メランコリウムに向かっているナハト達は、この世界レーヴァリアのヴールについて説明を受けていた。
「元々ヴールには姿形といったものがありませんでした。しかし、彼らは最近になって力をつけたのかあのような生き物の形を得ました」
ナハトは表情に影を潜めながら話す。
「今までのヴールなら夢守でなくてもルフレス族なら誰でも浄化することが出来ました。しかし、力の付けたヴールでは若仔のルフレス族はおろか、夢守でさえ浄化が困難です」
「なるほどのう。しかしナハトよ。お主は問題なく浄化できていたように思うのだが?」
「それは僕が夢紬だからです」
「夢紬?」
聞き慣れない言葉に疑問を口にしたのはキリトだ。
「ルフレス族の言わば戦闘形態みたいなものです。僕は本でこの力のことを見つけ必死に習得しました。現状、僕の知る限り夢紬になれるのは僕だけです」
「もしかして、さっきナハトが人の姿になったのがそうなの?」
「はい、今までなら夢紬になるのにそれほど消耗しなかったのですが、先の戦闘以降消耗が激しくなっていて……どうしてでしょう」
太公望とキリトと出会う直前の戦闘……金髪の男との戦いから、かなり時間が経ったはずだがその疲れが未だに取れる様子がない。
「ねぇナハト?」
「……どうしました?」
ユウキがナハトに問いかける。
「その今向かってる、めらんこりうむ?だっけ。そこってどんな場所なの?」
「その昔、浄化しきれず封じるしかなかったヴールの塊ラーフ・ネクリア。メランコリウムはいわばその牢獄です」
ナハトは質問に淡々と答える。
「そこでは十分な力をつけたルフレスである夢守たちが結界を作り、外に出さないよう封じ続けているのです」
「あなたはルフレス族はヴールを浄化するために存在すると言ったわ」
次はイヴが疑問を投げかけた。
「ええ。レーヴァリア自体の自浄作用が形を為したものと僕たちはみなしています」
「だが、わし達『夢見る目覚めの人』を呼ぶような状況になるほど今、この世界は穢れておる」
「残念ながら、僕たちルフレスと同様、ヴールもまた絶えずあらゆる場所にその元となる想念が流れ込んでいる」
ナハトの言葉の先をキリトが続けた。
「レーヴァリアと俺たちの目覚めの世界がお互い影響しあっているから、だったか?で、今はヴールの力が強い訳だ」
「その昔、ヴールがヴールを呼び、溶け合い、澱のように淀み、凝り……やがてラーフ・ネクリアが生まれた。一度傾きに弾みがつくと正すのは容易ではありません。今では第二、第三のラーフが生まれる可能性さえあります」
「なるほどのう。それで最初のラーフも封じるしかなかったのだな」
ラーフの力が強いという事は目覚めの世界でそれ相応の事態が起きているという事だ。一行は平原を歩いて行く。ふと、思い出したように太公望が呟いた。
「そういえば、キリトは何故剣を二本さしておるのに片方しか使わんのだ?」
キリトの背中には柄も刀身も真っ黒の剣と鮮やかなスカイブルーの剣がある。しかし、キリトはさっきの戦闘でも黒の剣・エリュシデータのみでもう片方のダークリパルサーは抜いていない。
「ああ、これか。太公望も分かってはいると思うけど俺たち記憶が無くなって戦い方も曖昧だろ?」
「うむ」
「だからかどうかは分からないけど、 剣を二本持って戦う……二刀流か、それが出来ないんだ」
「わしも本来の実力が出せているようには感じんからそれと似たような感じかのう」
太公望は考え込むように腕を組み唸る。その会話を聞いていたイヴが今度は声をかけた。
「キリトとユウキの戦い方少しだけど似ていた」
「そうか?」
「技を出すときどっちも剣の刀身が光っていたから」
「もしかしたらお主らは同じ世界から来たのかもしれんのう」
「俺とユウキが?」
太公望の発言にキリトとユウキがお互い顔を見合わせる。それに照れたユウキが漏らす。
「エヘヘ、なんだか照れるね」
「なんで照れるんだよ!」
「まぁ同じ世界から来たと言っても顔見知りかどうかはわからんがのう。ニョホホホホ」
しばらく雑談も交えながら、ナハトにこの世界についての事を聞き歩いていると宙を浮く神殿の様なものが見えてきた。
「……あれがメランコリウム?何処かで見たことがあるような気がするわ」
「イヴも?僕もなんだが見覚えがあるような気がするんだ」
「それはこの世界が皆さんの意識集合体……心象風景からできているからです」
「俺たちの記憶を基にこの世界が造られているってことか?」
「その考えで問題ありません」
メランコリウムを見上げる一向の視線に二つの流れ星が入った。
「あれは流れ星?」
「いえ、違います!あれは『夢見る目覚めの人』です!」
二つの星はそれぞれメランコリウムの中に一つ、こちらとメランコリウムを繋ぐ橋に一つずつ落下した。
「あっ!橋に落ちたよ!」
「マズイ!ヴールに囲まれるぞ!」
橋に落ちたのは人相の悪い男二人。片やオレンジ髪に真っ黒の死覇装、片や無造作に長い黒髪に顔のいたるところにピアスのようなものが嵌めてある。
「イッテェ!何だよここは」
「ギヒッ!何だが知らねぇがうようよ寄って集ってきやがる」
周りのヴールを睨みつけ戦闘モードに頭が切り替わっている。
「で、オッさん。俺は黒崎一護だ。あんたの名前は」
「ガジル・レッドフォックスだ。……あん?名前以外思い出せねぇ」
「そんなわけ、あれ?俺も思い出せねぇわ……」
橋の外から二人を見ていたナハト一向は呆れていた。
「何なのだあの二人は。囲まれおるというのに余裕ぶっこいて、自分の現状を把握しきれておらんのか」
「でもあの二人凄く強そうだよ!ヤンキーみたいだね」
「俺何だか、あの二人を助けるのすごく嫌なんですけど……」
「そうも言っておれん。早く助けに行かねばヴールに取り込まれかねんからのう」
「それにヴールの数も増えていっている」
それぞれ武器を取り出して橋を渡り、二人の近くまで駆け寄る。勿論、ナハトは夢紬の姿に変わっている。
「一護、俺の邪魔をするなよ!」
「ガジルこそ俺の間合いに入ってくるんじゃねぇぞ!」
一護は背中にあった大太刀、斬月を手に取り構え、ガジルは手を鉄の剣に変化させた。
「その剣、中々カッコいいじゃねぇか」
「ガジルこそ、その手の剣イカしてるぜ」
お互いを褒め称えあう二人、その二人を見かね太公望が叫んだ。
「お主ら!もっと緊張感をもたんか!!!敵が目の前にいるのだぞ!!!」
「うおっ⁉︎俺達以外にもいたのか」
「そうみてぇだな。一護、先に行くぜ!」
「おい、ガジル!俺もいっちょやりますか!」
太公望に促されやっとヴールと対峙する二人。気の抜けていた二人ではあるがその実力は眼を見張るものがあった。
「何だ、やれば出来るではないか」
「黒髪の方、戦い方が微妙にイヴと似てる気がするけど知り合いか?」
「記憶がないからわからないけど、多分違うと思うわ」
「どうしてだ?」
「だって、あの人鉄を吐いてるもの」
「そんな人が鉄を吐くって、あるわけ……がぁあ⁉︎」
「鉄竜の咆哮!!」
吐いてました。それはもう凄い勢いの鉄の息吹を吐いてました。
一護とガジルの奮闘のお陰か、気付けばかなり早く辺りのヴールを一掃できていた。
「ギヒッ。肩慣らしにもならねぇ」
「なんか、まだ剣に慣れねぇな」
二人して首をゴキゴキ鳴らし伸びをしていた。二人に夢紬の姿となっていたナハトが近づく
「二人とも無事ですか?」
「ああ、問題ねぇよ」
「俺もだ」
「よかった。私はナハト、この世界レーヴァリアの夢守です」
「俺は黒崎一護だ、それでこっちが……」
「ガジル・レッドフォックス」
「それで、どういう状況なんだ?」
読んで頂きありがとうございます。
次回もナハト編です。