レーヴユナイティア 記憶を無くした戦士達   作:蹴急

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伝承の保菌者と嵐の守護者と剣道の妖精

それから、二人にこの世界の事を説明し、一向は一護とガジルを仲間に入れて、メランコリウムの中へと入った。

 

「ここがメランコリウム?何だか街みたいだな」

「うわぁー、おっきー!」

 

天井を見上げるキリトとユウキ。それにつられてガジルと一護も中を見渡している。

 

「デッケェな。ここにはえっと……ルフレスだったか?そいつらはいねぇのか?」

「ここは生き物の匂いがしねぇ」

「他の夢守達は奥で結界の維持に専念しているはずです」

 

ナハト曰く、夢守は眠る事により結界を張っているのだとか。

 

「それにしても、ここにまでヴールの気が……。メランコリウムの中とは思えない」

「うっ……」

「ユウキ、どうしたの?」

「ううん。ちょっと気分が、ね」

 

その場で辛そうにするユウキにイヴが寄り添う。ユウキの状態を見て、太公望が目を細める。

 

「ナハトよ、これはわしとキリトのいた森のような感じがするようじゃが」

「ああ、何か黒いものが身体に入ってくるような感じがする」

「ラーフの気が若干ですが、漏れているようです。浄化しなくては……うっ」

「おい!お前、その姿になって大丈夫なのかよ!?」

 

夢紬の姿に変わったナハトに一護が心配そうに声をかける。

 

「大丈夫です。それより……来ます!」

「なにっ!?」

 

奥に進むとナハトがヴールの気を感じ取った。前方には三つの人影。

 

「……………」

「……………」

「……………」

 

金髪のエルフのような尖った耳をした少女と紫色の髪で男装のスーツを着た女性、そして銀髪でいかにもガラの悪そうな少年が立っていた。

 

「ナハトよ、あやつらはもしや……」

「『目覚めの人』……だが、ヴールの気を強く感じる。これは、ただ取り込まれたのではない……?」

「どういうこと?」

「わかりません。しかし、今まで以上に危険です」

 

ナハトが皆の前に立つ。しかし、それを一護が止めた。

 

「なら片っ端から倒せばいいんだろ?」

「ナハトは下がってな、俺達が戦ってくる」

「私もやるわ」

 

一護の言葉にガジルとイヴが続き、ナハトの前に出る。

 

「ですが、皆さんだけに任せるわけには」

 

キリトはエリュシデータを手にとると笑ってナハトに言った。

 

「いいんだよ、ナハトは浄化っていう大事な役割があるんだ。今は俺達に任せろ」

「キリトさん……」

 

今のナハトは浄化だけでも手一杯だ、それをここまで一緒に来ているキリトと太公望はよくわかっている。

 

「それにしても後衛がわしだけとはバランスが悪くないかのう?」

 

太公望以外の全員が接近戦タイプである。

それに比べ向こうは綺麗に隊列を組むように前衛、中衛、後衛に一人ずついる。

 

「何とかなるさ、まずは目の前の彼女から抑えるぞ」

 

キリトの声で一斉に紫の麗人の下へ走る。

ユウキと一護が左右から一太刀浴びせにかかる。

 

「おらぁ!」

「やぁぁ!」

 

彼女はその両方を半身になって交わし、一護に拳を、ユウキには蹴りを一発ずつ腹に打ち込んだ。吹き飛ばされた二人を背にガジルとイヴが続けて襲う。

 

「ハッ!」

「……ッ」

「………………」

 

麗人は黄金の拳を片手で受け止めるとイヴの長い髪を開いている左手で掴み回転するように振り向く。

 

「きゃっ⁉︎」

「なっ⁉︎」

 

振り回されたイヴは反対から仕掛けていたガジルとぶつかる。麗人がぶつかる直前に髪を掴んでいた両手を離していた為に二人は勢いのまま飛ばされる。更に、二人を尻目にキリトが背後から斬りかかった。

 

「はぁぁ!」

 

回避は出来ないタイミングでの攻撃に彼女は腕を前に交差して受け止めた。

ようやく、攻撃が当たった事に緩み、僅かに隙ができたキリトに大量のダイナマイトが降り注ぐ。

 

「……なっ!!」

 

当たる事を覚悟し身を硬ばらせ、衝撃に備えるキリトを見て、太公望が打神鞭から小さな竜巻を発生させてダイナマイトを遠ざける。

 

「無事か、キリトよ」

「助かったよ」

「スー・フィッラ・ヘイラグール・アウストル・ブロット・スバール・バーニ!」

 

ダイナマイトから逃れた、二人の耳に聞きなれない言葉が入る。

唱えているのは後衛に位置している金髪のエルフだ。

詠唱が終わると、紫の麗人が光に包まれ、キリトに斬られた腕の傷が治っていく。

 

「回復技持ちとかずるくねぇか」

 

怪我をした腕を治療する彼女を見て一護がぼやく。

 

「それに連携も無駄がない」

「ダイナマイトとか斬れないよ、斬っても爆発しそうだし」

 

続けてイヴ、ユウキが口々にしガジルは不敵に笑みを浮かべる。

 

「ギヒッ、手応えがありそうじゃねぇか」

「みなさん、大丈夫ですか」

 

後ろで見ていたナハトが心配そうに前に来た。

 

「大丈夫。だからもう少し待っててくれナハト」

 

無事であることをキリトが笑って伝える。

それを見て太公望がヒソヒソとキリト以外に喋りかける。

 

「見ろ、キリトがカッコつけたではないか」

「キリトって中二病っぽいとこあるよな」

「中二病ってなにー?」

「……危ない人の事」

「お前ら、緊張感ってのを持てよ!」

 

キリトから逃れるように太公望達は離れて各々の武器を構える。

 

「わしが風の刃で攻撃しよう。お主らはそのあとに続いてくれ」

 

太公望の言葉にそれぞれ頷きタイミングを見計らう。

 

「行くぞ、ーーー疾ッ!」

 

真っ直ぐに放たれた風の刃は今まで見た中でも大きく速い。

しかし、それは真っ向からやってきた矢のようなものに相殺される。

 

「なぬっ⁉︎」

 

太公望は矢の放たれた方を見る、そこには銀髪の少年が右腕に髑髏がついた弓のようなものをつけていた。少年の周囲には骨で型どられた円盾が浮いている。

銀髪の少年は矢を引き、連続して放つ。矢には赤黒い炎が纒われている。

 

「くっ、打風輪!!」

 

すかさず、太公望も自分の周囲に風の輪を作り攻撃に転じる。それに反応してキリト達も動き出す。紫の麗人はキリト達を見て地を蹴り迎え撃ちに行った。

 

「………ッ!」

「おらっ!鉄竜棍!」

「はぁ!」

 

ガジルが腕を鉄に変え、イヴは髪を纏め拳を作る。ほぼ同時に放たれた攻撃に紫の麗人は表情を全く変えずに対処する。

ガジルとイヴを相手にしている隙をつき一護とキリト、ユウキが銀髪の少年に向かう。

 

「セアー・スリータ・フィム・グローン・ヴィンド!」

 

金髪のエルフが再び唱えると、緑色に輝くブーメラン状の刃がキリト達に襲いかかる。

 

「くっ」

「チッ」

「……ッン」

 

三人とも己の剣で防ぐが止まった隙を突き、銀髪の少年が矢を放つ。一本だった矢は二本、三本と増えていき、キリト達の前に着く頃には数えるのが困難な程になっていた。

 

「疾ッ!」

 

太公望が風を巻き起こし、キリト達を矢から守る。太公望は更に風の刃を放ち、銀髪の少年を攻撃する。

 

「打風刃!」

 

銀髪の少年が風の刃を周囲に浮いている円盾で防ぎきったのを見て太公望は思案顔になった。

 

「むぅ、簡単には行かんのう」

「このままじゃ拉致がないぞ」

 

下がったキリトが言った。前にいた一護とユウキもこちらに寄って、ガジルとイヴも紫の麗人から距離を取ったのを見て太公望が問いかけた。

 

「この中で飛び道具みたいな技や魔法を持っておるのはいるかの?」

 

それに対して反応したのは先の戦闘の時に鉄の息吹を吐いたガジルと大剣一つで戦っていた一護だった。

一護が反応したことに一同が驚いた様子になるも強面な面のまま一護がぼやく。

 

「持ってちゃ悪りぃかよ。……まぁ使える技がそれだけだから期待はすんなよ」

「それでもよい。あの円盾を突破せぬと、どうにもならんからのう」

 

太公望のもとに全員を集めてこれからの作戦を伝える。

 

「向こうは回復持ちで耐久力もある。短期決戦で物量で攻めることになる。本来こういった真正面から攻めるのは得意ではないのだが…………仕方あるまい」

 

それぞれ持ち場に着くよう指示をする太公望。先頭はイヴ、少し後ろにキリト、ユウキそれからガジルと一護が立つ。勿論、最後尾は太公望だ。

前にいるイヴにキリトが声をかけた。

 

「無理はしないでくれよ、イヴ」

「そうだよ、あのお姉さんが一番ヤバそうだからね!」

「ありがとう……でも大丈夫。私もやられるだけは好きじゃないから」

 

見るからに気合いの入っているイヴ。その表情は僅かだが笑っているようにも見える。

 

「良いか?スリーカウントで行くぞ!」

 

三から数えていき、カウントがゼロになると同時に太公望が周囲に予め作っていた打風輪を放った。

 

「ゼロッ!ーー 疾ッ!」

 

紫の麗人は打風輪を問題なく躱す。ここは作戦での想定範囲内である。躱すタイミングと方向を読み、イヴが彼女の目の前に位置取った。

 

「はぁ!」

 

作戦でのイヴの役割は紫の麗人の足留め。作戦で太公望はイヴに「皆も分かっておるとは思うがあの紫のやつの戦闘能力はかなりやっかいじゃ。故に奴は最後に倒す事になる。しかし、奴は前衛におるので誰かが相手をしなくてはならん。イヴよ、お主には悪いが出来るだけあやつの足留めをしてもらいたい」と言った。

さっきまでの交戦でもイヴは感じていた、今の自分の力では彼女を倒すことが不可能なことはーーーそれでも……やりようはある。

 

「……ッ!」

 

イヴは一歩踏み込み、作った拳を猛烈な勢いで叩き込む。

 

「……黄金の連弾(ゴールドラッシュ)!!」

 

先程までとは威力も速さも上がり、今までは余裕のあった紫の麗人はイヴの対処に追われだした。

イヴのお陰で出来た隙を突き、キリト達は銀髪の少年の前まで駆け抜ける。

「小僧の相手はガジルと一護が適任であろう。奴の前に着いたらわしを入れた三人で奴の円盾を封じ込める。その隙にキリトとユウキはエルフのもとへ行くのだ」それが次の太公望の指示。

回復技を使うエルフを先に押さえ、回復手段を断つのが目的だ。

時間差で太公望の放った打風輪が銀髪の少年に襲いかかる。銀髪の少年はそれを円盾の一つを使い防ぎきる。

 

残る円盾は二つ。

一護とガジルが左右に分かれ銀髪の少年の横を陣取る。

ガジルは大量に息を吸い込み口を含ませると次の瞬間に鉄の息吹を勢いよく吐き出す。

 

「鉄竜の咆哮!!」

 

ガジルにタイミングを合わせるように一護は大剣ーーー斬月を両手で持ち、切っ先を天に向ける。己の力を斬月に最大限込め、振り下ろす時に込めた力を斬撃に変え放つ。

 

「月牙……天衝ーーッ!」

 

二人の大威力の攻撃に銀髪の少年は残りの円盾二つを左右に置いて受け止める。威力が強いからか防御に手一杯になっているように見える。

銀髪の少年の傍を抜け、キリトとユウキが金髪のエルフのもとへ辿り着く。

 

「良しッ!」

 

キリトが安堵した声音で口にする。ここまでは順調に進んだが、ここから先は細かく決まっていない。出来るだけ早くキリトとユウキがエルフを倒し、イヴと合流すること。長引けば長引くほどイヴの負担がそのまま大きくなる。故にキリトとユウキはこのファーストアタックで決める必要がある。僅かに出だしの速かった黒の剣士がエルフにエリュシデータを振り下ろす。

 

「ぜぇぁぁあ!」

「…………ッン!」

 

金髪のエルフは腰に帯刀していた刀を抜き、一撃を防いだ。

防がれた事に驚くがここで止まってはイヴの救援に向かうのが遅くなることを忌避した。降りたエリュシデータを全力で下から振り上げる。

剣と刀がぶつかり、眩い火花を散らして互いに弾かれ合う。

 

「ユウキ!」

「うん!」

 

キリトは弾いた反動に身を委ね、後ろから来ているユウキと入れ替わるように下がる。

 

交差する時、

 

「「スイッチ!!」」

 

二人の声が重なった。

 

紺色の髪を揺らしながら手に持ったマクアフィテルを水色に輝かせる。

 

「やぁぁあ!」

 

四連撃のそれは正方形の軌跡を作るソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》。カラダの記憶とでもいうのか体の赴くままに放った剣技でエルフの意識を刈り取った。

 

動かなくなったことを確認するとすぐに振り向き他の状況を見る。

すでに銀髪の少年はガジルの鉄の腕を腹に受け気絶したのが確認できた。

 

けれど、奥のイヴの交戦は続いている。

急いでキリト達が下がり救援に行こうとする。しかし、先に太公望が交戦している二人に割り込んだ。

 

「……は?」

 

思わずおかしな声がでる。術者である太公望が接近戦を挑みに行ったのだそれも仕方ない、だが太公望の表情を見る限り真剣だ。何か考えがあるのだろうと全員が思った。

 

「わしが相手をしてやろう!」

 

太公望は左手を前に突き刺し宣言すると紫の麗人も無表情のまま構える。

 

「…………………………」

「…………………………」

 

そして二人がいざ拳を交え合うかと思われた瞬間、太公望の左腕が自身から離れ、紫の麗人の額に直撃した。

 

「「……へ?」」

 

その場の全員の声が重なった。

ロケットパンチよろしく放たれた太公望の左手により紫の麗人は意表を突かれたこともあるのか、その場で倒れ意識を失った。

 




読んで頂きありがとうございます。

次回は『聖杯と閃光と変態の女達』

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