超侵略侵攻 ベール 鎧神 グリーンハート   作:ガージェット

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8.決着…?

 変身を遂げた『女神様』の放ったエネルギー弾を横に転がって避け、トウコは再度、トリガーを引いた。が、エネルギー弾は発射されず代わりに空撃ちの音が響く。

 

「しまっ……!」

 

 直後、相手の放ったエネルギー弾が彼女に命中した。先程の倍はあろうかという衝撃が、痛覚となってトウコの体中に走る。

 

「――ッ!!」

 

――――

 

 さて、変身した『女神様』とトウコが戦っている中、地面に倒れたベールはゆっくりと体を起こした。が、その目は光を失った、虚ろなものであった。

 

「……どうして……どうして、こんなことに」

 

 ベールはうつむいたまま呟く。いつものようにゲームで夜更かしして、朝を迎えて少々気だるげながらも仕事に向かう……そう、『いつも通り』の日常が始まるとばかり思っていたのに、どこで間違えてしまったのだろうか。

 自国の国民を、やむを得なかったとはいえ手にかけてしまった。その上、自分の国と人々が他の『世界』に飲み込まれていくさまを、目の前ではっきりと目撃してしまったのだ。彼女の大事な物を、一切の容赦なく食い尽くしていく、あまりにも強大な『力』を前に、彼女は完全に立ち向かう意志を喪失していた。

 

「本当に、悲しいよね。辛いよね……自分の国が、こんなになっちゃうなんてさ」

 

 と、そこへ彼女の肩に手を置いて語りかける者があった。振り返ると、そこにいたのは憎き相手、暗黒星くろめだ。しかしこれまでのような邪悪な表情でもなければ、意味深な笑みを浮かべた顔でもない。今の彼女は穏やかで、相手を包み込むかのような優しい表情をしていた。

 彼女はベールの目を見据えて話し始める。

 

「国を失った悲しみ、民を失った辛さ、そして戦いの中での苦しみ……きみは、本当によく頑張ったよ。もう、これ以上無理をする必要なんてない」

「……もう、無理をしなくて……も?」

「ああ、リーンボックスはヘルヘイムと融合して生まれ変わる。そうすればヘルヘイムという世界の、一つの意志の下でみんなが暮らせるんだ。争いや葛藤のない、平和な世界にね」

 

 語りかけつつ、くろめはベールの手を取った。彼女の手の感触と眼差しに、なぜだかベールはひどく安心感を抱いていた。そうだ、彼女の言う通り、自分ひとりが戦い続ける必要なんて無い。この国もヘルヘイムの一部となれば、皆これまで通り一緒にいられるのだ。

 手を握られたベールの表情から、ふっと笑顔がこぼれる。と同時に、怪物たちとの戦いで負傷した左手の小さな傷から、緑色の細いツタが生えてきた。

 

「さあ、ヘルヘイムを受け入れるんだ。怖い事なんて無い、幸せな世界が待ってる」

 

 くろめがベールの手をぎゅっと握る。細いツタがゆっくりと、しかし着実にベールの体に広がっていく。同時に彼女は体の奥底から、強い力のようなものが湧き起ってくるのを感じていた。何だか今の自分を上書きしようとするかのような、得体の知れない激しいものだ。

 しかし今のベールはそれを受け入れようとしていた。自我が溶かされていくような感覚、でも悪い気分じゃない。むしろ心地よく、全てこのまま委ねてしまいたい気持ちになる。そして、無意識に目を閉じていた。

 

「くっくっく……はっはっはっは! 見てみなよトウコ、この国の女神はヘルヘイムとの同化を受け入れてくれるみたいだよ? もう戦う必要なんてないんじゃあないかな?」

 

 立ち上がり、勝ち誇ったような口調でくろめは言った。ちょうどその時、トウコは『女神様』の放ったエネルギー弾を受け、後方に吹き飛ばされてしまう。

 その拍子に、ベールとくろめが並んでいるのが彼女の目に入った。邪悪さのにじみ出るような笑みを浮かべるくろめの横で、眠ったように目を閉じ、不気味な植物に体を蝕まれつつあるベールの姿が見える。

 

「ぐあああっ! くっ……」

「考えてごらんよ、きみ一人っきりで戦う理由なんてある? この国の為に戦う理由がどこにあるんだい?」

 

 倒れ込む彼女に向けて、くろめは肩をすくめて言い放った。

それと同時に『女神様』はベルトにセットした錠前を取り外すと、手にした武器の側面のくぼみにはめ込んだ。弓から電子音声が流れ、

 

『ロック、オン! レモンエナジー!!』

 

 そしてトウコに狙いを定めて弓を引くと、錠前から弓の発射口にエネルギーが充填されていく。地面にうつ伏せに倒れ、トウコは土を掴むが立ち上がろうとしない。

 再び、くろめは彼女に言葉を投げかけた。

 

「もういいだろう? トウコ、今降伏すれば命までは取らないよ」

「……誰が諦める、ものか!」

 

 その言葉を背中で聞き流し、トウコは刀を地面に突き刺してなおも立ち上がろうとする。しかしダメージの蓄積が大きく、立つことさえままならないようだが、彼女は顔を上げ気丈に言い放った。

 

「ベールは私を……どこの誰とも分からない私を受け入れてくれた。だから貴様がこの世界ごと飲み込もうと言うのなら……私はベール自身が諦めようと戦う! この国を、世界を、貴様などに渡しはしない!!」

「はーあ、健気だねえ。だけど、そんなボロボロの体で何が出来ると言うんだい? せっかく命だけは助けてあげようと思ったのに……さあ、『女神様』。この小娘に引導を渡してやってよ」

 

 呆れたような声で、ため息交じりにくろめがそう言うと同時に、『女神様』は弓を引いた手を放す。巨大な黄色のエネルギー弾が発射され、倒れたトウコに襲い掛かった。

 が、その攻撃は彼女に届く寸前で、緑色をした閃光に弾き飛ばされてしまった。エネルギー弾はあさっての方向に飛んでいく。

 

「そんな、馬鹿な……! 『お前』が、なぜ!」

 

 背後を振り向いたくろめは、唇を噛んで怒りをあらわにした。目の前にいたのは、ベール……ではなく、彼女の変身したグリーンハートの姿だ。相手の放った攻撃を弾き、彼女は手元に戻ってきた槍をキャッチすると、その穂先をくろめに向ける。

 

「……意識を手放す寸前、トウコの声が聞こえましたわ。彼女の声、その諦めない心が、わたくしを引き戻してくれた」

「……ふざけるな。どうして絶望しないんだ、『お前たち』に勝ち目なんてないんだぞ!」

 

 まるで悔しがる子供のように、くろめは地団太を踏みつつ感情をあらわに叫んだ。

 

「見苦しいですわよ、お嬢さん? 『そちら』の方があなたの素なのかしら」

「この……減らず口を!」

 

 グリーンハートは腕を覆った植物をむしり取って投げ捨てると、お返しとばかりに煽るような返答をする。その態度が怒りに油を注いだようで、くろめは拳を握り固めると軽く助走をつけ、彼女に殴りかかった。

 槍の柄でその打撃を防ぎ、振り下ろしを繰り出してグリーンハートも応戦する。それをくろめはバックステップで避けると、その手にメガホンを構えた。

 

「あーもう頭に来た。 ううああああああああああああっ!!!」

 

 そしてメガホンに向かって絶叫すると、増幅された彼女の声が強烈な衝撃波となり、守りの構えを取ったグリーンハートをそのまま吹き飛ばしてしまった。

 そこへすかさず、くろめが拳を振りかぶって距離を詰めてくる。グリーンハートは空中で受け身を取ると、向かってきた相手を横薙ぎからの振り下ろしで迎え撃つ。しゃがみからのバックステップでくろめもその攻撃をかわし、

 

「振りが大きい! 隙だらけだね!」

「ぬうっ……!」

 

 続けてほぼ水平に跳躍し飛び蹴りを放ってくる。手元で槍を回転させ、グリーンハートは蹴りを受け止めると、そのまま大きく横に薙ぎ払った。しかしくろめもさるもの、相手の得物を蹴って大きく後方へ飛ぶと、再びメガホンを構える。

 

「さあ……ちっぽけな『希望』ごと吹き飛ぶがいい!」

 

 彼女が息を吸い込み、絶叫しようとしたその時、

 

「いいえ……消させはしませんわ!」

 

 ベールは一瞬の隙を突き、手にした槍を相手に投擲した。彼女の手を離れ、緑色に輝くオーラをまとい、その矛先は一直線にくろめを目がけて飛んでいく。それとほぼ同時に、くろめの発した絶叫が大気を切り裂くような衝撃波となって放たれた。

 衝撃波と輝く槍が衝突し、ぶつかり合ったエネルギーがスパークしてまばゆい電光を放った。ベールの放った槍はその光の中に消えていく。

 

「勝っ――!」

 

勝利を確信したくろめだったが、その言葉が最後まで続くことはなかった。緑色をした一筋の閃光が彼女の体を貫く。そして直後、大爆発を起こした。

 爆炎の中から、槍が持ち主の手元に戻ってくる。グリーンハートは得物をキャッチすると、相手の『いた所』に背を向け、言った。

 

「ごきげんよう」

 

 その言葉と共に、爆炎と爆風がおさまり、空中から焼け焦げたツタの破片のようなものが、はらはらと地上に舞い落ちていく。

 

「ベール……ぬうおおおおおおっ!!!」

 

 一方地上では、グリーンハートが作ってくれたこの機会を逃さず、トウコは声の限りに叫び、渾身の力を振って絞り立ち上がった。相手に向かって距離を詰め、手にした刀で斬りかかる。横からの斬り払いを、弓のブレード部分で受け止めた『女神様』だったが、間髪入れずにトウコはもう片方の手に持ったオレンジのような太刀で斬りつける。

 強烈な斬撃を受け、相手の鎧から火花が飛び散った。相手がのけ反ったところに、続けて彼女は刀のトリガーを引き至近距離からエネルギー弾を連続発射する。立て続けに繰り出された攻撃に、『女神様』は大きく後ろに退いた。

 

「『女神様』……あなたが、もはや『奴』の手駒となり下がってしまったというのなら……」

 

 そしてトウコは、二本の刀を腰に差すとベルトについたレバーを一回倒す。

 

『オレンジスカッシュ!!』

「いっそ、私の手で……あなたに、安らかな眠りを!」

 

 決意を込めた視線と言葉を相手に投げかけ、彼女は地を蹴り大きく跳躍した。空中から相手に向かって、輪切りにされたオレンジのような、無数のエネルギー体が一直線に並ぶ。そこに向かってトウコは空中から急降下しつつ飛び蹴りを放った。

 『女神様』もそれに対し、弓にセットした錠前をベルトにセットし直すと、ベルトについたグリップを素早く二回押し込んだ。

 

『レモンエナジースパーキング!!』

 

 そして無言で斜め上に跳躍する。エネルギー体をくぐり抜けながら加速し、飛び蹴りを繰り出すトウコに、彼女はレモン色のオーラをまとった飛び回し蹴りを放つ。両者のキックがぶつかり合い、空中で互いに激しく押し合った。

 

「ううおおおおっ!!」

「…………!」

 

 二人のパワーはほぼ互角と言ったところで、トウコのまとうオレンジ色のオーラと『女神様』のレモン色のオーラが拮抗している。ぶつかり合うお互いのエネルギーが衝撃波を生み、地面を揺るがした。

 押し合う二人のまとうオーラがひときわ大きくなる。そして遂に、橙と黄色の混じったような色の閃光と共に、大爆発を起こした。


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