東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 試験期間だからか変なノリで書いちゃいました。後悔はしていません(震え声)
 しかも主人公不在と言う奇跡の回。どうしてこうなった。
 まぁとにもかくにもマイペース。お楽しみください。


マイペースに女子会

「第一回、チキチキ雪走威の攻略法を考えよう会議~!」

『…………』

 

 紅魔館のとある客室に響き渡る紅白巫女の弾んだ声に反して、私達のテンションは最初から(悪い意味で)クライマックスだった。

 雪走のアホが修行から帰還してから一週間ほど経った本日、私こと霧雨魔理沙は何故か至極真剣な表情をした霊夢に連れられて紅魔館へとやってきていた。なんでも「相談したいことがある」とか言っていたので、相当の内容だろうとそれなりの覚悟を持って紅魔館の門を潜ったわけなんだが……、

 

 なんだ、この意味不明かつ極めて無駄な会議内容は。

 

「……ちょっと、こんなことのためにわざわざ紅魔館(ウチ)を使うのやめてくれない? お嬢様に怒られちゃうじゃない」

 

 正方形のテーブルで、私の右側に座っていた銀髪のメイドがふと口を開いた。端正な顔立ちと、冷たく不機嫌そうな雰囲気を醸し出しているクールビューティ。短めのスカートから伸びた長い美脚を組む姿はまさに地上に舞い降りた女神のようだ。

 十六夜咲夜。ここ紅魔館に住み込みで働く瀟洒なメイドである。仕事の出来は、宇宙一。

 当主、レミリア=スカーレットが意地でも手放そうとはしないほどの完璧超人な咲夜は、自分で淹れたレモンティーを優雅に傾けると霊夢の返事を待つ。

 そして、

 

「配達屋に懸想しているツンデレメイドに言われても痛くも痒くもないわね」

「げほっ……ゴホゴホゴホゴホッ!」

 

 若干引くレベルで盛大にむせ始めた。勢いで噴出したレモンティーが彼女の向かいに座っていた緑髪の風祝にクリーンヒットして青筋を浮かび上がらせているが、そんなことに構っている余裕はないらしい。普段の彼女からは考えられないほど取り乱した様子で赤面したまま反論を始める。

 

「だ、誰がツンデレよ!」

「まずは懸想しているの部分を取り消せよ!」

「けっ、懸想については……ノーコメントで」

「この脳内お花畑メイドがぁ――――――――ッ!!」

 

 コイツもコイツでどうしようもない女だった。幻想郷お嫁にしたいランキング二年連続堂々の第一位は現在新聞屋の配達野郎に恋している模様です。

 

「あ、あのぉー……今回の会議って私関係ないみたいなんで、帰っても良いですか?」

 

 ハンカチで顔を拭きながら挙手するのは東風谷早苗。皆さんご存知、妖怪の山に位置する守矢神社の看板風祝だ。配達屋との漫才とか雪走との謎の関係とか何かと噂の絶えない女だが、それなりにマトモな部類だろうと私は思っている。

 まぁ早苗の言うとおり、コイツは色恋沙汰については髪の先ほども関係のない人間だ。別に好きな相手がいるわけでもないし。私や咲夜、霊夢はともかく、早苗がこの会議に参加している理由が分からない。……つーか、雪走攻略会議に私達が参加している理由も不明だが。

 しかし霊夢にとっては彼女の存在はそれなりに大きいもののようで、「何言ってんのよ!」と珍しく声を荒げるといつの間にか用意されていた移動式黒板を叩いて叫んだ。

 

「幻想郷じゃあ貴重な現代社会女子高生の意見ってのは最重要なの! 色ボケメイドや男女魔法使いの意見だけじゃ対策会議の中身なんてたかが知れているわ!」

「だっ、誰が色ボケメイドよっ!」

 

 咲夜が顔を真っ赤にして反論を行っているが、暴言の主はそ知らぬ顔でそっぽを向いている。つーか、男女って私の事か? まぁ口調が男っぽいのは認めるが……とりあえず一発殴っていいよな?

 

「それにアンタ誤魔化しているつもりかもしれないけど、実は陰でウチのマイダーリンのこと狙ってるでしょ?」

「い、いきなり何とんでもないこと言いだすんですか!?」

「しらばっくれるんじゃないわよ! にとりを合わせて会員二人な【雪走威ファンクラブ】を私が知らないとでも思ったか!」

「どっ……どこからその情報をっ……」

「威のことに関して私の知らないことはない!」

 

 なんて気持ちの悪い巫女だろうか。こんな変態犯罪者一歩手前な問題児に幻想郷の命が握られているかと思うと寒気が走る。コイツ、万が一雪走と破局でもしたら幻想郷ごと心中するんじゃなかろうか。

 何やら弱みを握られたっぽい早苗はそれ以降反論することはなく、それどころか【霊夢の監視下に置いてならクラブの活動を認める】とかいう密約まで交わしていた。リアルガチで帰りたいと思ったのは私だけじゃないはずだ。

 

「話が逸れたわね。さっさと本題に入りましょう」

 

 誰のせいだとは間違っても言わない。私達はまだ無縁塚には送られたくないのだ。

 

「今回の目的は言わずもがな、雪走威との仲を如何にして深くしていくかよ」

「先生質問良いですかぁー?」

「はい、東風谷君」

 

 なんだか地味にノリのいい霊夢は律儀にも挙手を行う早苗を促す。

 

「私だけの意見じゃなくて幻想郷全体の総意だとは思うんですけど、霊夢さんと雪走君って既に恋仲も同然ですよね? 見る限りだとあきらかに両想いですし、今更どうこうせずとも普通に告白してハッピーエンドなんじゃ……」

「アンタそれでも女子高生? 夢も希望も若さもないわね。二十点」

「理由もなしにボロカス言われた!」

 

 目の端に涙を浮かべ割と甚大な精神ダメージを負う早苗。カップを持つ手がカタカタと揺れているが、かなりショックを受けているらしい。……って、いくらなんでも揺れすぎだろ。茶が半分くらい零れちまってる。

 だが、早苗の意見はもっともだ。事実、霊夢と雪走は周囲から見れば新婚夫婦も裸足で逃げ出すほどのラブラブっぷりを見せている。

 

 人里に行けば霊夢が楽しそうに雪走の腕に掴まっているし(雪走は怯え気味)。

 紅魔館に向かえば霊夢が雪走に密着してソファに座っているし(雪走は怯え気味)。

 博麗神社を訪れれば霊夢が雪走に肉体的誘惑を迫っているし(雪走は怯え気味)。

 

 ……あれ? これって雪走が怯えてるだけじゃないか?

 

「確かに私と威は好き合っているかもしれないけど、これといった決定打がないのも事実。しかも最近は何故か威が若干大人しくなっているし、私と距離を置いているようにも見えるわ。ここらで一つドカンとかまさないと博麗の巫女の名が廃る!」

 

 拳を握り込んで盛大に言い放っているが、コイツは自分の過剰なまでの愛情表現が逆に雪走を遠ざけているという事実に気付いていない。昔は立場逆だったはずなんだが……私も煽りすぎたかな。

 

「そこまで彼との関係を発展させたいのなら、私が美鈴と考案した最強の誘惑術を教えてあげるわよ?」

 

 そんな中、無謀にも霊夢に意見を述べたのは色ボケメ……もとい、咲夜だ。最近は茶を吹いたり赤面したり取り乱したりとかいう場面しかお目にかかっていないため、私の中では【純情乙女】の称号が付きつつある咲夜だ。夜な夜なフランや門番と謎の会議を行っているらしいというのは紅魔館の主、レミリア=スカーレット談である。この館には小悪魔以外のまともなヤツはおらんのか。

 咲夜はきめ細やかな銀髪を瀟洒な動作で掻くと、胸の前で腕を組みドヤ顔で提案する。

 

「まずは標的を捕獲して、どこかに縛り付けるの。椅子でも柱でもどこでもいいわ。とにかく身柄を拘束する」

「おいこらちょっと待てクソメイド」

 

 思わずツッコミを入れてしまったのは仕方のないことだろう。今のは私じゃなくても口を挟む。現に早苗だってかなり焦った表情を浮かべているじゃ――――

 

「咲夜さん、その話もっと詳しく」

「私も頼むわ、咲夜」

「私以外は馬鹿ばっかりか!」

 

 まさかのアウェーっぷりに衝撃を隠せない。『幻想郷は魔境だ』とか以前雪走が言っていたが、どうやら本当の事だったようだ。つかこんな形で露わにならなくてもよかったんじゃないかと思わないでもないが、よく考えてみると幻想郷にマトモな人間なんているはずもなかったので思考をシフトさせる。身近に頭の固い道具屋や嫉妬深い人形遣いがいるのを忘れていた。

 私の制止を完全に無視し、咲夜は続けた。

 

「次に準備するのは媚薬ね。品質は問わないけど、できれば永琳製のものが望ましい。効果が段違いだもの」

「ふむふむ、媚薬ですか」

 

 あの頭のネジが一本残らず粉砕している宇宙人製媚薬なんて飲まされた日には、雪走のヤツ腹上死してしまうんじゃないか? 性欲と恋愛脳は幻想郷一だろうけど、想定外を地で行く永遠亭組にかかれば一瞬で空っ欠にされてしまいそうだ。……何が空になるって? 乙女にそんな事聞くもんじゃないぜ。

 しかしそもそも、永琳の媚薬なんてそう簡単に手はいるもんじゃなかろうに。

 

「そういえばこの前『旦那さんに試してみれば?』とかで永琳に手渡された媚薬があったわね」

 

 そう言って霊夢が懐から無造作に取り出したのは、桃色の液体がみっちり詰められた小瓶だ。表面には【気になる相手もこれでイチコロ☆ 永琳製媚薬!】とでかでかと書かれている。

 

『…………!』

「最初は半信半疑だったんだけど、実験台(鈴仙)に使ってみたら効果覿面でさぁ。でも流石に人間に使うのはやりすぎだろうってことで封印していたんだけど……咲夜の作戦的にはこれが必要らしいから、さっそく神社に帰って飲ませてみるわ」

『待ちなさい』

「は?」

 

 小瓶片手にウキウキと部屋を出ようとする霊夢の服が、両隣から掴まれた。言わずもがな、早苗と咲夜である。日頃から清楚、瀟洒、美麗として有名な二人が、なんだかとても『イッた』目で霊夢に語りかける。

 

「れ、霊夢さん。ちょっとその薬私にくれませんか?」

「はぁ? なんでよ、必要ないでしょアンタには」

「いえいえ、ソレはファンクラブの活動に必要不可欠なんですよ。【雪走威を愛でる会】としてはぜひともその媚薬を手に入れておく必要がありまして」

「あら奇遇ね守矢の巫女。私も良夜との交渉を円滑に進めるためにはその媚薬が必要なの。け、決して個人的に使おうってことじゃないわよ? 美鈴や妹様を出し抜こうとか、そういうことじゃないのよ?」

「ここまで欲望丸出しな女達も珍しいな……」

 

 あまりにも思考が黒すぎやしないか、この二人。サブヒロイン臭がプンプンする。これはどう考えても失敗するフラグだろう。

 そして早苗。お前さっき霊夢に行動を規制されたはずじゃなかったか。神聖なる現人神がこんなところまで落ちぶれちゃ、守矢の二柱もさぞ悲しむことだろう。正確にはご先祖様の諏訪子が猛烈に落胆する恐れ大だ。祟り神が落ち込むとかマジでシャレにならないんで勘弁してほしいんだが。

 

「はっ! これが欲しけりゃ力づくで奪い取ることね負け犬共!」

「い、言いましたね!? 言ってはならないことを、言いましたね!?」

「早苗は右から攻めて。私は時間を止めて薬を奪い取る!」

「時間止める前に封印してやるわよっ。霊符・【夢想封印】!」

「……失礼しましたぁー」

 

 実力者三人が衝突を始め、力の奔流に飲み込まれる前にそそくさと退出。幸い媚薬の事で頭がいっぱいで、私の事には気づいていないようだ。今日はこのままご帰宅させてもらうとしよう。

 箒片手に赤絨毯を踏みしめ、玄関へと向かう。いつまでもこんな物騒な館に居座ることはない。さっさと帰って香霖のところで飯でもたかろう。

 

「あれ、魔理沙じゃない。今日はどうしたのぉ?」

 

 不意に声をかけられ振り向くと、後ろにいたのは金髪の女の子。レミリアと似たデザインのナイトキャップを被り、宝石がぶら下がった綺麗な羽を持つコイツの名前はフランドール=スカーレット。その姓から分かる通り、紅魔館主様の妹君である。

 ちょっと気が触れているとか情緒不安定とかいろいろ言われる可哀想な吸血鬼は、相変わらずの無邪気な笑みで私の方へと駆け寄ってくる。

 

「あぁ、フランか。まだ昼間なのに珍しいな」

「今日は目が冴えちゃってよく眠れなかったの。だから今は眠たくなるまでお散歩してるんだ♪」

「ふぅ~ん……あ、そういやさフラン」

「なぁにぃ?」

 

 私の箒をいじって遊んでいるフランは、くりくりした丸っこい瞳で私を見上げる。

 さて、私としてはあの馬鹿三人がどうなっても構わないが、こんなつまらんことに巻き込まれた制裁を加えてやらねばならない。まぁ八つ当たりみたいなもんだと思ってもらえれば幸いだ。

 だから私は一石を投じる。面白さに拍車がかかるように、ハプニングを製造する。

 

「そこの部屋で霊夢達が弾幕ごっこやってんだ。でも三人だから人数が中途半端らしい」

「弾幕ごっこ!? ほんっとぉ!? やったぁすぐに混ざってくるよ!」

「おー、気を付けてなー」

 

 殺さないまでも、永遠亭送りにしてくれればあいつらの頭も冷めるだろう。直接被害を受ける男二人のためにも、痛い目を見ておいた方がいい。

 

「私も案外お節介だな」

 

 だけど私としては、恋する乙女は助言なんて受けずに全力で突っ走ってほしいと思っている。だって恋に正攻法なんてないのだし、当たって砕けろ精神こそ至上だと考えている。

 というわけだから、今回ばかりは反省しろよお前達。

 

『フランもあっそぶ~!』

『げっ、アンタなんでこんな時間に……』

『魔理沙に教えてもらったよ? 楽しそうじゃん一緒に遊ぼー!』

『い、妹様! レーヴァティンは勘弁……』

『ま……魔理沙さぁああああああああああああん!!』

 

 何やら断末魔の叫びと破壊音が届いてくるが、気にしない。懐の深い女だな私も。

 館を出て、箒に跨り飛翔する。目指すは香霖堂、目的は昼飯だ。

 

 今日も幻想郷は、真に平和である。

 

 




 次回もお楽しみに♪

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