レーヴユナイティア 記憶を無くした戦士達   作:蹴急

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夢の始まり 後編

「……助けて」

 

どこからか小さく助けを求める声が聞こえ、金髪の少年は目を覚ました。

 

「……はっ⁉︎ ……ここは⁉︎」

「大丈夫か?」

 

声をかけたのは赤い髪をした自分よりも少し年上くらいの少年だ。赤髪の少年の服はジーパンにTシャツと簡素だ。

それに反するかのように金髪の少年の服はズボンは黒で赤のインナーに白の外套とマントを羽織っていて豪華である。

 

「うん、大丈夫みたい。それよりここってどこなんだろう?」

「それなんだけど、言いにくいなぁ……」

「何か問題でもあるの?」

「俺もわからないんだ、気が付いたらここにいて」

 

申し訳なさそうにする赤い髪の少年。

 

「君もなんだ。……あれ?何も思い出せない⁉︎嘘……君は何か思い出せる?」

「えっ……思い出せない……いや、名前は覚えているみたいだ。衛宮、衛宮士郎だ」

「本当だ。僕はシンク・イズミ。シンクでいいよ。僕達って知り合いだったりしたのかな?」

 

士郎の顔を覗き込むように問いかけるシンク。けれど士郎は特に考える事もなく辺りを見渡した。

 

「どうだろう。それより辺りを調べないか?何かこの状況の手掛かりがあるかもしれないしさ」

「うん、そうだね。ここで悩んでても仕方ないか」

 

歩き出し辺りを見渡していく二人だったが、士郎が急に歩みを止めた。

振り向き、それに気が付いたシンクが声をかける。

 

「士郎?何かあったの?」

「声がきこえないか?」

「……声?」

 

耳を澄ませるシンクに微かだが悲鳴のようなものが聞こえてくる。

 

「……けて。……たすけて!」

 

「本当だ!」

「やばそうだぞ。聞こえてくるのは……あっちだ!」

「士郎⁉︎ 待ってよ!」

 

一人走り出す士郎を追いかけるようにシンクも走る。

声の元へたどり着くと翠色のした生き物が狼型のヴールに襲われていた。

 

「誰か……誰か……助けてください!」

「あれは……」

「何だかわからないけど助けないと!」

 

条件反射のように飛び出す士郎をシンクが止める。

 

「ストップ!」

「どうして止めるんだ!?」

「士郎は戦えるの?今、僕達は記憶を無くしていているのに戦い方とかわかるのかな?」

「それは……。でも見逃すなんて俺には出来ない!それに戦い方なら……身体が覚えているような気がする」

「それってどういう意味?僕達見た所武器なんて持っていないんだよ?」

 

シンクの言う通り、二人の持ち物に剣などといった武器は無い。士郎にいたっては服以外何も身につけておらず、シンクも手に赤い宝石の入った指輪をしているだけだ。

 

「いや、わからないけど……⁉︎」

「どうしたの?」

 

シンクの問いに答えず、士郎は手を前へと突き出し、唱えた。

 

「……トレース・オン!」

 

どこからとなく士郎の手に白黒の夫婦剣が現れた。

 

「どうやって……!?」

「わからない……身体の内から何か溢れてきて…………けどこれであの子を助けられる!」

「あっ!もう……どうにでもなっちゃえ!」

 

襲われている子を助ける為、士郎がヴールの群れに向かった。後ろから追いかけるシンク。

 

「はぁぁあ!」

 

どこかぎこちなさを残しながらヴールを斬る士郎。しかし、次々にとヴールが増えていく。

 

「うわ、なんか増えたよ!それにゾンビみたいなのもいる!」

 

狼型のヴールの攻撃を走って、跳んで、側転して躱し、襲われていた生き物を助け出すシンク。

 

「捕まえた!君、大丈夫⁉︎」

「あ、ありがとうです」

 

しかし、士郎一人で対処仕切れない数な為にシンクは狙われ続ける。

 

「あーもう、何でもいいから武器があれば!」

 

呟いた瞬間、シンクの右手に嵌められいた指輪が輝き、背丈ほどの棒に変わった。

 

「ええ!?指輪が棒に⁉︎……でもこれで僕も反撃出来る!」

 

左手に救った子を抱えつつ、右手に持った棒状の聖剣パラディオンで次々とヴールを倒していくシンク。

たまにアクロバティックな動きを入れる為、左手の辺りから悲鳴が聞こえるが気にする様子はない。

そして……

 

「これで!」

「フィニッシュ!!」

 

最後のゾンビ型ヴールを二人で倒すと、シンクの棒は指輪に戻り、士郎の剣は消えた。

 

「あ、あのあの……ありがとうでした……」

「怪我はない?ごめんね、腕の中狭かったでしょ?」

 

そういって腕の中から解放する。

 

「無事でよかった。俺は衛宮士郎、こっちがシンクだ。君の名前を教えてくれないか?」

「は、はい!え、えとボク、テルン。ルフレスのテルンです。あ、ルフレスというのは種族の名前で……」

 

おどおどとして慌てながらも自己紹介をするテルン。そこで何か思い出したかのように声を上げる。

 

「そうだ、ボク、皆さんを探していたです!」

「俺たちを?」

「はいです!皆さんは『夢見る目覚めの人』ですよね?」

 

さっきまでと違いどこか強い想いを感じるテルンの言葉。けれど、士郎とシンクは首を傾げるしかなかった。

 

「夢……見る」

「目覚め……の人?」

「え、あの、ち、違うんですか?」

 

二人の戸惑いを見て、テルンはいつもの調子に戻ってしまった。

 

「違うも何も……なぁ?」

「そうだよね」

「で、でもでもちゃんと人の姿をしてるですよ!」

 

テルンの反応にどう返せばいいかわからず、士郎は申し訳なさそうに応えた。

 

「俺たちここで起きてから、どうしてか名前以外何も思い出せないんだ」

「さっきも君を助けるとき何とかやってみて、どうにかなったけど。僕も士郎も多分本来の実力の半分も出せてないかな」

「う、うそ……」

 

テルンはその場でへたり込み小さな手で頭を抱えながら呟いた。

 

「覚えて……ない。そんな、儀式がちゃんと出来てなかった?もしかしてヴールのせい?」

 

もしくは若仔だけでやったから?力が足りなくて……流れ星になって街に召喚できなかったのもそのせい?

 

「テルン?」

 

士郎の呼び掛けで思考の渦から解放された。

 

「あ!はい……すみません。こ、ここは夢の世界でレーヴァリアと言います」

「夢の世界?さっきみたいなのがいるのにか?」

「え、えとそういう意味の方じゃなくて……ね、眠る方の夢……です」

 

夢の世界、それも寝ている方の夢と言われても、いまいちピンとこない二人はただ首を捻るだけ。

 

「あ、あの……とりあえず、もっと安全なところに行きませんか?この先に僕たちのルフレス族の街があるです。そこでもっとお話しするですから……」

「そう……だね。ここだとまたいつ襲われるかわからないし、お願いするね」

「はい、こっちです!」

「あ、テルン!もう少し落ち着いてもいいと思うんだけど……士郎?」

 

振り向くと士郎はその場で立ち尽くしていた。

 

「これが夢?俺たちに記憶がないのもここが夢の世界だからなのか?」

「それを今から聞くんでしょ?早くテルンを追いかけないとまたテルンが襲われるかもしれないよ」

「そうだな。街に行けば俺たちの他にも人がいるかもしれない」

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

ナハト編とテルン編は基本同時進行で進んでいきます。

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