仮面ライダーアマゾンズ -ϘuinϘuennium-   作:エクシ

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アマゾン。それは敵対者たち。ついに寄生型アマゾンを宿主ごと駆除することに決めた野座間製薬。その意見に納得しかねる駆除班の面々に対し悠と煌が選んだ道とは…。


Episode2「Opponent」

死にかけている緋彩の腕に注射器が刺さる。中学生になっても注射が嫌いだった緋彩で打たれるとなれば泣きだしてしまうような女々しさだったので今は意識を失っていることが幸いしたかもしれない。

 

それにしてもここはどこなのだろう。どこかの学校…いや大学に連れてこられたようだ。多くの試験管やフラスコが置かれているがここしばらく触れられた跡はない。

 

妙に冷静でいられるのはなぜだろうか。自分をここまで連れてきたのはアマゾンであるのに。施設の子供たちが変貌し同じ子供を喰らっていたあのアマゾンと…。

 

思い出しただけで震えが止まらなくなってくる。注射器を置いた男が煌の傍に寄ってくる。

 

 

「大丈夫…大丈夫だ。」

 

 

 

 

 

 

 

煌が目を覚ましたのはノザマペストンサービスのアジトだった。ビールの缶があちこちに転がっておりそれを避けながらトイレに入る。

 

あの日の夢を見るのは久しぶりだ。緋彩も同じような夢を見ることはあるのだろうか。

 

そんなことを考えながら煌は便座に座った。

 

 

 

 

 

 

 

会議室から令華は真っ先に出てきた。寄生型アマゾンをどのように駆除するか。その議論がここ数か月の議題であった。

 

寄生型アマゾンは宿主が生きている状態で肉体を支配していく。生きている人間ごと殺してしまうのが一番手っ取り早い駆除方法であるが、駆除班の者たちがそんな命令に従うはずもない。

 

初めはその命令を押し通そうとしていたものの、最近は悠や美月の強情っぷりに圧倒され口を出すのをやめていた。

 

しかし宿主を傷つけないようにしようとするため、寄生型アマゾンの駆除率は4Cに比べ抜群に悪い。「口を出しても無駄」などと言っている場合ではないのだ。

 

4Cよりも優れていることが世間に証明されなくては再び事業縮小も避けられまい。令華はスマートフォンのアドレス帳からノザマペストンサービスをタッチした。

 

 

 

 

 

 

 

『私です。皆さんにお話があります。』

 

 

加藤は指示通りハンズフリーにして二宮隊、福田隊の隊員たち全員に令華の声を聞こえるようにした。

 

 

『この度役員会議で寄生型アマゾンの駆除方法が決定しました。”宿主ごと駆除”とのことです。国の方にも許可を取ってあります。』

 

「そんな…待ってよ、母さん!」

 

『これは決まったことです。しないというのであれば新たな駆除班を再編することも視野に入れる…とのことです。』

 

「そんな…。」

 

『現場にいる皆さんがご存知の通り、寄生型アマゾンを宿主から引きはがすことは大変難しいです。強引に引きはがそうとすれば宿主の皮膚、臓器に影響が及び十中八九それが原因で宿主は死にます。』

 

「それをどうにか出来るようにって私たちは言っているの!」

 

 

美月は思わず立ち上がって顔の見えぬ母に向かって言う。

 

 

『どうにか出来ていればやっているわ。それが出来ないからこうして命令しているのでしょう。』

 

「…1つ聞きたいことがある。」

 

 

福田が話すと皆が福田の方を向いた。

 

 

「アンタは寄生型アマゾンに寄生されたら…自分ごと駆除されることについてどう思う?」

 

『……自分の体で人を喰うのを見なくてはならないのであれば駆除を望みます。』

 

「…そうか。」

 

 

令華からの電話が切れた。そこにいる誰もが結論を導き出せない様子だ。

 

 

「うっ。」

 

 

座っていた三崎が横に倒れ込んだ。どうやら熱があるようだ。昨日はしゃぎ過ぎたせいだろうか。電話の内容についてみんなで話すことはせず布団を出して三崎を寝かせた。

 

三崎が眠ってからしばらく経たないうちにアマゾン目撃の通報が入る。場所はK地区、工場が多い地点だ。辺りにガソリンなどが積まれている恐れがあったため、圧裂弾を持たずに前回の出撃メンバーで現場に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

賀閣製薬の4階は研究室エリアとなっている。緋彩はそこで体内のアマゾン細胞の観察と調節を行っていた。

 

ベッドに横たわり数本のチューブが緋彩の体に繋がれている。しばらくして研究員の1人が寝ている緋彩を起こした。

 

 

「調整中すまないね。社長がお呼びだ。」

 

「ん…、わかりました。要件は?」

 

「アマゾンだ。」

 

「…行きます。」

 

 

緋彩が起き上がるとその拍子に体からチューブが抜け落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

目撃情報があったところに駆除班が到着した。今回バンで待機してアジトと現場の橋渡しとなるのは福田だ。志藤の班にいた頃は毎回その役割だったことを思い出しながら運転席で本を開いた。

 

それ以外のメンバーは円形の陣を作りながら工場帯に入っていく。若槻と望はサバイバルナイフを構え、美月は短機関銃の弾を装填しながら移動する。

 

悠と煌はそれぞれ自身のベルトを装着した時、石鹸工場の窓ガラスが割れると共に中からゾウアマゾンが飛び出してきた。

 

音と共にその方向を向いた一同は飛び散る破片を避けつつゾウアマゾンに向けて攻撃を放つ。

 

 

「このタイプ…溶原性のアマゾンです!」

 

「あぁ、ってことは容赦する必要はねえ!」

 

 

と言っても元は人間なのだが…。アマゾンとなり人間を喰らうようになってしまった存在を今から救うことは出来ない。悠はアマゾンズインジェクターをネオアマゾンズドライバーに装填し、煌もアクセラーグリップを捻った。

 

 

-NEW(ニュ・ー)OMEGA(オ・メ・ガ)-

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「アマゾン…!」

「ウォオオオ!アマゾンッ!」

 

-EVOLU(エヴォリュ)EVO(エヴォ)EVOLUTION(エヴォリューション)!!-

 

 

2人の体から緑色のエネルギーが吹き荒れる。悠の方は球体エネルギーを周りに作り出し装甲を構築した。

 

アナザーオメガとニューオメガの姿になる頃にはゾウアマゾン以外のアマゾンも現れる。駆除班のメンバーは円形の陣をより小さくした。

 

 

「…!近づくんじゃねえよ、アマゾンが!」

 

「君だってそうでしょ。それにこの数のアマゾン…、気を付けなきゃやられるよ。」

 

「先輩ぶんじゃねえ。行くぞぉ!」

 

 

アナザーオメガはアマゾンズドライバーのバトラーグリップを引き抜きアマゾンサイズを生成し敵の方へ駆けていく。

 

 

「おい!煌!先走んな!」

 

「若槻さん、さっさとやらないと俺が全部狩っちまいますよ。」

 

「それは困る…今月は金が必要だかんな。行くぞ!」

 

「待ってください!連携しなくちゃ…。」

 

 

美月の制止を振り払ってアナザーオメガと若槻はアマゾンたちに襲い掛かっていった。それに続いてニューオメガらも2人を援護する形で参戦する。

 

アナザーオメガがアマゾンサイズを振り下ろしながらアマゾンたちを切り裂いていく。望は怯んだアマゾンたちの腹部にチェーンソーのような刃がついたレガースで蹴りをいれ内臓を切って大量の黒い血液を噴き出させる。

 

 

-CLAW(ク・ロ・ー)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

ニューオメガはアマゾンネオクローを右手に作り、遠くにいるアマゾンたちを近くに引き寄せた。その間に美月はアマゾンたちの体に弾丸を撃ち込む。比較的接近してきたところでサバイバルナイフでアマゾンたちの頸動脈を切っていく若槻。

 

倒れていくアマゾンは続々と硬直していき残りは片手で数えられるほどの数になってきた。その旨を望は福田に連絡を入れるも返事が返って来ない。アジトと連絡を取っているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

うなされながら三崎は布団にくるまっている。二宮は何かの用事で外に出てしまい、加藤がパソコンの前で待機している。そもそも加藤は戦闘に向いているタイプではなかったのでこちらの仕事の方が本人としてもよかった。

 

志藤、若槻と共に約5年前まで全国を回ってアマゾン駆除をしていた時も車の中で待機し状況をまとめる役目を果たしていた。

 

志藤…。

 

優秀な男だった。リーダーシップに溢れ決断力も人望もあった。自分が持っていないものをすべて持っているような男、それが志藤だった。

 

しかし彼に憧れたことはない。自分は自分だと考えていたし、ああいう立場の人間はああいう立場なりに大変なことがあるのだろう。それでなければアマゾンなどに関わったばかりに死ぬことなく、旭日章を背負って今でも働いていたはずだ。

 

ただ自分は楽な所にいて楽に生活できればいい。仕事では楽をして休みの日は気楽にゲームをして…そんな普通の生活が出来ればいい。

 

今日も帰ったら新作のゲームを進めなくては…、腕がなる。

 

そんなことを考えている間、加藤は三崎の体から蒸気が発されていることに気がつかなかった。

 

 

「え?」

 

「かと…う…!にげ…ろ!」

 

 

三崎の体は溶原性細胞の覚醒によってヤゴアマゾンへと変化していく。

 

ただ楽にこのアマゾンが蔓延る世の中で生きていたかった、ただ何も知らずに生きていくのではなく、アマゾンと戦う者たちの傍にいて守られながら生きていきたかった。

 

しかし今加藤を守るものは誰もいない。武器を手に取ることなくインカムのスイッチを入れて福田に助けを求めようとした加藤の心臓をヤゴアマゾンはかぎ爪で突き刺していた。

 

 

 

 

 

 

 

「おい!加藤!くそ…!」

 

 

加藤の断末魔が聞こえ福田はアジトで何かが起きたことが分かった。現場からも連絡が入っている。

 

 

「こちら福田!どうした!?」

 

『高井だ。こっちはもうすぐ終わる。通信してたみたいだけどアジトで何か?』

 

「加藤の身に何かあったのかもしれん、悠と望は車に戻れ。アジトに戻る!」

 

 

望はすぐにニューオメガにその旨を伝えるとニューオメガはネオアマゾンズドライバーを取り外し悠の姿から戻って車へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

悠たちはボロボロの内装なったアジトを見て愕然とした。崩れているあちこちの棚、壊された机、心臓を引きずり出された後のある加藤の死体、そして部屋の奥でかぎ爪に突き刺さった臓物にしゃぶりつくアマゾン。

 

アマゾンの下半身には今朝まで三崎が履いていたジャージが身につけられている。

 

 

「お前…。」

 

「三崎さん…。」

 

「嘘…だろ…?」

 

 

3人の驚きは最もだろう。しかし何度も仲間を失ってきた彼らに取って哀しい慣れ…とでもいうべきものなのだろうか。望はサバイバルナイフを、福田もスナイパーライフルを構えて悠は再びネオアマゾンズドライバーを装着した。

 

 

「僕が…僕がやります。」

 

「悠…。」

 

 

-NEW(ニュ・ー)OMEGA(オ・メ・ガ)-

 

「アマゾンッッ!!」

 

 

ここまで力んだ掛け声は久しぶりだ。ニューオメガはアームカッターをヤゴアマゾンの元へ飛びかかりながら振りかざした。

 

 

 

 

 

 

 

ジャングレイダーが先ほどまで戦闘が行われていた工場に辿りついた。緋彩はメットをハンドル部分にかけて周りを見回す。

 

向こう側に野座間製薬の清掃班が文字通り清掃を行っているのが見えた。彼らにばれない等にアマゾンの死体と思われる固形物を見るためにしゃがんだ。

 

溶原性細胞によって生まれたアマゾンは死ぬと実験体のアマゾンと異なり固形物へと変化する。チェーンソーなどでないと破壊できないほどの強度のものとなるはずだが緋彩の足元にあった死体の一部にはスライム状の物質がこべり着いている。

 

 

「やはり寄生型…。」

 

 

緋彩はスマートフォンを取り出し目黒の電話に連絡をする。溶原性細胞と寄生型アマゾン細胞。その2つが合わさった時にどうなるのか、研究室長が喜びそうなネタだと緋彩は思った。

 

 

 

 

 

 

 

ノザマペストンサービスの事務所とされていたアジトは今回の一件で使えなくなってしまい、悠たちは野座間製薬会長である天条隆顕の屋敷に身を置いていた。

 

和室の部屋ながら洋風な家具を置くセンスは天条らしさを感じさせる。まもなくして令華が駆除班らが待機していた部屋へ入ってきた。

 

 

「久しぶりね、悠。」

 

「…。」

 

「…美月も。」

 

 

ついでのように扱われるのは慣れている。何から言うべきか迷う美月を遮って福田が令華の前に立った。

 

 

「本部長…溶原性細胞でいつかアマゾンになってしまうかもしれないことは俺たちも十分承知している。」

 

「えぇ、そんなあなたたちを戦わせることを許可しました。」

 

「それについてどうこう言うつもりはない。ただこんな悲劇をもう繰り返させないためにも全国に駆除班を作って一刻も早くこの事件を解決する努力をお願いしたい。」

 

「わかっています。出来るのならもうしていますから。」

 

 

そういうと令華は部屋の外へ出ていった。そう、自分たちはアマゾンになってしまうかもしれないことを覚悟の上で狩りを続けている。しかしこの事件が解決する目安は未だに立っていない。そればかりか寄生型アマゾンなどというまた新たなタイプも生まれている。

 

仲間を失いながらこのような鼬ごっこを繰り返していいものなのだろうか。

 

 

「三崎さん…僕に最後…最後だけ意識を取り戻して言ったんです。」

 

 

悠が喋りはじめその場にいた皆が悠の方を向く。悠の手には三崎がいつも首にかけていた五円玉が握られている。

 

 

「『俺を狩ってくれ…ありがとう』って。アマゾンになって僕が斬りかかった時に。自分が死ぬ時に…殺してくれてありがとうだなんて…。」

 

「…アイツはこれ以上人を殺める前に止めてくれたことを…言ったんだろう。」

 

 

溶原性細胞が体の中で潜んでいる福田と望はその気持ちが分かる。もし自分がアマゾンになって仲間を喰らってしまうとしたら…考えただけでもゾッとする。

 

2人は自分の目線で加藤の心臓を喰らう様子を思い浮かべ身震いした。

 

 

「溶原性細胞に感染して覚醒すればもうどうしようもないことを三崎さんは知ってるのに…あんなことを言えるなんてとても僕には考えられません。でも…もし寄生型アマゾンの宿主なら…意識があるのに自分の体が大切な人を殺めてしまう。それで自分も殺されてしまう。こんな悲劇ありますか!?」

 

「悠…。」

 

 

「僕はそんなこと認めない!宿主ごと殺すなんて絶対にしない!今回の件で決めました。絶対に罪のない人間を殺すことなんてしない!」

 

「…。」

 

 

そういうと悠はその場を飛び出していった。美月はすぐに悠を追って同じく外へ行く。

 

福田は近くにあった椅子に腰をかけた。

 

 

「…俺は逆だ。」

 

「え?」

 

「俺はアマゾンに覚醒したら自分を止めてほしい。どうしようもないのであれば俺は宿主ごと駆除する。こういう仕事をしているからこんな決断が出来るのかもしれないがな。」

 

「ウチも…ウチもそう思う。加藤のような被害者を生むことはもうしたくない。」

 

「福田さん…望さん…。」

 

 

若槻は加藤の死に涙を流しているだけだった。しかし決意をした2人を見て涙をぬぐう。その隣に座っていた煌はなぜこれほど早く決断が出来るのか不思議で仕方なかった。いやむしろ仲間が死んだばかりでなぜそんなことを考えられるのか。

 

 

(緋彩なら…どうするんだろう。)

 

 

煌は椅子から立ち上がり障子を開けた。目の前には美しい日本庭園が広がっている。悲劇が起こった後の午後とは思えぬ快晴であった。

 

 

 

 

 

 

 

外に飛び出した悠の肩を叩く美月。

 

 

「大丈夫?」

 

「うん…ごめん、なんか感情的になっちゃって。」

 

「久しぶりに見たよ。悠がああやって言ってるとこ。離れてる間に…なんていうか…人が死んじゃうことに慣れちゃったのかと思ってた。」

 

「…慣れることなんてないよ。」

 

「そうだね。」

 

 

部屋に戻ろうとした時、2人を引き留めたのは二宮であった。

 

 

「二宮…隊長?」

 

「水澤…とどっちも水澤か。美月くん、悠くん。君たちに会わせたい人がいるんだ。」

 

「会わせたい人?」

 

「誰ですか?」

 

「とりあえず…きてくれるかい?」

 

 

二宮についていくと黒塗りのクラウンが少し離れた道に停められていた。スーツを着用した運転手が白手袋をつけたまま本を読んでいる。

 

助手席に二宮が乗り、悠と美月は後部座席に座った。

 

 

「本社まで頼む。それと社長に連絡を。」

 

「もう既にしてあります。」

 

 

淡々と答える運転手からはどこか加納の雰囲気を漂わせている。

 

 

「本社って?」

 

「賀閣製薬の本社だよ。そこの社長が君たちのような人を欲しがっている。」

 

「どういうことです?」

 

「寄生型アマゾンの宿主とアマゾンを引きはがすことが出来るのだよ。賀閣製薬ならね。」

 

 

 

 

 

 

 

社長室の椅子にはいかにも社長と言わんばかりの口ひげを生やした男が座っていた。その隣には二宮が立っている。

 

 

「私が賀閣製薬社長の目黒です。わざわざ来てもらって悪いね。」

 

「いえ…。それよりどうして僕たちを?」

 

「アマゾン狩りを私たちも始めようと思いましてね。人を集めているんですよ。」

 

 

賀閣製薬 野座間製薬のライバル会社であり5年前に野座間製薬が事業縮小したことで業界No.1の座を手に入れた。

 

しかし溶原性細胞ワクチンの開発に成功した野座間製薬が再び飛躍したことで順位は2位をキープした状態となっている。そこでアマゾン狩りをすることで再び1位に返り咲こうとしているようだ。

 

 

「でも4Cも野座間もやっているアマゾン狩りをして意味ありますか?」

 

 

美月の指摘をよくぞ聞いてくれたという顔で目黒は資料を2人に見せた。

 

 

「これがわが社の開発した分離ロウ成分です。ロウ成分を改良したものでして…」

 

「それは私から説明させてもらおうか。」

 

 

社長室に自動車いすに乗ってきた男が入ってきた。

 

 

「あなたは確か…。」

 

「水澤くんの実験体…久しぶりだね。ここで会うことになるとは。」

 

「どうして局長が?」

 

「ここにいる時点で局長ではないのは分かるだろう。」

 

「彼はわが社の研究室長をやってもらっているんだよ。」

 

 

かつて4Cの局長を務めていた現賀閣製薬研究室長 橘が車いすを操作して悠たちに見せていた資料を手に取った。

 

 

「ロウ成分は覚えているかね?6年前ほど前に問題になったアレだよ。」

 

 

勿論覚えている。最後の最後に戦う意味を見出したアマゾン 尾宿商をはじめとするコッパタイプから抽出されたものだ。

 

アマゾンは本来人間のたんぱく質を欲する本能がある。しかしロウ成分を摂取したアマゾンは本能に従うことなく同種であるアマゾンを喰いたいという”錯覚”を起こしてしまうのだ。

 

 

「それを細胞レベルに働きかけることで寄生型アマゾンに寄生された人間をアマゾンから引きはがすことが出来るのだ。」

 

 

細胞が錯覚させる…ということだろうか。とにかく人のたんぱく質に取りついているアマゾンが錯覚することで人から離れるということらしい。

 

ロウ成分を長くに渡って研究していた橘の執着の結晶とでもいうべきだろうか。

 

 

「とにかくその分離ロウ成分を使えば寄生型アマゾンを宿主を殺すことなく駆除できる…と。」

 

「その通り。そこで私はあなた方のようにアマゾンを狩り続けてきた者を勧誘しているのです。ここにいる二宮も数年前に野座間から密かに賀閣製薬(こちら)へ。」

 

 

なるほど、ノザマペストンサービスに通報が入る度に賀閣製薬側もアマゾンの動きを察知できたのは二宮が裏切っていたからか。

 

 

「悠くん、美月くん。どうかな、賀閣製薬…いや我々に力を貸してはもらえないか?」

 

 

やはりそれを提案してきたか。二宮がにこやかな表情で2人に近づいてくる。美月は思わず後ろに下がりそれを守るように前に出る悠。

 

 

「まだ納得言ってないみたいだね。では研究室にきてもらえるかな、面白いものを見せてあげよう。」

 

 

橘は車いすを社長室の出口に向かわせた。それに続いて悠と美月も部屋を出ていった。残った目黒は社長室の真ん中に置かれたテーブルに資料を置いて二宮に指示を出す。

 

 

「二宮くん、緋彩に彼らが来たことを。」

 

「もう伝えてあります。それと緋彩から工場で覚醒した溶原性のアマゾンたちの体には寄生型アマゾンが取りついていたとの報告です。」

 

「うむ、溶原性細胞が寄生型アマゾン同士の共鳴に刺激され覚醒した…という仮説はやはり正しそうだな。」

 

二宮はニヤリとして一礼すると社長室を後にした。。

 

 

 

 

 

 

 

橘に続いて長い廊下を歩く悠たち。その先に煌と同じぐらいの少年が立っている。

 

 

「緋彩、なぜここに?」

 

「社長が言っていました。かつてあの人と幾度となく戦ったアマゾンが来たと。」

 

「フッ、相変わらず何を考えているのか分からない男だ。まぁいいだろう、紹介しよう。彼が人間の細胞を持つアマゾン 水澤悠くんだ。」

 

 

橘は車いすを広い廊下の端へ寄せた。美月も雰囲気を察してすり足で端へ寄る。緋彩はネオアマゾンズドライバーをアタッシュケースから取り出して装着した。

 

 

「それは…!」

 

「あなたも持っているんでしょ。力を見せてくださいよ。」

 

 

悠も斜めがけのバックからネオアマゾンズドライバーを取り出して装着、そして2人ともアマゾンズインジェクターを装填した。

 

 

-NEW(ニュ・ー)ALPHA(ア・ル・ファ)-

 

-NEW(ニュ・ー)OMEGA(オ・メ・ガ)-

 

「…アマゾン!」

 

「アマゾン…!」

 

 

2人から赤と緑のエネルギーが放出される。ニューアルファとニューオメガ、2体のアマゾンが駆けていきパンチを繰り出す。

 

攻撃をかわしその隙をつこうとするもお互いに相手の動きを読もうとするあまり中々急所に命中しない。

 

 

「なら…!」

 

-NEEDLE(ニ・ー・ド・ル)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

ニューアルファの右腕にアマゾンネオニードルが出現しそれをニューオメガに向けて放った。弾丸がニューオメガの左肩を貫く。

 

 

「グッ…!」

 

 

かつてのニューオメガならばこれほどの傷はすぐに治ったが、最近なかなか治りが遅い。

 

と言い訳をしている場合ではない。ニューオメガは動かしにくい左手でアマゾンズインジェクターを操作する。

 

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

ニューオメガはアマゾンネオブレイドを生成しニューアルファの攻撃を弾きながら接近戦へと持ち込む。

 

強化された胸部ではなくなるべく関節部分を狙って斬撃を繰り出す。一方のニューアルファも左腕のアームカッターでアマゾンネオブレイドを抑えつつフットカッターで腹部ごと切り裂こうとした。

 

しかし軸足にしていた左足に急に力が入らなくなる。

 

 

「!?」

 

 

崩れるニューアルファ。それと共に橘が2人の戦いを止めた。

 

 

「見事だ、悠くん。まさか緋彩を本当に倒してしまうとは。」

 

「いや、僕は…」

 

「そんな君に見せたいものがある。来たまえ。」

 

 

ニューオメガとニューアルファは冷気を放ち元の姿へと戻る。悠と美月は橘の後を追うように奥へと向かった。緋彩は自身の左足をさすりながら立ち上がり自室に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

「あのアマゾン…緋彩って言いましたよね。何者なんですか?]

 

 

橘が扉の指紋認証をしている間に悠が尋ねる。

 

 

「まさかまたシグマタイプを…!」

 

「それは違うよ、水澤美月くん。確かに私は5年前、溶原性細胞によって発生した新種アマゾン完全駆除を目的として新たなシグマプロジェクト シグマ隊の組織化を国に提言した。しかし私が在任中には結局それは実現されなくてね。」

 

「じゃあ一体…?理性は保ってるし。」

 

 

指紋の次は網膜のようだ。とても厳重な警備の施設を入っていくようで何が管理されているのかとても興味があるが、今は緋彩の正体の方が気になる。

 

 

「緋彩は…君たちもよく知る男にアマゾンにされたのだよ。」

 

「よく知る…男?」

 

「鷹山仁、彼だ。」

 

 

 

 

 

 

 

仁は左目にしていた眼帯を水で洗っている。眼帯とはいっても医療用の物ではなく手ぬぐいを千切って作ったものだ。

 

 

「ふぅ…結構汚くなってたな。」

 

 

仁の右目は千翼を手にかけてしばらくした頃に治り始めた。逆にアマゾンでありながらここまで再生しなかったのは珍しいことだったが、元が人だったからだろうか。

 

または溶原性細胞のオリジナルに関することのかたを付けられたから自分を見守ってくれている七羽からの選別だろうか。

 

右目が正常に見えるようになって数年前よりは見た目も清潔感がある。服も変えるようになったし、自分で飯の調達も出来るようになり栄養のバランスも抜群であるため肌にも艶が戻った。

 

何よりアマゾンとの戦闘が極端に少なくなったことが仁にとって健康でいられる要因だろう。溶原性細胞のワクチンが世に出回ってから随分溶原性細胞の覚醒はなくなった。

 

ワクチンを接種すれば覚醒することはほぼありえないというのだ、そのようなものを作れるならば初めから作っていてほしいものだ。

 

 

(まぁあのじいさんなら5年前は敢えて出さなかったってこともあるな。)

 

 

綺麗になった眼帯を左目につけて強く固結びにした。ワクチンを接種していない溶原性細胞の感染者を再び見つけるために荷物をもって歩いていこうとした時、近くから子供たちの悲鳴が聞こえた。

 

それは養護施設…なのだろうか。イースヘブン園と書かれた看板が掛けられている。なぜ中から悲鳴が上がっているのかは見るまでもない。中からアマゾンと人の血の臭いがプンプンする。

 

仁はアマゾンズドライバーを腰に巻いてアクセラーグリップを捻った。

 

 

-ALPHA(アルファ)-

 

「…アマゾン!」

 

-BLOOD(ブラッド) &(アンド) WILD(ワイルド)!!W()W()W()WILD(ワイルド)!!-

 

 

右目が緑、左目が白のままのアルファに変身した仁は正門を飛び越えて溶原性細胞の感染者たちをアームカッターで斬っていく。

 

そもそもの人間の体が未成熟であったことが”幸いして”それぞれの個体はそこまで強くはない。駆除班のランクで示すならEかDといったところだろう。

 

 

「やめろぉ!来るな!くそ!千翼!千翼ぉ!」

 

 

園内からした声にアルファは思わず振り向いた。

 

 

「千翼!?」

 

 

意識することなく聞こえた声の方へ飛び込んでいくアルファ。子供たちを襲うアマゾンの心臓を一突きにすると気絶しかけている子供にもう1人の子供が声をかけているのが聞こえた。

 

 

「もう大丈夫!もう大丈夫だ!」

 

 

まだ人間の子供がいたのか、だが気絶しかけている方はもう助からない。腕の皮膚が剥がされてしまっており、アドレナリンが出ているためそこまでの痛みを感じていないようだがいずれにせよすぐ病院に運んだとしてもこんな田舎では到着する前に絶命するであろう。

 

アルファはその少年を諦め再び残ったアマゾンを狩るために外へ飛び出していこうとした。

 

 

「千翼!千翼!」

 

 

まただ、その倒れた少年をその名前で呼んでいる。

 

 

-VIOLENT(バイオレント)SLASH(スラッシュ)-

 

 

アクセラーグリップを捻ることで強化されたアームカッターで相手を切り裂くバイオレントスラッシュが起動する。

 

アルファはアマゾンたちの方向へ飛びかかりアームカッターで全員の首を切り裂いていった。

 

 

「千翼!千翼!」

 

 

アルファはアマゾンズドライバーを外して仁の姿に戻ると倒れた少年の元へ駆け寄っていく。

 

 

「千翼…というのか?」

 

「違えよ、緋彩だよ。」

 

 

千翼…緋彩…。なんだ、聞き間違いか。それに自ら手をかけた息子の名前になぜここまで…。

 

 

「…こいつはもう助からない。」

 

「ハァ!?ふざけんな!目の前でコイツに死なれたら…胸糞わりいんだよ!コイツは…俺の友達なんだ!同じ施設の友達なんだよ!」

 

 

今手の中にいる少年は死にかけている。緋彩、息子の名前の響きとよく似たこの少年…。

 

仁はいつの間にか始の研究室へ緋彩を連れていっていた。星埜始、自分のせいでハゲタカアマゾンへと変貌し家族を失った男。彼の研究室の写真を見るとオリジナルを駆除したことは正しかったと自身を正当化出来る。

 

研究室のソファに緋彩を寝かすと傍に置いてあったナイフで自身の皮膚片を切り取った。

 

そして注射器を取り出して自分の静脈から血液を抜き始めたとき、扉が開いて緋彩の傍にいた別の少年が入ってきた。

 

 

「なんでついてきた。来るなといったろ。」

 

「ふざけんな、緋彩が殺されちまうかもしれねえだろ。俺がお前を見張ってんだよ。」

 

「偉そうだな…。お前、名前は?」

 

「…煌。」

 

「そうか。じゃあ煌、お前に1つ頼みたいことがある。今から緋彩は人間として死ぬ。」

 

「はぁ!?」

 

「アマゾンになるんだ。こんなこと本当はしたくはないし、俺のポリシーに反するが…この子を助けるためだ。」

 

「おい待てよ。そんなことせず病院に!」

 

「もう無駄だ。医学で助けられる状況じゃない。臓器もめちゃくちゃになってるだろう。」

 

「そんな…。」

 

 

仁もこんなことをしたくない。また自らの手でアマゾンをつくってしまうなど。

 

しかし名前の聞き間違い、緋彩の意識を失う前の力強い意識、視力を取り戻したことで見えてきたもの…。

 

あらゆる事柄が仁に”ありえない行動”をさせた。

 

注射の針を変え、自身の血を緋彩の体の中へ入れていく。順応するまでにどんな拒絶反応が起きるかもわからない。しかし仁の生きてほしいと願うその心が緋彩にアマゾンとして生きる道を作りだした。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ緋彩は仁さんの…。」

 

「あぁ、鷹山仁のアマゾン細胞を取り込んだ人間。それが緋彩の正体だ。」

 

 

仁と同じく第2のアマゾン。それが緋彩。アマゾンを駆除するためならば人としての心を失ってもいいというスタンスだった仁がするとは思えない行動だ。

 

千翼を手にかけたことは仁にとって何かをもたらしたのだろうか。悠は仁が今どこで何をしているのか、そもそも彼は無事なのかを案じた。

 

 

「さて、見せたいもの…というのがこれだ。」

 

 

金庫の扉のようなハンドル付きの分厚いドアをあけると比較的広い廊下へと繋がっていた。その窓の外には研究室が広がっている。

 

研究室というよりは実験場…とでも言えるだろう。いくつかの人体が横たわり、中で働いている研究員たちは全員防護服のようなものを着用している。

 

 

「これは…。」

 

「アマゾンに関する研究施設だ。野座間の物を越しているだろうね。」

 

 

橘は自慢げに車いすを廊下の隅に寄せた。美月は遠くに見覚えのある体が横たわっていることに気が付いた。

 

 

「悠!あれ…!」

 

 

美月の指さす方向には驚くべきものが横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

悠らが賀閣製薬に行ってからしばらく経ったある日、令華から福田の元にメールが送られて来た。

 

 

「…!これは…。」

 

「なんかあったんすか?」

 

 

望が福田のタブレットを覗きこんだ。

 

 

「これって…まじかよ。」

 

「え、何々?」

 

 

若槻と煌も駆け寄ってくる。そのメールには4C解散の内容がかかれていた。

 

詳しくはこうだ。野座間製薬は寄生型アマゾンを宿主ごと駆除することに賛成するようになったため、4Cと考えが一致。表向きは既に解散している4Cであるためこれ以上そこに裏の予算を投入するわけにはいかない。

 

そこで4Cを民営化し野座間製薬に売りつけてしまおうということになったようだ。

 

 

「じゃあ…まさか…。」

 

 

メールの追伸にはこう書かれていた。

 

 

「本日午後、元4C局長 札森一郎氏とシグマ隊が駆除班と合流予定。」

 

 

減ったアマゾンの補充は駆除班の面々とはやたら因縁深いシグマタイプのアマゾン…ということになってしまった。




こんばんは、エクシです。
三崎…ごめんよ…。
駆除班の面々はとても好きなのですが彼らはマモルとの戦いでやるべきことをやり終わった感があるなと思ったのでこういう結末にさせてもらいました。
また悠たちは辛いことを体験しすぎてこれくらいしないと、、というのもあります。

そして緋彩の正体が明らかになりました。
正体は仁が自身の細胞をいれた人間の少年…。
これもとても迷いましたが結局こうさせて頂きました。

アマゾンを増やすことは彼に取って不本意なことです。しかし名前の似ている少年が死にかけている中、助ける手段がそれしかない。

人間を助けたく、元は優しかった仁は緋彩を助けることにしました。
しかしアマゾンはいつかは人間を喰いたくなってしまうかもしれません(第2のアマゾンでも自身の精神力が未熟であれば人のたんぱく質を欲してしまうというのは自分の見解です。)。

だから仁は緋彩を近くに置いておくことにするのですが……なぜ今はいないのでしょうか。
そして悠たちが研究室で見たものとは…。

モチベーションの維持が難しいですがなんとか頑張りたいと思います。
感想、お気に入りよろしくお願いします。

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