仮面ライダーアマゾンズ -ϘuinϘuennium- 作:エクシ
ジリジリと暑い日照りが続く中、七羽は島田と共に穴が開いてしまった屋根の修繕をしていた。
「はい2人とも!冷たい飲み物どうぞ!」
カオリがアウトドア用のコップにいれた水を梯子の下に置いた。
「あ、ありがとう!」
「ごめんね、千翼の遊び相手してもらってるのにこんなことまで…。」
「逆ですよ。私たち修理とかそういうの出来ないから七羽さんにお願いしちゃったんです。」
そういうとカオリはまた海岸でスイカ割りをしている千翼たちの元へ走っていく。別荘での大規模駆除が起きた後、仲間たちはバラバラになってしまった。しかしアマゾン同士の共鳴によって徐々に仲間が集まっていき、今は10数名のコロニーを形成している。
「そういえば前にいたふれあい動物パーク、あそこに鷹山仁が現れたらしいですよ。」
「…!そう…なんだ。」
「悠もいたらしいからあとから言ってみたんですが、まぁ当然誰もいなくて。」
「あの子、まだ生きてるんだ。」
微笑を浮かべて梯子を下りる七羽。もう修繕は終わったようだ。
「前にいた場所に鷹山が現れるってことでここもいずれ危ないかもしれない。だから別の隠れ家になるかもしれないところを見てきます。」
島田も梯子から降りると土間に置いてあったポーチを手に神山の名を呼ぶ。
「神山さんも行くの?」
「ちょっとまぁ…なんていうか…。」
「俺も行くぜ、七羽ちゃん!」
神山に続いて剛も家から出てきた。江戸っ子を思わせるねじり鉢巻きは顔のあちこちにしわのある剛の顔にとてもよく似合う。一方の神山は前に比べて随分アマゾンたちと話すようになったものの、七羽と話すときはどこか恥ずかしそうだ。
「いってきます…。」
「いってらっしゃい。」
七羽に送られて島田と神山、剛は隠れ家を後にした。海岸を歩いてから人の目に着かぬように田舎町を通っていく。町を抜けて山道に入ると先ほどよりもずいぶん涼しくなった。直射日光も当たらなくなったので神山は麦わら帽子を外した。
「あー涼しい…。まだ夏は続くからこういうところに隠れ家を用意しておくってのもありだなぁ。」
「神山ァ…おめえなんか…。」
「?」
「いい感じになったな。」
「ハァ?何言ってんすか。」
恥ずかしそうにまた麦わら帽子を深くかぶる神山。大規模駆除から必死に逃げている間に神山は性格が変わったような気がする。
「ただ…アマゾンも必死に生きようとしてるって思っただけすよ。人間も一生懸命生きようとしてて…そんな奴らを騙すようなことして飯食ってたんだなって実感しちゃって。」
「それがわかっただけでも十分いいことじゃねえか。アマゾンに喰われてなくてよかったな、神山くんよ!」
ボンと神山の背中を叩く剛。
「それともう神山はよしてください。本名の小林でいいですよ。」
「神山の方がなんか面白いじゃないか。自分でつけたんだろ?だっさいな!」
島田も神山をからかって笑い飛ばす。思わず神山も照れ隠しに島田へ体当たりしようとすると、木の幹に足を引っかけて転んでしまった。
「おぉい!大丈夫か?」
「いって…くじいたかな?」
「しょうもないことでケガすんのは相変わらずだな。」
「ん…あ!ちょっと島田さん!あれ!」
ちょうど転んだ角度の視線の先に川が流れ、そのほとりに小屋が立っている。
「でかしたぞ、神山ぁ!」
「小林でいいです!」
神山に肩を貸す剛と島田、なんとかその小屋までたどり着いた。剛が足を看てみると捻挫している様子だ。
「湿布持ってくりゃよかったなあ。」
「じゃあ自分戻って湿布とか持ってきますよ。」
「夜にならんようにな。このあたりよくわかんねえからよ。」
このあたりにアマゾンが出るなどは聞いたことがないが一応ショットガンライフルを一丁置いて島田は七羽たちのいる隠れ家へ戻る事にした。4時間もあれば往復できるだろう。
かつては足手まといとして嫌がっていた神山の存在も今は足手まといであることに変わりはないものの嫌な感じはなかった。
いやむしろ人間の彼が自分たちを毛嫌いせず接してくれるようになったことは心地の良いことでもあったのだ。
そのような良好な関係を最も喜んでいたのは人間とアマゾンの共存を夢見ていた剛だ。生きてさえいて正常な状態であれば天城はもちろんだったが…。
「剛さん、ちょっと飲み物貰っていいすか?」
「…。」
「剛さん?」
足をさすりながら立ち上がってゆっくりと剛のいる方へ向かう神山。ゆっくりと振り返った剛の首から顔にかけて黒い血管が浮き出たかのような模様が浮き出ている。
「ひゃあ!つ…剛さん!?」
「か…みやま…。」
腰を抜かす神山の前で剛は熱風を放ちながら異形の姿へと変わっていった。
青山は溜息をついてから隊員たちが待機する部屋へ入った。一面が打ちっぱなしのコンクリートで寂しい感じは否めない。入ってまずすぐに白木が立ち上がり一礼をしてくる。
別荘での一件で白木隊はほぼ全滅し、その責任を取る形で白木は隊長から降ろされて青山隊に配属となった。政府側の人間とはいえ優しく協調性もある白木が隊に入ったことは青山にとってはよいことだった。
青山隊にいた藤尾は隊長となり中島と共に隊を編成したという。これで青山隊は福田、白木、そして別荘戦で得た4Cの新たな戦力 商の4人となった。
商はといえばことあるごとにロウ成分の入ったアマゾンズインジェクターを体に打ちこんでいる。最近は接種のし過ぎを白木に叱られていた。
半年ほど野座間の駆除班で戦っていたようだったが、そちらに未練は特にないと言っている。人間を喰らっていた時は喰う立場でありながらその人間に追われる
トラロックによってそれが変わり、アマゾンを喰らうようになると今まで命を狙ってきた者たちが今度は自分を必要とするようになる。駆除班での活動はそれを特に感じることが出来たという。
しかし分け合って駆除班ではなくロウ成分を持つ4Cの方へ自ら望んできた。青山には理由が分からなかったが、本人が納得していればいいと思っている。
「そう言えば青山、水澤美月はどうなってる?」
「あー、福田さん知り合いなんでしたっけ?ウチに預けられてはいましたけど本人の希望でまた訓練生に戻りました。なんかまだ自分はアマゾンとは戦えない、やらなくちゃいけない訓練がある…とかで。」
「…そうか。」
福田は4Cに入ってから饒舌になった…気がする。野座間の駆除班にいた時には声など聴いたこともなかった。
あの頃から随分状況は変わったなあなんて考えていると別室のサイレンが鳴り響いているのが聞こえた。しばらくして男たちが武装して地下駐車場に走っていく足音が聞こえる。
「どこの隊だろ?」
「今日の当番は黒崎隊ですね。」
さすが白木。
黒崎隊は名前の通り黒咲が隊長を務める実力派の小隊だ。橘自らの推薦で黒咲は4Cに来たということもあり政府から派遣された札森は黒崎の下に着くことになったことに納得がいっていないようだった。
同じ隊の本田と鴻も初めは同じような感じだったが、訓練で黒崎の実力を見てからは他の隊長に対してと同様、敬意を示すような態度に変わったらしい。
すぐに足音はなくなる。輸送用バンに皆乗り込んで現場にいったのだろう。待機班である青山隊はそれぞれの暇つぶしをしていた。
4Cの輸送用バンを進めるギリギリのところで駐車して黒崎隊は銃器を手に山の中を進む。今回のアマゾン出現の警報はアマゾンズレジスターから発せられた反応ではなくこの山を歩いていた登山客が呟いたSNSがきっかけだった。
7年前野座間製薬で事故が起き4000匹の実験体が放たれた際、すぐに野座間製薬は極秘に日本政府に対してそのことを報告した。
それによって日本から出国する際は極秘でアマゾンか否かを確認するシステムが空港や港でなされるようになったため、国外に実験体がいることはほぼ100%ありえない。
とはいえ念には念をということで4Cの情報部は世界中のSNSを常に監視し、アマゾンらしき目撃証言があればどんな遠い場所にも駆けつけることにしているというわけだ。
その監視体制が今日初めて役立つ…かもしれない。登山客曰く遠くにあった小屋から悲鳴のような声と獰猛な生物の唸り声が聞こえた”かもしれない”とのことだった。
黒崎は性格柄そのような曖昧な情報で駆り出されることにとても不快感をあらわにしていた。しかし問題の小屋に着いた時に不快感は消えた。
血の匂いがする、それもかなり強い。小屋の中からは何かを喰うようなクチャクチャという音が聞こえる。
クマなら一発で殺せるが経験からこの感じは山に住む動物ではないと黒崎は察していた。バンに残った札森以外のメンバー2人は小屋の扉の左右につき、ボタンフックエントリーによる突入準備を整える。
黒崎のアサルトライフルによる射撃で扉が壊れると同時に黒崎は左手で合図をし、本田と鴻がサブマシンガンを構えながら小屋へ入った。
部屋の中はまさに血の海。捥げた四肢と臓器が辺りに散らばっている。人の体だった肉の筋肉の筋を丁寧にすすっている老人の姿。
「こ…これは!」
「札森ィ!」
『んー、おかしいっすね。腕輪の反応はないですー。』
ということはアマゾンズレジスターがついていない、あるいは自力で外したアマゾンなのだろうか。いずれにせよ満面の笑みで振り向きながら熱を発し始めた老人は間違いなく
半分寝かかっていた青山の所に増援要請がかかってからすぐに青山隊も出動し、数十分で現場に到着した。隊員で死人は出ていないらしいが苦戦しているようだ。
いつも偉そうな黒崎が増援を頼むのは相当なのだろう。笑顔を見せている商を除いて青山隊の隊員たちは緊張感に苛まれている。
銃撃音がする方向へ向かうと小屋の近くでヒヒアマゾンと黒崎隊が戦闘を行っていた。電撃が走る弾丸を撃ち込んでも大して効いている様子はない。通常の実験体ならばかなりの効力があるはずだ。
「くっそ!なんだコイツ!」
「隊長!弾がもうありません!」
「くそがァ!」
黒崎が悔しがっているのは先ほども言ったように気分がいい。しかし今はそんな状況ではない。福田のスナイパーライフルから放たれた弾丸がヒヒアマゾンの足に命中する。
「…!やっと来やがったか!おせえぞ、青山ァ!」
「うるさい!こっちだって急いできたんだ!それよりアマゾン1体ごときで何苦戦してんだ!」
「そんな言うならやってみやがれ!」
「だそうだ、商!」
「…あぁ!」
商の腰には既にネオアマゾンズドライバーがつけられている。オレンジ色の液体が入ったアマゾンズインジェクターをインジェクタースロットに装填し操作する。
「ウウウ…アマゾンッ!!」
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とてつもないオレンジ色の爆炎と同時にバリアのような半球体を出すエフェクトがかかり、商はアマゾンニューコッパへと変身した。
ロウ同様、コッパの姿に不完全な装甲が胸につけられただけだが、ネオアマゾンズドライバーによって適量のロウ成分が摂取され続けているため、戦闘力はもちろん食人ならぬ食アマゾン衝動も高まっている。
「ウゥウウアアア!」
待ちに待ったごちそうだと言いたげにヒヒアマゾンに飛びかかるニューコッパ。噛みつき攻撃は弾丸と異なり傷口からは黒い血は噴き出している様子から効果を示しているようだ。
「物理攻撃が一番ってか。」
「そっちが得意な奴はあいにくここにはいない…。商!頼むぞ!」
「ウウウ!!わかっている!!!」
興奮しつつもまだ理性は保てている。4Cに商が入ってから間もない時はアマゾンの存在に興奮してしまいまるで周りの声は聞こえていなかった。
ニューコッパは左手のアームカッターの刃を大きくさせヒヒアマゾンの頸動脈を一撃で切り裂く。尋常ではない量の血が噴き出しそれを顔に浴びるようにニューコッパは近づいていく。
「オラ、解ける前に喰うんだろ?早くしろよ。」
黒崎が吐き捨てるように言うとため息をついて撤収準備を始めようとした。ニューコッパは商の姿に戻ると言われるがままにヒヒアマゾンの死体を貪る。
肉を口にいれた瞬間、とてつもない違和感を感じる。
自分はアマゾンが喰いたい。でも今口にした肉はわずかに人間の味がする。自分は人間を喰いたくない。アマゾンが喰いたい。今アマゾンを食べている、アマゾンの味がする。自分はアマゾン。アマゾンがアマゾンを喰らう…………?
「ウアアアアアアア!!!!!!」
訳が分からなかった。そうだ、自分はアマゾンがアマゾンを喰っていいのか疑問に思っていた。しかし人と生活を共にすることでアマゾンを喰らえば人間に必要とされるからその疑問を自分の心の奥深くに隠していたのだ。
今口にした人間の味もするアマゾンの体はそれを商に思い出させた。発狂を続ける商を落ち着かせようと青山隊の隊員たちが近づくが興奮を抑えられない商の体から熱が放出され始める。
「伏せろ!!」
黒崎の声と共に商はサソリアマゾンへと姿を変え、毒が仕込まれた尾を見境なく振り回す。ヒヒアマゾンに突き刺さる直前に死体は解けることなく硬化する。
「!?」
サソリアマゾンの暴走に気を取られている白木以外はそれに気が付かない。しばらく尾によって木々がなぎ倒されていったが、まもなくして辺りは静かになる。
サソリアマゾンはいなくなった様子を遠目から見た島田は涙を流しながら隠れ家へと帰っていった。
サソリアマゾンから商の姿に戻るとすぐに道の端に吐瀉物を出した。もはやアマゾンを喰いたいのか人間を喰いたいのかわからない。体と心の受け付けているものがめちゃくちゃで、何なのかわけがわからない。
「お前、アマゾンを喰えなくなってきたのか?」
振り向くとそこにはフードをした男が立っている。辺りをキョロキョロしているが焦点が定まっている様子はない。
「ハァハァ…鷹山…仁!」
「やっぱこの匂いはお前だったか。前に嗅いだことがあると思ったよ。それにアマゾンの血の匂いもしたからな、お前がそのアマゾンを狩ったんだろ?」
「そうだ!俺はアマゾンを喰らう!」
「おいおい、でも胃酸の匂いがプンプンだ。アマゾンが食えなくなってんだよ、お前。」
「どういう…ことだよ!」
仁はフードをとってアマゾンズドライバーを腰につけた。
「お前トラロックによる症状は既に治ってんだよ、俺と同じくな。」
商にとってのトラロックの影響は食人衝動が食アマゾン衝動に変わった事。それが治ったということは商が欲するのは人の肉ということだ。
「で…でも俺はロウ成分を打ち続けている!あれさえあればどんなアマゾンだって人じゃなくアマゾンを喰らうようになる!」
「そんな便利なもんがあったらとっくに野座間の本部長様が利用してるだろうよ。トラロックを大量に浴びた者にしかロウ成分は効かねえ。そういったとこだろ、ロウ成分ってのは。」
確かに天城とはトラロックの雨を浴びながら戦闘を行っていた。たまたま自分は傷口からトラロックが侵入し症状が出たようだが、天城も症状には出なかったもののトラロックを浴びていたのは事実。
つまりロウ成分によってアマゾンを喰らう衝動に駆られるためにはトラロックを浴びてそれが体に残留していなくてはならないのだ。
「でももうトラロックからは3年。おかげさまで俺もこの通りトラロックの影響なんて治っちまった。まぁこの目は別件だけどな。」
目と目の間の傷をなぞった仁はその手でアクセラーグリップを捻った。
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「アマゾン…!」
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自分の体に起こっていることを知り震えが止まらない商。容赦することなくアルファが戦闘態勢を取った。
お久しぶりです、エクシです。
ちょっと忙しくて更新が遅れてしまいました!しかしモチベーションは皆様の感想のおかげで高いままですのでご安心ください!
そしてさらに謝らねばならないことが…。
この小説で赤松と仁が会ってるのですが、本編を見直していたら赤松も仁のことを都市伝説扱いしてましたね…。
多めに見て頂けると幸いですw
まだちょっと忙しいので行進遅れてしまいますが読み続けて頂けると幸いです!