東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 皆さんこんにちは。幻想郷の記録者、稗田阿求と申します。以後、お見知りおきを。
 さて、突然大筋に関係のない登場人物である私阿求の一人称で書かれ始めたために、混乱している方もいることでしょう。もしくは、既に何事かを悟っている人もいるやもしれませ……え、文章が固い? そ、そんなこと言われましても、これはあくまでも正式な依頼の上で書いている文章ですので……はい、分かってください上白沢先生。

 こほん。それでは改めまして。

 今回はいつもの慌ただしい霊夢さんや雪走さんのどたばた珍日記から少し離れまして、少々箸休め的な風味のお話をお楽しみいただきたいと思っています。
 その内容とは……なんと!

 人気投票上位五名の方々を私が取材した際の記録です!

 ……ここで「いぇーい」ですよ、皆さん。書物の前で両腕上げて喜色満面な笑みを浮かべてはしゃぎまくるんですよ。きっとそうしてくれると阿求は信じています。
 さてさて、この企画を行うにつきましては、本編の方をしばらくお休みさせていただくことになってしまいます。ようするに、アレです。某試験召喚戦争的な作品で本編がしばらく出版されずに外伝ばかり世に出てしまったようなものです。後は、伏線巻きすぎたので設定をもう少し練りたいとかゴニョゴニョ。
 というわけでございますので、これからしばらくは人気投票外伝をお楽しみください。賛否両論多大にあると思いますが、ご了承いただけると幸いです。……なんで私が代理で謝らないといけないんでしょうか。地味に納得いきません。まぁでも我慢します。阿求は偉い子ですから。
 ……む、なんですか先生そのにやにやした表情は。……わ、私は別に子供っぽくなんかありません! ちょっと純粋ですけど寺子屋の生徒達に比べたら大人も同然です! 非常に心外です! ぷんぷんです!

 それでは読者の皆さん。主人公勢のラブコメが見たい人には申し訳ない企画ですが、そんな方達にもお楽しみ頂けるように……それだけ待たせた本編の完成度は高いと思ってもらえますように頑張っていきますので、阿求共々よろしくお願いいたします。お付き合いくださいませ。
 それではタイトルコールを。……こほん。

 マイペースに、お楽しみくだしゃっ!

 ……お楽しみください。


【番外編】第五位 風見幽香

 夏真っ盛りの幻想郷。さんさんと照り続ける太陽の光を浴びて猛烈な温度の熱を放ち続ける博麗神社の石床は、ちょっとばかり身体が丈夫ではない私稗田阿求にとっては少々堪えるものがあります。書物によるとこういった暑い日には熱中症と呼ばれる病気にかかる恐れがあるということなのですが……阿求、頑張りますっ。

 

「……小さな身体で無理しないでもいいじゃないの」

「大丈夫ですっ、阿求は強い子ですから!」

「あ、そう」

 

 少しそっけない風な態度を返してくる目つきの悪い緑髪の女性。白のブラウスに黄色のリボンをつけ、赤チェックの上着とスカートを着用しているその女性は、鳥居の根本にひっそりと咲いている白いお花(名前はちょっと分かりません)に水をあげています。花壇に植えられているようなきちんとした花じゃないのに、彼女はそんな雑草にもしっかり愛情をこめて水を与えていました。

 そんなギャップが魅力的な彼女の名前は風見幽香。この幻想郷に昔から住む最強クラスの妖怪です。

 一年中季節のお花を追いかけて住処を移し、そこに腰を下ろしては花を育てる幽香さん。基本的には太陽の畑に住居を構えているようですが、一々お花を追いかける辺り本当にお花が好きなのでしょう。

 

「というわけで、人気投票第五位おめでとうございます」

「いきなりどうしたのよ」

「いえ、幻想郷人気投票におきまして見事第五位に選ばれましたので、お祝いを兼ねて取材をと」

「貴女前にも取材に来たじゃない」

「あれは幻想郷縁起を書くためです。今回は上位五名に記念インタビューという形を取らせていただいています。ちなみに幽香さんは記念すべきトップバッターです」

「それ地味に喜びづらいわよね」

 

 面倒くさそうに溜息をつく幽香さん。しゃがみ込んだ膝の上に右手を乗せて頬杖をつくそのお姿は窓辺に座る令嬢のようなのですが、如何せん物騒な実力をお持ちのためにどちらかというと戦乙女といった感じでしょうか。戦いの合間に思わず零れた美しい笑顔を前にしているようです。これは惚れますね! 惚れてまうやろー!

 

「元気ね、稗田の」

「そりゃあテンション上げていかないと取材のやる気出ませんし。そういえばなんで博麗神社なんかに来ているんですか?」

「貴女には会話の筋道というものが存在しないの?」

「それが阿求クオリティなのです」

「意味が分からないわ」

 

 む。呆れたように首を振られてしまいました。心外です。

 仕方がないのでもう一度質問を繰り返します。

 

「どうして博麗神社に?」

「ここって博麗大結界に近いでしょ? それの影響かどうかは分からないんだけど、幻想郷じゃ珍しい植物が生えていることが多いのよ。『外』で忘れ去られてしまったばかりの植物が博麗神社に真っ先に現れる。そんな花達を一足早く見るために。そんなところかしらね」

「なるほど……やっぱり植物が好きなんですねぇ」

「えぇ、とても。あの子達はいつも正直で、色々な顔を見せてくれるから」

「いや、だからってそんな頻繁にウチに来ないでもいいじゃない」

「あら、色ボケ巫女のご登場?」

「誰が色ボケか誰が」

 

 不機嫌そうに幽香さんの発言に対してツッコミを入れる霊夢さん。私達が来ているのに気付いて神社内から出てきたようです。暑さに耐えられないのか、艶やかな黒髪を後頭部の辺りで上げるようして纏めています。うなじがとても性愛的ですが……旦那様が人里に買い物に出ているのが悔やまれますね。

 

「アンタ達……威のことを私の旦那って呼ぶのに抵抗なくなってきてるわよね……」

「だって本当の事じゃない。この子も言ってるわよ? 最近イチャつきが半端じゃないって」

「花から聞きだすんじゃないわよそんなこと」

 

 肩を竦めてやれやれと首を振る霊夢さんですが、頬がほんのりと朱く染まっているのを私は見逃しません。結構受け入れているように感じます。なんだかんだで嬉しいんですね。

 

「べ、別に嬉しくなんか……」

「素直じゃないわねぇ……そんなに認めたくないなら、あの子私が貰うわよ?」

「は、はぁっ!? いきなり何意味分からないこと言ってんのアンタ!」

 

 何気にさらっと爆弾発言を漏らした幽香さんに霊夢さんは目を丸くして詰め寄ります。もうその行動だけで霊夢さんがどれだけ旦那さんのことを好いているのかが手に取るように分かってしまうのですが、それはあえて言わないのが大人というものでしょう。阿求我慢します。大人ですから。

 幽香さんは霊夢さんの慌てた表情を心底楽しそうに眺めながら口元を吊り上げています。

 

「雪走威だっけ? 彼、素直でいい子よね。嘘もつけないし一途だし。それに加えて愛想もいいときた。これを優良物件と言わずして何と言うの? 世の女の子にとっては喉から手が出るほど欲しい人材よね」

「で、でも変態よ? 事ある度にセクハラしてくるような度し難いスケベ野郎なのよ? アンタそういうの嫌いじゃ……」

「ちょっとした出来心で痴漢行為働くような下衆は心から死んでほしいけど、相手のことを一途に想った上でのプラトニックな感情からくる行為ならドンと来いよ。私、そういうところは結構積極的なんだから」

「年齢不詳のババアがなに可愛い子ぶってんのよ気持ち悪い」

「何か言った?」

「ごめんなさい」

 

 幽香さんは一瞬で目つきを変えると折りたたんでいた日傘を霊夢さんの喉元に突き付けました。あの百戦錬磨の霊夢さんがまったく防御の動きをとることができなかったことからも分かる通り、その攻撃の速さは幻想郷内でも随一かと思われます。さすがは幽香さん。伊達に最強と呼ばれていません。あの傍若無人、我儘勝手で知られる霊夢さんが為す術もなく自分の非を認めてしまっています。怖いです。

 年齢のことは禁忌、と……これは幻想郷縁起に書き足しておく必要がありますね。

 そういえば霊夢さん。今夜は盆の宴会をするとお聞きしましたが。

 

「相変わらずそういうところは耳が早いわね。えぇ、結構大々的にやるつもりよ。威は早苗と一緒にその買い出しに行っているところ」

「そしてそのまま浮気ね。守矢の現人神にかかればあんなマイペース男ちょろいって訳か」

「ぶっ殺すわよ幽香」

「やってみなさい」

 

 まぁまぁ一先ず落ち着いて。

 というか、幽香さんでも冗談をおっしゃるんですね。てっきり暴力だけで相手を捻じ伏せるような前時代的な妖怪だと思っていたのですが。

 

「貴女も大概イイ性格しているわよね。もしかして喧嘩売ってる?」

 

 いえいえそんな滅相もない。ただ、弱い者いじめが趣味である幽香さんでもそんなフレンドリーな冗談を言うんだなぁと正直に思っただけでして。

 

「どこがフレンドリーな冗談よ。どう聞いても挑発紛いじゃない」

「聞く人の心構え次第じゃなくて? 稗田は心が清らかだから私の言葉が冗談に聞こえるけれど、貴女は歪んでいるから皮肉っぽく聞こえる。つまりは貴女がひねくれているっていう証明ね」

「よーし怒っちゃうわよー。霊夢さん全力で妖怪退治やっちゃうわよー」

「図星でキレるなんて器の小さい巫女ね。これは本格的に旦那さんを寝取る方向で作戦を進めないと」

「アンタはホントに何がしたいのよ!」

 

 のらりくらりと華麗に霊夢さんを翻弄する幽香さんは、やはり年の功というものが見て取れますね。年齢の違いが経験の違いということなのでしょう。さすが、長生き妖怪は積み重ねてきた年代が違います。あの博麗の巫女を手玉に取るとは脱帽ですねぇ。

 

「どうしようかしら。私、久しぶりに無抵抗な人間をこの手で殺めてしまいそうなのだけれど」

「落ち着きなさい。事実でしょ?」

「やっぱり貴女殺すわ。博麗の巫女か何だか知らないけれど、今すぐ消し炭にしてあげる」

「ネグリジェで侵入者をもてなすような天然女に何言われても怖くもなんともないわね」

「なっ……あ、あれは昔の事でしょう!? 今は関係ないわ!」

「役立たずの護衛二人もどっかへ行っちゃったようだし……愛想尽かされたのかしらね」

「う、うるさぁぁあああああい!!」

 

 何やらお二人とも楽しそうに過去の記憶に想いを馳せているご様子。幽香さんが若干取り乱しているように見えないこともありませんが、いやはや仲のよろしいことで。喧嘩するほど仲が良いとはこのことですね。

 時に幽香さん、ちょっと質問してもよろしいですか?

 

「はぁ? 今更何を聞きたいの?」

 

 いえ、ちょっとしたことなのですが。

 夏に入って、雪走さんが幻想入りしてきたじゃないですか。彼が来てから彼是一か月ほどになりますけど、そろそろこの世界にも慣れてきたころだと思うんですよね。

 

「まぁ、そうみたいね。普通の人間共に比べたら順応性があるみたいだし」

 

 本人はマイペースと豪語しておりますけどね。

 して、ここからが質問なのですが……幽香さんから見ての、彼への感想をお願いしても良いですか?

 

「感想?」

 

 はい。今回の取材の本題の一つなんですよ。雪走威という外来人について幻想郷の住人はどう思っているのか。そして、彼のことをどう受け入れていくつもりなのか。幻想郷縁起編纂者としては非常に興味深い議題でありますので。

 

「そうねぇ……さっきも言ったけど、自分に素直で嘘がつけない性格ってのは好感持てるわね」

 

 というと?

 

「ほら、人間って時代が進むごとにどんどんずる賢くなっていっているでしょう? 他人を騙して貶めて、自分がのし上がるためには犠牲も厭わないって風に。正直に言って、クズが増えてきているわ。それに比べて、彼は裏表がないって言うのかしら。普通の人間ならば持っているはずの二面性がないの。それも不自然なほどに、ね。まるで、その性格で固定されてしまっているかのように」

 

 固定、ですか……?

 

「えぇ。普通、あんな純粋さっていうのは成長と共に薄れていくはずなのよ。人生を過ごしていくと擦れていくのは世の常だし、それはたとえ妖怪でも変わらないわ。でも、あの人間はそれをまったく感じさせない。本当に命が宿っているのか、成長してきたのか疑問に思うほどに愚直すぎる。ま、そこがいいのだけれど」

 

 なんか、難しい話でよく分かりません。

 

「いいのよ、気にしないで。……ようするに私が言いたいのは、綺麗な花びらを無理に付けた花よりも不格好な花弁で精一杯咲いている花の方が好きってだけだから」

「オイコラ四季のフラワーマスター。なに勝手に威狙ってんのよやめなさいよ鬱陶しい」

「嫉妬っていうのはいつの世も醜いものよ? 博麗の巫女さん」

「誰が誰に嫉妬しているってぇええ!?」

 

 額に青筋を浮かべると、霊夢さんは再び幽香さんに鋭い視線を向けます。その鬼気迫った表情は今にも幽香さんの胸倉を掴んでしまいそうな程です。が、ガラが悪いですぅ。

 それにしても、先程幽香さんが言ったことが気になります。不自然なほど愚直……私が見た限りでは、あまりそう言う風には見えなかったのですが。やはり上級妖怪ともなると私達人間には理解できない何かを感じ取ることができるのでしょう。肉眼や感覚では分からない、微粒子レベルの何かを。

 何はともあれ、有意義な取材になりました。最初にしては何やらグダグダな気がしないでもありませんが、まぁそこは置いておきましょう。

 幽香さん、ご協力ありがとうございました。謝礼といっては何ですが、コレを。

 

「あら、花の種子じゃない。あまり見ないものだけれど……」

 

 妖怪の賢者様から頂いたものです。なんでも、『外』にしか咲いていない珍しい花なのだとか。

 

「へぇ……それじゃあ、有難く貰っておくわ」

 

 いえいえ、お気になさらず。

 そう言えば、幽香さんは宴会には参加されるのですか?

 

「最初は参加するつもりはまったくなかったけれど……」

「……なによ」

「このからかい甲斐のある巫女を見ていたら気が変わっちゃった。私も楽しませてもらうことにするわ」

「んなっ! よ、余計なことをぉおおおおおおおお!!」

 

 あらあら、仲がよろしいようで何よりですね。

 

「どこをどうみたら仲良く見えるのよ! 友人の胸倉掴むような馬鹿がどこにいる!」

「酷いわ、霊夢。唯一無二の親友じゃない。昔からの腐れ縁をそんな風に言うなんて」

「そのまま腐っちまえ!」

 

 どこまでも素直じゃない巫女様です。旦那様も大変ですね。

 それではそろそろ、次の取材対象の方の所に行くとしましょう。




 次回もお楽しみに♪

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