転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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「激突」

天龍は自らの目を疑っていた。

何故鎮守府にいるはずのレンゲがいる?

どうやって抜け出したのだ?

いや、それよりも彼女がレンゲの姿を見て、

なによりも恐れたことは……

彼女がサンズと戦うことになることだ。

 

サンズは前回の三宅島占領の一件にて、戦艦である

長門を危うく轟沈させる一歩手前まで追い込んだ程

の手練れ。対してレンゲの方は戦闘経験など数える

ほどしか経験していない。

 

そんな2人が激突すればどうなるか。

まるでその結果が分かっているかのように、

サンズは気安い調子で、レンゲへと話しかけた。

 

「くく。誰かと思ったら、海軍省で世話になった

レ級ちゃんじゃねェの。元気にしてたか?」

 

「うるせぇ。糞野郎が」

 

対してレンゲは硬い声でサンズを罵倒する。

その声音には「絶対にお前を許さない」という

覚悟がありありと浮かんでいた。

 

「おゥ、大した挨拶じゃねェか?まあこの光景を

見りゃあ誰でもそうなる訳だろうけど、さ」

 

くくく、と喉を鳴らして微笑うサンズ。

 

「……なあ、サンズ。お前は何の為に戦う?」

 

そんな彼に、少女は問うた。

何を以ってして戦場に身を投じるのかを。

 

「くだらねえなぁ。決まってんだろ?

……金、権力、暴力‼︎それを以って俺達の……。

“丙型生命体”の天下を創り上げる為だ‼︎」

 

哄笑を以って怪物は答えた。

己が獣欲を満たす為と。

 

「……お前はその為だけにあの島(三宅島)の人達を、

何の罪もない人を何千人も殺したのか⁉︎」

 

「悪いか?所詮この世は弱肉強食。弱い者は食われ

強い者が生き残る。罪も何も知った事か。

強いて言うならば、弱かったことが罪と言えるな」

 

「誰しもがお前のように強い訳じゃない。だから、

俺はそんな人達を守れるように強くなりたい」

 

「……それが、テメェの“戦う理由”か?

クッ……くくく、クカーハハハハハハハハハハハッ‼︎

ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎

馬鹿かテメェ⁉︎そんな……そんな理由で戦うのか⁉︎

()()()()()()()()()()で‼︎」

 

レンゲの戦う理由を、サンズは嘲笑った。

その覚悟は自己満足だと。

そうして暫しの間笑っていたが、先程よりも

目尻をキリリと上げたレンゲに気付くと、

その笑みを消した。

 

「あァ、悪りぃ。つい面白かったからな。

それに付け加えるなら……俺はそんな理由で

戦う野郎が嫌いだ。ちっぽけな正義感で戦う

馬鹿は嫌いだ」

 

サンズは目を細めて、レンゲを睨んだ。

と、急激に辺りが闇に呑まれ始める。

水平線に沈んでいた太陽、その最後の残光が

消えたのだ。

 

(ちょうどいい。こいつもそろそろやるか)

 

サンズは心の中でそう算段をつけると、

開いていた手を握りしめて、口を開く。

 

「なぁ、レンゲちゃんよ。実は俺らを

押し留めてたのはあそこの嬢ちゃん以外に2人

いたんだけどなぁ?名前なんて言ったっけか」

 

「ッ‼︎聞くな、聞いちゃダメだレンゲェェェェッ‼︎」

 

満身創痍の身体を鞭打ってレンゲへと叫ぶ天龍。

その頭を容赦なく上から何者かが押さえつけた。

 

「がふッ……‼︎」

 

「少し黙っていろ」

 

霧秀であった。肥大化していた片腕は元に戻り、

その腕で天龍の頭を抑えつけている。

 

「まあ、名前なんてどうでもいいか。

2人とも、……俺が殺してやったんだからさあ」

 

「……え?」

 

今、こいつは何と言ったのだ?

殺した?あの三宅島の人達のように?

惨たらしく、残虐に?

 

「くく、ざまあねェよなあ。“これからは

弱い人達を助けよう”って誓った途端に

救えなかった命があったって分かったんだから。

無為、無謀、無策。くくくくくく。

……今、どんな気持ちだ?」

 

その言葉をサンズが呟いた刹那、レンゲの頭の中で

何かがぷつりと音を立ててキレた。

 

「この……糞野郎がアアアアアアアッ‼︎」

 

吼えた。怒りのままに海面を蹴る。

それだけでレンゲの身体は3m近く飛んでいた。

そして、……それこそがサンズの思惑通りだった。

 

「シャアアアアアッ‼︎」

 

ズドン、とレンゲの身体を腹を中心にして

激震が走る。

サンズがレンゲの繰り出した拳を屈んで避け、

カウンターで放った右ストレートが腹を

撃ち抜いたのだ。

 

「がッ、あ″あ″ッ⁉︎」

 

しかもこれで終わりではない。

サンズは撃ち放った腕をグリッ、とアッパーの形に

変えると、そのままレンゲを上空へと打ち上げた。

 

レンゲは天高く空を舞い、ばしゃん、と

無様に顔から海面に激突する。

 

「ぐッ……は、ア″ア″ア″ッ……‼︎」

 

サンズはその姿を闇の中でも輝いて見える

金色の目でレンゲを見下しながら、

「精々足掻くといい。テメェの覚悟がどんなモンか

見届けてやる」と冷徹に言い放つのであった。


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