初投稿です
ストブラにロザバンを少し取り入れました
ではではどうぞ~
少年は、炎の中で、彼女の温もりに抱かれて後悔を嘆きながら瞳を閉じようとしている。
全身の力が抜けようとも、自分の血で滲んだ拳だけは、緩めようとはしなかった。
頬に暖かい何かがポツポツと落ちて来る。......そう、彼女の涙だ。顔を見ると彼女は、嬉しいのか、悲しんでいるのか、よくわからない表情で微笑んでいた。
ふと、何か突然使命感のような感情が沸き上がり、彼女を慰めようと、血で濡れた手で彼女の右手を優しく握る。嬉しかったのか彼女の表情が柔らかくなり、彼女も少年の手を指を絡めるように握り返した。
「......いつか.....必ず、お前を.....迎え...に.....」
少年は力ない声で彼女に伝える
彼女も先程の比ではない程の涙を流し、意識が無くなりかけている少年に、よく聞こえるように耳元まで顔を近づけ、今の自分のありったけの想いをこの一言に乗せ、伝える
「....はい!......お待ちしています!」
彼女は少年の首に牙を立て、血を贈る。彼を助けるために......
その行動が彼を苦しめることになろうとも、ただ、生きていてほしい。たったそれだけの想いを抱いて。
少年は一瞬苦しさに体を震わせるが、それが収まるとゆっくりと、深く深呼吸をし、静かに眠りにつく。
彼女は少年の心臓の鼓動があることを確認し、自分の首もとにあったロザリオを少年の胸の上に置く
このロザリオが少年の道標になることを願って......
三ヶ月後
絃神島..... 太平洋上に浮かぶ小さな島。カーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって造られた人工島。
物語はこの絃神島から始まる。
八月、夏休み後半、少年、暁宗真は妹の凪沙のお使いで、スーパーに立ち寄っていた。
「グラタンねぇ、なんでそんなこったもの作るかなぁ。楽なものでいいって言ってんだけどな」
妹の凪沙は家庭的だ。料理、洗濯、家事全般を難なくこなす。昔は自分が家事をやってたのになぁと昔を思い出し感慨深くなっていた。小さい頃は「お兄ちゃん」とか、「兄さん」って呼んでいたのが今では「宗真君」.....なんか他人行儀みたいで距離が遠くなったようなそんな感じがして悲しくなる。
必要なものを悩むことなく買い物かごへ入れ、レジで会計をさくっと済ませ帰路につく。
「暑いなぁ~。青森か北海道辺りに住んでみたい....向こうは向こうで大変だろうけど...ッ!?」
詰まらないことを考えながら歩いていると、後ろから突然殺気を感じた。
後ろへ素早く体を向け構えるが、そこには誰もいない。寧ろ同じ道を歩いていた周辺の通行人に変な目で視られるという醜態をさらしてしまった。
気のせいだったのか、と、そのまま帰るために前へと向きなおし歩き出した。
とある中層ビルの屋上で少年暁宗真を鋭く睨む一人の少女が怨嗟を呟く。
「なんで私があんな男の監視なんて....いっそのこと....」
少女が背負っているキーボードバッグに手をかけ、気付かれないように暁宗真を尾行していく。
家について凪沙に買った物を渡そうと声をかけたが、反応がない、家にいないようだ。取り敢えず買ったものを冷蔵庫に入れた。
その時、急に軽く吸血衝動が来た。そう、宗真は吸血鬼。三ヶ月前から第四真祖の血を受け継ぎ、半分人間、半分吸血鬼となった。
第四真祖....他の真祖、吸血鬼と違い、逸脱した力、性質、能力を持ち、大昔この世界を破滅寸前まで追い込んだ世界最恐の存在。普通の吸血鬼と違い、性的興奮では吸血衝動は起きず、特殊な空腹時のみ起き、それは、人間から直接吸血行為をせずとも、輸血パックなどでも満たせる。
空腹を満たす為、自室へ向かい輸血パックが入ってある冷蔵庫に手を伸ばそうとした時、一昨日で無くなったことを思い出し、大きく溜め息をはいた。
「忘れてた。あぁ~面倒くさいな.....」
輸血パックを補給するため、ある人物に連絡をしなくてはならない。そのある人物のことは、嫌いじゃないが...というか寧ろ好きなのだが...苦手だ。
携帯電話を手に取り、ある人物の名前を連絡先から探し当て、一旦指を止めて軽く深呼吸をする。毎回この人と会話をするときは緊張する。呼吸を整え、電話を掛ける。
プルルル...プルルル...プルルル...
「どうした?」
電話越し、尚且つこの一言だけでもかなりの威圧感を放ってくる。この病気ともいえる恐怖感は一生克服することは出来ないだろうなと思いながら本題を持ちかける。
「お疲れ様です先生...えっと...その...輸血パックが無くなったので補給が欲しいなぁ…と、思いまして...」
「ほぉ?...それで?」
「えっ!?それでって?...ですから輸血パックを...下さい」
「年上の敬い方がなっていないな!」
恐いっ!そう思いながらも負けじと何とか対応する
「お忙しい中誠に申し訳ありませんが!輸血パックがなくなったため先生の方で準備をして頂けないでしょうか!?」
「......まぁいいだろう。だが、これからはもっと日本語を勉強することだな」
「はい...わかりました...」
「今から手配する。二時間後に学校にある私の部屋に来い」
「わかりました。二時間後に先生の元に伺います...」
話は終わりだと言わんばかりに電話を即座に切られた。俺のこと嫌いなのかな?と思いながらも時間を確認する。
二時間、家から学校まで三~四十分ほどなので、一時間半は暇だ。でも時間に厳しい先生なので今から学校に行って残りの時間は図書室で本を読んでよう。その方が安心安全なので、その方法で行こうと思い、制服に着替え、家を出る。
駅の近くにある商店街で、あることに気が付く。人がいない。夕方になる前の時間帯、寧ろこの道で誰一人、人の気配がしないのはおかしい。嫌な予感がするため、駆け足で駅へ向かおうとしたその時、近くにあった軽トラックが何かに撃たれて爆発した。
爆風によって体が吹き飛ばされたが空中で何とか体勢を持ち直し、低姿勢の状態で着地した。
(人払いの結界を張っていたのか!)
周囲を警戒して意識を集中したその時、遠くから声が聞こえた。
「ーーー憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり!」
何が何だか解らないまま、声のした方へ体を向けると、青く細い何かが空へ向かって飛んでいく。するとある程度進んでいくと青い光が巨大な魔方陣のようなものに変わった。
自分の中にある本能が大きく警鐘を鳴らす。すかさず退避しようとしたが魔方陣が巨大過ぎて回避が間に合わず、そのまま青い光に呑まれていった。
「ぐっ!...体が....動かない!?」
何かの魔術で拘束されたのか、全身を鎖で強く締め付けられたような感覚に襲われ、四つん這いの姿勢になってしまった。なんとか拘束をほどこうと力ずくで行おうとした時、高速で誰かが近づいてきて、剣を大きく振り上げた。
「死になさい!第四真祖っ!」
刃が眼前にまで迫ってきた。
(ヤバイ!)
先生との約束で魔力を出さないようにしていたが、四の五の言っていられる状態じゃないので、拘束を吹き飛ばす程度の魔力を放出する。
ーーーパリィン!
硝子が割れるような音と共に結界や術、襲って来た相手と周囲の物を吹き飛ばす。
今頃、島の警察や監理局が異常を察知しているだろうが、そんなことを気にする暇はない。相手は驚きながらも体勢を立て直し、睨みをきかせ殺気を放ちながら剣を構える。
「誰だお前!なんでいきなり襲う!」
「あんたを殺したいからに決まってるでしょ!なんで私が大っ嫌いな男の監視なんて...あんたのせいよっ!」
「...はぁ!?」
何を言っているのか解らない....錯乱しているのか?
「あんたが死ねば監視の任は解かれて、私は晴れて雪菜の元へ帰れる....だから死ねっ!」
「無茶苦茶だなおい!?」
素早い動きで剣を振るう。心臓、首、胴体、一撃で確実に殺せる攻撃を何度も繰り返す。吸血鬼には利かないが...痛いのは勘弁なので全て紙一重で躱す
「なんで避けるのよ!楽に殺してあげるのに!いいから大人しく地獄に逝きなさいよ!第四真祖!」
「お前が行けよ!病院に!腕の良い奴紹介してやるから!性格に難ありだけど...」
「何言ってるの?やっぱり男なんて馬鹿ばっかりね!死になさいよ!」
「死ぬかよっ!バカッ!」
一度距離を取るために後ろに大きくバックステップする。
普通の吸血鬼は自分の中に宿る眷獣で戦闘を行うのに対し第四真祖は自身の血で戦うのが最大の特徴である。
掌に自分の血を出現させその血で大鎌を形成し、向かってくる女の剣に大鎌の長柄で受け止める。が、それは一瞬のみで易々と切り裂かれる。血の性質を変えダイヤモンドよりも硬く、空気のように軽くした血の大鎌を軽々と切り裂かれたことに少し動揺した。
「どお?この六式重装降魔弓"煌華麟"の切れ味は。男だろうが真祖だろうが空間ごと切り裂いてやるわよ!」
面倒だな...と魔力を高めて拳を握り、姿勢を低くし体を斜めに構えて準備する。宗真の放つ空気を感じたのか、女の方も先程までとは違う緊張感を放つ。
が、遠くの方から数台のパトカーの音が近づいて来る。恐らく警察の連中だろう。女も気付いたのか、苦虫を噛み潰したような顔で煌華麟と呼ばれる剣を収めた。
「覚えておくのね!獅子王機関はあんたを危険視してるってことを!」
そう言うと、女は踵を返してこの場を颯爽と去っていった。
「獅子王機関か....とうとう来てしまったか」
そんなことを言っていると、先生との用事を思い出し、携帯に表示される時間を見た。約束の時間まであと三十分、急げばまだ間に合う。だが、心配するのは時間のことではなく、先程の出来事についてどう突っ込まれるかが心配だ.....
ギリギリ時間通りに学校に着き、先生の居る部屋へ急いで向かう。
部屋の前にたどり着き、一度呼吸を整え、扉を二度軽くノックする。
「...入れ」
如何にも機嫌が悪いですと言わんばかりの声で応答してきた。心臓が締め付けられるような嫌な感覚をなんとか圧し殺し扉を開ける。
「失礼します」
南宮那月、彩海学園の女性教師で、高等部1年B組、宗真のクラスの担任。国家魔官の資格を持つ。空間制御魔術の使い手であり“空隙の魔女”の異名を持つ。『小さい頃からの恩師』であり、吸血鬼になった経緯を知っている数少ない人物で、色々世話を焼いてくれている。外見は小学生のような見た目なので、生徒の中には『那月ちゃん』と陰で呼んでいる者もいれば、堂々と目の前で呼んでいる者がいる。その後は制裁をくらうが....宗真は当然呼ばない...呼べません!
怒られないように細心の注意を払いながら中へ入り、扉を閉め、先生が居る机の前まで歩く。
「輸血パックはあそこだ」
と先生が持っている扇子で部屋の隅にある物置台を指す。そこには頑丈そうなアタッシュケースがあった。先程の出来事を突っ込まれる前にさっさとアタッシュケースを取って家に帰ろうと思っていると.....
「先に何か言うことがあるはずだが?」
体が一瞬小さくビクッと動き、震えた声で返答する。
「お忙しい中、態々準備して頂き、誠にありがとうございます!」
「ほぉ?この少しの間に日本語の勉強をしてきたのか?....だが違うな、確かにその言葉も私の聞きたいことではあるが、今はそれ以上に聞きたい言葉がある....貴様ははじめからわかっているはずだ。言え。」
恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い超ーー恐い!
嘘はつけない、つこうものなら未来はない!そう確信した宗真は少し後ろに下がり、正座の形で床に座る。つまり、土下座を敢行する。
「大変申し訳ございませんでしたぁーー!!」
先生は腕を組み満足気な表情で宗真をみおろす
「土下座までするとは殊勝な事だな」
「あれ?その言い方だと土下座する必要は無かったってことですか?」
「そうだな♪」
「えぇーー...」
「だが、私は寛大だ。貴様のその殊勝な態度に免じて怒りを抑えてやろう」
やはり怒っていたようだ。だが土下座の効果は抜群だったようでもう怒っていないようだ。逆に土下座なんてものを見れて愉快そうにしている顔が癇に障るが、後が恐いので言わないようにしよう。
「先生...獅子王機関の攻撃を受けました」
「...とうとう動き出したか。だが何故だ?貴様は特別何か奴等に仕掛けたわけではないだろ?」
「はい...それが...俺も詳しくはわからないんですが、仕掛けた人間は本来俺の監視が任務だったらしいんですが...個人的な感情が起因で攻撃を受けたとしか思えなくて...」
「....そいつは本当に獅子王機関の人間か?」
「えぇ、自分からそう言ってましたよ?それに、例えそれが嘘だったとしてもなんの特にもならないですし」
「まぁそれもそうだろうな」
椅子から降り、宗真の前までやって来る。
「気を付けろよ、奴等はお前にとっては天敵とも言える存在だ。いくら第四真祖の血を引いていても、殺される可能性は大いにあるのだからな」
「大丈夫ですよ先生、俺はまだ、死ぬわけにはいきませんから....」
ヘラヘラと笑った表情をしているが、その眼は強く何かを決意している眼だった。
「ふっ....そうだったな。だが、何かあったら連絡しろ。助けてやることも吝かではないからな」
「先生....俺との『約束』、忘れないで下さいよ」
「.....安心しろ、私の方でもちゃんと調べている。戦わずに済むのならそれに越したことはないからな」
そう言って、那月は、自身が持っている扇子で軽く宗真の胸を叩く。
那月は踵を返して背中を向け、まだ仕事があるからと机へ戻っていく。
物置台に置いてあるアタッシュケースを手に取り、扉の前まで歩き那月に向かって深く頭を下げ、部屋から出ていく。きつい言葉を投げ掛けられるが、何だかんだで好い人なのだと、改めて思った。
本気で空腹だったので人がいないところで、味を楽しみながら輸血パックの血を飲む
「あぁ~....フルーティー....」
翌日、ずっと家にいるのも暇なので、街でぶらぶらしようかと思い、住んでいるマンションから出たとき、不幸がこちらに歩いてきた。
「....なんでここに居んだよ...」
「.......」
昨日のヤバイ女が家にまで来襲してきた。
「....無視かよっ!」
「監視だけだから口を利く必要なんてないもの」
「だったら殺す必要もないんじゃないの?」
体を震わせ、睨みを利かせてくる。
道を開けろと目と顎で意思表示する。
もう嫌....関わらないようにしよう。そう思い、街へ出掛けようとしたとき、突然後ろから静止の声が聞こえたので、嫌々振り向く。
「....なんだよ」
「何処行くの?」
「監視だけなら俺が何処行こうが関係無いだろ」
「ど・こ・い・く・の!?」
(めんどくせっ!!)
「ハァ....街でもふらつこうかと思っただけだよ。今日で夏休みも終わりだし、思うがままに一日を満喫しようとしたの!わかったら邪魔せず勝手に監視でもなんでもしてろ!」
流石に頭に来たのか、顔を真っ赤にしながら背負っているキーボードバッグにてをかける。その動作に宗真も身構えるが、すぐに冷静になったのかバッグにかけた手をおろす。
「なら、引っ越しが終わるまで待って」
「引っ越し?」
するとタイミング良く引っ越し業者の車が到着し、運転手の女性がヤバイ女に元気良く声をかける。
「お待たせしました!」
「ありがとうございます。七〇四号室でお願いします」
「.....敢えて俺の家の隣なのは、監視のためか」
「他にどんな理由があるのよ」
「ですよねぇ~」
ということで、引っ越し作業が終わるまでマンションのエントランスで待つことにした。
待っている間、少ない荷物だなとか思いながら、なんで待ってるんだっけ?と疑問に思った。
とにかく勝手に行動したら攻撃されそうなので、大人しくしておく。
「待たせたわね」
どうやら引っ越しが終わったようだ
「ハァ...それで?なんで俺待たされたわけ?」
「不愉快だけど、日用品を買いに行くのに同行してもらうためよ」
「お前獅子王機関の人間だろ?式神で監視しながら買いにいけば良いだろ」
「何かあったときすぐに対処できないじゃない」
「何もしねぇよ」
「男なんて信用できないわよ」
「ハァ...そうですか....じゃぁ行くぞ」
そのまま立ち上がり、歩を進める。
無言のまま少し距離を開けて歩き続ける。道中何を買うか聞いてなかったので後ろを振り向くと、ヤバ女が一瞬で距離を開け、怯えるような仕草をとる。
どうしたのかと思いもう一歩近寄ると....
「近寄らないで!!」
「はぁ?」
「空気感染で妊娠しちゃうじゃない!!」
流石に参ったので顔面を片手で覆ってしまう。
(こいつまぢでめんっどくせっ!!!)
このままじゃ埒が明かないので携帯電話を取り援軍を呼ぶ。
「何するの?」
「妹を呼ぶんだよ。それなりに戦力にはなるはずだからな。それに、女がいた方がお前も気が楽だろ?」
特に俺が気が楽と、小さい声で付け加える。妹の凪沙に電話を掛ける。
プルルルルル......プルルルルル......プルルルルル.....
出ない......
どうしようかと悩んで、身近にいる暇な人(女)を適当に思い浮かべる。
あっ、と小さく声にだし携帯を操作し該当した本人に電話を掛ける。
プルル..
「もしもし?」
(はやっ!?)
あまりにも電話の対応が早かったため、驚いてしまった。そのため、少し間を開けてしまうのも仕方のないことだが、とりあえず話を切り出すことにする。
「....今暇か?」
「え?...まぁ暇だけど?」
「今から駅まで来てくれないか?事情はあって話すから」
「ん~そう....まぁいいわ。じゃぁ二十分待って」
電話を切り、横目でヤバ女を見た。睨んでいる......ため息が出る.....
「友達が来ることになったから宜しく」
「男じゃないでしょうね!?」
「女だよっ!」
三十分経過...
「ごめん、遅くなっちゃった!」
十分程度の遅刻など問題ないし、見るからに走ってきた、という姿を見れば誰でも攻めることはしないだろう。
「問題ない。こっちこそすまん、夏休み最終日にいきなり呼びつけて」
「ううん、私も暇だったし」
諸々の事情を説明するためにまずは自己紹介を済ませたいと思い、浅葱に耳打ちし、話を促す
「はじめまして、宗真の...友達の藍羽浅葱です!宜しくね!」
「煌坂紗矢華です。宜しく、藍羽さん」
「浅葱でいいよ、私も紗矢華ってよんでいい?」
「えぇ、構わないわ、改めて宜しく浅葱」
藍羽浅葱、宗真の中学からの友人で、人工島管理公社のアルバイトをしている凄腕のプログラマー。
先程の浅葱の間が気になるが、とりあえず仲良くやれそうなので少しホッとした気分になる。っというか、ヤバ女の名前、煌坂紗矢華なんだ....初めて知った。
これまでの経緯を浅葱に説明した。当然、ヤバ女が獅子王機関であることや、宗真が第四真祖であることなど、知られてはヤバいことは伏せて、上手く話を作る。
「じゃぁなに?たまたま隣に引っ越してきたことがわかって、初めて来た絃神島を親切心で案内しようとしたけど、紗矢華は実は男性恐怖症だったから私に電話したと?」
「...すまん、凪沙にも電話したんだが、出なくてな。あと気軽に呼べる且つ、暇そうな奴っていったらお前しかいなくてな」
「暇そうって何よ!?.....まぁ...実際暇だったけど...」
色々話を交え、街へ繰り出すことにした。
女の子どうしだからだろうか、遠目で見ながらも楽しそうに話しているヤバ女...そっちの趣味があるのだろうか...まぁ、否定はしないが...などと考えていたらヤバ女に睨まれた。
「今更だけどさ...なんで宗真もついてきてるの?男性恐怖症の紗矢華にはきつくない?」
「それは....」
ふと、宗真は思い付いた。このまま話しに乗ればヤバ女から開放されると...。話しに乗るために、続けようと言葉を紡ごうとしたとき、ヤバ女が宗真の言葉を遮り浅葱に嘘の理由を話す。
「そ、それはね?私が少しでもこの体質を治したいと思って、彼には無理いって付き合ってもらってるの...ねぇ?」
笑顔で宗真の方を向くが、どうみても笑えていない引き吊った笑顔で...
(にがさないわよ...)
と、小さく呪詛を唱えるかのような声で宗真に殺気を飛ばしながら警告した。
このヤバ女から抜け出せなかった悔しさを、肯定の言葉に乗せ浅葱に納得してもらった。
そのまま買い物は続き、一通り買い終えた頃には既に日は沈みかけた時間帯になっていた。
買い物に付き合ってくれたお礼ということで浅葱に夕飯をご馳走しようと誘ったが、公社から仕事の呼び出しがあり断られた。凄く残念そうに、そして、電話に向かって悪態をついていた。
「また今度ご馳走してもらうから、凪沙ちゃんにも伝えておいて!紗矢華、また会おうね!」
笑顔で手を振り、駆け足で公社へ向かった浅葱にヤバ女がいるからせめて家の前までついてきて!と願い出ようとしたが、急いで仕事場に向かわなければならない浅葱に迷惑だと思い、何より、情けないので言えなかった。
隣にいるヤバ女を横目でみれば、さっきまで笑顔だった顔がみるからに険しい顔に変化していった。
こんな状態で一緒に同じ道を歩いて帰るのかと思うと、頭が痛くなり溜め息が出る。
もう一度妹の凪沙に電話を掛けるが、やはり出ない。まだ部活なのかと思い、現状に絶望しながら帰路につく。
まるで、一年間歩き続けたかのような疲労感と時間を体験し、ようやく家の前までたどり着いて安堵の息をつき、無言で玄関のドアノブに手をかけたとき少し離れたところから馴染みの声が聞こえた。
「あっ!宗真君も帰りなんだ!お帰りなさい!」
妹の凪沙だ。
「お前今までなにしてたんだ?何度も電話掛けたのに」
「ごめんごめん、部屋に携帯忘れちゃってた☆」
「危ない奴だな。何かあったら怖いだろ?次からは気を付けなさい!」
「は~い。...あれ?こちらの方は?」
凪沙がヤバ女に気づいてしまった!というか目の前にいるので気づくのは当たり前なんだが。
いろいろ面倒なので名前だけ教えようとしたが、さっきから妙に静かなのでヤバ女に目を向けると、ヤバ女の目が、何かきらきら(ギラギラ)していた。
ヤバ女は凪沙の両肩をガシッと掴み、顔を物凄い勢いで近づけた。
「お名前は!?」
「ほぇ?」
「オ・ナ・マ・エ・ハ?」
「ぇっと...暁凪沙です...」
見ても見なくてもわかるくらい、かなり興奮した声で凪沙に迫る。
こいつやっぱりそっちの趣味が?とか思っていると睨み付けられた。
「私は煌坂紗矢華!宜しくね!凪沙って呼んでもいい!?」
「あっ...はい。大丈夫です...」
「私のことはお姉様でもお姉ちゃんでも....」
「えっとじゃぁ...紗矢華...ちゃん?」
「はぅ!!......」
その場で倒れこむヤバ女。いろいろな意味でヤバイなこのヤバ女...と宗真は再確認した。
「ねぇ?宗真君...この人...紗矢華ちゃんってどなた様?」
だよなぁそうだよなぁ普通そこからだよなぁ?と心の中で呟いて、凪沙に簡単に説明する。
「ヤb...この人は今日家の隣に引っ越して来た人だ」
「あっ!そうなんだ!」
ヤバ女に駆け寄り、改めて笑顔で挨拶をする凪沙。
「宜しくね☆紗矢華ちゃん☆」
「はあぁぁぅ!...」
「...........................。」
..............そのまま心拍数が上がり続けて死ねばいいのに.......睨まれない!?
想像以上に凪沙にやられたようだ。
このまま凪沙に任せようと思い、背中を向け玄関を開ける。
「じゃっ、あとヨロシク!」
「えっ!?宗真君!?」
「........スゥゥゥゥゥゥ.....ハアアァァァ!......」
今まで生きてきた中で一番大きな溜め息がでた。
ヤバ女は凪沙で完封できると確信し小さな希望が出来た。
「凪沙...使えるな!」
「.....で?...なんで居んだよ...」
「凪沙にお呼ばれされたの。わかったら口を閉じてなさい」
凪沙が言うには、「引っ越してきたばかりだから家の中まだ片付けられてないよね?そんな中でごはんの支度するの大変だろうから家で食べると良いよ!ご馳走作ってあげるよ?紗矢華ちゃん☆」と言ってヤバ女を招待したそうだ。あと、「嫌いなもの何かある?」って聞いたら「男が嫌い」と答えたそうだ。
夕飯の支度をしている凪沙の元へ歩みより耳打ちする。
「俺部屋にいるからアイツ帰ったら呼んでくれ」
「ごめんね?宗真君。私余計なことしたよね?」
凪沙が沈んだ表情をするので頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ。お前は親切心でアイツを招いたんだ。お前は悪くない。当然アイツもな。だから何も気にせずアイツと遊んでろよ....よかったじゃないか、前々から『お姉ちゃんが欲しい!』って言ってたろ?仲良くやれよ?」
「うん...ありがとう宗真君!....あれ?私、お姉ちゃんが欲しいなんていってたっけ?」
...ヤバイ!!
「い、いやなんでもない!とにかく気にするなってことだ!じゃぁ部屋にいるから」
「?...うん!わかった!」
夜の暗闇に染まった自室で、明かりもつけずに部屋着に着替える。真祖になってからは夜目が利くので夜は電気をつけないようにしている。
扉の向こうから二人の楽しそうな会話が微かに聞こえてくる。
「よかった...楽しそうにしていて...さっきのはさすがに油断しすぎたな。あんなこと...思い出させるわけにはいかないからな。」
過去にあった事故を思いだし、非力だった自分を悔やんでしまう。
頭を振り、気持ちを切り替えベランダへ向かう。
年中気温の高い絃神島でも夜風はほのかに冷たい。ふとアイランド・イーストの方を見ると、何か爆発があったような光と煙が上がっていた。
「...事故か?」
例え事故でなく事件だったとしても、先生がいるから大したことにはならないだろうと思い、部屋に戻りベッドの上に飛び込む。
「はぁ...ドッと疲れた...」
今日このあとは特になにもなく精神が磨り減らされた長い一日が終わった。
「そう言えば...今日一日で一年分くらいの溜め息がでたなぁ...スゥ...ハァァ...また出た...」
朝。学校は始業式の後、HRを挟んで二時間の授業で一日が終わる。
校長の長話を聞き流し、始業式は滞りなく終わりを迎えた。教室へ戻る最中南宮先生に呼び止められたので駆け足で先生の元へ向かう。
「なんですか?先生」
「極力学校内では面倒事は起こすなよ」
「え?...あぁ...はい?」
それだけいって先生はその場から離れる。
なんのことかわからないまま宗真もまた教室へ戻るために歩を進める。
「今日転入生が来るんだって!」
などと、教室内は転入生の話題で持ちきりだ。あまり興味ないので宗真は自分の机にただ突っ伏していた。すると一人の男子生徒が宗真に近づいてきた。
「宗真は興味ないのか?転入生がどんな奴か」
「どうせもうすぐ教室に来るんだからどうでもいい...TVのさ、「気になる情報はCMのあと!」みたいなちょっと待ってればすぐに知れるようなものはワクワク感がないから詰まんねんだ」
「いや、十分ワクワク感あると思うけどな」
「...そう言う基樹は気になるのか?」
「転入生は女子だからなっ!男子なら興味あるだろ?」
「女子なんだ....」
矢瀬基樹は、首にヘッドフォンをかけた茶髪の宗真の親友で、魔族特区の成立にも携わった大財閥の出身。人工島管理公社の人間でもあり、『昔からの付き合い』だ。
「...お前の年上彼女に浮気してるって言うぞ」
「止めろ!それだけは絶対止めろ!」
基樹には彼女がいる。そんなに会ったことはないが、物静かなところが印象的な人だった。
「...そう言えば、お前昨日のアイランド・イーストの爆発って何か知ってるか?」
「ん?....あぁ.....まぁ魔族同士のちょっとした小競り合いだったみたいだぞ?」
「.....ふぅ~ん...そうか」
すると、南宮先生が教室に入ってきて、生徒達に席につくように命令する...そう、命令。
「ではHRを始める前に転入生を紹介する」
すると、教室内が静かにざわめく。
教室の扉が開かれ、噂の転入生が教壇の前まで歩いていく。その姿は、女子にしては少々背が高く、髪は長く綺麗にポニーテールに纏められ、健康的な女性の肉体を持ち、顔も整っていてまさに美少女と言われるような容姿を持った女の子。
その姿を見て、宗真は顔を歪め、冷や汗を流す。
「じゃぁ自己紹介しろ」
「煌坂紗矢華です。よろしくお願いします。」
ヤバ女再来襲....
「........うぅぅぅうわぁぁ.......」
気持ちを落ち着かせるために、胸にあるロザリオに手を添える。
読んでいただきありがとうございます!
はじめての小説、はじめての投稿なのでドキドキ状態です!
主人公設定は次回投稿します!
ではまたお会いしましょう