眠り……
1日の終わりに人は眠る
仮面を外し、
鎧を脱ぎ捨て、
己が身一つで、
現実を後に、
お尻に狐のような尻尾が生えた青髪のローブを着た青年が、この世界レーヴァリアの負の権化であるラーフ・ネクリアからでたヴールと戦闘を終えていた。
「くっ……大分消耗してしまったようだ。けれど早くメランコリウムに戻らなくては!」
ナハトは焦っていた、漏れでたヴールを浄化する事に成功したものの、本体のいるメランコリウムはまだ万全とはいえない。
結界を完全なものとしない限りこの夢の世界は穢れていく。
しかし、彼は突如として光り輝いた上空に目を奪われる。
「なっ、あれは召喚の儀式?まさか若仔だけで……ダメだ、力もない若仔だけでは安定していない」
光の正体にすぐに気付き慌てる。
召喚の儀式は夢守であっても数人で行う儀式だ、それを知識も力も経験も足りない若仔が集まって挑んでも不安定になるのは当たり前だ。現に光は揺らぎ安定とは程遠い結果になっている。揺らいでいた光は徐々にその揺れを大きくする。瞬間、大きな輝きを放つと光は散り散りとなりいくつもの流れ星となった。
「あの流れ星一つ一つに目覚めの人が……、近くに落ちた⁉︎ とりあえず、行かなくては!」
森の中、二人の男がいた。片方は地で寝ており、もう片方がそれを立った状態で見ていた。少しの間起きている男は辺りを見渡し自分の今の状況を整理、把握しようとする。しかし、手掛かりもないままに隣で寝ている少年が起きることを待っていると、寝ている少年の長い睫毛がピクッと動いた。
「ん、ここは?」
「どうやら目覚めたようじゃのう」
一見、女子とも見間違えられそうな容姿をした黒髪の少年は声を掛けられた方を見る。そこにいるのはジジィくさい喋り方とは違い若い少年の姿があった。
「さて、起きてすぐに申し訳ないんじゃが、お主の名前を教えてもらってもよいかのう?」
問いかけたのは彼と同じ黒髪だがその頭には二つのとんがった耳のような帽子を被っている。
「俺は……桐ヶ谷和人、たぶんキリトって呼ばれていた。それで、あんたの名前は?」
「ふむ、キリトか。わしは太公望・呂望だ、太公望でよい。それよりお主どうしてこんなとこで寝ておったのだ?……まぁ予想はある程度ついておるのだがのう」
そう言って太公望は自身の着ている紺の外套の埃を払う。
「なんでって…………ん⁉︎なるほどな、もしかしてあんたもなのか。何も思い出せない」
深く思い出そうとすると何故か霞がかかったかのようになる。
きっと、太公望も同じ状況なのだろう。
太公望はキリトの発言に若干だが落胆した。
今の状況での頼みの綱は自分の近くで寝ていたキリトだったのだから。
「やはりのう、お主が頼りではあったのだが無理そうじゃ。それにここは普通の森とは何か違うようだしのう」
「どこが違うんだ?」
「なんというか嫌な感じがするのだ。ここにいると無性に気が立ってくる」
胸のあたりを撫り、込み上げてくる暗い澱んだ気持ちを抑えようとする太公望。キリトもそれは感じ取ってはいるはずだが流されているのだろう。
「煮え切らない言い方だな。一体ここはどこなんだ?」
「今それを知る方法はなかろう」
「わかっているよ、ーーっと!」
会話を遮るように一匹の狼が現れ、キリトが背中に二本あった剣を一本手に取り、斬り捨てた。
すると、狼はその場から霧散し、消えた。 その現象を見て太公望が訝しむ。
「ん?消滅したじゃと?」
「えっ……それって普通じゃないのか?」
「ん?」
「え?」
意見の割れた二人は顔を見合わせた。先に口を開いたのは太公望だ。紡ぎ出る言葉には若干ながら問い詰めるようなもの言いが含まれている。
「そんなはずあるまい。生き物がその場で消滅するなどおかしいではないか!」
「あ、ああ……言われてみればそうだよな。なんで俺、普通なんて言ったんだろう?」
頭を掻いて目をそらすキリトに太公望は妙に引っかかった。
「お主……何か隠しているのではないか?」
「なっ⁉︎ そんな訳ないだろ!太公望の方こそ何か知っているんじゃないのか?」
徐々に苛々とした怒りの感情が募る二人の周りに黒い煙のようやものを纏った狼や蜂が集まっていた。
キリトと太公望が騒いでいる中、青い髪の青年が森を慌ただしく走っていた。
「いた!あれが目覚めの人か。だが何か様子が可笑しい?」
流れ星の着いた先を目指しやって来たナハト。しかし彼らの周りはヴールが寄り集まっていた。
「ヴールに囲まれている⁉︎ まさかヴールの気に侵されてしまったのか⁉︎」
見るからに二人の様子が可笑しく、周りのヴールが彼らを襲う気配がない。
「あ……ああああ!!」
「ぐっ……ぐぁぁあ!」
「怒り、憎悪、……何とかして二人を浄化しなくては」
ヴールに取り込まれた事によって人の暗い感情、怒りや嫉妬、憎悪、が強く出ている二人の浄化を試みるナハトに周囲のヴールが襲いかかる。ナハトはそれらをなんとか捌くもギリギリだ。それもそのはず、先程の戦闘で消耗している訳で、ナハトだけでは二人同時に浄化する事が出来そうにない。故にここは一人ずつ浄化する他ない。
「先ずはまだヴールにそこまで取り憑かれていないあの杖の持った少年からしよう」
デルタレイを唱えると、三本の光の矢が現れ太公望の周りにいるヴールを払う。周囲にヴールが消えたのを見て苦しんでいる太公望の近くまで急いで駆け寄る。
「悲嘆、憎悪……負の感情がかなり渦巻いている。急いで浄化しなくては!!」
ナハトが浄化をするとすぐに太公望は正気を取り戻した。ヴールに取り込まれていた時の記憶はない為に太公望は戸惑った。
「ん?わしは一体……」
「すまない、説明している暇がないんだ。手伝ってくれないか?」
「お主は……あれは!」
「おおおぉぉ!……お、れは、コロス!」
何が起きているのか理解できていない太公望。
しかし、ナハトに問いかける直前に理性を失っているキリトが目に入り驚愕した。
「あれはキリトか?まさかわしもあの様な状況になっておったのかのう?いささか信じたくはないが……キリトを抑えればよいのか?」
「理解が早くて助かる。お願い、できますか?」
「うむ、これでは落ち着いて話もできんからのう。わしが周りにいる奴らを先に払おう」
太公望が手に持った打神鞭に力を込めると周囲に風が吹き始める。
「行くぞ!疾ッ!」
風の刃をヴール目掛けて二つ放つ。
切られた狼型とグール型のヴールが跡形も無く消滅していく。
「ふむ、やはり消滅する様じゃな」
その現象を興味深く観察しながら、残ったヴールも残らず消滅させる。
すると、太公望に迫る影が一つ。
「なぬっ⁉︎」
剣を携えたキリトが太公望目掛けて、その剣を振り下ろす。何とか打神鞭で防ぎ、距離を取る。
「どうやら怒りに自我を持って行かれている様じゃのう。すまぬが少々痛い思いをしてもらうぞ⁉︎」
先程よりも大きな風の刃をキリトに向ける。
その威力に堪らずキリトは近くにあった木に打ち付けられぐったりとしてしまう。
その隙をついて太公望がナハトに向かって叫ぶ。
「今じゃ!」
「はい!浄化します」
キリトの浄化を始め、浄化を終えるとナハトは人の姿を保てずルフレス本来の姿へ変わった。
「うっ!」
「大丈夫か⁉︎」
咄嗟に駆け寄りナハトを手に収める。
「ありがとうございます」
「いや、よいのだ。それにしてもお主は一体何者なのだ?」
「私は……」
「うっ……俺は何を……」
ナハトの言葉を遮る様にキリトが目を覚ました。
「どうやら目覚めたようじゃのう」
「ん?何かデジャブを感じるような……」
「気の所為ではないかのう?」
飄々としてキリトの追求から逃げる太公望。
「そうかな……太公望、その手の中にいる生き物は?」
「ああ、こやつが正気を失っていたわし達を助けてくれたのだ」
キリトが太公望の腕にいる青い小さな生き物がいる事に気づく。小さな頭は三日月のような形をしている。
「そうなのか、ありがとう。えっと……」
「私はナハト。この世界レーヴァリアの夢守です」
「レー……ヴァリア?」
「夢守とな?」
首を傾げる二人にナハトがこの世界について説明を始めた。
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