ダンガンロンパ・H&D ~絶望だよ、全員集合!~ 作:名もなきA・弐
今回で彼女たちの才能が分かります。それでは、どうぞ。
キーンコーンカーンコーン……。
まるでタイミングを見計らったかのように鳴り響いたチャイムの音は私たちを驚かせ困惑させる。
「チャイムの音?」と一関君が呟いた時だった。
『えー、船内放送。船内放送……オマエラ、お待たせしました!今から入学式を始めます、至急パーティーホールに集合してくださーい!!』
スピーカーから発せられる間の抜けたような、けれどもどこか人を不快にさせる粘着質な声が聞こえてくる。
声の主は一方的に話すと音を立てて切る。
「な、何今の声?」
「イベントか何かか?」
「入学式って…」
ざわざわと全員が口々に呟く中、モニターには矢印と簡易的なマップが映し出される。
困惑している状態で最初に動き出したのは一関君だった。
周囲を少しだけ見渡し、軽く咳払いをしてから声をあげる。
「みんな、ここは奴の声に従おう。この場で何も出来ずに膠着しているよりはましだ」
「そうね。もしかしたら番組のサプライズイベントかもしれないし」
彼に続くように二ノ瀬さんが賛同すると私たちを率先するように歩き始めた。
すると、私を含む残りのメンバーも移動を開始した。
しばらくして、「パーティーホール」と上部のプレートに書かれた扉を開くとまず目に入ったのはエントランスよりも広い空間だった。
まるでパーティ会場のように丸いクロスのひかれたテーブルが十数個並んでおり、その奥には司会が立つようなステージもある。
本来ならば賑わっているであろうホールの中は静まり返っており、暖色の証明が使われているにも関わらず、何処か物寂しい印象を与えた。
「……誰もいないみたいだな」
桐生君がぽつりと呟いた時だった。
『あー、あーっ!!マイクテスト、マイクテスト!聞こえてるよね?大丈夫だよね!』
先ほどの放送と同じような間の抜けたような声が聞こえてきた。
しかし、マイクの調整が合っていないのかハウリング音が凄まじく耳障りな音に思わず耳を塞いでしまう。
「うるっせぇなっ!!何だよ一体!」
『お待たせしました!それでは入学式を始めたいと思います!ステージに注目してくださーい!!』
一条君の苛々した声が響き渡るのも気にせず、声の主は場違いなほど元気な声で指示を送った。
『うぷぷ…!良いねぇこの空気、そう!人の心に絶望が存在する限り…』
ステージの方に注目する中、声の主は楽しそうに言葉を続ける。
そして、ステージから何かが飛び出すとそれは仏像のようなポーズを取りながらゆっくりとステージ上に着地した。
『じゃじゃーん、ボクは何度でも蘇るのですっ!!』
「……」
私は声が出なかった。
なぜならそれは、私が今まで見たこともないような存在だったからだ。
丸みを帯びたぬいぐるみ特有のずんぐりとした胴体と短い手足、そして、右側は白く、左側は黒く綺麗に塗り分けられた身体。
右側は可愛らしい黒い目をしているのに左側にある瞳だけは赤く鈍い光と共に輝いている。
「え、ぬいぐるみ…?」
呆気に取られたように清浄さんが呟いた。
彼女の言うとおり誰がどうみてもあれはぬいぐるみだ、しかし……。
『失礼だな!ぬいぐるみじゃないよ!ボクは「モノクマ」!オマエラの学園長であり、この船の船長なのだ!ヨロシクネッ!!』
呑気な言動、呑気な声、まるで子ども向けの番組に登場するキャラクターのようなそれは両腕を動かして威嚇のポーズをすると勝手に喋り始める。
『いやー、まさかこんなに速くボクが登場出来るとは思わなかったねー。やっぱり五人も子どもがいるとボクの出番がどうしても少なくなっちゃうからね、あれ?そう考えると我が子たちは別に必要なかった可能性が微レ存?いやいやでも…』
「おい、下らねぇ話は後にしろや」
突如喋って動くぬいぐるみに混乱している中、物怖じせずに話しかけてきたのは一条君だ。
不機嫌な表情を隠すことなく彼はぬいぐるみ…モノクマの言葉を遮る。
『はっ、ボクとしたことが…では気を取り直して……えー、オマエラ!ご入学、おめでとうございます!!元気いっぱいな姿を見て、ボクも感動しています。これからは我が学園の生徒として…』
「ち、ちょっと待ってください!!」
慌ててモノクマの言葉に私は待ったをかける。
さっきから黙って聞いていたがやはり分からない…そもそも。
「『入学』って何のことですか?それにあなたが学園長?言っている意味が分かりません!私は、ただの高校生ですよ」
「確かにな、ここが何処で、そもそも俺たちをどうするつもりか…答えてもらうぜ」
私に続くように桐生君は腕を組みながらも鋭い視線を向けるが、当の本人?は気にすることもなく、わざとらしいポーズを取って呆れた態度を取る。
『まったく、これだから学生は…大人の段取りってものを知らないんだから、ですが!ボクはマリアナ海溝よりも器が広いからね。オマエラの望む答えを教えてあげましょう!』
そう宣言すると、巨大なスクリーンが下がり照明が暗くなる。
そして、映像が映し出された。
『まずは、場所の説明から…えー、ここは「ナーサリーライム号」。通称「海上のホテル」と呼ばれるほどの史上最大の、史上最高の豪華客船なのです!そしてボクはここの船長、つまり一番偉い存在なのです!崇めたまえー』
「船…だと……!?」
巨大な客船を映しながら、モノクマの説明を黙って聞いていた坂本君が驚愕の表情と共に口元に手を抑える……本当に乗り物に弱いのか。
しかし、まさかの船の上だったことには驚いた。
揺れも感じないのもあって今まで何処かのホテルか何かだと思っていたからだ。
納得したが肝心な部分がまだ明らかになっていない…そう、私たちがどうしてその船に乗らされているのかだ。
私が声を出すよりも先にモノクマが再び口を紡いだ。
『そして、オマエラがここにいる理由…それは、ある学園に入学したからだよ』
「ですから、一体何処に…」
『はーい、今から点呼を取りまーす!!呼ばれた人は返事をしてよー!』
私の言葉を遮り、モノクマは白い用紙を取り出すと点呼を始めた。
『「超高校級の通信兵」のエミリ・P・アヴェーンさーん』
「……はぇっ?」
『超高校級の通信兵のエミリ・P・アヴェーンさーん?』
自分の名前を呼ばれたエミリさんは驚いた表情を見せる。
いきなり名前を呼ばれたことではなく、最初に言われた聞き覚えのない肩書きに驚いているのだろう…呆けている彼女を急かすようにモノクマは再度呼びかけを行う。
すると、我に返ったおずおずと挙手しながらエミリさんは口を開いた。
「えっと…は、はい」
『次、「超高校級の家庭科部」の綾崎隼人くーん』
「はい」
『「超高校級の心理学者」の一条心くーん』
「…はい」
『「超高校級の優等生」の一関来羽くーん』
「はい」
一条君は苛立ちを隠すように、一関君は冷静に返事をするとモノクマは満足するように点呼を続けて行く。
『「超高校級のダイバー」の海原潜絽くーん』
「シュコー」
『「超高校級の庶務委員」の貝原永久さーん』
「…はい」
海原君に続くように、名前を言われた私も言葉を返す。
『「超高校級のメイド」の神楽阪麻衣華さーん、「超高校級の秘書」の神楽阪舞耶さーん』
「「はーい」」
『「超高校級の喧嘩師」の桐生和彦くーん』
「…あぁ」
『「超高校級のパイロット」の坂本隆馬くーん』
「…マジかよ」
神楽阪さんたちは楽しく、桐生君は静かに、肩書きを聞いた坂本君はこの世終わりだと言いたげな表情で呟く。
『「超高校級の滅菌スタッフ」の清浄和泉さーん』
「は、はいぃ」
『「超高校級の芸能マネージャー」の二ノ瀬香さーん』
「はいはい」
『「超高校級のグラビアアイドル」の細井麗さーん』
「はーい」
『「超高校級の幸運」の本庄因幡くーん』
「は、はい」
『よしよしこれで…あっ……えーと、べ、別に忘れていたわけじゃないんだからな!コホン、「超高校級の???」の「
「あっ、はい」
最後にアンテナの彼…松成君の名前が呼ばれて点呼が終了した。
今の肩書き、もしかしてモノクマの言う学園とは……。
「『希望ヶ峰学園』に、私たちが入学したってことですか…?」
『はーい、だーいせーいかーい!!オマエラは希望ヶ峰学園に選ばれた才能を持つ超高校級の生徒たちなのですっ!』
その言葉に私以外の人たちも驚いていた。
私立希望ヶ峰学園……学業・スポーツ・芸術・芸能…あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げることを目的とした、誰もが夢見る名門校である。
「この学園を卒業した者は人生において成功したも同然」…とまで言われ、この学園を拠点として活躍する高校生達は、世間から「超高校級」と呼ばれ尊敬と羨望のまなざしを受ける。
この学園は何百年という歴史を持ち、各界に有望な人生を送り続けており、生ける伝説とまで呼ばれるまさに『希望の学園』…。
その学園への入学資格は二つ。
『現役の高校生であること』・『各分野において超一流であること』だ。
そんな学園だから、もちろん新入生の募集などしておらず、学園側にスカウトされた生徒のみが入学を許可される。
そんな学園に、私がスカウトされた?
ふと他の人たちの顔を見る。
彼らもその話を初めて知ったのだろう、歓喜と困惑が混じった表情を浮かべており…笑っているのは神楽阪さんたちぐらいだ。
「でも、私はそんな通知受け取っていません!ネットにだってそんな情報は一度も…」
『うるさーい!ごちゃごちゃ言ったところでオマエラはスカウトされたの!決まったことに一々反論するなー!!』
「ガオー!」と威嚇のポーズをするモノクマに私は何も言えなくなっていた。
訳が分からない…自分がスカウトされていたことも、船にいる理由も、何もかもが分からなくなっていた。
しかし、私の混乱とは裏腹にモノクマは楽しそうに説明を続ける。
『希望とも言えるオマエラが入学したことを記念に、学園長でもあるボクは船長権限でこの客船に宿泊させることにしたのです!ちなみに食料はきちんと補充されるし客室ごとのバスルームも完備されているから安心してね!』
「ちょっと良いかしら?」
一方的とも言える彼に挙手をしたのは二ノ瀬さんだ。
憮然とした表情で腕を組み、口を開く。
「アタシ、担当の子のスケジュールを教えなければいけないんだけど」
『はにゃ?そんなの事務所の社長か誰かがやってくれんじゃない?』
「連絡は?」
『連絡手段はないよ。この船に電話機はあるけどは施設同士を繋ぐ内線電話だけだから」
「……」
適当に、当たり前のように質問を返すモノクマの言葉を聞きながら、私は言いようも知れない不安に飲まれていく。
『うぷぷ……それではそろそろ本題に入るよ。オマエラはボクが呼んだ希望ヶ峰学園の新入生、よってお金はいらないんだけど……』
ほんの少しだけ間を置いた後、ゆっくりと口を開いた。
『期限は一生!つまり、オマエラはこの優雅な船旅を永遠に出来るんだよ。いやー我ながら心が広いねぇ!さすがはチョモランマよりも大きい心のボクだよ!』
モノクマのその言葉に、私は思考が一瞬停止した。
今、奴は何を言ったのだ?
一生?こんな訳の分からない船の中で?
「おい、待てよ。俺はともかく残りの連中は真面目に通っている学生だ、お前の発言は学園の理念に反するんじゃないのか?」
桐生君が質問をぶつける。
そうだ、私たちは学生…学生の本分は勉強だし仮に希望ヶ峰学園に入学したのだとしたら色々と手続きだって必要だ。
『ボクが世界ルールだよ、理念はすり抜けるためにあるんだから…大体そんなの一々気にすることはないんだよ?』
「なら、単刀直入に尋ねるぞ。俺たちはどうやったら出られる?まさか宿泊料の代わりに定期テストで満点を取れとか言うんじゃないだろうな」
『はぁ…こんな至れり尽くせりなのに文句が多いだなんて…まっ、なくはないんだけどね』
その言葉に私の中にあった不安が少しだけ晴れた。
しかし、次に発せられた言葉は再び私を混乱の渦へと叩き落とした。
『「この中を誰かを殺すこと」だよ』
「……はっ?」
『だからぁ、コロシアイだよ、コロシアイ…ボクはオマエラのためにリッチな船旅を計画したのに脱出したい、だったらそれなりの対価が必要だよね。殴殺でも刺殺でも撲殺でも斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺でも構わない、それが…コロシアイだよ』
「ボクたちに、人を殺せって言いたいのか…!!」
「笑えねぇ冗談だ、好い加減にしろよてめぇ…!!」
モノクマの言葉に唖然とする私とは対照的に松成君と一条君が怒りを露わにするが、当の本人は左側のギザギザした歯をぎらつかせながら話を続ける。
『冗談じゃないよ、ボクはクマだからね。嘘は時々つくけど基本は正直だよ、それにこれは殺し合いじゃなくてコロシアイ……このナーサリーライム号のメーンイベントにも直結しているんだよ』
「めーんいべんとー?」
『そう、人を殺した時に発生する当客船のイベント…「学級裁判」だよ!』
細井さんに応える代わりに上部のスクリーンに達筆で「学級裁判」の文字が映し出され、そこには可愛らしく描かれた数人の少女とその中央にはモノクマが鎮座しているといった絵だ。
『学級裁判は、殺人が起きた数時間後に開催されます!…学級裁判の場では、殺人を犯した「クロ」と、それ以外の「シロ」との対決が行われますっ!!学級裁判では、「身内に潜んだクロは誰か?」を、オマエラに議論してもらいます。その結果は、学級裁判の最後に行われる「投票」により決定されます。まあ、人狼と裁判員制度を足して二で割ったようなものだね!分かりやすいでしょ?』
混乱する私たちを余所にモノクマは淡々とルールを説明していく。
『そこで、オマエラが導き出した答えが正解だった場合は、秩序を乱したクロだけが「おしおき」となりますので、残った他のメンバーは共同生活を続けてください。ただし……もし間違った人物をクロとしてしまった場合は、罪を逃れたクロだけが生き残り、残ったシロ全員が「おしおき」されてしまいます。その場合、勿論共同生活は強制終了となります!以上、これが学級裁判のルールなのですっ!!』
「ね、ねぇ、さっきから言っているお、おしおきって…?」
「もちろん!処刑だよ!!オマエラの命がかかってるから決断は慎重にね!!」
モノクマはまるでゲームの司会者のように楽しそうに説明をしていた。
その様子に私の意識は混濁し始め、荒くなる呼吸を必死に抑えるように胸に手を当てる。
しかし、奴はそれすらも楽しそうに眺めている…私は乾いた口で必死に言葉を紡いだ。
「あなたは、何をしたいのですか?」
『はにゃ?そんなの決まってるんじゃん』
私の質問に、モノクマは首を傾げながらたった一つの単語を口にした。
『「絶望」……それだけだよ。だからたっぷり楽しんでね、必死に積み上げたものが絶望に染まる様を。うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷ…ダァーッハッハッハッハ!!』
腹を抱えて狂ったように笑うぬいぐるみを見て私は理解した、理解してしまったのだ。
今日という日から、私の生活は二十四時間という単純な一日などではなく、もっと特別な意味を持つ一日へと変化した。
『絶望』に塗れた、非日常の一日へと……。
私たちを乗せた、『コロシアイ記念旅行』が開幕した。
プロローグ 後悔しながら航海しよう End →To Be Continued.
コロシアイ記念旅行:一日目
残り乗船者数:十五名
プロローグを書くだけですごい苦労…ゲーム通りの文章にすると意外と大変です。
特にモノクマのキャラが掴めない…誰かモノクマの癖や言動を細かく知っている方は知りませんか!?(半泣き)
さて、これで彼女たちの才能と肩書が明らかになりました。次回はみんなのお色直しと探索と交流です。もう少し詳しい描写が入ることになります。
ではでは。ノシ