士郎達はルフレス族の街に向かう道中で少しの休憩を挟んでいた。
「ウェンディ、僕にもテルンを抱かせて」
「シンクさん。はい、いいですよ」
ウェンディの腕の中で気持ち良さそうにするテルンをシンクに手渡す。シンクはテルンの頭を優しく撫でると何かを思い出すように話した。
「ありがとう。あぁ、こうテルンを撫でてると懐かしい気持ちになるよ」
撫でられるテルンも気持ち良いのか、シンクに完全に身を委ねている。シンクの言葉に士郎が反応した。
「シンクはもしかしたら動物とかを良く撫でていたのかもしれないな」
「そうなのかな?うん、そうかもしれないね」
士郎達は雑談をしながらも、テルンに連れられようやく街の近くに来ていた。道中、度々現れるヴールを倒しながら向かっているとウェンディが近くに女の子が倒れているのを見つけた。
「みなさん! あそこに誰か倒れています!」
「どこ? 僕にはよく見えないんだけど」
「あっちです。木に持たれるように倒れてます」
「すぐに行こう。 もしかしたら『夢見る目覚めの人』かもしれない」
ウェンディの指差した方へと士郎が先頭になって走る。
駆けつけ士郎とシンクでもはっきりと見える距離になり少女の姿に思わず目を見開く。
白に近い銀色長い髪が上の方で二つピンクの羽のようなもので結ばれている。ピンクが基調の服をしており、肩は露出されている。右手には先端に星の形をしたものが付いているステッキが握られており、魔法少女のような姿である。
「おい!大丈夫か!しっりしろ!」
士郎は両手で少女の両肩を持ち軽く揺らす。
それで気がついたのか少女は目をピクリとさせた。
「……ん……んんっ…………」
「どうだった士郎、気がついた?」
「ああ、大丈夫みたいだ」
追い付いたシンクから声がかかる。それと同時に少女は目を開け、小さな声で呟いた。
「こ、ここは?」
「ここは、レーヴァリア……それより君、名前はわかるか?」
士郎は手を差し伸べ少女を引っ張り上げる。少しふらっとするがしっかりと地に足をつけると彼女は頭を下げて名乗った。
「ありがとうございます!私はイリヤ!イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです」
「イリヤか。俺は衛宮士郎、それで後ろにいるのが……」
「僕はシンク・イズミ。よろしく!」
「ウェンディ・マーベルです。イリヤ、よろしくね」
「え、えとルフレス族のテルンです」
「よ、よろしくお願いしま……す?えっと……私、今何も覚えてなくて」
苦笑いを作り応えるイリヤに士郎は優しく微笑み、状況を説明した。
「ああ、それについてだけど俺たちも名前以外の記憶がないんだ」
「ええー⁉︎ そこの二人も⁉︎」
「うん」
「私もです」
「詳しい事は……テルンお願いできるかな?」
「は、はいです」
士郎達にもしたこの世界のことについて説明するテルン。イリヤは半信半疑に聞きながらも納得した。
「夢の世界レーヴァリアか〜。何にも覚えてないけどその、私にもできることがあるなら手伝いたい!」
その言葉にウェンディとシンクは笑顔で勿論。と返すが士郎はウェンディのときもそうだったように渋い顔をして言った。
「ダメだ!君みたいな女の子が戦うなんて!」
「でも、ウェンディは戦ってるんでしょ?」
シンクの横にいるウェンディを見てイリヤが主張する。
士郎の発言にシンクはまたか、と思いつつも士郎の優しさを感じていた。
「そうだけど、それは……」
「それなら大丈夫!私も少しは戦えるんだから」
少しの間二人は目を合わせお互いの主張を誇示する。そして、先に折れたのは士郎だ。どうやら、彼は年下の女の子に弱いのかもしれない。
「……わかった。けど無茶はしないでくれ」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「お、お兄ちゃん⁉︎」
イリヤのお兄ちゃん発言に驚く士郎だがイリヤ本人は気にした様子もなくウェンディの手を取り歩き出した。
「さっ、早くテルンの街にいっちゃおー!」
ウェンディは戸惑いながらもイリヤの手を握り歩き、テルンもそれについて行く。
固まっている士郎にシンクが声をかけた。
「だってさ。頑張らないとね"お兄ちゃん"」
「…………勘弁してくれよ」
トボトボと士郎も彼女達の後を追った。
街の近くに着くとその大きさを見て、シンクが感想を漏らす。
「うわー、本当にデカイねテルンの街!」
「向こうにも建物があるんだな。あれも街の一部なのか?」
ドームの形をした建物を見て士郎が聞くとテルンは肯定した。
「あ、はい、あれは闘技場です。ぼ、ぼく達は使わないんですけど」
「さっきテルンが教えてくれた私たちの記憶にあるものだっけ?あれがそうなんだ」
「あ、あれだけじゃないです。この街全部です」
テルンの言葉を聞き、イリヤは町全体をボーっと見渡した。みんなが街の様子に見惚れているなか、ウェンディが何かを聴き取り、緊迫した声をあげる。
「みなさん、向こうから何か聞こえてきます!」
「どこからだウェンディ?」
「少し待って下さい……」
ウェンディの声で一気に緊迫した雰囲気を出す士郎の言葉。目を閉じ耳を研ぎ澄ますウェンディを周囲がじっと見守る。
キィンキィンといった金属が何かにぶつかるような音が耳を打つ、直ぐにウェンディは目を開くと音のした方を指差した。
「向こうからです!戦闘音のようなものが聞こえてきます」
「この街って安全だったんじゃないの⁉︎」
「そ、そんな、ここにまで……」
戦闘と聞いて驚くイリヤと怯えるテルン。
士郎は既にウェンディの差した方へと駆け出していた。
「向こうか!急ごう!」
「うん、テルンはどうする?」
「ぼ、ぼくは………その、えっと……」
「行くよ、テルン!」
「わ、わわ⁉︎」
怯え悩むテルンをイリヤが無理矢理捕まえ先に行った士郎とウェンディの後を追った。
音のした先ではテルンと同じような姿をしたルフレス族が逃げ惑っていた。
そんな中で二人の女性が襲い来るヴールからルフレス族を守っているのが見える。
「私が奴らの注意を引き付ける!アスナはその子達の誘導を頼む!」
「そんな⁉︎ ダクネスだけなんて無茶よ!」
「私なら大丈夫だ。それよりルフレス族を守るのを優先してほしい」
「で、でも……」
長い金髪を後ろで一本に束ねている聖騎士が現れている中で一番大きなヴールの相手をしていた。もう一人の栗色の髪に白を基調とした赤いラインの入った服を着ている女の子が逃げるルフレスを守るように取り巻きのヴールと戦っている。
そんな中一体のヴールが逃げ遅れているルフレスに襲いかかった。アスナは急いで駆けつけるも間に合いそうにない。
「逃げてー!」
狼型のヴールの牙がルフレスにあたる直前、黒い一本の矢が狼を射抜き消滅させた。
「えっ⁉︎」
「大丈夫か⁉︎」
弓を携えた士郎がアスナとダクネスの無事を確認する。
アスナが現れた士郎達に驚きの声をあげた。
「あ、あなた達は⁉︎」
「話は後でね。それよりも先にあいつらをやっつけちゃうよ!」
棒状にした聖剣パラディオンを手に持ちシンクがアスナの横に立つ。
「あ、ありがとう……」
ランベントライトを持つ手にギュッと力を込めシンクと共にヴールを迎え撃つ。
「トレース・オン!!」
「斬撃(シュナイデン)!!」
「エンチャント・バーニア!」
「ヤァァァ!」
「ハァァア!」
士郎が弓を消して夫婦剣で切り掛かり、イリヤは魔法の薄い刃を放つ。ウィンディの支援魔法によりアスナとシンクは閃光の如き速さで蹂躙する。
そんな中イリヤが一人でこの集団の頭と思われるヴールと対峙しているダクネスに目がいった。
「ぐっ……!」
ダクネスはゴーレム型のヴールの一撃をその身で受け止めていた。
咄嗟にイリヤは駆け寄り声をかける。
「大丈夫⁉︎」
「ああ問題ない。……寧ろもっと強めにきてほしいくらいだ」
「…………えっ?」
何やら不穏な言葉を聞いたような気がしたイリヤは思わず聞き直した。
「こっちは私に任せて取り巻きを片付けてほしい。こいつの攻撃は私一人で大丈夫だ」
「あ、うん。わかったけど……」
奥歯に何か詰まったような違和感を感じながらもイリヤはダクネスから離れ、取り巻きのヴールに向き直る。
「イリヤ、彼女は無事か?」
「うん、大丈夫みたい。あの親玉みたいなのは引き受けるから他のを片付けてほしい、だって」
「一人で大丈夫なのか?」
「僕達じゃ、あの親玉の攻撃は受け切れないし、ここは彼女を信じて早く片付けよう」
「……それしかないか」
蜂型のヴールをイリヤとウェンディの魔法で蹴散らし、狼型と蛙型のヴールを士郎、アスナ、シンクが消滅させる。
数分であたりのヴールを倒すと急いでダクネスの元へと向かう。ダクネスを見ると一人でトレント型を中心に、植物型のヴールの集団を相手にしている姿が見える。
耐えるダクネスが呟く声を、近くにいたイリヤだけが聞き取っていた。
「向こうは片付けて助けにきた……よ?」
「……私はこのままこのヴール達に痛めつけられ周りの植物型のヴールの蔓で捉えられ、あ、あんなことやこんなことを!!くっっ!私の体は好きにできても心までは好きにさせんぞ!」
「あの人なんか、かなりやばいこと口走ってるんですけどーーーー!!!?」
ダクネスの発言にイリヤはただ驚愕した。
少し遅れて着いた、アスナ達が声をかける。
「ダクネス、大丈夫⁉︎」
「絶対大丈夫じゃないよッ⁉︎」
猛攻を受け折れず耐えているダクネスを見て、シンクが呟く。
「凄いね、あの大きなヴールの攻撃を受けて平気なんて」
「寧ろ、少し嬉しそうなんですけどッ⁉︎」
「どれだけ頑丈なんだ彼女?」
士郎の言葉を聞いてダクネスが反応した。
「ふっ。私は堅さしか取り柄のない女だ。……なんせ攻撃はどれも当たらないのだからな」
「この人ダメすぎるーーッ!!!」
先程から騒いでいるイリヤに、ウェンディがおどおどとしながら落ち着くよう言う。
「イ、イリヤ……お、落ち着いて。どうしたの、大丈夫?」
「あの人が何も大丈夫じゃないよッ⁉︎」
「どうしたんだイリヤ⁉︎」
「お、お兄ちゃん……え、え⁉︎ これってわたしがおかしいの⁉︎ 」
ダクネスの変態性に唯一気づいてしまったイリヤ。彼女の中ではダクネス=変態という構図が確立したことだろう。他のみんなが気づいていないからかダクネスの変態性に言及もしづらい。
頭がパニックな状態のイリヤに士郎は真剣な表情で言った。
「全員で行けばあのヴールも倒せるはずだ。このまま彼女一人に無理をさせるわけにもいかないしな」
「う、うん。 そうだよね!」
ダクネスの変態発言については今は置いておく。そう決めたイリヤはカレイドステッキに魔力を込め始めた。
「わたしが親玉のヴールを攻撃するからその間の時間を稼いで!」
「わかった。シンク、ウェンディ!イリヤが魔法を放つ時間を稼いでくれ!」
「任せて!」
「わかりました!」
ウェンディは今もなお前線で頭のヴールの攻撃を受けているダクネスに防御の支援魔法をかける。耐久力が上がったダクネスに背後からヴールが襲いかかる。それにシンクが気付いた。
「させないよ!」
聖剣パラディオンで打ち払い遅れて士郎が斬り捨てるとヴールは霧散した。
その先ではトレントの攻撃を受けるダクネスの援護にアスナが後ろからトレントに飛びかかっていた。
「ハァァァッ!!」
光速で放たれた一撃にトレントの重い体が揺れ動く。
その一撃でアスナに意識がいったのかトレントが振り向こうと体を捻る。しかし、突如その動きを止めると再びダクネスに向き直った。
「私から目を離さないで貰いたいな」
ダクネスの持つスキル《デコイ》。敵となるモンスターの注意を引きつける能力をここで発動させた。これを使えばモンスター全てを自分に集めることができるが彼女の性癖を考えると最初から使えば良かったはず。だが何故今使ったのかそれは……。
「……くっ。最初からこれを使えていれば全てのモンスターから攻撃され虐めてもらえたというのに!!」
使えることを思い出したのがついさっきだからだ。
ダクネスの背後で魔力を溜めていたイリヤが準備を終え、叫ぶ。
「準備オーケーだよ!みんな離れて!」
声に反応して、トレントの近くにいたアスナが離れる。シンクや士郎も距離を取ろうと走るが動こうとしない人物に目がいく。それはダクネスで彼女の性癖から勿論動くはずがなかった。
「いい。私に構わず撃て!」
「だと思ったよッ⁉︎ あーもうっ!お兄ちゃん!!」
「離れるんだ!」
「あぁ……やめろ!私は、ここで、後ろから、デカイ、魔力の、塊を、打たれてーー」
「いいから離れるんだ!ここにいたら巻き添えになるぞ」
ダクネスをズルズルと士郎が引きづり射線から離れていく。
「ナイス、お兄ちゃん!……行くよ!」
透き通るような白銀の少女の周囲に光が満ち、渦を巻きながら光は掲げているステッキに収束している。
その集まった光達、魔力の塊を桃色の衣装を纏う魔法少女は精一杯に力を込めて放った。
「全力の……弾丸(フォイア)!!」
一直線に打ち出された魔力の弾丸はトレントにぶつかると轟音を響かせ破裂した。
煙が上がるもすぐに晴れ、その場にトレントの姿はどこにもなく、消滅したことを全員が確認した。
「あいつで終わったよね?」
イリヤの問いにアスナがレイピアを納刀しながら答えた。
「ええ、あのデカイやつで最後のはずだわ」
「おわったー!疲れたーこれ以上動けなーい」
緊張が解け、その場で倒れこむイリヤの周りに皆んなが集まりだす。
この戦闘で盾としての役割を果たし、着ている防具が所々汚れているダクネスが士郎達に感謝の言葉を述べた。
「君達のおかげで助かった。私とアスナだけでは正直、対処しきれなかった」
「気にしないでくれ。俺達は当たり前のとこをしただけだ」
「ありがとう。ここにきて急かもしれないが君達も《夢見る目覚めの人》なのだろうか?」
「も、ってことは君達二人も?」
ダクネスの言葉を拾ったのはシンクであった。
「ああ、この街のルフレス族から聞いたんだがこの世界に本来、人はいないらしい。いるのは《夢見る目覚めの人》だけなんだ。……そうだ、話す前に名乗らないとな。私はダクネス、それでこっちがアスナだ」
「結城明日奈です。よろしくお願いします」
「僕はシンク・イズミ。よろしくね」
「私はウェンディ・マーベルです」
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。イリヤでいいよ!」
「衛宮士郎だ。それでこっちの隠れてるルフレス族がテルンだ」
「テ、テルンです。あ、あの街を助けてくれてありがとうです」
この場にいる全員の自己紹介を終えるのを確認すると話題を戻した。
「ダクネス達はここで何が起こっているのか知っているのか?」
「いや、私もさっきここにアスナと着いて話を聞こうとしていたら騒ぎに巻き込まれた」
「そうか。なぁテルン、そろそろこの世界について教えもらえないか?」
「は、はい、お話ししますです。あの、この世界がレーヴァリアっていう、夢の世界だってことは話したですよね 要するにここは、皆さんが見ている夢なんです。全部の『目覚めの世界』の人々が見ている夢、それがレーヴァリア!です!」
「……レーヴァリア……『目覚めの世界』」
まだこの世界について話を聞かされていなかったアスナが小さく頷きながら呟いた。
話を深く聞こうとイリヤが促す。
「なんで夢の世界のここにあんな……えっとヴールだっけ?そんなのがいるの?」
小さな体で身振り手振りしながらも何とか言葉を紡ぐ。
「・・・・・・ヴールは夢見る人のもってる痛みとか悲しい気持ちとかから生まれるって教わったです。ヴールが増えるとレーヴァリアの具合も悪くなって、夢を見てる人にも悪い影響が出るっていうです。レーヴァリアと全部の『目覚めの世界』はお互いにつながってるです。だからボクたちルフレスはヴールを食べてキレイにして、この世界と『目覚めの世界』を元気にしてる、です!」
「その割にはみんな逃げ回ってたように思うんだけど……」
さっき起きた戦闘の始めにアスナがルフレス族を逃していたことを思い出す。
逃すことを優先にしていた為にダクネスが一人でヴールの相手をしていたのだが本人にとっては本望だったのかもしれない。
「む、昔はヴールに形なんてなかったんです。最近になって、ああいう怖い形になってうろつくようになって・・・・・・ 前は夢守たちが、そういう形のあるヴールを退治してたです」
「夢守?」
新しく出た単語に士郎が反応すると上手い言葉が出ずにテルンが慌てる。
「あ、あの、ええと、・・・・・・ルフレス族で、生まれてからちゃんとたくさん勉強して、強くなった、その・・・・・・」
「俺たちで言う大人みたいなものか?」
「は、はい!人の大人と同じです!だけど、突然いなくなってしまって・・・・・・ 残っているのはボクみたいな若仔だけで、街の近くにまでヴールがでるようになって、それで、儀式で『夢見る人』をここで起こして、助けてもらおうってことになったです」
「なるほど、それで『夢見る目覚めの人』何だね」
合点がいき納得するシンク。他も大方理解は出来たのか頷くが一人容量越えで困惑していた。
「えっと、寝ている夢の中で起きていて、それで……、あーッ!頭がパンクしそう!」
純白の髪を結ぶ桃色の羽を揺らす。それを見てテルンが補足していく。
「あの、イリヤさん一人の夢じゃなくて、たくさんの世界のたくさんの人たちの見ている夢が集まってできてるです。ええと、例えばほら、あの向こうの建物、闘技場って言うらしいですけど、ボクたちが作ったんじゃないです。この街だってそう。ボクたち、ただ見つけて住み着いているだけです。沢山の人が夢見ている『集合意識の記念品』だって、ある夢守が言ってたです。よく分からないけど」
「うーん、今もまだよくわかってないんだけど要するにテルンは困っててそれで私達に助けて欲しくて呼んだってこと?」
「はいです」
「それにしては少し可笑しくないか?」
話に割って入る士郎にウェンディが反応した。
「どういうことですか?」
「俺たちに助けて欲しいって事だったよな?それならなんで俺たちは『目覚めの世界』の記憶がないんだ?」
最もな疑問をあげ、全員がその問題点に気づいた。
「確かに……記憶はあった方が絶対にいいはずだし、戦い方まで少し朧気だもんね」
「だろう?テルンはどうしてか知ってるのか?」
答えを求める彼らにテルンは俯き首を振った。
「それが・・・・・・分からないんです。『眠りの壁』をくぐる時、ヴールが何かしたのかも・・・・・・ 本当は、皆さんはこの街で目覚めるはずだったです。でもでも、どこで何人目覚めたのかも分からなくて、それで誰かが探しに行かなきゃって話になって、それで・・・・・・」
「……テルンはすごいな」
「え?」
テルンが声のした方を振り向く。そこには優しく見つめてくる士郎の姿。
言葉の意味を理解出来ず呆けているテルンにもう一度、次ははっきりと口にする。
「テルンはすごいよ」
「そ、そんなぼ、僕はすごくなんて……ない……………です……」
「すごいよ。だって外は危険だってわかってるのに俺たちを探そうとしてくれたんだから」
「うん、僕達がこうして無事にここに来れたのはテルンのお陰だよ」
笑顔で告げるシンクにテルンは顔を真っ赤にして小さな手を大げさに振る。
「それは、ぼ、僕達が強い心を持っている『目覚めの人』に助けてもらおうと勝手に呼んじゃったからで……ごめんなさいです……」
赤かった顔を次第に暗くし頭を下げる。下を向くテルンに暖かい手がそっと頭を撫でた。
「いいよ、テルンはよく頑張ったね。それに友達が困ってるんだから放ってなんて置けないよ」
「と、もだち?」
テルンが顔を上げ触れる手の先を見つめるとそこには青い髪をサイドで結んでいるウェンディの姿があった。
「うん、私達もう友達だよね?」
「そうだよ、テルン。友達だと思ってるのは私達だけなのかな?」
イリヤも便乗して笑顔でテルンに問いかける。テルンは嬉しそうにしながらも照れた様子で答えた。
「ぼ、ぼくたち、と、友達です」
読んで頂きありがとうございます。
ではまた次回。