転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

87 / 87
スピンオフ「雷の如き曙の光:その3」

カーテンから漏れる朝日に顔を照らされ、

曙は目を覚ました。

 

「ん……もう朝……?雷、早く起きて……」

 

寝ぼけ眼の状態で隣で寝ている雷を揺さぶる。

今日はいつもより少し早い時間に起きている。

何故か。その理由はーーーーーー

「早く起きなさいよ‼︎今日は訓練が

ある日なのよ‼︎」

 

「……んー。起きる、起きるから。

そう揺さぶらないでよ、曙」

 

眠そうに目をこすりながら、雷が上半身を

起こし、曙を制した。

 

「全く、なんでそうあんたはいつも訓練の日は

そう早く起きるのよ?」

 

「早起きしとけば、普段よりも早くしゃっきり

するでしょ?訓練はいつも気を引き締めて

いくべきものだから、なるべく目が冴えた

状態で行きたいの」

 

その曙の答えに雷はベッドから降りながら

肩を竦めて理解出来ないとばかりにため息を

つき、

「こっちの身にもなってよね。昨日は

勉強してて遅かったんだからさ」と言った。

 

曙と雷のどちらが上か、という争いは

曙と雷がそれぞれ一勝したところで

「もうどっちが上とか決めるの馬鹿らしくね?」

となり、二人とも停戦協定を結んだ。

なので前のように喧嘩することは殆どなくなった。

だがしかしーーーーーー。

 

「は?それは遅くまで起きてたあんたが

悪いんでしょ?それに寮舎は11時までには

消灯するはずでしょうに。

そんなルールも守れないなんてアンタ馬鹿?」

 

「馬鹿?馬鹿はそっちでしょ?

毎日毎日5時には起きて、いつもすぐに

私を起こすの止めてよね。

しかもあんたときたら勉強が出来る割には

艤装の装着の仕方とか、動かし方とか

下手くそじゃない」

 

「今そのこととは関係無いわよね?」

 

「あれ、自分の痛いとこ突かれたから

話を変えようとしてるでしょ?

ねぇ、怒った?怒った?」

 

「……チビの癖によく弁が立つわね?」

 

数秒の間、部屋に沈黙が訪れる。

二人は互いを感情のこもっていない笑顔で睨む。

 

やがてどちらからともなくーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「チェストーーーーーーッ‼︎」」

 

今日も今日とて、二人の小競り合いが始まった。

そもそも喧嘩を必ずしないとは言ってない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……もう、あんたのせいで普段の時間と

変わらない時間で行かなくちゃならなくなった

じゃないの」

 

「これだったらいつもと同じ時間に起きても

良かったんじゃない?」

 

「そうね。誰かさんのおかげで」

 

口の減らない女だ、と互いに思いながら

雷と曙はふん、とばかりにそっぽを向く。

 

と、そこに曙達のクラスの担任である那智が

入ってきた。

 

「はい、皆静かにしろー」

 

ぱんぱんと軽く手を鳴らして皆を静まらせてから

那智は話し始めた。

 

「これから廊下に番号順に並んで、

視聴覚室の前で待機していてくれ。

私は色々と用意があるから、部屋の前にいる

教師の言うことに従って行動してほしい」

 

「「「「はーい」」」

 

その那智の言葉に従って、少女達は廊下へと

ぞろぞろと歩いていく。

もちろん、曙と雷の二人はその指示に従って

皆と共に移動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視聴覚室。

そこでとある学習に参加するために曙達は

移動してきた。

VRによる深海棲艦との擬似的な戦闘映像を

見てもらうのだ。

VRは国を守る人材の育成に関わるとして

国家の予算から支出されている。

 

「次の方、こっちに来て下さい」

 

曙の前の艦娘が呼ばれて視聴覚室に

入っていく。

やはり擬似的な映像とあってか、

出てきた艦娘の中には泣いている者や、

怖がっていた者も多くいた。

それも仕方のないこと。

人外の存在、それも生理的嫌悪感を感じる化け物が

顎門を開いてこちらに襲いかかってくるのだ。

(しかも駆逐イ級など下級の深海棲艦は

2〜3m近い巨体を持つ)

何も反応を示さない方が異常というものだ。

 

やがて曙の番が回ってきた。

神通の指示に従ってVRゴーグルをすると、

しばらくして映像が流れてきた。

 

 

暗雲の立ち込める中、航行している。

首を回してもまわりには水平線しか見えない。

そして曙1人しか人影はいなかった。

もう一度周りを眺めてから曙は視線を

最初の位置へと戻す。

 

 

 

刹那、彼女のすぐ隣を水面下から駆逐イ級が

飛び出し恐ろしい顎門を見せながら

再び潜行する。

 

水飛沫が辺り一面に咲く。

 

「ッ……‼︎」

 

恐ろしい、と曙は思った。

垣間見えた黒く鈍色に輝く鋼のような皮膚。

何を考えているのかわからない緑色の瞳孔。

擬似的な現実でもまざまざと深海棲艦の怖さが

骨の髄まで伝わってくる。

 

(これが、深海棲艦……)

 

ぞわり、と背中に冷や汗が吹き出すのが

自分でも分かった。

再び駆逐イ級が姿を現わす。

今度は遠くからで、そこからこちらへと向かい

何度も砲撃を仕掛けてくる。

 

数発がすぐそばへと落ち、数多の水柱を

作り上げる。

それのせいで一瞬曙の視界が見えなくなる。

 

「うっ……‼︎」

 

次の瞬間、水柱を突き破りながらイ級が

顎門を開いてこちらへと襲いかかる。

後少しで顎門が曙を捉えるという間際で、

映像は途切れた。

 

「ひっ……あ」

 

擬似的なものとはいえこれは中々にキツイ。

足が僅かに震えているのが自分でも分かる。

曙は額の冷や汗を拭いながらゴーグルを取った。

 

「どこか具合は悪くないですか?」

 

「大丈夫、です」

 

神通を安心させてから曙は視聴覚室から

出て、大きく息を吐きながら近くの壁に

寄りかかった。

 

(正直、あんなに怖いなんて思わなかった……)

 

瞼を閉じれば先程の映像がまざまざと

寸分違わず思い出せる。

しばらくは夢に出るかもしれない。

 

(まだまだ、私も頑張らないと)

そう思いながら曙が教室へと移動しようとした、

まさにその瞬間。

 

ドサッ、という音と神通の張り詰めた声が

中から聞こえてきた。

 

「い、雷さん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

 

「ッ⁉︎」

 

慌てて曙は戻ると、神通の元へと向かう。

そこには、神通に抱き抱えられている

雷の姿があった。

その顔には生気が感じられず、びっしりと

玉のような汗が張り付いている。

 

「私が保健室へ連れて行きます‼︎」

 

「曙さん……分かりました、お願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー保健室のベッドの上で、

雷は目を覚ました。

 

「……ここは……」

 

「保健室よ。あんたぶっ倒れて、ここに

連れて来られたの」

 

隣には曙がいた。ずっと側にいてくれたらしい。

 

「ああ、そっか。私VR映像見て、それから」

 

「しばらく安静にしてろってさ」

 

雷は起こした身体を再びベットに寝かせると、

はあ、とため息をついた。

 

「あーあ、やっぱりだめかぁ。

いけると思ったんだけどなぁ……」

 

「やっぱり、ってことはあんたこうなることは

分かってやってたの?」

 

いや、と言って雷は僅かに自嘲気味に笑った。

 

「確信は持てなかったよ。もしかしたら

こうなるかもなぁ、位の気持ちだったけど。

……ねぇ、曙」

 

「何よ?」

 

「私の昔の話、聞きたくない?」

 

なんでよ?と言おうとしたが、曙は

その言葉を飲み込んだ。

雷にどこか張り詰めたような雰囲気を

感じ取ったからだ。

本人は隠しているつもりかもしれないが、

至って真剣な瞳がそれを許さなかった。

 

話を聞いて、雷がすっきり出来るなら。

そう思い、曙は「聞きたい」と答える。

 

「まあ私の小さい頃の話なんだけどね」

 

ベッドに入ったまま、雷はそう前置きしてから

自分の昔話を始めたのであった。

 




次の回で雷の過去と曙の過去が明らかに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。