ダンガンロンパ・H&D ~絶望だよ、全員集合!~   作:名もなきA・弐

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 皆様、学級裁判のお時間です。誰が犯人なのか考えながら、彼らの裁判を拝見していってください。
 それでは、どうぞ。


非日常編 「学級裁判1(前編)」

学級裁判(CLASSROOM TRIALS) 開廷!≫ 

『まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう!学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘できれば、クロだけがおしおき。だけど…もし間違った人物をクロとした場合は…クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが晴れてナーサリーライム号から脱出する権利が、与えられます!』

「…長々とご説明ありがとう、早速聞きたいことがあるのだけど……あれは、どういうつもり?」

 

玉座に座って語るモノクマの説明に、二ノ瀬さんは腕を組みながらある証言台に目を向ける。

そこには本庄君の遺影が木の棒で飾られており、赤い塗料で×の字が書かれていた。

彼女の問いにモノクマは小首を傾げながら答える。

 

『あれれ?本庄クンは仲間なんでしょ?仲間外れなんかにしちゃったら、可哀想でしょ?」

「最悪だな」

「それとー、どうして十六も席があるのー?私たちは十五人しかいないんだよー」

 

死者の冒涜と呼ぶに相応しいモノクマの所業に坂本君は露骨に嫌悪感を露わにするが、今度は細井さんが挙手をする。

確かに、彼女の言う通りだ…正面の人と向き合えているのは証言台が十六個あるということだ。

 

『だって、奇数分だとバランスが悪いでしょ?偶数分あったらバランス良く出来た…ただそれだけだよ』

「シュコー…ただの美的感覚ってことか」

 

海原君が憮然とした表情で呟く中、松成君が口を開いた。

 

「あいつのことはこの際無視しよう。今は真相を暴くことが重要だ」

「で、でも…どう話せば良いのですかぁ」

「ではでは!ここはじゃんけんで決めませんか!」

「アホかっ!小学校の学活じゃねぇんだよっ!!」

 

清浄さんの言葉に、舞耶さんは挙手をして自分の提案を口にするが一条君がそれにツッコミを入れると一関君が咳払いをする。

 

「まずは事件の概要を確認しよう。誰が、何処で、どんな状況だったのかをもう一度確かめれば分かるかもしれない…始めるぞ」

 

その言葉と同時に、一関君はモノクマファイルを確認しながら口を開いた。

 

「被害者は『超高校級の幸運』の本庄因幡、現場はシアタールーム」

「館内には映画のラストシーンが映っていたな」

「それと、確か真ん中の座席に座っていたよな」

 

桐生君と坂本君が続けて発言すると、今度は舞耶さんが口を開く。

 

「モノクマファイルだと、死因は確か刃物による失血死…でしたよね!」

「分かった!きっと犯人は厨房から包丁を抜き取って、イナバンを刺したんだっ!!」

「それは違います!」

 

エミリさんが手を叩いて、合点が行ったように力強く発言したその言葉を私は否定する。

彼女の推理は違う、それは私が捜査したことでも証明出来る。

論破したことで集まったみんなの視線に、少しだけ深く息を吸うと私は口を開く。

 

「犯人が使った凶器は、厨房にあった包丁じゃなかったんです」

「どゆこと?」

「本庄君の腹部に刺さっていたのはナイフです、犯人は倉庫にあるナイフを使って彼を襲ったんです」

「僕も見たよ、倉庫を調べていた時に見つけた」

 

綾崎君が私の発言に同意すると、麻衣華さんはモノクマのような趣味の悪いナイフを掲げる。

突然凶器を出したことにみんなは驚きながらも、全員がナイフを見つめる。

 

「なるほど、じゃあ犯人はこのナイフでイナバンを刺したってことだね」

「だが、致命傷は本当にナイフなのか?犯人の偽装工作って線はないのか」

「いえっ、清浄さんの検死ではあれで間違いないようです。そうですよね?」

「は、はいぃ。念のため傷口も確認したので、凶器は腹部に刺さっていたナイフで確定ですぅ」

 

全員の視線に困惑しながらも、清浄さんははっきりと断言する。

そうなると、本庄君は倉庫に会ったナイフを使ってシアタールームで殺されたことが分かった。

しかし、そこで待ったをかけたのは二ノ瀬さんだ。

 

「ねぇ、本当に因幡君はシアタールームで殺されたのかしら?」

「どういうことー、香ちゃん?」

「犯人と因幡君は別の現場…例えば倉庫で口論になって刺してしまったとかも考えられるんじゃない?」

「どうだろうね、本庄クンの周囲には大量の血痕があった。別の場所で殺したのなら何らかの痕跡があるだろうし、あの血痕の説明がつかない」

 

彼女の意見も一理あるが、それを松成君が否定する。

何処かで本庄君が襲われたのなら、隠滅したにせよ何にせよ証拠があるはずだ…それに輸血パックがあるならともかく、それが存在しないこの船内ではそういった方法は不可能だ。

一先ず事件現場と凶器、死因が分かり次に挙手をしたのは海原君だ。

 

「シュコー…そこで一つ気になったことがあるんだが良いか?」

「どうしました海原君?スリーサイズの話は後にしていただけると…」

「そうじゃない、この事件が突発性なのか計画性なのかだ」

 

彼の言葉に全員が疑問符を浮かべる中、一条君が納得したように口を開く。

 

「なるほどな。こんな状況じゃ護身用でナイフを持っていてもおかしくはねぇ…もしかしたら犯人は本庄に殺されそうになったから反撃したって可能性もあるな」

「てめぇっ!!本庄が殺人犯だって言いたいのかよっ!」

「だが、それを証明する方法がねぇんじゃそういったこともあんだろ」

「それは違います」

 

一条君の言葉を論破すると、彼は苛ついたように私を睨みつける。

 

「何だ、てめぇも本庄が優しいからって仲良しこよしな理由で反論すんのか?」

「いえっ、この事件は計画的ですよ…だって、本庄君の服装は異常がなかったんです」

「うん。もし犯人が護身用のナイフを衝動的に振り回したのだとしたら、それ相応の抵抗をすると思う。その逆も同じ、本庄クンがナイフを持っていたとしたらどちらにしたって激しく抵抗した痕跡があるはずだ」

 

「それに」と松成は言葉を続ける。

 

「みんな、今朝は体調が悪かったよね?ボクは犯人に薬を盛られたんじゃないかと考えてる」

 

その言葉に、私や麻衣華さんや舞耶さんを除く全員が言葉を失った。

それに対して鼻を鳴らした一条君が反論する。

 

「全然駄目だぜ、睡眠薬は調べて見つからなかったんだろ?代わりになる物なんてあったかよ?」

「…風邪薬」

「あっ?」

「風邪薬ですよ!二つあった薬の内、一つが副作用で睡眠効果があったんです!」

 

急な私の言葉に、全員が驚きながらも一関君が代表するように問い掛ける。

 

「貝原、つまりこういうことか?俺たちはその風邪薬で眠らされたってことか?」

「はい、恐らくは昨夜の夕食の時に。それなら納得も…」

「その推理は埃塗れです!!」

 

私が説明するよりも先に、麻衣華さんが大きな声で遮るように反論する。

そんな彼女に清浄さんが驚いた表情で尋ねる。

 

「あの…どうしたんですかぁ?」

「貝原ちゃんの推理は一見、的を射てるようですが根本的な部分があやふやです。私がそれを証明してあげます!」

「きゃー、姉さんカッコ良いー!!」

 

フリルを靡かせてドヤ顔で私に人差し指を向ける麻衣華さんに、双子の妹である舞耶さんは「ヒューヒュー!」とテンションを上げる。

麻衣華さんが口を開いた。

 

「さきほどの推理では、料理に一服盛ったと考えているようですが私は綾崎君と調理をしていたのですよ?誰かが手伝ったならともかく、私たちの目を欺いて一服盛るなんて不可能ですっ!!」

「いやっ、二人の内どちらかが犯人の可能性も…」

「甘ぁーーーーいっ!!甘々ですよ、坂本君!そんなことをしたら私たちが疑われるに決まっているじゃないですか!薬を盛った具体方法がない以上、料理に盛られた可能性は絶対ありえません!!」

「その言葉、斬って見せます!!」

 

私の力強い言葉に、麻衣華さんは一瞬だけ面食らった表情を見せるがすぐにいつもの笑みを浮かべる。

 

「ほほう?言い切りましたね、でしたら教えてくださいな。どの料理に、どのような方法で盛ったのかを」

「確かに、料理に薬を盛るのは難しいでしょう…でも、オレンジジュースに薬を入れることは難しくないと思います」

「…っ、あの時のジュースですか」

「紅茶やお茶ならともかく、濃い味のするオレンジジュースなら毒見をしても味の差異には気づかない」

 

「どうですか?」と視線で訴える私に、麻衣華さんはしばらく沈黙していたがやがてゆっくりと息を吐いた。

事情を知らないメンバーが首を傾げる中、私は全員に聞かせるように自分の推理を口にする。

 

「昨夜、私たちが飲んだオレンジジュースは綾崎君たちが淹れてくれた物ではなかったんです。きっと、犯人が予め準備していたんでしょう」

「確かにそれなら納得がいくわね。確か、あの薬はもう一つの薬と合わせると効果が打ち消せるのでしょ?仮に失敗したとしても食事の後に服用すれば良いだけだしね」

 

二ノ瀬さんのその言葉に全員が納得したような雰囲気があったが、私自身は何処か釈然としていなかった。

しかし、どう説明すれば良いのかも分からないまま議論は次へ進んで行こうとした時だった。

 

「なぁ、ちょっと良いだろうか?」

 

ふと、口を開いたのは一関君だ。

視線が彼へと集まる中、少しだけ逡巡していたが意を決したように顔を上げると口を開いた。

 

「この事件に、犯人がいるのだろうか?」

「んぁっ?どういうことイッちゃん」

「全員に盛られた薬に、現場のシアタールーム。後で俺も清浄に聞いたのだが、ナイフは逆手で握られていたんだろう?だったら話は一つしかない……」

 

遠回しな言い方をする一関君に、困惑する中…私は彼の言いたいことが分かった。

いや、分かってしまったのだ。

 

「……本庄君は、殺されたのではなく『自殺』。一関君はそう言いたいのですね」

「…そうだ。それなら全て納得することが出来る」

「おいおい待てよっ!何でそうなるんだよ!本庄が自殺、バカなこと言うなっ!!」

 

それに敏感に反応したのは坂本君だ、彼は証言台を叩きながら私たちの考えを一蹴しようと勢いのまま口を開く。

 

「本庄は確かに気が弱いけどよ、自殺なんかするわけがねぇっ!!」

「その根拠はあんのかよ」

「それは……!でも、本庄には自殺する理由がねぇだろっ!?」

「だけど、因幡君の肩書きは幸運…もしかしたらアタシたちの知らないところで抱え込んでいたのかもしれないわ」

「でもー。どうして私たちに薬をー?」

 

一条君の言葉に詰まらせながらも、坂本君は本庄君の自殺説を否定しようとする。

髪を掻き上げた二ノ瀬さんは少し目線を落としながら一人ごち、細井さんが悲しい表情で喋る。

 

「ひ、ひょっとして…私たちに迷惑を掛けないために眠らせたんじゃぁ」

「……たくよ、幸運なら自分に自信ぐらい持てよ」

「ふざけんなっ!遺書はっ!?そうだ、遺書はあったのかよ!自殺した証拠だってないじゃねぇかっ!!」

「だが…本庄が殺害された根拠もない」

「それに、シアタールームの扉には電子生徒手帳でロックしていました。本庄君は私たちが眠っている間、現場に入ってロックした後…一人で大好きな映画を観ながらナイフを突き立てた」

 

清浄さんと一条君の言葉に坂本君は大声を張り上げるが、桐生君が無情にも事実を口にする。

最後の私の推理で坂本君は完全に沈黙してしまった。

全員が全員、沈黙する…本庄因幡君は、この監禁状態に耐え切れず、動機が決め手となって……ひっそりと自ら命を絶った。

それが真じ…。

 

 

 

 

 

「それは違うよ」

 

静まり返った裁判場に響き渡った中性的な声は、はっきりと否定の言葉を口にした。

全員が驚いて顔を上げる中、声の主…松成セイ君は右手で顎を抑えながらも真っ直ぐと視線を私に向けていた。

 

「ねぇ、貝原さん。ボクと本庄クンがぶつかった時の状態をもう一度思い出して」

「えっと……」

 

彼の言葉に、全員が視線を向ける。

突然の指名に困惑しながらも私は必死に現場の状況を思い返してみる。

あの時は二人が曲がり角でぶつかって、確か本庄君は身を守るように左手をやや前にしながらガードしていた。

 

「次は、本庄クンが死んでいた時の状況と照らし合わせてみて」

 

確か、座席に座っていた本庄君の腹部にナイフが刺さっていて…彼の両手で柄を持っていて、右手が下で左手が上に……あれ?

 

「利き手が違う…?」

「利き手だと、本庄は右利きだろう…シュコー」

「いいやっ、本庄クンは左利きだよ」

 

はっきりと断言した松成君に援護射撃をするように私は口を開く。

 

「そうです、二人が曲がり角でぶつかったのを見たのですが…あの時本庄君は左手を前に出していたんです」

「でもー、食事の時は右手でお箸を持っていたよー?」

「多分矯正したんだろうね。食事や物を書く時は右手を使うけど、それ以外…例えば物を持つ時は左手を使っていたんだろうね」

「だが…それが何なんだ?」

 

頭に手を当てながら桐生君は疲れたように質問をぶつける。

 

「本庄君は物を持つ時は左手だった…でも、彼は右手でナイフを持っていた。これから自殺する人間が利き手じゃない方でナイフを持ちますか?」

「ち、ちょっと待ってくださいぃっ!!」

 

私の言葉を止めたのは清浄さんだ、目線をあちこちに泳がせながらも彼女は自分の意見を述べる。

 

「た、確かに本庄さんは右手でナイフを握ってました…その、本庄さんの自殺説を肯定するわけじゃありませんけど……でも、咄嗟のことだから左手を前に出したんじゃ」

「それはちょっと無理じゃねぇか?むしろ反射的に行動するから利き手を前に出すんだろ」

「確かにな…俺が喧嘩した奴も防御する時は利き手の方で防いでいた」

「マイナスだ」

 

彼女の言葉に、反論したのは坂本君と桐生君だ…特に超高校級の喧嘩師である彼の言葉は恐ろしかったがかなり重要だった。

それに対して、一関君が顔を上げて反論する。

 

「それなら、薬はどう説明する?倉庫には誰にだって行けるから、本庄が自殺じゃないにせよ薬を盛ってない証拠にはならない」

「そう?自殺じゃないのなら因幡君が薬を盛った理由が分からないわよ」

「今回ばかりは同感だな。それにあんなチビな奴が薬を自由に持ち運べたのかも疑問だしな」

「それに賛成します!」

 

二ノ瀬さんに続けて発言した一条君の言葉に私は賛同する。

一条君が「何だよ」と私を睨むが、気にせず自分で組み立てた推理を展開する。

 

「一条君の言う通りです。本庄君が薬を持ち運ぶことは不可能だったんですよ、だって……彼は身長が低かったんですから」

「…そうかっ!本庄は俺たちの中じゃ背が低いっ!!薬が高いところにあったら取ることは不可能だっ!」

「ですが、踏み台を使ったら良いのでは?」

「それはないと思う。捜査の時に舞耶さんと調べたけど薬は坂本君が言った通り本庄君が取るには難しい場所にあったし、踏み台らしき物体もなかった。それに、段ボールを踏み台にしたような形跡もなかった」

 

私の言葉に続くように、坂本君が納得する中、麻衣華さんは小首を傾げて冷静な意見を口にするが綾崎君がそれを否定する。

倉庫は私も調べたが踏み台らしき物体はなかった上に捜査では段ボールを踏み台代わりにした痕跡もなかった……薬だって海原君や綾崎君で届く場所にあったのだ。

小柄な本庄君では踏み台を使わずに薬を手に取ることなど不可能だ。

 

「これで分かって来たね、本庄クンは自殺でも何でもなく…真犯人の手によって計画的に殺されたんだ」

「結局、それが結論なのね。私はてっきり洗脳映画を観た因幡君が自分で自殺したっていう最悪の可能性を考えていたけど…」

「どんな可能性っ!?」

『あぁ、そうそう。洗脳映画もとい絶望ビデオは実在するけど、この船では使用してないよ?だって……そんなことしなくても、ボクはオマエラが勝手に絶望してくれるって信じてるからね!!』

「最悪の理由ですね」

 

松成君の言葉に、議論が進んだことで安堵した二ノ瀬さんに坂本君がツッコミを入れるとモノクマが蛇足をする。

そんなぬいぐるみに毒づきながらも、私は考える。

本庄君が自殺じゃないことは分かった……だが私には疑問に残っている部分があった。

どうして犯人は私たちに睡眠薬を盛ったのか、それになぜ偽の遺書を書かなかったのかも気になる。

理由があるはずだ、睡眠薬を使うことへのはっきりとした理由が……。

必死に思考を回転させていた時、ふとある出来事が思い浮かんだ。

それを軸に考えた途端、今まで靄が掛かっていたような事件の真相がはっきりと浮かび上がってくると、私がすべき作業が見えてきた。

間違いない……犯人は、『あの人』だ。

 

 

学級裁判(CLASSROOM TRIALS) 中断!≫ 




 後編に続きます。ではでは。ノシ

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