ISー白き鬼ー   作:金谷沙原

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1章
非日常の始まり


麗は何時もの無表情ながらも、心の中は大荒れだった。

 

その原因は…

 

「えー、織班一夏です。よろしくお願いします」

 

自身の席の少し前でクラスメイトに自己紹介している、幼馴染の織班一夏だ。

 

それだけならば彼女の心中が嵐の海のように荒れることも無かったが、あまりに場所が悪かった。

 

何故なら現在、麗と一夏が通い始めた高校は世界で唯一『インフィニット・ストラトス(略称『IS』)』のパイロット、技術者を養成するための教育機関『IS学園』だからだ。

 

篠ノ之束博士が開発したISは、当初、大気圏外における作業用スーツとして開発されたが、『双白事件』の影響により、その戦闘能力に世界は注目し、現在各国により軍事兵器として運用、開発が進められている。

 

しかし、このIS、兵器としては重大な欠陥が存在している。

 

女性にしか運用出来ないのである。

 

各国の研究機関がISの解析を幾度も試みたが、重要な部分でかつ要因であるであろう、コアは完全にブラックボックスとなっており、原因の究明には至らなかった。

 

これについて情報を持っているであろう篠ノ之博士は各国の諜報網から逃れ、現在行方をくらましている。

 

故に、ISは最大の欠陥を孕んだまま、現在も各国にて運用されている。

 

これに伴い、社会構造にも変化が起きた。

 

女尊男婢思想の台頭である。

 

各国の軍事力を支えているのは、現在女性である。

 

軍、政治や民間の会社の要職はほとんどが女性であり、女性の権利を主張する団体も増えてきている。

 

非常に危険な思想だが、ISという武力を背景に男性の立場というものは大変低いものとなっている。

 

街中でまるで関係性のない男性が、女性に荷物持ちをさせられるという事態もまれに発生している。

 

ここまでで解る通り、ISを運用出来るのは女性のみである。

 

つまり、IS学園は女子高であり、教師から生徒に至るまで女性しか所属していない。

 

にもかかわらず何故男性である一夏がこの学園に居るのかというと、

 

「これが世界初の男性IS操縦者…」

 

「何か、フツーだね」

 

「でもカッコ良くない?」

 

ということなのだ。

 

何の因果か、受験校の名称を間違えた彼は、偶然にもISに触れ、しかも起動させてしまった。

 

各国はいままでの常識を覆す存在に驚き、その扱いに困った。

 

日本は彼の身の安全を守るため、どの国家にも属さないIS学園に彼を入学させることを決定した。

 

一夏にとってみれば驚天動地、青天の霹靂であるが彼をそのまま野に放てば、何処かの研究機関に拉致監禁され、実験動物のように扱われるのは想像に難くない。

 

故に彼はここにいる。

 

ー何で一夏がここに…束なら何か知ってるのかな…?

 

原因は不明だが、開発者である束ならば何かしらの情報を持っているのではないか、と最近連絡の取れなくなった友人に思いを馳せた。

 

 

ー◇ー

 

 

新学期初日、波乱の1日ではあったが、無事放課後を迎えていた。

 

「麗」

 

帰り支度を済ませ、席を立った瞬間声を掛けられた。

 

「箒、どうしたの?」

 

麗に声を掛けたのは、篠ノ之箒、篠ノ之束の妹にして麗、一夏の幼馴染である。

 

政府による要人保護プログラムにより、今から6年前、麗達と離ればなれになってしまったが、束の努力により定期的に連絡はとれていた。

 

「一緒に帰らないか?」

 

「いいよ。一夏は一緒じゃないの?」

 

「ああ。一夏は今織班先生に呼ばれて職員室に向かった」

 

「待つ?」

 

箒は少し考える素振りを見せたが、すぐに首を横に振った。

 

「いや、どの程度で戻るかわからない。先に帰ろう」

 

麗も特に一夏を待つ理由も無かったので、箒に従い帰路に着いた。

 

「箒、私に何か用があるんじゃないの?」

 

帰路の途中、麗は箒にそう問い掛けた。

 

「用がないと声を掛けては駄目か?6年振りの幼馴染との再会だ。私でなくとも声を掛けると思うが?」

 

「でも一夏には声かけてなかったよね?」

 

「それは…」

 

麗の言葉に箒は口ごもり、やがて、頬に若干朱が混じり、小さく呟いた。

 

「…その、カッコ良く、なってたから、声、掛けづらくて…」

 

その様子が可愛いな、と思いながら麗は小さく微笑む。

 

友人である彼女は普段は凛として、剣道をやっているおかげか武人のような雰囲気を放っているが、好きな男の子の話になった途端、このように奥手で、普通のどこにでもいる乙女になってしまう。

 

彼の前でその様に振る舞えれば、このギャップにさしもの彼も少しは彼女のことを女の子として意識するのだろうが。

 

「じゃあ、明日は一夏と話そ。私も着いていくから」

 

「…うん」

 

寮に帰るまで二人はこの6年間の思い出を語り合った。

 

 

ー◇ー

 

 

明くる日の昼休み、麗、一夏、箒の3人は揃って屋上にいた。

 

「ひ、久し振りだな一夏」

 

「おう、久し振り。昨日は全然こっちの方見なかったから忘れられたのかと思ったぜ」

 

「そ、それは緊張して…!忘れたことなど一度も…!」

 

「緊張?」

 

「い、いや、な、何でもない!」

 

ー見る人が見れば好意があるのバレバレだけど、一夏全く考えてもないんだろうな…

 

幼馴染二人が会話する様子を眺めながら、麗はそんなことを思った。

 

箒は嬉しさで普段の凛とした態度が崩れ、余程嬉しいのだろう、麗にはハートが幻視できるレベルだ。

 

「そういえば麗と箒は同部屋なんだろ?」

 

「ああ、それがどうした?」

 

流石の箒も慣れてきたのか、何時もの調子を取り戻していた。

 

「いや、知り合い同士でいいなと思ってさ。まあ、俺も暫くは千冬姉のところだから、まだ気は楽なんだけど」

 

「む、同じ部屋で寝ているのか?」

 

「いや、千冬姉あんまり部屋に戻って来ないから、ほとんど1人部屋状態だな」

 

「そうか」

 

そんな他愛のない話をしているうちに昼休みの終わりが近づき、3人は教室へと戻った。

 

戻った瞬間、昼休み中一夏を独占して何をしていたのか、とクラス中に彼女らが質問攻めにされたのはまた別の話。


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