超侵略侵攻 ベール 鎧神 グリーンハート   作:ガージェット

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6.暗黒の星

 くろめは二人の返答も待たずに話し始める。

 

「帝国『ヘルヘイム』は特殊な世界なんだ。次元を超えて他の世界を侵食し、取り込んでしまう。更に『それ』は……ヘルヘイムに蔓延するウイルスみたいなものかな。あらゆる生物に感染し、ヘルヘイムの動植物へと変えてしまう。結局何が言いたいかって言うと、『ヘルヘイム』は放っておくだけで全世界……いや全ての次元を侵食してしまう、素晴らしい世界だってことさ」

「なっ……! 何ですって!?」

「まさか、そのようなことが……」

 

 『それ』と言ってくろめは床に横たわるツタの塊を指し示す。驚愕を隠せない二人に彼女は不敵に笑いかけると、話を続けた。

 

「でも支配者である『女神様』はそのことに心を痛めていた。それで、心優しい彼女は『禁断の果実』の力を使って、ヘルヘイムの他次元への侵食と、感染を抑え込むことに成功した……でも、いかに『全能の力』といえども、この『世界の理』に干渉するのは並大抵のことじゃあなかったみたいだね。ヘルヘイムの侵食を止め、住人たちは元の姿に戻ったけど、『禁断の果実』の力はその維持にほとんど費やされ、おまけに彼女は『寿命』に己の生を縛られることになったのさ」

「……だから、私を後継者に、しようと……」

 

 呟いたトウコに、くろめは意地悪そうな笑みを浮かべつつ、肩をすくめて見せた。

 

「なぁんにも知らなかったんだね、トウコ。『女神様』の後継者が聞いてあきれるよ……おっと?」

 

 とその時、突然に緑色の影がくろめに躍りかかった。繰り出された一撃を彼女は右手のグローブで受け止める。甲高い金属音が鳴り響き、火花が飛び散った。

 くろめは振り下ろされた槍の穂先を受け止めつつ、笑みを崩さずに言う。

 

「奇襲なんてスマートじゃないね、リーンボックスの女神様」

 

 かしらの危機と見てか、周りの怪物たちが唸り声を上げ、ベールに襲い掛かろうとする。しかしくろめはそれを、空いた方の手で制した。

 

「みんな静かに。オレたちに手出しは無用だよ」

「……あなたはなぜ……このようなことをするの!?」

 

 彼女の指示で怪物たちは二人から離れる。

 直後、手にした槍を横に薙ぎ、ベールは相手の拳を弾いた。すかさず突きを繰り出すが、くろめもさるもの、体をひねってその攻撃をかわすと跳躍し、空中から殴りかかる。

 

「理由だって? そんなものは無いね!」

「ぐっ! 何ですって!? 何の理由もなく、他人の国を蹂躙するなんて納得がいきませんわ!」

「当然さ! 納得してもらおうなんて思ってないから、ねっ!!」

「ぐああっ!?」

 

 空中から繰り出されたパンチをベールはとっさに槍の柄の部分で防ぐ。しかし続けて二発目、三発目と次々に拳を打ち込まれ、彼女は段々と押されていった。懐にもぐり込まれ、槍の長さがかえって戦いの邪魔になってしまっている。

 そこへ体重を乗せたストレートが打ち込まれ、ベールは大きく後方へ押しやられた。ちょうどその先にいたトウコが彼女を抱き留める。

 

「ベール!」

「ま、理由らしいものを一つ挙げるとすれば……『気に入らない』んだよ。きみたちのいちいちが!」

 

 怒気を含んだ声色を初めてあらわすと、くろめは続けて言った。

 

「国民に愛され、悠々と毎日を過ごしてる……それが気に入らない。何で『お前たち』ばっかり、そんな日々を甘受できる? こんなのは不公平極まりないと思うんだよねえ!!」

「何なのだ? こいつ、急に……」

「ただの逆恨みではありませんの!? こんなことをしてもいい理由にはなりませんわ!!」

 

 吐き捨てるような言葉、しかしトウコは刹那、彼女の声色にどこか悲哀のようなものを感じ取った。

 一方でベールはその言葉に怒りを更に募らせた様子で、トウコを後ろへ押しやるようにして前に出ると、槍を構えなおす。そして彼女の体が淡い青色の光に包まれ、一瞬にして、青い瞳に緑色の長髪の女神、グリーンハートへと変身した。

 

「へえ、怒りのパワーで変身するなんて……いいじゃないか、来なよ」

「はあああっ!!」

 

 くろめは目を細め、挑発するように言って拳を握り、構えを取る。そこへグリーンハートが距離を詰め、

 

「罪の代価は……その命で払って頂きますわ!」

 

 目にも止まらぬ連続突きを放った。あまりのスピードに槍が幾本にも見えるほどである。しかしくろめもそのスピードに見合うだけのラッシュを放ち、両者が打ち合う。槍の穂先とグローブの金属部分が幾度となくぶつかり合い、激しく火花を散らした。

 だが徐々に押され始めたのは、くろめの方だった。相手の攻撃をいなしきれず、槍の穂先が何度かその体をかすめる。

 

「ぐうう、そっちだけ『変身』できるってズルくない、かな……!?」

「あなたの持つ『禁断の果実』というのも、大したものではないようですわね!!」

「ぐうああっ!?」

 

 強烈な横薙ぎを受け、くろめは両腕をクロスさせ防御するも、床を滑って大きく後方へ押しやられる。足を踏ん張ってブレーキをかけ、体勢を立て直そうとしたところへ、

 

「あなたにこれが避けられる? 冥途のお土産に受け取りなさい!!」

 

 間髪入れず、グリーンハートが右手を横に薙ぐ。するとそこから無数の槍が生成され、くろめを目がけて飛んで行った。回避行動もままならない彼女に槍が命中し、続けて疾風と共にグリーンハートが突貫する。

 そして繰り出された突きの一撃が、相手を後方の壁に叩き付けた。

 

「が、はあっ……!」

「……勝負、ありましたわね」

 

 叩き付けられた衝撃で壁にめり込み、動かなくなった相手のもとへ、グリーンハートは槍を構えて歩み寄っていく。と、その時、

 

「ぐうう……う、ああ……あーっはっはっはっは!!」

「……何かのハッタリ? それとも、本当に気が触れてしまったのかしら?」

「はっはっはー……あ、そうだ。ところで、他のみんなには『手を出すな』って言ったけど、聞いてなかった子がいたみたいだね」

「この期に及んで戯言を……はっ!?」

 

 服のあちこちが破け、血を流し、まるでボロ雑巾のようなズタズタの姿になりながらも、くろめは高笑いし、その顔には不敵な笑みが浮かぶ。彼女に止めを刺そうとしたグリーンハートだったが、そこで相手の言わんとしていることに気付き、その手が止まった。

 

「ぬああっ! くっ……あいつ、この国の住人までも……ぐあっ!?」

 

 後ろを振り返ると、トウコが虎のような姿をした怪物から一方的に攻撃を受けていた。その鋭く巨大な爪が、彼女のまとった鎧に斬りつけ、更に倒れ込んだ彼女を蹴り飛ばす。近くに真っ二つに割れたツタの塊が転がっており、先程の患者が変異した怪物であることは明らかだった。

 その様子をまるで観客のように、周りの怪物たちは手を出すこともなくただ見守っている。そこで再び、くろめが嘲るように言った。

 

「さすがにきみの国の人には、トウコも手が出せないみたいだね……ほら、早く助けてあげないのかい? 放っておいたら、いくら彼女といえどもヤバいんじゃあないかな?」

「あ、あなたという、人は……!!」

「ゆっくり考えてる暇があるのかい? ……さあ、どうする?」

「ぐはあっ! 駄目だ……そんな、ことは、ぬうっ! ベール! あなたの民を、手に、かけては……」

 

 さも愉快そうに笑うくろめと、怪物にその身を斬り裂かれながらも『その行動』を押しとどめようとするトウコ、二人の声がグリーンハートの頭の中で何度も、こだまのように響き渡った。

 彼女は一旦目を閉じ、そして開く。

 

「わたくし、は……」

「ぬうっ!? ぐ、ああっ……!」

 

 怪物が倒れたトウコの首根っこを掴んで持ち上げる。そして彼女に巨大な爪を突きつけた。

 刹那、トウコを掴んだ怪物の腹部から槍の穂先が突き出し、直後、怪物は爆散した。生じた爆風に巻き込まれ、トウコは後方へ吹き飛ばされる。それを見てくろめは歓声を上げ、手を叩いた。

 

「やった……やったねえグリーンハート! きみはよくやったよ! あっはっはっは!!」

 

 高笑いのような残響と共に彼女の体は焼け焦げたツタのようになり、グリーンハートが手を下すまでもなく、灰塵と化して崩れ去った。

 爆風で飛ばされ、倒れ込んだトウコはどうにかそこで体を起こす。

 

「……そ、そん、な……ベー、ル……」

 

 彼女の視線の先、無言で槍を構えるグリーンハートの目には感情と呼べるようなものはなく、ただ冷徹な光だけがその奥に宿っていた。彼女は両手で槍を構えた姿勢のまま、その動きを止める。

隙ありと見たのか、それともやられた仲間の敵討ちを図ってか、周りの怪物たちがそこへ襲い掛かってきた。が、

 

「はああっ!!」

 

 目を大きく見開き、発した掛け声と共にグリーンハートの姿が消えた。否、目にも止まらぬスピードで怪物たちの間を通り抜けた。直後、その背後で真空の刃が生じ、怪物の群れを幾重にも切り刻む。荒れ狂う風の刃に切り刻まれた怪物たちが、グリーンハートの後ろで次々に爆散していった。

 いつもなら、ここで笑顔と共にポーズを決めるところであるが、今の彼女は違っていた。構えを解くと、その感情を失った目を虚空に向ける。そして、ゆらりとよろめくと、そのまま倒れ込んでしまった。

 

「ベール! ベール、しっかり!!」

 

 トウコがすぐさま駆け寄り、助け起こす。彼女の腕の中でグリーンハートの体が淡い光に包まれ、ベールの姿に戻った。彼女に怪我は無かった。しかし、その目にはもはや何も映ってはおらず、完全に生気を失っていた。

 




評価を頂き、拙作ながらもお気に入り登録して頂きました。
本当に感謝です。もっと精進して参ります。

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