ダンガンロンパ・H&D ~絶望だよ、全員集合!~   作:名もなきA・弐

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 後編です。さぁ、皆様の推理は当たっていたでしょうか?
 それでは、どうぞ。


非日常編 「学級裁判1(後編)」

学級裁判(CLASSROOM TRIALS) 再開!≫

「そういう、ことでしたか……」

 

私の呟きに、最初に気づいたのは松成君だった。

彼は私の方を振り向くと何かに気づいたのか口を開いた。

 

「どうかしたの?貝原さん」

「分かったんです、犯人が…」

「えっ、えぇっ!!?そ、それってトワリン…」

「待って」

 

私の宣言にエミリさんが慌てるが、それを止めたのは二ノ瀬さんだ。

あくまでも冷静に彼女は私に話しかける。

 

「永久ちゃん。本当に犯人が分かったの?」

「はい。でも、まだ漠然となんです…正直に言って、自分の推理が合っているかどうかも分かりません。間違っていたり矛盾があったのなら遠慮なく反論してください」

 

「良いですね」と私は全員に念を押すと、首を縦に頷かせた。

そして、私はゆっくりと息を吸い込んだ。

 

「まず、私が疑問に持ったのは…どうして犯人が薬を盛って私たちを眠らせたかです」

「それってー。本庄君を自殺に見せかけるためじゃないのー?」

「いえ、もし自殺に見せかけるためだけだったとしたら、あんなオレンジジュースを使う必要はありません…坂本君の言葉で更に疑問を覚えました」

 

「俺の?」と疑問符を浮かべる彼を横目に私は頷いて推理を続ける。

 

「自殺に見せかけるためなら、遺書を用意なりすれば良かったんです…シアタールームじゃなくても彼の自室で首吊りにするなり方法があったはずです」

「じゃあ…どうしてですかぁ?」

「犯人は本庄君を確実に狙うために、私たちに睡眠薬を盛ったんです。そして、それは犯人を指し示しているんです」

「続けてくれないかな、貝原さん」

「まず犯人は身長がある人間、この時点で亡くなった本庄君と清浄さん…不本意ですが私は除外されます。そして、本庄君が左利きであることを知らない人間…ここで松成君と利き手について知っていたエミリさんが除外されます」

「でも、それだけじゃ犯人は絞り込めないわ」

 

二ノ瀬さんの言葉に、私はゆっくりと首を横に振る。

 

「確かに…これだけじゃ犯人を絞り込むのは不可能です。だから考え方を変えました、『どうやって誰からも怪しまれずに倉庫に行けるのか』です」

「…確かに、倉庫に行く理由なんてアタシたちにはないし薬を持って行くにせよ怪しまれる可能性が高いわね」

「つまり、船内を自由に歩き回って調査していても怪しまれない人間…」

 

そして、私はゆっくりと沈黙している『犯人』を指した。

 

「犯人はあなたです。一関君」

「……」

 

私の言葉に、一関来羽君はただ黙ってこっちを見つめている。

全員が沈黙する中、桐生君が口を開いた。

 

「貝原、犯人を見つけたい気持ちは分かるが少し飛躍しすぎじゃないか?」

「…桐生の言う通りだ。貝原、さっきの君の推理で俺を示すのはとんだお門違いだ…睡眠薬を持って歩くことが出来たのは海原や神楽阪姉妹、細井や桐生にだって犯行は可能だ。特に桐生は俺と共に見回りをしていた。俺が薬を用意した証拠はない」

 

「第一」と彼は説明を続ける。

 

「君は犯人が本庄を意図的に狙ったと言ったな。だがそれはなぜだ?薬を盛ったことと何の関係がある」

「犯人が本庄君を狙った理由、そして薬を盛った理由は簡単です。あなたが自分のアリバイを作るためだったんです」

「アリバイだってっ!!?」

 

その発言に驚いた声をあげる綾崎君の他にも、私の話を聞いていた全員が驚愕の表情を見せている。

それに反論したのは一条君だ。

 

「ネジでも外れたのか?今の話からどうやってアリバイの話になるんだよ」

「ごもっともです。その前に確認したいことがあります、モノクマ」

『ほへ?』

「電子生徒手帳に『モニター及び設備の破壊を禁じる』とありますが、この破壊に定義はありますか?」

『もちろん!その名の通り、設備を破壊することだよ。部屋の備品を模擬刀で破壊したり、モニターを何とかフィンガーで粉々にしたり、とにかく原型なく破損していたら違反対象だよ!!』

「ありがとうございます」

 

そっけなくお礼の言葉を言った私は、説明を続ける。

 

「さっきのモノクマの言葉ですが、要約すると物を破壊することは駄目だということです」

「それがどうした」

「それはつまり、裏を返せば『破壊さえしなければ好きにして良い』ということです」

 

私はエミリさんに、視線を向ける。

 

「エミリさん。確か放送室には毎日七時と十時に録音したアナウンスと電子生徒手帳の時間がプログラムされている機材がありましたよね?」

「う、うん…説明書もあった」

「それと、昨日あなたが放送室にいた時…一関君と会って別れたんですよね」

「うん。間違いないよ」

 

これで確信が持てた。

私は改めて一関君を見る。

 

「決まりですね。犯人が訪れた理由、それは放送室でアリバイ工作の準備をすることだったんです」

「放送室だと?そんな場所で何をどうするんだ、まさか録音でもしたと?あんな場所でアリバイを偽装することなど絶対に不可能だ」

「それは違います!」

 

鼻で笑う一関君の言葉を私は論破する、ここで退いたら犯人の思うツボだ。

だからこそ、私ははっきりと彼を見据える。

 

「録音なんてする必要はありませんよ。あなたがしたのは機材を弄ることだったんですから」

「んんっ?それは一体どういうことですか、貝原さん?」

「つまり、犯人は放送室で電子生徒手帳の時間とアナウンスの時間をずらしたんです!!」

 

私の言葉に全員が絶句する中、一関君の顔色が変わった。

「ぐぎっ!」と詰まったような声を出す彼より先に一条君が口を開く。

 

「待て待て待てっ!!発想の飛躍じゃねぇかっ!第一、そんな重要なプラグラムを弄ったらそれこそ違反行為だろうがっ!!」

「いいえっ、モノクマは私にこう言いました。『素人が勝手に触ったら困る』って、機材を弄るなとは一言も言われておりませんっ!!あの部屋に説明書があったのがそれの証明ですっ!!」

『うぷぷ…ボクは生徒の自主性を重んじているからね。もしプログラムを事故で弄ってしまった場合、自己責任としてボクお手製の説明書で直してもらうのです!!』

 

悪意ある笑いと共にモノクマの発言が更に一関君の顔色を蒼くさせる。

そんな彼に無情にも私の言葉は弾丸のように放つ。

 

「これで、犯人が薬を盛った理由も説明がつきます。本庄君を自殺に見せかけるためでも、目撃者を減らすためでもない、時間通りに起こさせないために薬を盛ったんです!!」

 

力強いその発言に全員が一関君に疑惑の視線を向ける中、彼はずり落ちた眼鏡を上げながら焦った様子で口を開く。

 

「ま、待てっ!仮に時間をずらしていたとしてだっ!!それでどうやってアリバイを作るつもりだ!!何時間ずらされていたことなど証明することなど不可能だ!」

「それなら、本庄クンの死亡時刻と照らし合わせれば良いんじゃないかな?彼が殺害されたのは今朝の7:10過ぎ。犯人が確固たるアリバイを手に入れるためにはボクたちが起きる時間でなければならない」

「殺害から証拠隠滅とレストランに到着するまでは五分掛かるとして…時間が進めていたのだとしたら少なくとも二十分もあれば可能よ」

 

私の推理を補強するように、松成君と二ノ瀬さんが遅れた時間を提示する。

絶句する一関君だが、それでも否定しようと反論する。

 

「それがどうしたっ!だ、大体っ、アナウンスがずれていたのなら本庄だって気づくだろっ!!」

「あぁっ、確かに!本庄君はシアタールームで殺害されたってことは、彼は自らの脚で現場に足を踏み入れたことになります、つまり薬を盛られていなかった!それでしたらアナウンスにも気づくはずですよ!」

「そうなのかなー?聞こえなかったのかもしれないよー」

「それに賛成です」

 

彼の発言に、舞耶さんや細井さんが喋る中、私は彼女の言葉を肯定する。

全員が目を見開く中、私はゆっくりと口を開く。

 

「本庄君は毎日、シアタールームで映画を観るんです。現場のスクリーンに映っていた映画はホラー映画でした」

「大体の映画は一時間半。そうなると、因幡君は六時に起きていたことになるわ」

「それに本庄クンは映画好きだったよね。映画に夢中になっていたとしたらアナウンスのことも気づかないはずだ」

「好きなことに熱中してると、あんまり気にならなくなるしなぁ」

 

二ノ瀬さんたちや坂本君が話しながらも、それでも一関君は叫ぶ。

冷や汗をかき、優等生らしい端正な顔立ちが憤怒に染まっている。

 

「ふ、ふざけるなぁっ!!…そ、そうだっ!返り血は、返り血はどうするっ!!?本庄の周辺は大量の血痕があったのだろう!?犯人も血まみれだったはずだ!!」

「いいえっ、倉庫から暗幕が一つなくなっていました。シーツならともかく、薄暗いシアタールームなら姿を隠せることも可能です!」

 

そこで一拍置くと、私は風穴の空いた彼の計画に止めを指した。

 

「これで決まりです。船内を調査していた犯人は放送室でアナウンスと時間を進めた後、倉庫から薬とナイフ、そして暗幕を手に入れてオレンジジュースの中に自分の分と本庄君の分を除いた全てに盛った。そして翌日、いつものように起きた本庄君がシアタールームに入って映画を観る…暗幕で全身を包んで予め潜んでいた犯人は本庄君を殺害した。犯行を終えた犯人は全ての証拠を隠滅した後、レストランに入って確固たるアリバイを作った……それが出来たのは、私たちのリーダーとして活動していた『超高校級の優等生 一関来羽』君!あなただけです!!」

 

私の推理に、一関君はただ黙っただけだ。

全員が困惑と疑惑の混じった視線を彼に向ける中、彼はゆっくりと顔を上げた。

 

「マイナスだ」

「えっ?」

「マイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナス…」

「お、おい…一関?」

 

無表情で同じ言葉を延々と呟く彼に、桐生君は唖然とし清浄さんや細井さんは恐怖の感情を見せる。

やがて、坂本君が彼の名を呼んだ時だった。

 

「マイナスに決まってるだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?先ほどから何だそのふざけた空想はあああああああああああああああっっ!!!君はとんだ愚か者だな、貝原っ!!それに他の連中もだっ、こんな根拠も何もない戯言に何を親身になって聞いているっ!?」

 

一関君の叫びは長く続く。

 

「二ノ瀬と松成の言葉に何の価値があるっ!何が時間とアナウンスを進めただっ、何が暗幕を使って返り血を防いだだっ!そんなものは机上の空論だっ!でっち上げだっ、真犯人の仕掛けた罠だっ!!そうだ罠だ、ミスディレクションだっ!!そんな計画に翻弄されるほどお前たちはおつむが悪いのかっ!?そうじゃないだろうっ!!さぁ、探すぞっ!!憎き真犯人を探すべきだっ!!!」

 

顔を真っ赤にして怒声を張り上げながら、彼は凄まじいスピードで自分が犯人ではないことを必死に叫ぶ。

マシンガンのように言葉を四方八方に飛ばす一関君は、私の方を血走った眼で睨んだ。

 

「貝原ぁっ!!良いかっ!君の言った言葉に強さなどない!証拠などない!」

「ですが、状況証拠はあなたが犯人であることを指しています」

「何処がだっ!?ナイフに指紋でも残っていたかっ!?機材を弄られた根拠でもあったかっ!?ないないないないないない、何もないっ!!」

「ありますよ。あなたが忘れている決定的証拠がねっ」

 

証拠も何もないその叫びを私は冷静に言葉を返す。

パニックになっている今の彼に必要なのは感情的な言葉でも落ち着かせることでもない。

こっちで武装した理論を、決定的証拠をクロである彼にぶつけるだけだ。

 

「何が証拠だっ!そんな物何処にもない!それは必死に捜査をしていた君が良く分かっているだろうっ!!」

「えぇっ、そうですね。あなたは優等生です、自分が不利になる物は一切残していない。だから遺書も書かなかったのでしょう?少しでも証拠を残してはならないと、この事件を計画した」

「ははははははっ!!そうだ、自分で言うのも何だが優等生だっ!俺を褒めて自白でもさせようとしたのかっ!?不可能だっ、だって俺は犯人ではないのだからっ!!」

 

もう少しだ、『彼』の言った言葉が、決定的証拠…私が撃つべきコトダマになる。

今は、待つだけだ。

 

「焼却炉が燃えていましたよね?犯人が燃やしたのだと思いますが、何を燃やしたと思いますっ!?」

「そんなの知るわけないだろっ!俺は犯人じゃないからなっ!!」

「犯人が処分したんです。だって、犯人はあの焼却室を使って証拠を燃やしたんですから、きっと暗幕もあそこで燃やしたんでしょう!!」

「そうだな!だったらどうしたっ!?犯人が証拠を処分した、それは単純だ!!なぜなら、犯人は全ての証拠品を処分したのだからなっ!!」

「これで、証明しますっ!!」

 

 

 

 

 

「焼却室の閉鎖時間は、午後の十時から午前七時半までです。そう教えてくれましたよね、一関君」

「だったらどうした!!」

「焼却炉が点けっ放しだった理由は、犯人が焦って突っ込んだからです。しかし、そうなるとある矛盾が生じます」

「……証拠の隠滅が出来ないどころか、焼却室が開いていませんね」

 

私の言葉に、麻衣華さんが口を開く。

それに対して私は言葉を紡いだ。

 

「えぇっ、犯人もそれは分かっていた。だから、鍵を無理やりこじ開けることにしたんです…自室にあったピッキングツールを使ってね」

「なな、な、なぁっ!!?」

「えっと、そんなのありましたかぁ?」

 

動揺する一関君を余所に、清浄さんがみんなに尋ねる。

 

「女子の場合は裁縫セットですが、男子の自室には必ずあるそうなんです」

「うん、ぼくもマッちゃんから聞いたよ」

「一関君、自分が犯人ではないのなら自室にあるピッキングツールを私たちに見せてくれませんか?もし私の考えが正しいのだとしたら……あなたのピッキングツールには使用した形跡があるはずですっ!!」

 

私の力強い指摘に、一関君は増々顔を蒼くして絶句させた。

それは、私の推理が正しいことの証明だった。

 

「来羽君、見せてくれないかしら。もし使ったのだとしたら、いつ何処で使ったのか教えてくれない?」

「念のために言っておくけど…」

 

二ノ瀬さんの言葉に連なるように松成君ははっきりと彼の顔を見据えて止めの一言を言い放った。

 

「『失くした』って言い訳は…なしだよ」

「あっ、あぁ……」

 

それが引き金となったのか、一関君は何も言うことが出来ずに顔を真っ青にしたまま何も言えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

『うぷぷぷ…議論の結論が出たみたいですね』

 

議論を笑いながら、見守っていたモノクマが粘着質な声で喋り出した。

松成君や私が睨む中でモノクマは気にせず言葉を続ける。

 

『ではそろそろ投票タイムといきましょうか!オマエラ、証言台のタッチパネルで投票してください!あ、念のために言っておくけど、必ず誰かに投票するようにしてくださいねっ!』

 

宣言した瞬間、私や他の人たちの証言台のタッチパネルからドット絵になっているみんなの顔が映し出される。

…これにタッチしろと言うことなのだろう。

私は、どうすることも出来ずに……一関君の顔を模したドットのマークをタッチした。

 

『投票の結果、クロとなるのは誰か!?その答えは…正解なのか不正解なのかーーっ!?』

 

モノクマの掛け声と共に、奴の真上にある巨大モニターに金色のスロットマシンが映し出された。

スロットにはスイッチと同じドットを模したみんなの顔が描かれており、その上には大きな「VOTE」というモノクマ付きのネオンが光っている。

スロットがグルグル、と回るとやがてゆっくりと速度を落としていき、左から順番に同じ顔で止まった。

そして三つ全てが止まって絵柄が揃ったと同時に、「GUILTY」の文字が点滅しながら、スロットマシンからはコインが溢れ、紙吹雪が舞い、拍手喝采の音声が流れる。

『超高校級の優等生 一関来羽』は揃った自分のドット絵を見ることもせず、ただ黙って頭を抱えていた。

 

 

学級裁判(CLASSROOM TRIALS) 閉廷!≫ 




 学級裁判はこれで終了です。次回はクロの動機とおしおきになります、皆様が絶望してくださることを心から祈ります。
 ではでは。ノシ

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