ以上は口を開きません。霊夢様」

 

 生殺与奪権が霊夢に握られている現在、彼女を下手に怒らせるのは逆効果なようだ。悪ふざけもここまでにしておこう。さすがに同棲者に殺されたくはない。

 ……しかしなぁ、霊夢をからかわないと暇すぎて死んじゃいそうなわけでして。

 

「アンタはからかう以外でのコミニュケーションを知らんのか」

「ボディタッチを許してくれるなら見せてやってもいいが?」

「そういえばアンタ変態だったわね。度し難いほどの」

「失敬な。紳士と呼んでもらおうか!」

「…………」

 

 

 パッ←霊夢が俺を掴んでいた手を離す音

 

 

 あ、俺死んだわ。

 

「ぬをぉおおおおおおおおおおお!?」

「さようなら、また会いましょう。威!」

「嘘泣きはいいから早く助けんかいこの腋巫女ぉおおおおおおおおおお!!」

 

 速い速い速い! 地面が異常な速度で近づいて来てるんですけどぉ!? ヤバいって! マジヤバイって! 昨日の時点で『死ぬのなんて怖くない』みたいな啖呵切ってたけど、実際死にたくないわボケェ! 当たり前だろ! 霊夢の裸見るまで死ねるかってんだ!

 

「成仏しなさい。この変態ヒモ野郎」

「ヘルプ! 謝りますからマジで助けてください霊夢様! このままじゃ死ぬぅううううう!!」

「…………はぁ、これに懲りたらもうやめなさいよ……」

 

 溜息交じりにそう言った霊夢は、速度を上げると俺を華麗にキャッチ。そのまま上昇していく。な、なんとか命拾いしたか……五回は死んだ。いやホント。

 

「し、死ぬかと……」

「自業自得よ、馬鹿」

「いや、でもこれは本心だから――――」

「あ゛?」

「誠に申し訳ございませんでした」

 

 すっかり主従関係が出来上がっているような気がして、俺としては心配になる。その内居候から家畜にランクダウンしてしまうのではなかろうか。意外とシャレにならなそうで怖い。

 今後の身を振り方を考えよう。しばらく次なる就職先を考えていると、

 

「……ほら、着いたわよ威」

「んぁ? ……おぉ、これはまたしっかりとした神社で」

 

 視線の先には博麗より一回り大きな神社がそびえ立っている。何か不思議な神々しさも感じられるし、さぞご立派な神様を祀っているに違いない。

 博麗神社も何か祀ればいいだろうに。

 

「わざわざ考えるのも面倒くさいわ」

「またそんなことを……」

「いいじゃない別に。そんなに祀りたいのなら威が考えなさいよ」

 

 居候に信仰を投げやりする巫女ってのもどうかと思うんだが。俺は俺なりにコイツのことを考えているつもりなんだけどなぁ。

 まぁ今アレコレ考えても仕方がない。後々決めていくとしよう。

 

「じゃあ降りるわよ。ちゃんと捕まっておきなさい」

「……胸にか?」

「腕によ!」

 

 まずは友人を増やす為に尽力するとしますかな。

 そんなわけで、守矢神社に到着しました。

 

 




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