超侵略侵攻 ベール 鎧神 グリーンハート   作:ガージェット

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3.共闘

「受けなさい、シレットスピアー!!」

 

 グリーンハートが手の平を前方にかざすと、彼女の横に魔方陣が形成され、その中央から巨大な槍が突き出した。長く伸びた穂先が怪物たちをまとめて刺し貫き、直後に砕け散る。その破片が更に周囲の怪物を巻き込み、吹き飛ばした。

 

「全く、次から次へと……!」

 

 が、後から後から怪物たちが、彼女のもとに押し寄せてくる。もう一度槍を構え、グリーンハートは周囲に群がる怪物たちを貫き、斬りつけた。

 とそこへ、

 

「ベール! 私も加勢しよう!!」

 

 不意に背後から、低めの女性の声がかかる。そして小型のバイクに乗った、橙色の鎧をまとった重厚な武者のような人物が姿を現した。周囲に群がる怪物たちをバイクの前輪で跳ね飛ばし、交戦中のグリーンハートのところへ駆けつけてくる。

 

「こ、今度はオレンジの鎧武者!?」

 

 呆気にとられるグリーンハートの前で、橙色をした鎧武者はバイクを急停止させ飛び降りると、二本の刀を取り出した。一本は一見普通の刀に見えるが、持ち手の部分にトリガーがついていて、もう一本は刃の部分が、くし型に切られたオレンジのような形をしている太刀だ。

 『彼女』は取り出した刀を構えると、

 

「この国の民まで巻き込むのなら……私も、容赦はしない!」

 

 逃げ遅れた子供を襲おうとしていた怪物に、その間に割って入る形で、鎧武者は右手のオレンジのような太刀で斬りつけ、更に左手の刀のトリガーを引く。すると鍔の部分に仕込まれた銃口からエネルギー弾が発射され、怪物を吹っ飛ばした。

 彼女は続けて刀を横に構え、トリガーを引くとエネルギー弾を連射し、住民を追い回していた数匹の怪物を転倒させる。

 

「皆、ここから離れよ! 巻き添えになりたくなければな!!」

 

 そう言うと彼女は、右手に持った太刀を腰に差すと、ベルトにセットされた錠前を取り外した。そして外した錠前を、左手の刀の側面のくぼみにセットし直す。

 

『ロック、オン! イチ・ジュウ・ヒャク……オレンジチャージ!!』

「はああああっ!!」

 

 刀から流れる電子音声と共に、その刀身が橙色のオーラをまとう。そして掛け声と共に鎧武者は手にした刀を大きく横に薙いだ。

 その横薙ぎから、橙色の巨大な衝撃波が生じ、前方に群がる怪物たちを一掃する。怪物の群れは次々と爆散していき、衝撃波の通ったその痕が、一瞬にして数メートほどの半円状に焦土と化した。更に強風が巻き起こり、周囲の建物のガラスを粉々にする。周りで戦っていた兵士たちや、逃げまどっていた人々も風にあおられ、悲鳴を上げて何人もその場に倒れ込み、吹き飛ばされて地面を転がった。

 

「な、何と言う……力」

「『禁断の果実』……まさか、これほどまでの力……だとは」

 

 グリーンハートがその光景に唖然とする一方、鎧武者も自らの行ったその行為に戦慄を覚えていた。焼け焦げた地面と破壊された建物、怯えた表情の人々を前にして、彼女は刀を下ろし呆然と立ち尽くす。

 先程までとは打って変わって、しんと静まり返ったところへ、

 

「やるじゃないか、『トウコ』」

「なっ、貴様は……!」

 

 不意に上空にクラックが開き、あの青紫色をした長髪の少女がその中から飛び出してきた。彼女は着地すると辺りを見回しつつ、身構える鎧武者に呼びかける。

 

「だいぶ派手にやったもんだね。きみは、追手を蹴散らすのに他人まで巻き込むのかい?」

「貴様、よくもぬけぬけと……!」

「えっ!? 『トウコ』って……あなたが?」

 

 少女の言葉に鎧武者の、刀を握る両手に力が入る。その傍らでグリーンハートは衝撃の事実に戸惑っていた。あの小柄な少女が、この重厚な仮面の鎧武者に……どう頑張ってもイメージが結びつかない。

 長髪の少女は深くため息をついて続ける。

 

「トウコ、そしてグリーンハート。自分たちのしたことがどれほどのことなのか……今一度、考えてみた方がいいんじゃないかな」

「何だと、この期に及んで何を言う!?」

「一体何をおっしゃっていますの? あなたこそ、ご自分のなさったことを考え直すべきではなくて?」

「さて、それはどうだかね」

 

 憤慨するトウコと、手にした槍の穂先を向けるグリーンハートに、長髪の少女は表情を変えずに言い返すと、

 

「さあ、みんなおいで」

「なっ、これは……!?」

 

 おもむろに右手をさっと上げる。するとグリーンハートと鎧武者……もとい、トウコの周囲に数個のクラックが開き、中から何やら古風な服を着た幾人もの人物たちが姿を現した。

 大人の男女から、少年少女まで様々な年齢層の人々が、二人を取り囲む。

 

「さあ、ショータイムだ。これからお二人に、『真実』をお見せしよう」

 

 少女の言葉と共に、『彼ら』の目が禍々しい赤色に輝く。そして、その体に変化が生じた。各々の肌の色が灰色、青色、黒色と変色していき、頭から足先にかけて人の形はかろうじて留めながらも、徐々に昆虫じみた姿に変態していく。

 ほどなくして、二人を取り囲んだ人々は、先程戦った怪物たちと同じ姿に変貌を遂げていた。中には変異種と見られる、長い触角の生えた青いカミキリムシのような個体や、翼のような皮膜を持った黒いコウモリのような姿をした個体も混じっている。

 

「分かったかい? きみたちは『彼ら』を手にかけたんだ」

「こ、こんなものはまやかしですわ! こちらの動揺を誘っても無駄でしてよ!!」

「ほう、現実から目をそらす? でもそこにいるトウコに聞いてみれば」

 

 淡々と言った少女にグリーンハートは強い口調で言い返すが、槍を持つその手が震えている。そんな彼女に目を細めつつ、少女がそう返した次の瞬間、

 

「貴様ぁああああああ!!!」

 

 トウコが突如、怒気を含んだ叫び声を上げると、周りを囲む怪物たちの頭を飛び越えて跳躍し、空中でベルトについた小刀型のレバーを一回倒した。

 

『オレンジスカッシュ!!』

「よくも同胞たちを! 貴様は、貴様だけは! 絶対に許さん!!」

 

 輪切りにされたオレンジのような、いくつものエネルギー体が、トウコのいる位置から地上の少女に向けて一列に並んだ。彼女はそのエネルギー体をゲートのように、次々とくぐり抜けて加速していき、相手に強烈な飛び蹴りを放つ。

 それに対して少女は拳を握り固めると、後方へ振りかぶった。

 

「いい機会だ。『禁断の果実』の力……どれほどのものか、見極めさせてもらおうかな」

 

 その拳にエネルギーが集中し、ドリルのようならせん型を形成する。

 

「せいはあーっ!!」

「うらああーっ!!」

 

 そして相手の蹴り込んでくるタイミングに合わせ、鉄拳を打ち込んだ。

 両者のキックとパンチがぶつかり合い、生じた強烈な衝撃波が地面を揺るがす。大量の砂埃が巻き上がり、二人の姿を覆い隠してしまった。ほどなくして、砂埃がおさまった後に現れたのは、

 

「……どうやら、私の『力』の方が上だったようだな」

 

 大きくえぐられた地面と、その中央で倒れた長髪の少女に刀を向ける、トウコの姿だった。彼女の方は無傷だが、少女の方は拳に装着したグローブがボロボロになっている。

 しかし少女はその状況をものともせずに、意味深な笑みをその顔にたたえていた。彼女はトウコを見上げると、言った。

 

「ふふ……確かに、今回はオレの負けだね。 でも、きみの『力』は十分に分かったよ」

「貴様、何を笑って――!?」

 

 問い詰めようとしたトウコの目の前で、少女の体が真っ黒に変色していく。先程まで少女だった『それ』は焼け焦げた植物のツタのような物質に変化し、直後に灰のようになって風に飛ばされていった。

 

「トウコ、今のうちによく言っておこう。この世界に、きみの居場所なんて無いと」

「なっ……何だと!?」

 

 あざ笑うような残響と共に、灰塵と化した少女の体は完全に消失する。トウコは灰の散っていった辺りをしばらくの間、呆然と眺めていたが、突如響き渡った悲鳴に我に返った。

 振り返ると、先程新たに現れた怪物たちが再び、逃げ遅れた人々に襲い掛かっている。

 

「怪物……しかし、元は人間ですわ。どうすれば……!」

 

 グリーンハートも周囲の怪物たちと交戦しているが、その槍さばきには明らかに迷いが見て取れた。ほぼ相手の攻撃を受け止め、防ぐばかりで攻撃に転じようとしていない。

 そんな中、カミキリムシのような怪物がその長い触角を鞭のようにしならせ、グリーンハートの体をからめ取り、拘束した。

 

「なっ!? しまっ……ぐあっ!」

 

 続けてコウモリのような姿の怪物が、腕に仕込まれた短剣のような武器で彼女に斬りつける。更にカミキリムシの方が頭を大きく横に振って、彼女を地面に引き倒した。

 そこへコウモリの方が踏みつけ、追撃を加える。勝ち誇ったように、二体の怪物が不気味な鳴き声を上げた。

 

「や、やめろ……!」

 

 トウコが震える声でそう口にする。その間にも怪物たちの狼藉はとどまることを知らず、人々の悲鳴も徐々に大きくなり、辺りに大きく響き渡っていった。

 腰に差した太刀を、トウコは再び手にすると、

 

「うう……ぬぉおおあああああ!!!」

 

 グリーンハートを一方的に痛めつける二体の間に割って入り、カミキリムシのような怪物の触角を斬り裂いた。続けてもう片方の刀のトリガーを引き、コウモリのような怪物にエネルギー弾の連射を浴びせる。

 更にトウコは手に持った刀と太刀の柄を連結し、薙刀のような武器に変形させ、

 

「せいっ! はぁー!!」

 

 掛け声と共に、ひるんだ二体の怪物を斬り裂き、その後ろへ駆け抜けた。直後、彼女の背後で怪物たちはほぼ同時に爆散する。

 そして、トウコは人々を襲う怪物たちに向き直ると、今度は無言でそちらへ向かって行った。群がる怪物たちを、手にした薙刀を振り回して斬りつけ、爆散させる。人々の悲鳴は段々と小さくなり、今度は怪物たちの断末魔の方が周囲に大きく響き始めた。

 

「トウコ、あなたは……」

 

 その光景を見つめ、グリーンハートは呟く。

 それからいくらも経たないうちに、周囲には静寂が訪れた。壊れた建物に、傷つき怯えた表情の人々。その中心には小柄な少女が両膝をついて座り込んでおり、焦点の定まらぬ瞳で、ただただ虚空を見つめていた。

 

「……彼女の保護をお願いしますわ。深く傷ついてしまったようですから、病院で診てもらって、よく休ませてあげて下さいな」

 

 グリーンハートは近くにいた兵士に指示すると、その場を離れた。トウコのことは心配ではあったが、今は一国の統治者としてすべきことがある。それに今の彼女には、かけるべき言葉が見つからない。

 後ろ髪を引かれるような思いはあったが、グリーンハートは空を翔け、リーンボックスの宮殿へと引き返していった。

 


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